ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない   作:ミーラー

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忙しくて遅くなりました。
逆立ち10秒でギブアップした作者です。
暇つぶしにどうぞ!

注、FGO 2部2章の内容が含まれているのでネタバレ嫌な人は注意してください。



第40話 原初のルーン 後編

 

 

「では早速始めるぞ。覚悟はよいな?」

「ああ、問題ない」

「ではまず、その槍で自分自身を刺す。場所は特に決まっておらんから、自分がここだと思うところに刺すといい」

 

俺は自分の身体を見渡しながら数秒考えた後、左手に槍を持ち右手の掌に刺した。瞬間、鋭い痛みが右手全体を駆け抜け、辺りに血が飛び散った。

 

「よし、ゆっくり槍を抜け」

 

スカサハの言葉に従い、俺は突き刺さった槍をゆっくり抜いていく。右手には鈍い痛みが発生し、傷口からは血がドバドバ溢れ出す。だが、俺は気にせず槍を抜いていく。

 

俺の今すべきことは、とにかくスカサハの指示をしっかりこなすこと。指示通りに動けず死にましたなんてことにならないよう、俺自身も細心の注意を払って行動する。

 

掌から抜けた槍は光の粒子となって消えていく。それを見届けた後、スカサハからすぐに声がかかる。

 

「次に行くぞ?」

 

その言葉に俺は頷くことで合図する。

 

スカサハが杖を一振りすると、俺達がいた教室に霧がかかった。その霧はどんどんと濃くなり、辺り一面を覆い尽くす。

 

そして気づけば、俺はまったく見知らぬ場所に立っていた。

 

「おぉ〜」

 

変わった視界の先に広がっている光景を目に、とんでもなく呆けた声が出た。

 

まず最初に理解したのは俺が浮いているということ。だがこれに関しては特別驚く程のことではない。驚いたのは、目の前にしっかりとした都市があること。

 

中世ヨーロッパによく見られる城のような建造物が多く立ち並び、町の中心地にある広場では多くの人達で賑わっているのが見える。

 

「ここは私の記憶を再現した世界。うむ、なかなかのできだ」

 

俺の隣に現れたスカサハは、ふむふむと頷きながら辺りを見渡していた。

 

「いや一人で納得してないで現状の説明が欲しいんだけど?記憶を再現した世界とか言ってたが……」

「ああ、ここはラグナロクが起こる前、まだ汎人類史と同じ流れを辿っていた頃の北欧異聞帯。その時の記憶の断片だ」

 

北欧世界が異聞帯となったのは、スルトが北欧の神代を終わらせようとしたのではなく、地球を終わらせようとしたからだ。神々の死が史実通りに起こらず、本来相打ちで全てが終わるはずだった神代は続くことになった。

 

「……つまりここは、北欧世界が九つの世界で分かれていた時代ってことか」

 

ラグナロクが起こる前、北欧世界は九つに別れていたとされている。

 

オーディン達アース神族の国、アースガルズ。

ヴァン神族の国、ヴァナヘイム。

光の妖精たちの国、アルヴヘイム。

人間の国、ミッドガルド。

巨人の国、ヨツンヘイム。

小人の国、ニダヴェリール。

闇と霧の国、二ヴルヘイム。

死者の国、ヘルヘイム。

炎の国、ムスペルヘイム。

 

FGOで北欧異聞帯をプレイする前にどんな世界観なのか予習したのを覚えている。

 

「なんだ、知っていたのか。それを知っているのなら話は早い。ここはその九つの世界のうちの一つ。アースガルズだ」

 

スカサハは少し懐かしそうに目を細めながらそう言う。アースガルズはオーディン達神々が暮らしていた国。スカサハも元はここで過ごしていたはずだ。北欧世界が異聞帯となってから見ることはなくなったこの景色。スカサハにとってはやはり、特別なものなのだろう。今みたいにわざわざ記憶を再現した世界を創って、その中に入るなんてこと普段しないだろうしな。

 

俺達は宙に浮いたままその街を眺めていた。そして少しした後、スカサハが閉じていた口を開く。

 

「すまぬな、少し付き合わせてしまった。目的の場所にゆくぞ」

「いや、俺は気にしてないが……いいのか?」

「うむ、またお前が吊り下がっている時にでも戻ってくればよいからの」

「そうか……」

 

はぐらかすように微笑むスカサハの表情に、なんとも言えない気持ちにさせられる。何か声をかけたいと思いつつも、それに意味がないと分かっているから。

 

「そう暗い顔をするな。お前に心配されるほど、私はヤワではない。それに、お前は自分の心配をしておれ!これから逆さ吊りになるのだからな!」

 

