ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない   作:ミーラー

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妄想と想像を詰め込んだ話。


第41話 明日霊血古圏

 

 

八幡が白いモヤに包まれ、変な奴に会う少し前。

キャメロット城の玉座の間にて、モルガン、バーヴァンシー、キャストリア、エミヤ、ヘラクレスの五人が集まっていた。

 

玉座の間の中央に豪華な円卓が置かれ、それを囲うように皆座っている。

玉座の間は静寂に満ちており、誰ひとり口を開かない。だがそれも、玉座の間の扉が開かれたことで終わりを告げる。

 

「すまぬ、待たせたな」

 

そう言って入って来たのは一人の女神。

北欧異聞帯の王であり、神々の麗しの花嫁。スカサハ=スカディ。つい先程まで八幡の原初のルーン習得をサポートしていた人物である。

スカサハは円卓の中で空いている席に腰掛ける。それによって円卓の席すべてが埋まり、八幡の召喚した英霊達がここに集結したのだった。

 

「皆、今日はよく集まってくれました。企画の発案者として、この瞬間を迎えられることを嬉しく思います。皆の協力がなければ、ここまで早く完成させることはできなかったでしょう。本当に、よくやってくれました」

 

声を発したのは、玉座の間に集まっている英霊達を招集した張本人であるモルガン。集まった者達一人一人に視線を配り、感謝の言葉を告げる。

 

「礼には及ばない。なかなかやりごたえのある仕事だった。それに、存外楽しめたからな」

「うんうん!最初は難しそ〜って思ってたけど、やってみたら面白くてハマっちゃったよね〜!」

 

軽く微笑みながら腕を組み、目を瞑った状態で意見を口にするエミヤ。それに続いて、朗らかな笑顔を浮かべながらその意見に同意するアルトリア。

二人の言葉はここにいる者たちの意見を代弁したものだったため、それを否定する者はいない。

それを見たモルガンは少し微笑むと、

 

「皆が満足そうでなにより。スカサハ、貴女が戻ってきたということは、巨人やゴーレム達の配置は完了したのですね?」

「ああ、問題なく完了した。いつでも準備万端だ」

「それは結構。これですべての工程が完了。ならばバーヴァンシー。ハジメとユエを呼んできてください。さっそく投入しましょう」

「オッケーお母様!すぐ行ってくるから!」

 

バーヴァンシーは上機嫌な様子でカツカツとヒール音を鳴らし、アイツらどんな顔するかなぁ〜と嗜虐的な笑みを浮かべながら玉座の間を後にした。

 

「我が夫は強くなることを望んでいる。ならば妻として、サーヴァントとして、我々はその環境を作りサポートするのは当然のこと。それに、我々自身も強くならねばなりません。オルクス大迷宮を改造した我々の集大成。サーヴァントが修練するための場所。今ここに、明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)の開園を宣言します」

 

モルガンの力強い言葉が玉座の間に響く。

 

まだこの世の人々が知らぬ内に、長きに渡って君臨していた大迷宮の一つが、改名された瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?オレ達をこんな所に連れてきて何するつもりなんだ?」

 

と、自分達がモルモットにされかけていることなど露知らず、バーヴァンシーに連れてこられたハジメとユエ。

現在三人がいるのは奈落の第一階層。

ハジメは面倒臭そうに、自分達を連れてきたバーヴァンシーへと疑問を投げかける。

 

「そんなもん、愉しいことに決まってんだろ?」

 

二人の様子を楽しむようにニヤリと笑ってみせるバーヴァンシー。

 

「……なぁユエ、なんだかオレは嫌な予感がするんだが?」

「……ん、同感。バーヴァンシーのあの顔は何か企んでる証拠」

 

バーヴァンシーが召喚されてから既に一ヶ月以上経過しているため、二人ともある程度バーヴァンシーについて理解していた。

特にユエは同じ吸血鬼ということもあり、バーヴァンシーとはそれなりに付き合いがある。そのため、あの笑みの裏に何か隠れていることが分かってしまった。

 

「おいお前ら、今からお母様がいろいろ説明してくれるから一回で覚えろよ?」

「へいへい」

「分かった」

 

