ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない   作:ミーラー

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本当に遅くなりました。
もっと早く完成するはずだったんですが、なんか思ってた感じと違って書き直しまくってたらこんなことに……。
待ってくださってた方とかいるのかな?本当にすみません。

今後もよろしくお願いします!


第37話 オカンと大英雄

 

 

モルガン・スカディ事件は結果的に言えば無事に解決した。

 

俺はモルガンとスカサハから”どちらが主に相応しいか”という名目で問い詰められていたわけだが、俺はあの後モルガンと答えた。

 

するとモルガンが再びスカサハを煽り始め、結局ふりだしに戻る形となり、俺は発生したハリケーンに吹き飛ばされた。

 

最終的にはバーヴァンシーを連れてきて説得してもらうことで解決した。

流石のモルガンも娘の前でこれ以上続けるつもりがなかったことが幸いだった。

 

それでもスカサハはかなりご立腹だったので、なだめるのに苦労したのは言うまでもない。

 

とまぁこうして、封印部屋での争いは幕を閉じた。

 

 

そして現在、俺達はまだ封印部屋に残っていた。というのも、俺達の目的はスカサハとキャストリアの召喚だけではない。まだもう一つ残っている。

 

俺達の目の前には二人の男が佇んでいた。

 

一人は赤い外套を纏った白髪の男。

『正義の味方』という理想像を追い求め続けた男の成れの果て。

人々を救うために世界と契約し、死後”抑止の守護者”となった男。

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した。よろしく頼む。マスター」

 

英霊エミヤ。皆のオカンである。

 

そしてもう一人は、二メートルを超える背丈。

無駄のない完成された肉体。

ギリシャ神話において十二の難行を乗り越え、神の座に召し上げられた半神半人の大英雄。

 

「◼️◼️◼️ーー」(唸り声)

 

ヘラクレスである。

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む。二人には色々と頼むことも多くなると思うが、力を貸して欲しい」

「無論そのつもりだ。微力ながら力になろう」

「助かる」

 

本当に助かる……主に家事全般が。

 

「それにしても、まさか大英雄と共闘できる時がくるとはな……。よろしく頼む」

 

エミヤがヘラクレスに手を出すと、その手をヘラクレスは無言で握る。

 

おぉ〜なんだか友情が芽生えそうな雰囲気だな……。

はい、そこのいがみ合ってるお二人さん、是非ともこの二人を見習ってくれ。

 

俺はモルガンとスカサハの方に視線を向ける。

お互い距離は少し離れているが、視線だけはしっかり交わっている。

 

「ふっ、賑やかそうだな」

 

と、ヘラクレスと握手を交わし終えたエミヤが呟く。

 

「賑やかなだけならいいんだけどな……」

 

あの二人の場合、周囲への被害というものをもう少し考慮してもらいたいところだ。

 

「ん?」

 

俺とエミヤがバチバチしてる女王と女神を見ていると、俺の方をじっと見つめてくる視線が一つ。

そちらに視線を向けると、微動だにせず固まっているヘラクレスと目が合う。

 

「どうかしたのか?ヘラクレス」

「……」

 

何も言わない……。

おそらく何かを伝えようとしてるんだろうが……分からん。

 

俺がヘラクレスの真意は何か考えていると、パスを通してヘラクレスの思いが伝わってきた。

 

 

『夜、訓練場で待つ』

 

 

伝えられた情報は実にシンプル。

だが、このメッセージの意味を理解するのにそう時間はかからない。

そしてこの誘いは、俺にとっても都合がいい。

ヘラクレスを召喚したら俺もいずれは誘いたいと考えていたからだ。

 

「エミヤ、審判を頼めるか?」

「了解した」

 

俺とヘラクレスのやり取りを近くで見ていたエミヤは、俺の言葉に即座に対応してくれた。本当にできたオカンである。

 

「それにしても、ずいぶんと楽しそうだな、マスター」

「……そんなに分かりやすかったか?」

「ああ、表情にはあまり出ていないが、雰囲気が漏れ出ている」

「マジか……」

 

だがこれに関しては許して欲しい。

俺にとってヘラクレスは特別な存在なのだ。

 

この奈落に来て最初にぶち当たった壁。

爪熊から逃げて、ハジメが錬成で作った小さな空間の中、俺が誓ったこと。

 

俺はあの日、"絶対的な強者"になることを誓った。

 

ヘラクレスを見ていると、あの日の思いが込み上げてくる。

 

勝利と強さ。

 

俺が喉から手が出るほど欲しているもの。

 

ヘラクレスは強者の座に限りなく近い存在だ。

誰もが認める大英雄。

そんな男と戦える。

楽しみにするなという方が無理な話だ。

 

俺がヘラクレスの方へ視線を向けると、ヘラクレスもまたこちらに視線を向けていた。

 

俺達の視線が重なる。

 

いつもの俺なら『なんでそんなにこっち見てくんの?そんなに見られたら勘違いしちゃうだろ』とかふざけたことを言っていただろう。

 