そう言いながら俺の背中をバシッと叩いてくるスカサハ。まぁ確かに、俺は自分の心配はしなければならないだろう。……やっぱちょっと怖くなってきたな。

 

「よし、では上へ昇るぞ」

 

俺がちょっと震えていることなどまったく気にする素振りも見せず杖を振るうスカサハ。……やっぱり心配する必要がないような気がしてきたな。そういう狙いなのかもしれないが、気にしないことにしよう。うん、俺は何も知らない。

 

俺が軽い現実逃避をしている間にスカサハの術式構築は完了し、俺達はアースガルズの遥か上空へと昇って行った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「いったいいつになったら頂上に着くんだ?いくらなんでもデカすぎるだろ……」

 

あれから体感で五分程が経過し、雲という雲を突き抜けた先。かなりの速度で上昇していたはずなのだが、俺達は未だに上昇を続けていた。

 

俺達の目の前には一本の樹がそびえ立っており、その大きさは計り知れない。横幅数千km、とかの世界ではなかろうか……。高さについてはまったく分からない。

 

「それはそうだ。この大樹こそ、北欧世界を体現する存在。宇宙樹ユグドラシルなのだからな」

 

そう、そこは今から俺が行く死地の名称。北欧神話の世界観を語る上で必ず出てくる重要な存在。

 

本当に何をどうしたらこんな樹に育つんだろうか……?もう枝分かれしてる枝が枝じゃない。宇宙樹から巨大樹に枝分かれ 、巨大樹から大樹に枝分かれ、大樹から大木に枝分かれてる感じ?

 

「まさかここまでとはな……。あとどれくらいで着くんだ?」

「そう慌てるな。ほれ、見えてきたぞ」

 

スカサハの指差す方向。俺達の頭上を見れば、宇宙樹から枝分かれしている樹の中で唯一、不自然に垂れ下がっているものがあった。

 

「あの部分……」

「ああ、オーディンが原初のルーンを習得する際に使っていた樹だ。これから、お前もアレに巻かれた状態で逆さ吊りになってもらう」

「ようやくか……」

 

目的地に到着した俺達は、宙に浮いた状態で垂れ下がった樹にゆっくりと近づいていく。

 

「コレに巻かれるとか言ってたよな……いやこれ、どうやって巻くんだ?」

 

枝分かれしている樹の中では確かに小さい部類だろう。しかし、それでも並の木よりは十分な太さがある。変形させるにはそれなりの力がいるのに加えて、自分が落ちないよう固定する必要もある。……力づくでいけるか?

 

俺は樹の硬さや質感を調べようと手を伸ばす。

そして触れた。

 

瞬間、その樹はまるで生きているかのようにウネウネと動き出し、俺の下半身に巻きついた。そして気づけば、ガッシリと固定された状態で逆さ吊りになっていた。

 

「──へ?」

「よし、上手く作動したな。どうだ?樹に巻かれた気分は?」

「……いや樹に巻かれるってそういうことかよ!」

 

まさかの言葉通りの意味だった。てか、逆さ吊りになるの早くない?心の準備時間は?あの目が〜目が〜の人も三分間は待ってくれたというのに。人の心ってやつがないのか?

 

俺が心の中でグチグチいつものように言っていると、

 

「さて、私はここでアイスでも食べているから、何か困ったことがれば聞くがよい」

 

スカサハは浮遊状態を解除し、枝分かれしている樹の付け根に座っていた。綺麗な白い脚を組んだ状態でこちらを見下ろし、片手にはいつの間にやら特大のパフェを持っている。

 

 

 

幸せオーラ全開の様子でパフェを食す女神。

それを眺める下半身をぐるぐる巻きにされ、逆さ吊り状態の俺。

 

 

 

 

 

人の心……やっぱねぇよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

俺が逆さ吊りになってから一日が経過。

 

「……」

 

俺はボーっとしながら北欧の空を眺めていた。空は青く澄んでおり、朝日が少し眩しく感じる。

 

 

最高の朝。

 

 

そう、逆さ吊りでさえなければ。

 

人は、逆さ吊りになって二〜三時間で死に至るケースもあると聞く。180度回転すると通常よりも多く心臓に血液が流れるため、心臓から血液を送り出すのが難しくなってしまう。結果、心臓は身体中に血液を巡らせることができず、酸欠状態や心不全に陥る。

 

俺は既に二十四時間逆さになっているため、普通の十倍くらいやばい状態ということになる。が、 やはり肉体が強くなったおかげか、魔力があるおかげか、今のところは確かにちょっと気持ち悪いな……くらいで済んでいる。

 

「なぁスカサハ」

「なんじゃ?」

「さっきから何してんの?」

 

昨日から変わらず樹の上に座っているスカサハは、さっきから雪の巨人?ゴーレム?みたいなものを大量に作っている。いったい何に使うのだろうか……?戦争かな?

