ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない   作:ミーラー

42 / 44
遅くなった。待ってくれた方々、すまぬ。


第42話 旅立ちと勇者と帝国と

 

 

 俺が原初のルーンを習得してから一ヶ月が経過し、奈落に来てから二ヶ月が過ぎた。まさに光陰矢の如し、本当に濃密な二ヶ月間だったと言える。

 

 そして現在、俺達はオスカーの屋敷の三階。外へと繋がる魔法陣のある部屋に集まっていた。

 

「いよいよここともおさらばだな……」

 

 足元で輝く巨大な魔法陣を見つめながら、そうボソッと呟くハジメ。たったその一言に、この二ヶ月間の出来事が詰まっているかのような力強さを感じる。

 

「ああ、あっという間だったな……」

 

 奈落の底での生活は、一生篭もれるほど快適なものだった。だが、エヒトを殺して故郷に帰るという目的がある以上そうも言ってられない。

 

 この一ヶ月間、俺達はほとんどの時間を明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)で過ごした。

 

 最初に聞いた時は鍛錬するのによさそうとか思っていたのだが、作ったのはモルガン達サーヴァント。常識の範疇で物事を考えてはいけないと思い知らされた。

 

 内容は人理修復の旅。

 

 つまりFGOのメインストーリー、第一部を完全攻略しようというものだ。

 

 俺もアナウンスで『特異点Fの再現を開始します』と言われた時は「は?」と情けない声を出してしまったのを覚えている。

 

 とはいえ、その後しっかり攻略したし、一回の攻略では満足せず何度も挑戦した。

 少なくとも二十回は人理を修復していると思う。

 

 そして今では、ハジメやユエと誰が一番早く攻略できるかという子供じみた遊びができるくらいには成長した。

 

 その他にも、ハジメが様々な武器や乗り物を開発したとか、キャストリアのチョコレートは倒せないとか、スカサハの作ったゴーレム強すぎとか、モルガンが編んだロンゴミニアドで死にかけたとか色々とあったが、充実した生活を送っていた。

 

 その成果ということで、最後に俺達のステータスを紹介しよう。

 

====================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:???

天職:錬成師

筋力:28400

体力:28900

耐性:26400

敏捷:24800

魔力:25300

魔耐:24500

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+自動錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物分解]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷[+雷耐性][+出力増大]・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪[+三爪][+飛爪]・夜目・遠見・気配感知[+特定感知][+罠感知]・感覚強化・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・物理耐性・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・呪詛耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛[+部分強化][+集中強化][+付与強化]・豪腕・威圧[+覇気]・念話・追跡・瞬間魔力回復[+魔素収束]・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破[+覇潰]・生成魔法・言語理解

====================================

 

===================================

比企谷ハチマン 17歳 男 レベル:???

天職:魔術師、召喚士

筋力:29000

体力:27650

耐性:25700

敏捷:25200

魔力:???

魔耐:45900

技能:魔術[+火属性][+水属性][+虚数属性]・複合魔術・複合魔法・召喚魔法[+想像召喚]・召喚陣作成・召喚詠唱補助・魔術礼装スキル作成・魔力操作[+魔力掌握][+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収][+身体強化]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成]・魔法回路・瞬間魔力回復[+魔素収束][+魔素掌握]・鑑定[+解析][+並列思考][+思考加速][+演算][+未来予測][+最適解]・胃酸強化・遠見・纏雷[+雷耐性][+出力増大]・天歩[+空力][+縮地] [+豪脚]・風爪[+三爪][+飛爪]・夜目・気配感知[+特定感知][+罠感知]・感覚強化・魔力感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏・物理耐性]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・呪詛耐性・恐慌耐性・全属性耐性・金剛[+部分強化][+集中強化][+付与強化]・豪腕・威圧[+覇気]・念話・追跡・令呪・原初のルーン[+理性の加護]・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破[+覇潰]・生成魔法・言語理解[+速読][+瞬間記憶][+暗号解読]

===================================

 

 と、まぁこんな感じだ。

 もはや化け物としかいいようがないと自分でも思う。

 

