ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない   作:ミーラー

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それにしてもトネリコ可愛ええな(唐突)


第二章
第43話 ライセン大峡谷と残念ウサギ


 

 

 転移が完了し、俺達を出迎えたのは澄み渡る青空……ではなく、奈落に落ちてから見慣れに見慣れた岩肌であった。

 

「なんでやねん」

 

 思わず関西弁でツッコんでしまうハジメ。

 

「いや、さすがに隠れ家に直接繋がってる場所は隠しておくだろ」

「あー、確かに……まったくがっかりさせやがる」

 

 まぁ、魔法陣の上で「行くぞ!!」と気合いを入れて言っていたハジメからすれば、期待を裏切られたと思っても仕方ないだろう。

 

 気を取り直し、周囲を見渡しながら進んでいく。すると、見覚えのある紋様が壁に描かれている箇所を発見した。

 

「なるほど、隠し扉ですか。八幡、オスカーの指輪をかざしてみてください」

「了解」

 

 モルガンの言葉に従い、宝物庫から指輪を取り出し紋様に向けてかざす。指輪と紋様が共鳴し合うかのように輝きを放ち、岩が動く巨大な音と共に目の前の壁が真っ二つに分かれた。

 

 

 壁が分かれたことで出来た道の先には、光があった。

 

 

 何かに突き動かされるかのように足が進んでいく。

 

 

 この道の先にある光を求めて。

 

 

 そうして俺達は、その光の先へと進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。

 

 西の”グリューエン大砂漠”から東の”ハルツィナ樹海”まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。

 

 【ライセン大峡谷】と。

 

 そんな魔境の大地に立っている俺達。

 

 青い空に白い雲。

 肌を通り過ぎる心地よい風。

 地上を照らす本物の日差し。

 

「……戻って、来たんだよな」

「ああ……」

 

 ポツリと呟くハジメに、俺は頷いて答える。

 

「やっと、帰ってきたんだよな……」

「んっ……」

 

 今度はユエが答える。

 その言葉に少しずつ実感が湧いてくる。

 俺達は両手をガバッと空に上げると、

 

「「よっしゃぁああ───!!戻ってきたぞぉおおおっ!!」」

「ん───っ!!」

 

 腹の底から叫ぶ。

 その様子を、暖かい目で見守るモルガン達。

 ハジメとユエは抱きしめ合い、俺は空を眺めて余韻に浸る。

 完全なる幸せ空間を作り上げていた……はずなのだが、すぐにキャストリアから報告が入ってきた。

 

「ねぇ比企谷、周囲に魔物が集まってきてるけど、どうする?」

「ん?──マジかよ、結構集まってるな。……でも、なんか様子がおかしくないか……?」

 

 周囲を見渡すと、オークのような魔物がゾロゾロと集まってきていた。しかし、何故か俺達と一定の距離を取っており近づいてこない。

 

 俺がその様子に首を傾げていると、モルガンが口を開いた。

 

「どうやら我々に怯えているようです。特に、八幡の技能にある〝威圧[+覇気]〟の効果が大きいようですね。魔物たちが近づいてはならないと本能で察知するほどのオーラです」

「……なるほど。人前ではなるべく抑えるようにしたほうがよさそうな技能だな。まぁ、余計な争いをする必要はないし魔物は放置でいいだろ。それより、そろそろ俺らも移動しないか?」

 

 俺は〝威圧[+覇気]〟をなるべく抑えつつ、キャッキャと抱き合いながら地面に転がっているハジメとユエに聞く。

 

「あ、ああ。そうするか。なら、これの出番だな」

 

 と、ハジメが宝物庫から魔力駆動二輪と四輪を一台ずつ取り出した。

 

 二輪にハジメとユエ。

 四輪に俺、モルガン、バーヴァンシー、キャストリア、スカサハ、エミヤ、ヘラクレス。

 

 ハジメ達が先に先行し、俺達はその後ろについて行く。

 そうやって走行を続けていると、ふいにモルガンが反応した。

 

「八幡、ここから400m程前方に魔物の気配を一つ。それと、その近くに兎人族が一人いるようです」

「どういう状況だそれ……?戦ってる?いや、確か兎人族は戦闘が苦手って本に書いてあったな。つまり……」

「ええ、どうやら必死に逃げているようです」

 