 

「これはモルガンから頼まれたものだ」

「……モルガンから?」

 

予想外すぎる人物の名前が飛び出してきたことで一瞬思考が停止してしまった。モルガンからスカサハに頼み事。それ自体でも意外すぎるが、その頼み事をスカサハが引き受けたということも意外すぎる。

 

「ああ。しかし何に使うかは、お前にも教えられん」

「……なんでだよ?」

「そういう決まりだからな」

 

──決まり?なんか妙な言い回しだな……。モルガンとの決まりごとってことか?いや、それならモルガンとの約束とかでもいいはずだ……いや〜分からん。

 

「……まぁ、いずれ分かることだ。ほれ、お前はとにかく集中しろ。原初のルーンを習得するには、自分自身の真実のカタチを導き出す必要がある。それがどういったカタチになるのかはその人物次第。今は余計なことは考えず、とにかく瞑想しておれ」

 

スカサハはこれ以上話すことはないといった様子で俺から視線を逸らすと、目の前の巨人作りにのめり込んでいった。

 

「……へいへい。やりますよ、瞑想」

 

俺はスカサハから視線を外し、少しだけこの輝いている青空を眺めておく。そしてゆっくりと目を閉じ、自分の心の世界へと飛び込んで行くのだった。

 

あっ、モルガンで思い出したんだが、皆俺達の状況のことは知っているのだろうか?スカサハがモルガン達に言ってくれていればいいが、そうじゃなければ、俺ら丸一日失踪してることになっているんじゃ……

 

───まぁ考えても仕方ないな。集中しよ。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

二日目。

 

 

あれからまた二十四時間経過した。

 

現在の俺の身体のことについて説明しよう。まず脳に流れる血の量が増えたことでかなり血圧が高くなっている。このままではいずれ脳内で血管が破裂するだろう。もう派手にな!

 

そして、眼もなかなかやばくなってきている。逆さになっていると眼にかかる圧力が増えるため、視界がだんだんボヤけた感じで悪くなっている。このままではいずれ眼球も破裂するかもしれん。もう派手派手だ。

 

他にも息苦しいとか、吐きそうとか、身体の節々が痛いとかあるが、まだなんとか耐えている。

 

「ふっ、なかなか厳しそうだな」

「……ああ、おかげさまでな」

 

目の前にふよふよと浮かび、巨大な氷の武器を大量生産しているスカサハ。俺はそんな彼女に苦しげな声で言い放つ。あ〜頭がクラクラする……。

 

「そろそろ正念場といったところか。さぁ、頑張れマスター。この私が自ら応援してやっているのだから、失敗など許されぬぞ?」

 

なんだよその理不尽すぎる言い分は……。

 

「なら、もう少し…具体的な説明を……求む」

 

正直、原初のルーンの習得に関する情報が少なすぎるし抽象的すぎる。この状況で瞑想とか出来るわけなくね?もう頭破裂しそうだし……。

 

「ふむ、そうさな……強いて言うならば───世界を感じよ!」

 

 

 

終わった……

 

 

 

こうして、俺の二日目は幕を閉じた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

三日目。

 

「……」

 

本気でヤバい。奈落に落ちてからもここまで瀕死の状態になったことはない。意識も朦朧とし始め、身体の感覚は既にない。あと数分もすれば意識の糸が途切れ、俺は死ぬだろう。頭の中ではここ最近ずっと警鐘が鳴り響いてうるさく感じる。

 

身体は未だに生きながらえる方法を探し続けているが、それも時間の問題。

 

頼みの綱であるスカサハもどこかに行ってしまった。

 

少しずつ流れ始める走馬灯。

 

奈落に落ちてきてからのことがゆっくり、そしてはっきりと思い起こされる。

 

ハジメと二人きり。頼れるものなど何もない中で掴んだ生存の糸。

 

モルガンを召喚したことで、俺とハジメだけの時よりも遥かに迷宮攻略がスムーズに、そして賑やかになった。

 

ユエと出会い、ハジメも少しずつ変わっていって。

 

奈落のボスであるヒュドラを皆で倒して。

 

バーヴァンシー、スカサハ、キャストリア、エミヤ、ヘラクレスと、いろんな英霊を召喚して……。

 

皆で楽しく、毎日を過ごして……。

 