モルガンのことになり、別人のように真剣になったバーヴァンシー。その変化にも慣れたものだとハジメはため息混じりに、ユエは素直に返事する。

そんな三人の目の前に突如出現する青白いモニター。そこにはモルガンの姿が映し出されていた。

 

『ハジメ、ユエ。ようこそ明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)へ』

「「明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)……!?」」

 

唐突の謎ワードの登場に声が重なるハジメとユエ。

 

『ふふ、驚いていますね。今からハジメ達には、この明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)を攻略してもらいます』

「いや、は?なんでオレ達がそんなことを……。てか、まずその明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)ってなんだよ……?」

明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)とは、オルクス大迷宮を私の魔術工房に変化させ、我々サーヴァント達全員でこつこつ作っていたものです。サーヴァント達が修練することを前提に作ったため、難易度は桁違いに跳ね上がっているでしょうが心配はいりません。──慣れれば簡単ですから』

「「…………」」

 

モルガンの説明を聞いた二人は驚くのを通り越し真顔。脳が入ってくる情報を拒絶している。

 

『今回は試運転も兼ねているので、我々全員で貴方達をモニタリングします。通話も可能な状態にしてありますので、分からないことがあれば随時聞くように。では頑張って下さい』

 

その言葉を最後に、モルガンの映っていた青白いモニターは切れてしまった。

 

「……ユエ、どうする?」

「嫌な予感しかしない」

「だよなぁ……」

 

あの説明で行きたいと感じる人は少ないだろう。それこそ歴戦の猛者かヤバめの変態くらいだ。

 

頭を悩ませるハジメとユエ。

それを見たバーヴァンシーはニヤリと笑うと、

 

「おいハジメ、お前はエヒトってクソ神を殺したいんだろ?だったら今から行くとこは最高の特訓場だぜ?」

「……」

 

バーヴァンシーから援護射撃が飛んできたことで心が揺れ動く。

 

「……はぁ〜、試しに行ってみるか……。悪いユエ、付き合ってくれるか?」

「ん!ハジメと一緒ならどこへでも!」

「ありがとな……」

 

優しく微笑み合いながら見つめ合う二人。こんな状況にも関わらず二人だけの世界に入っていくのは流石としか言いようがない。

 

「入口は正面に進めば見えてくるから。まぁせいぜい、生き残れるよう頑張れよな〜」

 

二人がイチャイチャし始めたので、必要事項だけ伝えて速攻帰ることを選択するバーヴァンシー。ハジメとユエがバーヴァンシーのことをある程度分かっているならば逆も然り。バーヴァンシーも二人の扱いに慣れていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分達の世界から帰還したハジメとユエは気を取り直し、明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)となった迷宮を攻略するべく動き出す。

二人の目の前には魔王の城にでもありそうな巨大な扉が存在し、不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「ユエ、準備はいいか?」

「ん、大丈夫」

 

二人は扉へと近づく。すると、まるで歓迎するかのように両開きの扉がゆっくりと開いた。

扉の先は真っ暗で何も見えない。

ハジメはすかさず夜目を発動させるが、認識阻害の魔術がかけられているのか効果はない。

二人は警戒しつつ、扉の中へと入っていく。

すると、

 

『プレイヤーが入場しました。明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)の稼動を開始します。……モルガン(マスター)より明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)体験版への設定を確認。直ちに実行します』

 

突然のアナウンスに驚き、身構えるハジメとユエ。

壁に並んでいる松明に青白い炎が灯り、周囲を照らす。

ハジメ達の目に映るのは高さ、幅ともに十メートル以上はある一本道。一見広いだけのただの道だが、そんなことはありえないと警戒レベルを上げていく二人。

 

「ユエ、油断するなよ」

「ん」

 

ハジメは宝物庫からドンナーを取り出し、攻撃できる態勢を整える。ユエもそれに合わせて魔法の準備を行う。

二人が一歩踏み出した瞬間、左右の壁に小さな十字の光が輝いた。その光の中心から、青白いレーザーが射出される。

 

ドパンッ!