 ヒュドラの肉を食べ続けたことで肉体が変質し、明日霊血古圏(アスレチック・ゾーン)でその身体を鍛え上げる。

 このサイクルを一ヶ月やり続けた結果がこのバグったステータスというわけだ。

 

 魔力に関しては十万を超えた辺りから表示がなくなった。おそらく魔法回路が生み出す魔力が多すぎて、体内の魔力量を正確に計測できなくなったからだろう。

 まぁこれに関しては考えるのをやめた。

 

 あと説明しておくこととしては、俺の服装だ。

 今の俺はハジメと同様、黒いコートを着ている。ただし普通のコートではなく、魔術礼装として使用できるよう改造が施されたものだ。

 

 銀髪に黒コート。

 厨二キャラ確定な気もするが、俺よりもっと厨二なヤツが近くにいるので特になんとも思わなくなった。

 

 

 

 この二ヶ月間、強くなるためにやれることは全てやってきたつもりだ。

 

 

 

 もう二度と失わないために。

 

 

 

 どんな相手であろうと勝つために。

 

 

 

 強さを追求し続けてここまできた。

 

 

 

 俺達の旅は、まだ始まってすらいない。

 

 

 

 ────ここからがスタートだ。

 

 

 

「全員、準備はいいか?」

 

 ハジメの言葉に、全員が頷いて答える。

 

 

「──行くぞ!!」

 

 

 号令に応えるように魔法陣が作動し、俺達はオルクス大迷宮を後にするのだった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 時間は少し遡る。

 

 八幡達がヒュドラを倒し、隠れ家への到達を果たした頃。

 

 勇者一行は迷宮攻略を中断し、ハイリヒ王国へと戻っていた。

 

 マッピングが完了していた今までとは異なり、完全に未知の領域の探索。

 攻略速度の減少はもちろんのこと、魔物の強さも一筋縄ではいかなくなってきている。

 勇者達の疲労も考え、一度休養を取るべきという結論に至った。

 

 しかしここで、ヘルシャー帝国から勇者一行に会うための使者が送られたとの知らせが入った。

 

 休養だけならホルアドで問題ないが、同盟国の使者が会いに来るとなれば話は変わる。

 勇者一行は、一度ハイリヒ王国に戻らなくてはならなくなった。

 

 

 

 そんな話を帰りの馬車で教えられた光輝達は、無事王宮へと到着した。

 

 高級そうな馬車から降りたところで、彼らの元へと駆けてくる人物がいた。

 十歳位の金髪碧眼の美少年。

 光輝と似た雰囲気を持つが、ずっとやんちゃそうだ。

 その正体はハイリヒ王国の王子、ランデル・S・B・ハイリヒである。

 

 ランデル殿下は凄まじい勢いで光輝達の前まで来ると、大声で叫び出した。

 

「香織!よく帰った!待ちわびたぞ!」

 

 他の勇者メンバーがいるにも関わらず、香織以外見えていない様子のランデル殿下。

 犬耳とブンブン振られた尻尾を幻視するその雰囲気から、彼が香織に持つ感情は容易に想像できるだろう。

 

「ランデル殿下、お久しぶりです」

 

 聖母のように微笑む香織に、一瞬で顔を真っ赤にするランデル殿下。

 それでも精一杯男らしい表情を作って香織にアプローチをかける。

 

「ああ、本当に久しぶりだな。お前が迷宮に行ってる間は生きた心地がしなかったぞ。怪我はしてないか?余がもっと強ければお前にこんなことさせないのに……」

 

 そう言って、ランデル殿下が悔しそうに唇を噛む。 香織としては守られるだけなどお断りなのだが、少年の微笑ましい心意気に思わず頬が緩む。

 

「お気づかい下さりありがとうございます。ですが、私なら大丈夫ですよ?自分で望んでやっていることですから」

「いや、香織に戦いは似合わない。そ、その、ほら、もっとこう安全な仕事もあるだろう?」

「安全な仕事ですか?」

 