だが今の俺にとってそんなことはどうでもいい。

それ以上にこの男と戦うことを望んでいる。

 

俺は”全力で倒しに行く”という意志をパスを通してヘラクレスに伝える。するとヘラクレスから”かかってこい”という意思が返ってきた。

 

「夜が楽しみだ」

 

俺はヘラクレスから視線を外し、小さな声で呟いた。

 

と、その時。

 

「マスター、どうやら厄災が発生したようだ」

 

エミヤから緊急事態の報告が舞い込んできた。

エミヤが見ている方に視線を向けると、またまた発生しているハリケーン。

 

その中心にいるのは……もう言わずとも分かるだろう。

 

「エミヤ、ヘラクレス。早速仕事の時間だ」

「ここまで気乗りしない仕事は久しぶりだ」

「◼️◼️◼️……」(同感)

 

俺達は今も必死に止めようとしてくれている、キャストリアとバーヴァンシーの加勢に行くのだった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

そしてその日の夜、皆が寝静まった頃。

俺はキャメロット城の訓練場へと繋がる道を歩いていた。

 

俺は夜の静けさ漂う訓練場へと足を踏み入れる。

城が完成してから初めて入った訓練場は月明かりに晒され、神秘的な空間へと変わっていた。

 

そして訓練場の中央には約束通り、ヘラクレスとエミヤが立っていた。

 

「すまん、待たせたか?」

「いや、我々も先程来たところだ」

「それならよかった」

 

俺はそう言いながらヘラクレスの正面へと歩を進める。そして気づく。ヘラクレスの雰囲気が召喚した時とは明らかに違っていることに。

 

まだ何もしていない。

正面に立っただけ。

にも関わらず、今すぐこの場を離れろと本能が警鐘を鳴らす。

 

圧力が少しずつ重くなっていく。

それはまるで、お前はどこまで耐えられる?

と問われているようだ。

 

圧力の大きさに伴い、身体が鉛のように重くなり動かなくなっていくのを感じる。

 

間違いなくヘラクレスは俺を試している。

 

そしてもちろん、この威圧がヘラクレスの本気じゃないことは分かっている。

 

ヘラクレスにとって、この程度の威圧に耐えられない者と戦う意味などないということだろう。

 

だが、舐めてもらっては困る。

 

俺達だって数週間前まで、毎日殺意に晒され続ける生活をしていた。

この程度であればすぐに身体が慣れる。

 

誰も動かない奇妙な光景が続く。

 

十秒ほど経ったところで、俺の身体は少しずつ威圧に慣れ始め、二十秒経つ頃には完全に身体の自由を取り戻すことに成功した。

 

それをヘラクレスも感じ取ったのか、次の瞬間には俺にかかっていた圧力が霧散した。

 

その状況から第一関門は突破したと見ていいだろう。

 

「二人とも、準備はいいか?」

 

と、タイミングよくエミヤから声がかけられる。

俺とヘラクレスは同時に相槌を打つことで返答する。

 

「…試合、開始!!」

 

その合図が聞こえた瞬間、ヘラクレスが視界から消えた。

それに気づいた時、目の前にはもう斧剣が迫っていた。

 

俺は大きく後ろに飛ぶことで攻撃を躱す。

上段から振り下ろされた斧剣がすぐ目の前を通り過ぎ、地面に叩きつけられる。

 

轟音と共に地面に巨大なクレーターが現れる。

明らかに必殺の一撃。

まともに喰らえば即死レベルの攻撃だ。

 

初っ端からやべぇな……。

 

冷や汗をかくのを感じつつ、俺は想像召喚で約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)を呼び出しヘラクレスの首を狙う。

 

だが俺の剣はすぐに体勢を立て直したヘラクレスの剣によって弾かれる。

 

俺は一度距離を取ろうとするが、それをさせてくれるほど優しい相手ではない。

 

ヘラクレスは俺との距離を一瞬で詰め斧剣を振るう。

 

狙いは俺の首。

 

ヘラクレスを相手に力で対抗するなど不可能。

 

俺は〝思考加速〟と〝演算〟を使い、完璧な角度で力を受け流すことで攻撃を無力化する。

 

だがそれに安堵している余裕などない。

 

受け流されていることが分かったのか、ヘラクレスの攻撃の密度がどんどん上がっている。

 

なんとか受け流すことには成功しているが、反撃する暇がない。

 

それにヘラクレスと戦う上で考えなければならないのは、その無敵に近い宝具。十二の試練(ゴッドハンド)をどう攻略するかだ。

 

===============================

十二の試練(ゴッドハンド)

 

・致命傷を負った時11回まで蘇生可能。

・ランクB以下の攻撃を無効化。

・一度受けた攻撃に対する耐性を得る。

===============================

 

初見でこの鑑定結果を見れば『ちょっとタンマ!』と言いたくなるような性能をしている。

 

まさに最強の男。

 