「〝緋槍〟!」

 

視界の隅にそれらを捉えた二人は、ドンナーと魔法で迎撃する。二人の攻撃がレーザーと激突し、辺りを爆煙が包み込む。

相殺した。そう確信したのも束の間。次の瞬間には十字の光が視界いっぱいに広がっていた。今度は壁だけでなく天井にも十字の光が複数出現している。

 

ドパンッ!ドパンッ!

「〝凍雨〟!〝砲皇〟!」

 

二人に次々と降り注ぐレーザーをハジメは銃撃、ユエは魔法、時には躱しながらも落ち着いて対処していく。

しかし、一本道を進んでいくにつれ攻撃の密度が上がっていく。

 

「ユエ!ここからは瞬光で突っ切る!掴まれ!」

 

その言葉に従い、ハジメの背中に飛びつくユエ。

ユエの存在を背中で感じたハジメは〝瞬光〟を発動させる。知覚能力が何倍にも引き上げられた世界で、迫り来るレーザーを最小限の動きで躱していく。

 

「見えた!出口だ!」

 

ハジメの視界の先に光が映る。

ゴールまであと少し。

だが、そこで最後の試練が現れる。

今までは壁や天井に十字形の光が輝いた場所からレーザーが射出されていた。

しかし、今ハジメの視界に映っているのは、壁、天井、地面、その全てが青白く発光している状態だった。

 

どんな攻撃が来るのか。

 

自分達を一瞬で覆い尽くすような極光?

それとも数え切れない程多く、細いレーザーを一斉に?

いやそれとも……

 

一瞬のうちに様々な考えが頭を過ぎる。

しかし、ハジメはその思考をすべて放棄する。

なぜなら、自分の背中から巨大な魔力の高まりを感じたからだ。

 

「〝聖絶〟!〝風壁〟!」

 

ハジメの背中で待機していたユエが詠唱すると、二人を包むようにして障壁と竜巻が発生。

と同時に、全方位から数え切れない程のレーザーが射出された。

 

その攻撃密度は今までとは比べるまでもなく、竜巻は一瞬で消し飛び障壁もすぐに貫かれてしまう。

だが、

 

「ナイスだ!ユエ!」

 

稼いだ時間はほんの一瞬。

しかし、その一瞬でハジメは空力を発動。空中に足場を作り一気に加速。光の中へと飛び込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー、危ねぇ。ユエ、大丈夫か?」

「ん、なんとか」

 

後方から爆発の余波を感じ冷や汗を流しつつも、相棒の無事を確認するハジメ。それに対しユエは、ハジメの身体にギュッとしがみつきながら頷いて答える。

ユエの無事を確認したハジメは安堵の息を吐くと、周囲をくまなく観察する。

 

ハジメ達がいるのは、天井がドーム型になっている石造りの広い空間。先へと繋がる扉や階段などはなく、これといって目立ったものはなにもない。

 

もうゴールしたのか?と疑問に思うハジメ。

しかしそんなわけもなく、

 

『プレイヤーが”ウォーミングアップゾーン”をクリアしました。次のステージへと進みます。……プレイヤーへのミッション設定を確認しました。直ちに表示します』

 

 

 

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ミッション:制限時間内に三体の魔物を撃破せよ。撃破できなければチョコレートが出現します。

 

[残り時間 : 10分00秒]

 

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ピロン♪という軽快な音と共にハジメ達の前にウィンドウが現れる。

と同時に、天井に渦が発生。その中心から三体の影が飛び出してきた。

 

「──は?え、は?」

 

ハジメの口からとんでもなく間の抜けた声が連続で漏れ出る。

それも仕方ないだろう。唐突なミッションの発生に加え、目の前に現れた存在はハジメにとっては忘れたくても忘れられない始まりの三体だったのだ。

 

 

 

二尾狼、蹴り兎、爪熊の三体である。

しかし、この三体はもう過去に乗り越えた魔物達。今更現れたところでハジメにとって脅威ではない。

それでもハジメが驚いた理由、それは、

 

「おいこら二尾狼!それオレのシュラーゲンじゃねぇか!!なんでオマエの背中にくっついてんだよ!?それに蹴り兎はなんだその格好!!メガネに蝶ネクタイに靴まで履きやがって──何があった!?しかも爪熊!!なにオレのメッツェライを構えてやがんだ!?返せ!!」

 