 その言葉に首を傾げる香織。

 ランデル殿下の顔が、更に赤みを増す。

 

「う、うむ。例えば、侍女とかどうだ? その、今なら余の専属にしてやってもいいぞ」

「侍女ですか? いえ、すみません。私は治癒師ですから……」

「な、なら医療院に入ればいい。迷宮なんて危険な場所や前線なんて行く必要ないだろう?」

 

 医療院とは国営の病院のことで、王宮の直ぐ傍に存在している。

 要するに、ランデル殿下は香織と離れるのが嫌なのだ。しかし、そんな少年の気持ちは鈍感な香織には届かない。

 

「いえ、前線でなければ直ぐに癒せませんから。心配して下さりありがとうございます」

「うぅ」

 

 ランデル殿下は、どうあっても香織の気持ちを動かすことができないと悟り小さく唸る。

 

 そこへ、にこやかな様子で参戦する勇者がいた。

 

「ランデル殿下、香織は俺の大切な幼馴染です。俺がいる限り、絶対に守り抜きますよ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、敵意むき出しの様子で光輝を睨むランデル殿下。

 そして吠える。

 

「香織を危険な場所に行かせることに何とも思っていないお前が何を言う!絶対に負けぬぞ!香織は余といる方がいいに決まっているのだからな!」

「え~と……」

 

 何がいけなかったのか分からない様子の光輝に、雫は溜め息、香織は苦笑いを浮かべている。

 

 事態がなにやらおかしな方向へと進みそうなところで、涼やかだが少し厳しさを含んだ声が響いた。

 

「ランデル。いい加減にしなさい。香織が困っているでしょう? 光輝さんにもご迷惑ですよ」

「あ、姉上!?……し、しかし」

「しかしではありません。皆さんお疲れなのに、こんな場所に引き止めて……相手のことを考えていないのは誰ですか?」

「うっ……で、ですが……」

「ランデル?」

「よ、用事を思い出しました! 失礼します!」

 

 ランデル殿下はどうしても自分の非を認めたくなかったのか、いきなり踵を返し駆けていってしまった。

 その背を見送りながら、ランデル殿下に姉上と呼ばれた女性は溜息を吐く。

 

「香織、光輝さん、弟が失礼しました。代わってお詫び致しますわ」

 

 その女性はそう言って頭を下げた。美しいストレートの金髪がさらりと流れる。

 この人物こそランデルの姉。

 

 リリアーナ・S・B・ハイリヒである。

 

 リリアーナ姫は現在十四歳の才媛。

 その容姿も非常に優れていて、国民にも大変人気のある金髪碧眼の美少女である。

 

「ううん、気にしてないよ、リリィ。ランデル殿下は気を使ってくれただけだよ」

「そうだな。なぜ怒っていたのかわからないけど……何か失礼なことをしたんなら俺の方こそ謝らないと」

 

 香織と光輝の言葉に苦笑いするリリアーナ。

 姉として弟の恋心を察しているため、意中の香織に全く意識されていない弟に多少同情してしまう。

 

「いえ、光輝さん。ランデルのことは気にする必要ありませんわ。あの子が少々暴走気味なだけですから。それよりも……改めて、お帰りなさいませ、皆様。無事のご帰還、心から嬉しく思いますわ。お食事の準備も、清めの準備もできておりますから、ゆっくりお寛ぎくださいませ」

 

 こうして勇者一行は、ようやく迷宮での疲れを癒すことができたのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 それから三日が経過し、遂に帝国の使者が訪れた。

 

 現在、光輝達、迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮達、そしてイシュタル率いる司祭数人が謁見の間に勢ぞろいしており、レッドカーペットの中央に帝国の使者が五人ほど立ったままエリヒド陛下と向かい合っていた。

 

「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」

「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」

「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

「はい」

 

 陛下に促される形で前にでる光輝。

 そこから、次々と迷宮攻略のメンバーが紹介された。

 

「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五層を突破したので?確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが……」

 

 使者は光輝を観察するように見やる。

 イシュタルの手前露骨な態度は取らないものの、若干疑わしそうな眼差しを向けた。

 