だが、

 

 

それでこそ───

 

 

 

「倒しがいがある!!」

 

 

 

俺は召喚魔法を使いゲート・オブ・ ハチマンを展開する。

 

余裕がないなら作り出すしかない。

それにヘラクレスは手数に弱いことも分かっている。

 

アニメではイリヤを守りながらだったというのもあるだろうが、この戦法が有効なのは間違いないだろう。

 

紫色の波紋がヘラクレスの周りに出現する。

波紋の数は十。

その波紋から剣、斧、槍などの様々な武具の先端が顔を出している。

 

そしてその武具全てがAランク。

 

俺は距離を取ると同時に、それら全てをヘラクレスに向けて射出する。

 

「◼️◼️◼️ーー!!」

 

ヘラクレスは雄叫びを上げ、高速で飛来する武具を一つ、また一つと撃ち落としていく。

 

だがそれも四つが限界。

残り六つの武具が命中し、訓練場に巨大な爆発音が響く。

 

「さすがにこの技は魔力消費がデカイな……」

 

神秘の高い武具を召喚するには、それなりの魔力を消費しなければならない。それがAランクともなればかなりの魔力消費量になる。

 

今の俺がギルガメッシュのようにバカスカ撃ちまくろうものなら、高速魔力回復で回復するより魔力枯渇になる方が早いだろう。

 

「これで一つくらい削れてくれるとありがたいところだが……」

 

俺は油断することなく目の前に舞う砂煙を見つめる。

 

「◼️◼️◼️◼️ーー!!」

 

ヘラクレスが雄叫びを上げ、砂煙を突き破って飛び出してくる。

 

肩や腹から出血しているのを見るに、攻撃は命中していたようだが命を削り切るには足りなかったようだ。

 

「まぁそう簡単にはいかないよな!」

 

俺はさっきまでの要領で斧剣を受け流そうとするが、

 

「っ!?」

 

ヘラクレスの力は数段上がっていた。

 

「◼️◼️◼️◼️ーー!!」

 

俺は力を流しきることが出来ず訓練所の端まで吹き飛ばされる。

 

衝撃を最小限に抑えるため壁に激突する寸前のところで〝風壁〟を使い受け身をとる。

 

「◼️◼️◼️ーー!!」

 

しかしその時には既にヘラクレスが俺の隣に回り込んでいた。

 

俺の頭に向かって強烈な蹴りが放たれる。

 

今の体勢で回避することは不可能。

受け流すこともできない。

ならば、

 

「‶虚空〟」

 

そう呟いた瞬間、俺の身体が浮遊感に包まれる。

 

俺の頭をヘラクレスの足が()()()()()()()

 

===============================

虚空(こくう)

 

魔術属性:虚数

 

・虚数魔術で実在する対象の存在値を反転する。

(存在値が元々低いものほど効果が薄い)

===============================

 

この技は虚数魔術で存在値を反転、つまり実数から虚数に変えることで、そこにいるようでいないという状況を作り出すことができる魔術だ。

 

まぁすぐに‶演算〟を使って実数値に戻さないとそのまま消えちゃうやべぇ魔術なんだけどな……。

 

本来この魔術は敵に使用する魔術だ。

 

敵の存在値を反転しそのまま放置、からの自然消滅という流れだ。

 

‶虚空〟という魔術は存在値を反転させるだけでその後の保証はしてくれないため、自分自身に使う場合は‶演算〟とセットで使う必要がある。

 

そしてこの魔術をヘラクレスに使わず自分に使ったのは、元々サーヴァントは存在値が低いため効果が薄いからだ。

 

他にも魂に直接干渉できる力を持った存在には通用しないという弱点はあるが、ほとんどの相手には十分通用する魔術だろう。

 

実際、ヘラクレスは今足を振り抜いた状態で隙だらけだ。

 

俺は聖剣を構える。

聖剣に魔力を込めると、魔力をどんどん吸い上げ赤黒い魔力が渦巻く。

 

ヘラクレスは驚異的な身体能力で体勢を立て直し、その斧剣を上段から振り下ろしてくる。

その動きに驚いたものの、目の前の強者になら出来て当然だと考え切り替える。

 

向かってくる斧剣。

 

それに構わず、俺は聖剣を横に一閃する。

 

本来ヘラクレスと力で勝負するなどバカな話だが、俺はそれでも剣を振るった。

 

何か勝算があったわけでもない。

 

ただ単純に─────勝負したかっただけ。

 

負けることなど頭にない。

ただただ勝つという思いを聖剣に込める。

 

俺の聖剣とヘラクレスの斧剣がぶつかり合い、俺達の周辺を激しい魔力が渦巻き、雷が発生する。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ーー!!」

 

「はぁぁぁああああああああ!!」

 

その直後、訓練場に巨大な爆発音が轟いた。

 

 

 





八幡「急にゲート・オブ・ハチマンって頭の中に浮かんだんだけど……。俺疲れてんのかな……?」

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