二尾狼は二つの尻尾が背中に固定されているシュラーゲンに巻きついており、ハジメと同様〝纏雷〟による電磁加速を用いた攻撃をすると分かる姿をしている。

蹴り兎は赤と白をモチーフにしたシューズを履いており、腰には黒色のベルトを装着。首の下には蝶ネクタイ、さらにはメガネまでかけている。

爪熊に関してはもはや見たままである。ハジメの作った兵器、メッツェライを手に持ち構えている状態。

 

とんでもない変貌を遂げた三体に、ハジメは叫びながらドンナーを発砲。

電磁加速された三発の弾丸が爪熊達に迫る。しかし、ここで蹴り兎が動いた。

蹴り兎は小さい手でシューズ側面にある円形部分を回す。すると、シューズは虹色に輝きバチバチと放電を始める。

 

「ま、まさか……!?その靴は……!」

 

それにはハジメも見覚えがあった。そう、アニメを見る人ならほとんどの人が知っているであろうあの人気アニメの殺人兵器。

 

名を、キック力増強シューズという。

 

蹴り兎は向かってくる弾丸三発を蹴り上げ、軌道を逸らす。

電磁加速された弾丸を蹴り上げる。奈落の一階層にいた時よりも強くなっているのは確実だった。

 

さすがのハジメもポカンと口が開いており、ユエに至ってはまったく状況が理解できていなかった。

しかし、魔物である三体は待ってくれない。

二尾狼はシュラーゲンを、爪熊はメッツェライを構え、蹴り兎はベルトからサッカーボールを射出し蹴る体勢をとる。

「ッ!来い!!」

 

ハジメは宝物庫から大盾を取り出し、腰を落として守りの体勢に入る。

ユエも〝聖絶〟を発動し、自分を中心にドーム状の障壁を展開する。

直後、シュラーゲン、メッツェライがハジメに、サッカーボールがユエへと襲いかかる。

一瞬でハジメの大盾に到達した極大の閃光と弾幕の嵐。

大砲を発射したかのような爆裂音を響かせ、ユエの〝聖絶〟へと高速で飛来するサッカーボール。

 

「クソがぁあああ!!誰だよこんなもんコイツらに持たせたのは!!」

 

ハジメは雄叫びを上げ、その衝撃に抗いながらもこんなことをやらかした犯人を呪ってやろうと考える。

とそこで、

 

『悪いな、武器を提供したのは私だ』

 

機械的なアナウンスとは違う、よく聞きなれた男の声がハジメに届く。

 

エミヤである。

 

「エミヤてめぇ!後で覚えてろよ!?」

王女殿下(バーヴァンシー)に依頼されたのだから仕方ないだろう?私はただ頼まれた仕事をこなしたに過ぎない。それと、一応言っておくが、そこの魔物達が装備している武器は私が作ったものだ。キミの武器には一切手をつけていないから安心して欲しい』

「つまり、オレの武器は無事ってことか?」

『そういうことだ』

「だが許さん!!後で一発殴らせろッ!!」

『まぁキミが明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)をクリアしたのなら、大人しくその気持ちを受け止めよう。──できれば、の話だがね?』

「言ったな?やってやろうじゃねぇか!!」

 

エミヤの挑発を本気で受け止めたハジメは、ニヤリと悪役顔負けの笑みを浮かべ宝物庫からシュラーゲンを取り出す。

二尾狼の攻撃を大盾で防ぎつつ、銃口を爪熊へと向ける。しかし、つい先程までいた場所に肝心の目標の姿はなくなっていた。

 

「どこ行きやがっ──ん?何やってんだアイツ……?」

 

行方を眩ませた爪熊は予想よりも早く見つかった。しかし、その行動に戸惑いの声を漏らすハジメ。

それも当然だろう。爪熊はこの空間の隅の方で胡座をかき、メッツェライの弾を一発づつ丁寧に詰めていたのだから。

 

それを見たハジメは、

 

「──なにちんたら弾なんて詰めてんだこの詰熊(ツメグマ)がぁああ!!」

 

銃口を再度詰熊へと定め〝纏雷〟を発動。

シュラーゲンに紅いスパークが迸り、極大の閃光が解き放たれた。

長い爪を使って器用に弾を詰めていた詰熊だが、その死の光を前にはどうすることもできず消し飛ばされてしまう。

それを尻目に、次のターゲットへ視線を向けるハジメ。

視線の先はもちろん二尾狼。

しかし、ここである違和感に気付く。

 

(コイツの攻撃、いつまで続くんだ……?最初にシュラーゲンを使ってからここまで攻撃が途切れていない。なにか改造されてんのか……?)