 その視線に居心地悪そうに身じろぎしながら光輝が答える。

 

「えっと、ではお話しましょうか? どのように倒したかとか、あっ、六十六層のマップを見せるとかどうでしょう?」

 

 光輝は信じてもらおうと色々提案するが使者はあっさり首を振りニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

 

「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか?それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

「えっと、俺は構いませんが……」

 

 若干戸惑ったようにエリヒド陛下を見やる光輝。

 エリヒド陛下は光輝の視線を受けてイシュタルに確認を取る。

 イシュタルは帝国に勇者の力を認めさせるチャンスだと考え許可を出す。

 

「構わんよ、光輝殿。その実力、存分に示されよ」

「決まりですな、では場所の用意をお願いします」

 

 こうして急遽、勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定したのだった。

 

 

 

 

 

 場所は変わり、王宮の訓練場にて光輝と帝国の使者が対峙していた。

 

 光輝の対戦相手は平凡そうな男だった。

 高すぎず低すぎない身長。

 特徴という特徴がなく、人ごみに紛れたらすぐ見失ってしまいそうな平凡な顔。

 一見すると全く強そうに見えない。

 

 刃引きした大型の剣をだらんと無造作にぶら下げており、構えらしい構えもとっていなかった。

 

 光輝は舐められているのかと些か怒りを抱く。

 最初の一撃で度肝を抜いてやれば真面目にやるだろうと、最初の一撃は割かし本気で打ち込むことにした。

 

「いきます!」

 

 光輝は〝縮地〟により高速で踏み込むと豪風を伴って唐竹に剣を振り下ろした。

 

 並みの戦士なら視認することも難しい一撃。

 もちろん光輝としては寸止めするつもりだった。

 だが、その心配は無用。

 むしろ舐めていたのは光輝の方だと証明されてしまう結果となった。

 

バキィ!!

 

「ガフッ!?」

 

 吹き飛んだのは光輝の方だった。

 

 護衛の方は剣を掲げるように振り抜いたまま光輝を睥睨している。

 

 光輝が寸止めのため一瞬力を抜いた刹那にだらんと無造作に下げられていた剣が跳ね上がり光輝を吹き飛ばしたのだ。

 

 光輝は地滑りしながら何とか体勢を整え、驚愕の面持ちで護衛を見る。

 

「はぁ~、おいおい、勇者ってのはこんなもんか?まるでなっちゃいねぇ。やる気あんのか?」

 

 平凡な顔に似合わない乱暴な口調で呆れた視線を送る護衛。

 その表情には失望が浮かんでいた。

 

 相手を舐めていたのは自分の方だったと自覚する光輝。

 そして切り替え、

 

「すみませんでした。もう一度、お願いします」

 

 今度こそ本気の目になり、自分の無礼を謝罪する光輝。

 

 護衛はそんな光輝を見て、「戦場じゃあ〝次〟なんてないんだがな」と不機嫌そうに目元を歪めるが相手はするようだ。

 先程と同様に自然体で立つ。

 

 光輝は気合を入れ直すと再び踏み込んだ。

 

 唐竹、袈裟斬り、切り上げ、突き、と〝縮地〟を使いこなしながら超高速の剣撃を振るう。

 その速度は既に、光輝の体をブレさせて残像を生み出しているほどだ。

 

 しかし、そんな嵐のような剣撃を護衛は最小限の動きでかわし、捌き、隙あらば反撃に転じている。

 時々、光輝の動きを見失っているにもかかわらず、死角からの攻撃にもしっかり反応している。

 

 戦闘経験の差。

 

 それが光輝とのスペック差を埋めていた。

 

「ふん、確かに並の人間じゃ相手にならん程の身体能力だ。しかし、少々素直すぎる。元々、戦いとは無縁か?」

「えっ? えっと、はい、そうです。俺は元々ただの学生ですから」

「……それが今や〝神の使徒〟か」

 

 チラッとイシュタル達聖教教会関係者を見ると護衛は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「おい勇者。構えろ。今度はこちらから行くぞ。気を抜くなよ?うっかり殺してしまうかもしれんからな」