 

 

瞼が少しずつ落ちていく。

 

 

 

意識が落ちるまでの残り数秒。その一瞬が永遠にも似た時間まで引き伸ばされる感覚。

 

 

 

その中で、一条の光が俺の視界を駆け抜けた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──は?」

 

俺は今、真っ白な空間に立っている。

 

そう、立っているのだ。あの逆さ吊りの状態ではない。しっかりと立っている感覚がある。それに意識も混濁としておらず、息苦しいやら吐きそうやらの気持ち悪さもない。むしろベストコンディションと言っていいほどだ。

 

だが目の前の状況を理解することはできない。マジでなにがどうしてどうなった?ここで原初のルーンを習得するのだろうか?

 

辺り一面をグルッと見渡してみるが、何も無い。入ってくる情報はすべて白。なんだか精神と〇の部屋みたいな場所だ。

 

 

「待っていたよ」

「──っ!?」

 

 

突然、背後から耳元で話しかけられた。俺は一気に前方に飛び、距離をとりつつ振り返る。そこには、

 

「──白い、モヤ?」

 

人の形を型どった何か。

 

話しかけられるまでまったく気づかなかった。どうやら気配感知に反応しないらしい。俺は警戒しつつ、それならばと解析を発動する。

 

 

=====================================

 

◼️◼️◼️◼️=◼️◼️◼️◼️

 

:UNKNOWN

 

情報を解析できません。

 

=====================================

 

 

──解析できない!?そんなこと今までなかったぞ?コイツ、今の俺よりも能力値が高いってことなのか……?

 

「そんなに視られると恥ずかしいな〜」

「なに?」

「今の君では、私を解析することはできないと思うけど……どうだい?」

 

おちゃらけた口調でそう言ってくる白いモヤ。だが不思議とイラッとくるものがない。むしろ心が落ち着く感覚。声からして、おそらく性別は男。俺の解析能力を知っていることからも只者ではない。

 

だがなんだ……この違和感。この声か?どこかで聞いた覚えがある。思い出せない……。

 

「お前、いったい何者だ?」

「うん、そうだね。初対面なんだから自己紹介から……と、言いたいところだけど、すまないね。今君に正体を明かすことはできない」

 

先程までの巫山戯た雰囲気はなくなり、本当に残念そうな口調。掴みどころがないヤツだ。

 

「なら、俺が今ここにいるのはお前が原因なのか?」

「ああ、それは勿論。私が君を呼んだんだからね。いや〜本当に助かったよ。君が原初のルーンを習得しようと頑張ってくれなかったら、このタイミングで会うことはできなかったからね」

 

コイツ、まさか俺達の置かれている状況も把握してるのか?本当に何者なんだ……?まさか、コイツが神エヒトなのか?いや、もしそうならとっくに襲撃しに来ていてもおかしくない。まだ分からないな……。

 

「お前の目的は?さっきの口ぶりからして、俺との接触っぽいが」

「ああ、それは間違っていない。だが厳密に言えば、君に贈り物があるからそれを渡したい、かな」

「贈り物?」

「そう、ただの贈り物さ。だがコレは、必ず君の力になってくれる。さあ、氷の槍で貫いた右手を出しておくれ」

 

いつもの俺なら警戒心MAXで手を出さなかったはずだ。だがこの声を聞いていると、不思議と信じてしまう。

 

大丈夫だと。

 

俺は言われた通りに右手を出す。その右手を白いモヤはしっかりと握った。すると右手の掌の傷が癒え、手の甲には不思議な青い紋様が浮かんでいた。

 

「コレはなんだ?令呪みたいだが……」

「それは、君だけの真実のカタチさ」

「は?それってまさか──」

「そう、原初のルーンさ!……君だけの、()()()()

「なんだか呆気ないな……」

 

あれだけ頑張った結果、変なやつに原初のルーンを手渡されました。本当に締まりが悪い気がする。だがまぁ、習得できたのならいいだろう。

 

「さて、私の任務は完了したことだし、そろそろお別れの時間だ」

「は?いやちょっと待て。まだお前には聞きたいことが山ほど───っ!?」

 

この場から去ろうと踵を返した白いモヤ。その肩を掴もうと俺が手を伸ばした瞬間。白い空間にはヒビが入り、空間が割れた。ガラスが割れたような音と共に、俺は下へと落ちていく。

 

「悪いね。これ以上君と接触していると、()に気づかれてしまう可能性がある。まぁ安心したまえ、私達の道はまたいずれ交わる。その時、答え合わせをしようじゃないか」

「おい待て!くそ、空力が使えない!」

「また会おう、比企谷八幡君」

 