 

実際、ハジメの推測は当たっていた。二尾狼の装備しているシュラーゲンは、纏雷をレーザー状にして放出するよう改造されたもの。つまり、二尾狼の魔力が尽きない限り雷のレーザーを出し続けることができるようになっている。

 

「クソ…残り時間は?」

 

ハジメは開いているウィンドウに視線を向ける。

 

 

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ミッション:制限時間内に三体の魔物を撃破せよ。撃破できなければチョコレートが出現します。

 

[残り時間 : 6分38秒]

 

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刻一刻と迫りつつある制限時間。

ハジメはこの拮抗した状況を変化させるため、宝物庫から手榴弾を三つほど取り出す。

魔力感知を頼りに、大盾の後ろからなるべく高く投げつける。

 

「ガルルルッ!!」

 

高く投げられた手榴弾に反応した二尾狼は、ハジメへの攻撃を中断。手榴弾を攻撃してしまう。

その隙を見逃さず、ハジメはしっかり狙いを定めドンナーを発砲。二尾狼撃破に成功する。

それと同時に、近くで戦っていたユエも蹴り兎を〝蒼天〟で蒸発させていた。

 

 

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ミッション:制限時間内に三体の魔物を撃破せよ。撃破できなければチョコレートが出現します。

 

[残り時間 : 4分48秒]

 

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「はぁ、ユエ、無事か……?」

「ん、大丈夫。ハジメも大丈夫?」

「ああ、オレも問題ない。これで、終わったんだよな……?」

「そうだと思うけど……」

 

お互いの無事を確認しつつも、まだ完全に警戒を解かず周囲を見渡す二人。

 

──まだ何かあるんじゃないか。

 

そういった思考が頭を過ぎる。

しかし、

 

『プレイヤーが明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)体験版をクリアしました。』

 

試合終了を知らせるアナウンスが響き、ふぅーと息を吐く二人。ようやく一息つけるといった様子で、その場に腰を降ろす。

すると、目の前のミッションが表示されていたウィンドウが変化し、モルガンが映し出された。

 

『二人とも、まずはお疲れ様でした。明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)体験版はいかがでしたか?』

 

と、二人の反応を見て楽しそうにしながら、労いの言葉を言うモルガン。それに対し、ハジメはジト目を作りながら率直な感想を口にする。

 

「いかがも何も、あれが体験版とかおかしいだろ。普通に死んでもおかしくない難易度だぞ……?」

『サーヴァントを鍛えるための修練場ですからね。このくらいは当然です。とはいえ、これくらいで根を上げていては先が思いやられますね。明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)()()()()()()()()()()()()

「……ん?どういう意味だ?」

 

ハジメが眉をひそめながらそう言った瞬間、またしてもアナウンスの音声が響き渡った。

 

『プレイヤー二名の明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)体験版のクリア履歴を確認。規定条件を達成しました。──これより、特異点Fの再現を開始します。』

 

「は?」

 

もはや聞き飽きてきたハジメの惚けた声。そんなもん知るかと言わんばかりに、着々と進行を続けるプログラム。

 

『特異点Fの再現を完了。プレイヤー二名を、規定座標へと転移させます』

 

そのアナウンスが響き渡った直後、ハジメとユエの姿が消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺り一面を包み込む業火。崩れ去った街並み。

その中心にポツンと立ち並ぶ二人の人影。

 

 

ハジメとユエである。

 

 

「……ユエさんや、ここがどこか分かるか?」

「……分からない」

「「……ふふふふふふはははははははははは」」

 

現状を確認。なんて出来る心理状態ではない二人の乾いた笑い声が、ここ、炎上汚染都市冬木に広がった瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らの特訓は、まだまだ終わりそうにない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キャストリア「私の作ったチョコ、出番なかったなー」

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