 モルガンがそう言った時、俺の視界に二つの頭を持つ恐竜のような魔物と、その前を泣きながら走っている兎の姿を捉える。

 

「あれか……」

『八幡、聞こえるか?』

 

 とそこで、車内にハジメの声が響く。これは俺達の技能〝念話〟の効果である。

 

「ああ、聞こえてるぞ」

『前方で何やら変な生き物を見つけた。とりあえず魔物は始末するが、もう一匹がなにやら訳ありみたいだ』

「訳あり?」

『ああ、オレ達の方に向かって、やっと見つけたとか叫んでるんだが……』

 

 やっと見つけた。

 つまり俺達を探していたということか……?だがあの兎人族と俺達に面識などない。……にも関わらず俺達と遭遇を果たした。偶然、と考えるには不自然だな。

 

「話だけ聞いてみないか?少し気になる」

『…………分かった』

 

 

 

 

 あ、コイツ絶対素通りする気だったな。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 ハジメが恐竜のような魔物をドンナーで瞬殺した後、俺達は襲われていた兎人族の近くに停車した。

 

「助けていただきありがとうございますぅ。私はハウリア族の長の娘、シア・ハウリアと言います。お願いしますっ!!私の家族を助けてください!!」

「いや、それだけじゃ状況がまったく分からん。話は聞いてやるから、簡潔に、分かりやすく言え」

 

 顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃな状態の残念なウサギ。シアと名乗った少女は、地面にへたり込みながらもハジメの言葉にポツリポツリと語り始めた。

 

「私たちハウリア族は亜人国フェアベルゲンにある樹海の奥の集落で暮らしていました。でも私のせいで一族は国を追われることになってしまったんです。亜人族は本来魔力を持っていないのですが、私は魔力を持ち直接操作できます。さらに固有魔法〝未来視〟という仮定した未来を視る力を持っています」

「その力でオレ達を知ったってことか……?」

「はい。これは魔物と同じ力。捕まれば間違いなく処刑されるでしょう。私たち一族は樹海から離れ、北の山脈へと向かったのですが、その途中で帝国兵に見つかってしまったんです。気がつけば半数以上が捕らえられてしまって……。全滅を避けるため魔法が使えないこの谷へ逃げ込んだのですが、モンスターに襲われることに……──お願いです!!私たちを助けてください!!」

 

 シアの必死の懇願。

 俺はハジメに視線を向ける。

 それを皮切りに他の皆もハジメに視線を向け、注目が集まる。

 ハジメはシアを見つめ、一息おくと……

 

「──ダメだな」

「ど、どうして!?」

「まず自分たちの現状を考えてみろ。お前らは今、樹海から追放され、帝国からは追われ、お前自身も厄介の種状態。そんなヤツらを助けるってことは、オレ達は亜人族と帝国の両方と敵対関係になるってことだろ?オマエらに、それだけの対価を支払うことができるのか?」

 

「うっ…そ、それは……」

 

 ハジメの言い分は理にかなっているため、頭ごなしに否定することは出来ない。

 俺達にも都合があり、旅の目的がある。こんなところで立ち止まってる暇などない。

 と、考えたいところだが……

 

「ハジメ、連れてっていいんじゃないか?」

「八幡?」

「本当ですか!?誰か分かりませんがありがとうございますぅ!!」

 

 俺の言葉に驚いた顔をするハジメと、逆に目をキラキラさせるウサギ。

 

「なんで連れて行くんだ?」

「樹海は亜人族じゃないと必ず迷うって本に書いてあっただろ?モルガンの探知でなんとかなるとは思うが、無理な場合は人間族を嫌っている亜人達と交渉しないといけなくなる」

「あ〜」

 

 確実に樹海を渡る方法が円滑に手に入る。だがその代わりに、兎人族の問題を抱えることになる。

 損得計算に頭を悩ませるハジメ。

 そんな様子を見ていたユエが、ハジメに近寄り一言告げる。

 

「……大丈夫、私達は最強」

「ユエ……」

 