 

 護衛はそう宣言するやいなや一気に踏み込んだ。

 光輝程の高速移動ではない。

 むしろ遅く感じるほどだ。

 だというのに、

 

「ッ!?」

 

 気がつけば目の前に護衛が迫っていた。

 剣が下方より跳ね上がってきている。

 

 光輝は慌てて飛び退る。

 しかし、まるで磁石が引き合うかのようにピッタリと一定の間合いを保たれ、鞭のような剣撃を繰り出してくる。

 

 不規則で軌道を読みづらい剣の動きを〝先読〟で辛うじて対応し、一度距離を取ろうとする。

 しかし、引き離すことができない。

 

 〝縮地〟で一気に距離を取ろうとしても、それを見越したように先手を打たれて発動に至らない。

 

 次第に光輝の顔に焦りが生まれてくる。

 

 そして遂に光輝がダメージ覚悟で剣を振ろうとした瞬間、その隙を逃さず護衛が魔法のトリガーを引く。

 

「穿て──〝風撃〟」

 

 呟くような声で唱えられた詠唱は小さな風の礫を発生させ、光輝の片足を打ち据えた。

 

「うわっ!?」

 

 踏み込もうとした足を払われてバランスを崩す光輝。

 その瞬間、壮絶な殺気が光輝を射貫く。

 冷徹な眼光で光輝を睨む護衛の剣が途轍もない圧力を持って振り下ろされた。

 

 刹那、光輝は悟る。

 

 彼は自分を殺すつもりだと。

 

 実際、護衛はそうなっても仕方ないと考えていた。

 

 自分の攻撃に対応できないくらいなら、本当の意味で殺し合いを知らない少年に人間族のリーダーを任せる気など毛頭なかった。

 

 例えそれで聖教教会からどのような咎めが来ようとも、戦場で無能な味方を放置する方がずっと耐え難い。

 

 それならいっそと、そう考えたのだ。

 

 しかし、そうはならなかった。

 

 ズドンッ!

 

「ガァ!?」

 

 先ほどの再現か、今度は護衛が吹き飛んだからだ。

 

 護衛が地面を数度バウンドし、両手も使いながら勢いを殺して光輝を見る。

 

 光輝は全身から純白のオーラを吹き出しながら、護衛に向かって剣を振り抜いた姿で立っていた。

 

 護衛の剣が振り下ろされる瞬間、光輝は生存本能に突き動かされるように〝限界突破〟を使ったのだ。

 

 これは一時的に全ステータスを三倍に引き上げてくれるという、ピンチの時に覚醒する主人公らしい技能である。

 

 だが、光輝の顔には一切余裕がない。

 

 恐怖を必死で押し殺すように険しい表情で剣を構えている。

 

 そんな光輝の様子を見て、護衛はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「ハッ、少しはマシな顔するようになったじゃねぇか。さっきまでのビビリ顔より、よほどいいぞ!」

「ビビリ顔?今の方が恐怖を感じてます。……さっき俺を殺す気ではありませんでしたか? これは模擬戦ですよ?」

「だからなんだ?まさか適当に戦って、はい終わりっとでもなると思ったか?この程度で死ぬならそれまでだったってことだろ。お前は、俺達人間の上に立って率いるんだぞ?その自覚があんのかよ?」

「自覚って……俺はもちろん人々を救って……」

「傷つけることも、傷つくことも恐れているガキに何ができる?剣に殺気一つ込められない奴がご大層なこと言ってんじゃねぇよ。おら、しっかり構えな?最初に言ったろ?気抜いてっと……死ぬってな!」

 

 護衛が再び尋常でない殺気を放ちながら光輝に迫ろう脚に力を溜める。

 光輝は苦しそうに表情を歪めた。

 

 しかし、護衛が実際に踏み込むことはなかった。

 なぜなら、護衛と光輝の間に光の障壁がそそり立ったからだ。

 

「それくらいにしましょうか。これ以上は、模擬戦ではなく殺し合いになってしまいますのでな。……ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」