その言葉を最後に、俺はどこまでも落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……タ…!」

 

 

 

 

 

「マ…タ…!」

 

 

声が聞こえる

 

 

 

「マ…ター!」

 

 

 

この声は……

 

 

 

 

「……スカサハ?」

「起きたか!マスター!まったく、心配させおって!」

「どういうことだ?ここは……」

 

ぼんやりとしていて、意識がしっかりと定まらない。

 

「ここは原初のルーンの授業をした教室だ。覚えておるか?」

「ああ……」

 

どうやらここは、スカサハの授業を受けていた教室らしい。そして俺はその床に寝転がっている状況。どうやら戻ってきたようだ。

 

俺はのそりと体勢を起こし、記憶を整理する。

 

確か俺は……そうだ、あの変な奴と会って、原初のルーンを渡されたんだったな……。あれは、夢だったのか?

 

まさしく夢心地。あの時の記憶はうっすらとしか残っておらず、現実か夢なのか判別が難しい。

 

「ん?」

 

と、そこで右手に妙な熱さを感じた。俺はその熱源がなんなのか確認しようと右手の甲を見る。そこには、

 

「なんだ、夢じゃなかったのか……」

 

令呪のような青い紋様がしっかりと刻まれていた。

 

「うむ、どうやら習得できたようだな。よくやったぞ!ほれ──」

 

スカサハは嬉しそうに微笑むと、急に俺の頭を持ち膝に押し付けてきた。

 

「は?」

「か、勘違いするなよマスター!これはあくまで頑張った者に対する報酬だ!別に私はお前のことなど何とも思っていないのだからな!そう、そうじゃ!お前などスルト以下だ」

「いや、ん?……それ、どういう評価なんだ?」

 

いつもの落ち着いた喋り方ではなく、その倍くらいの早口でまくし立てるスカサハ。

 

労いたいのか貶したいのかすら分からん……。スルトって……うん、やっぱ貶してるわ。

 

「てか、そんなことより俺はどれくらい寝てたんだ?心配させるなとか言ってた気がするが……」

「だ、だから!お前などなんとも思っていないと言っているだろ!」

「いやそれはもう分かったから……。純粋に知りたいだけだ。他にもあの時どこに行ってたのか。皆はどこにいるかとか。まだまだ聞きたいことがあるんだ。聞かせてくれ」

 

俺が落ち着いた様子でそう尋ねると、スカサハも落ち着いたのかゆっくりと俺の疑問に答えてくれた。

 

話を要約するとこうだ。どうやら、スカサハの作った記憶の世界はこちらの世界と違う時間軸らしく、俺達が失踪していたのは三日ではなく三時間ほどらしい。なので、二人が失踪したという事態には至っていないとのこと。まさにテンプレ。

 

そして、ここ一番という時にどこへ行っていたのか。これはどうやら、一日目と二日目に作っていたあの雪の巨人やゴーレム、氷の武器をモルガンの所へ届けに行っていたかららしい。その後、俺のところに戻って来たと思えば、俺が白いモヤに包まれていたという。いろいろと試したがその白いモヤに干渉することができず、ただ見守ることしかできなかったため心配していたようだ。

 

白いモヤが消失し、俺の身体に異常がないのを確認した後、俺に数回呼びかけると俺は目覚めた。

 

以上が話の内容だ。

 

なるほど、これは相当心配をかけたようだ。

 

「ありがとうな、スカサハ」

「ふん、お前は私の弟子だからな。当然のことをしたまでだ。ほれ、今回はお前も疲れているだろう。大人しく休んでおれ」

 

頬をほんのり赤く染め、ぷいっとそっぽを向きながらもまったく隠せていないスカサハの優しさ。

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

今日は、その優しさに甘えるとしよう。いろいろと、疲れた……。

 

俺はそのまま、スカサハの膝の上で夢の世界へと旅立つのだった。

 

 

「まったく、こんなところをモルガンに見られたらどうなるか、分かっておるのか?」

 

 

スカサハは呆れるようにそう言いつつ、八幡の寝顔を優しく微笑みながら眺める。

 

教室に人工太陽の優しい夕日が差し込み二人を照らす。

 

 

「本当に、バカなマスターじゃ」

 

 

その優しい呟きは、誰に聞かれることもなく、教室を吹き抜ける風と共に、どこかへと飛んで行った。

 





まさかの第1章が40話越えって……まぁ次回ハジメ特訓回やってその次に出すって感じになると思います。

なのであと二話ですかね……。

頭オーロランな作者ですがよろしくお願いします。
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