 その言葉に、ハジメは一度目を瞑る。そして鼻を鳴らして微笑すると、

 

「そうだな。というわけで、喜べウサギ。お前たちを樹海の案内に雇わせてもらう。支払いは、お前らの命を助けること。文句はないだろ?」

「も、もちろんです!」

 

 それを聞いたハジメはバイクに跨ると、

 

 

「──それじゃあ、乗れ」

 

 

 そう言って手を差し伸べた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 俺達はその後も渓谷内を爆走し、道中で簡単な自己紹介をした。

 俺達も魔力の直接操作ができると聞いたシアが、同類がいたと急に泣き出していた。

 まぁ、彼女はそのせいで迫害を受け続けていたのだから仕方ないだろう。

 

 俺達はそんなシアの案内のもと、他の兎人族のいる場所へと向かっていた。

 

『あっ、もうすぐです!ここを曲がった先に皆が……──!』

 

 シアの言葉が途中で途切れる。

 俺達が道を曲がった先には、プテラノドンのような鳥型の魔物がうじゃうじゃと集まっていた。

 空中を旋回するプテラノドン達の下に、四十人程の兎人族たちが必死に逃げ回っている姿が見える。

 

「モルガン」

「ええ、終わらせましょう」

 

 一瞬の会話のあと、モルガンは掌に黒い球体を生み出す。

 そして握り潰した。

 瞬間、兎人族たちに襲い掛かっていた魔物全てが爆ぜた。

 

 突然の状況に理解が追いつかず、ポカンとした表情で固まる兎人族たち。

 

「みんな〜!助けを呼んで来ましたよ〜!」

 

 そこへ、シアが嬉しそうに声を上げながらブンブン腕を振ってアピールする。

 

「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」

 

 それに気づいた兎人族たちは、驚きつつも安堵の表情を浮かべる。

 

 俺達が車を近くで停車させると、兎人族たちが集まってきた。

 シアはバイクから降り、一人の男に近づく。

 

「父様!」

「シア!」

 

 父様と呼ばれたその兎人族は、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性。

 シアの父。つまりは、この人が兎人族の長ということ。

 

 シアが兎人族たちに駆け寄り、事情を説明する。

 しばらくして、シアの父がこちらに向き直り歩み寄ってきた。

 

「ハジメ殿、それからエイト殿でよろしいか?私はシアの父で族長をしているカム・ハウリアです。我が一族の窮地を救っていただき、なんとお礼を言えばいいか……。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

 

 カムと名乗ったその男性は、深々と頭を下げた。その後ろには、カムと同様に頭を下げる兎人族たちの姿。

 

「礼ならモルガンに。アンタたちを魔物から助けたのは彼女だからな」

 

 俺はそう言ってモルガンに視線を向ける。

すると、カムは驚いた顔を浮かべながらも、モルガンに向き直り再び頭を下げた。

 

「そうでしたか。我々の窮地を救っていただき、ありがとうございます」

「問題ありません。これは正当な取引によるもの。後の樹海の案内は頼みましたよ?」

「勿論ですとも!我々一同、全力でやらせていただきます!」

「よろしい」

 

 元気よく発言するカムに、女王の風格を放つモルガン。

 

 あれだな、こういうキリッとしたモルガンは久しぶりに見る気がする……。奈落の底では完全に甘々モードだったから女王だって忘れてたわ……。

 

 可愛いモルガンか、強く美しいモルガン。

 

 選べるわけがない。いや、そもそも選ぶ必要なんてないな。モルガンという一人の人物が両方の属性を持っているのだから当然だ。

 

 両方がモルガンなのだ。

 

 可愛く、強く、美しいモルガン。

 

 

 ────最強だ。

 

 

 うんうんと頷きながらそんなことを考えていると、こちらをチラリと見たモルガンと視線が合う。

 

「我が夫……ふふっ」

 

 おっと、心が読まれている。

 俺は考えるのを一時停止して、視線を逸らす。しかし、逸らした先にはニヤニヤしながら俺を見ているハジメの顔が映った。

 

 さすがは親友。俺のことをよく理解している。だがその顔はムカつくので、後でユエに昔のハジメをじっくり語り聞かせてやろうと心に誓った。

 

 

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