「……チッ、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」

 

 イシュタルが発動した光り輝く障壁で水を差された〝ガハルド殿〟と呼ばれた護衛が、周囲に聞こえないくらいの声量で悪態をつく。

 そして興が削がれたように肩を竦め剣を納めると、右の耳にしていたイヤリングを取った。

 まるで霧がかかったように護衛の周囲の空気が白くボヤけ始め、それが晴れる頃には全くの別人が現れた。

 

 四十代位の野性味溢れる男。

 

 短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。

 

 その姿を見た瞬間、周囲が一斉に喧騒に包まれた。

 

「ガ、ガハルド殿!?」

「皇帝陛下!?」

 

 そう、この男、何を隠そうヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人である。

 

 まさかの事態にエリヒド陛下が眉間を揉みほぐしながら尋ねた。

 

「どういうおつもりですかな、ガハルド殿」

「これは、これはエリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」

 

 謝罪すると言いながら、全く反省の色がないガハルド皇帝。

 それに溜息を吐きながら「もう良い」とかぶりを振るエリヒド陛下。

 

 光輝達は完全に置いてきぼりだ。

 

 なんでもこの皇帝陛下は、フットワークが物凄く軽いらしい。

 このようなサプライズは日常茶飯事なのだとか。

 

 なし崩しで模擬戦も終わってしまうこととなり、その後に予定されていた晩餐で帝国からも勇者を認めるとの言質をとることができ、一応今回の訪問の目的は達成されたようだ。

 

 しかしその晩、部屋で部下に本音を聞かれた皇帝陛下は面倒くさそうに答えた。

 

「ありゃ、ダメだな。ただの子供だ。理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口だ。なまじ実力とカリスマがあるからタチが悪い。自分の理想で周りを殺すタイプだな。〝神の使徒〟である以上蔑ろにはできねぇ。取り敢えず合わせて上手くやるしかねぇだろう」

「それで、あわよくば試合で殺すつもりだったのですか?」

「あぁ?違ぇよ。少しは腑抜けた精神を叩き治せるかと思っただけだ。あのままやっても教皇が邪魔して絶対殺れなかっただろうよ」

 

 どうやら、皇帝陛下の中で光輝達勇者一行は興味の対象とはならなかったようである。

 

 無理もないことだろう。

 彼らは数ヶ月前までただの学生。

 歴戦の戦士が認めるような戦場の心構えなど出来ているはずがない。

 

「まぁ、魔人共との戦争が本格化したら変わるかもな。見るとしてもそれからだろうよ。今は、小僧どもに巻き込まれないよう上手く立ち回ることが重要だ。教皇には気をつけろ」

「御意」

 

 そんな評価を下されているとは露にも思わず、光輝達は翌日に帰国するという皇帝陛下一行を見送ることになった。

 

 用事はもう済んだ以上留まる理由もないということだ。

 本当にフットワークの軽い皇帝である。

 

 ちなみに、早朝訓練をしている雫を見て気に入った皇帝が愛人にどうだと割かし本気で誘ったというハプニングがあった。

 

 雫は丁寧に断り、皇帝陛下も「まぁ、焦らんさ」と不敵に笑いながら引き下がったので特に大事になったわけではなかったが、その時、光輝を見て鼻で笑ったことで光輝はこの男とは絶対に馬が合わないと感じ、しばらく不機嫌だった。

 

 雫の溜息が増えたことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 とある山の頂上で、青白い光が輝いた。

 その光の先には男が一人。

 

 高熱を思わせる赤胴色の髪。

 強い意志を宿した琥珀色の瞳。

 鍛え上げられた肉体。

 左腕には射籠手(いごて)を身につけ、右手に持った布帛(ふはく)を背中に回して背負っている。

 

 

(オレ)が一番乗りか。たっく、ジジイ使いの荒いことでぇ。……まぁ、あいつらが来るまで、命令に従うとするかぁ」

 

 

 




これにて一章完結。
長い、長すぎる。付き合ってくれた人達、ありがとうございます。

明日も投稿できたらします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。