ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない 作:ミーラー
少しして、俺達は帝国兵に捕らえられたという兎人族の仲間たちを助けるため、渓谷を抜けることにした。
渓谷の入口にある階段を登っていると、シアが聞きづらそうにしながらもハジメに質問を投げかけた。
「あの…ハジメさん、本当にいいんですか?」
「何がだ?」
「この先には帝国兵がいます。このままだと同じ人間族と戦うことに……」
「それに何か問題があるのか?お前が取引を申し出た時点で、こうなることは予想できていた。オレ達はそれを承知の上で引き受けた。それで十分だろ?」
「そ、それは……そうですが」
「もちろんまずは対話から入る。だが、おそらく穏便には済まないだろう。そうなったら実力行使に移るだけだ」
ハジメはなんてことないようにそう答え、どんどん階段を登っていく。
そしてその先には、
「おいおいマジかよ。兎人族の連中、生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」
三十人の帝国兵がたむろしていた。
周りには大型の馬車が数台と、野営跡が残っている。
全員が軍服、もしくは鎧を纏っており、剣や槍、盾を装備している。
俺達を見て驚いた顔を浮かべたが、それも一瞬のこと。直ぐに喜色へと変わり、品定めでもするように兎人族を見渡した。
「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」
「おお、ますますついてるな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」
「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」
「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」
「ひゃっほ~、流石小隊長! 話がわかる!」
下卑た会話をしながら、舐めるような視線を兎人族に向ける帝国兵たち。
その視線に、兎人族は怯えて震えるばかり。
俺とハジメは、その間に割って入る形で進み出た。
すると、ようやく俺達の存在に気づいたのか、小隊長と呼ばれた男が訝しげな表情を浮かべる。
「なんだお前ら?兎人族……じゃあねぇよな?」
「ああ、俺達は人間だ」
「はぁ〜?なんで人間が兎人どもと一緒にいるんだ?あぁ、もしかして奴隷商人か?ライセン大峡谷からご苦労なこった。まぁいいや、そいつら全員帝国で引き取るから、置いていけ」
勝手に推測し勝手に結論づけた小隊長は、さも自分の言う事を聞いて当たり前と言った様子で俺達に命令した。
しかし、
「断る」
「……よく聞こえなかったな。──今なんて言った?」
「断ると言ったんだ。こいつらは今、俺達のもの。あんたらには一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメする」
ハジメと俺の言葉に、小隊長の額に青筋が浮かぶ。
「……ガキ共が、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」
「十全に理解している。あんたらに頭が悪いとは誰も言われたくないだろうな」
ハジメの言葉に対して小隊長は表情を消した。
たが俺達の後ろを見てニヤニヤ笑いだす。おそらく、後ろにいたユエやモルガン達に気づいたのだろう。
「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇらが唯の世間知らずの糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃんたち、えらい別嬪じゃねぇか。てめぇらの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」
「小隊長〜。俺はあっちの銀髪お姉さんが好みなんすけど〜。俺がヤッてもいいっすか〜」
「おいずりぃぞ!俺が最初に狙ってたんだからな!」
「なら俺は紫髪の巨乳美女も〜らい」
「分かってねぇな〜。あの金髪の子が一番に決まってんだろ。あの朗らかな雰囲気に癒されたい」
「金髪が一番なのは同意するが、僕はあっちのクール系幼女の方がタイプだね。クール幼女こそ至高」
「俺は赤髪の子で。……いじめられたい。ハアハア」
「お前らなに勝手に決めてんだ!小隊長は俺だぞ!俺が最初だ!!」
───……何なんだコイツら。
モルガン達を見て自分達の性癖を次々に暴露していく帝国兵たちに、俺は怒りよりもなんだ別の感情が芽生えていた。
嫌悪感、よりもおぞましい何か。
なんかこうゾワゾワする感じだ。いやそれ嫌悪感か。
まぁ一言で言えば、キモイ。
俺ですらそう感じるのだ、目をつけられているモルガン達はもっと気持ち悪いだろう。
俺は一度ため息を吐く。そして、
「ヘラクレス」
呼び掛けに応え、ドスン、ドスンと足音を鳴らしながら俺の隣に立つヘラクレス。
その状態で、俺は帝国兵たちに話しかける。
「盛り上がってるとこ悪いが、お前らには二つの選択肢を与える」
「ああ?……あ、あ?」
話を邪魔されたことで憤りを見せ、俺を睨みつけてくる帝国兵たち。だが、隣にいるヘラクレスを見て、口をパクパクさせて固まってしまった。
俺はそれに構わず続ける。
「ここで全てを諦めて帝国に帰るか、今すぐ死ぬか。好きな方を選べ」
俺がそう言うと、帝国兵たちの視線が俺とヘラクレスを行ったり来たりする。
俺のことはただの雑魚だと認定していたんだろうが、さすがに二メートルを超える筋骨隆々の男が目の前に現れれば躊躇いが生じる。
しかし、
「小隊長〜。なにビビってんすか〜。こんなのただの見せかけに決まってるっすよ。おい糞ガキ〜。彼女ちゃんたちの前でカッコつけたい気持ちはわ、か、る、け、ど〜大人しく俺達に従っといた方が身のためだぜ〜?今謝れば殺さないでおいてやるよ。ま、女は貰うけどな。ヒャハハハハッ!」
気持ち悪い笑い声を発しているこのチャラそうな男は、さっきモルガンに下卑た目を向けていた男だ。
そのチャラ男が、抜いた剣をチラつかせて脅しかけてくる。
どうやらコイツには、最低限の危機感知能力すら欠如しているようだ。
「いや〜ホントあの銀髪お姉さんタイプだわ〜。スタイル良過ぎだし〜、早くヤr──」
────ブンッ!!
空気を切る時特有の重い音が響く。
それと一瞬の時間差で、ドサッ!と何かが地面に落ちた。
「は?」
チャラ男の声だ。
何が起きたのか分からない戸惑いの声。
だが次の瞬間には、
「あ、あがあぁぁぁああ──ッ!!」
チャラ男は地面に倒れ、のたうち回りながら絶叫する。
何をしたのかといえば簡単な話。チャラ男がペラペラと気持ちよさそうに話してるうちに、視認できない速度で腕を根元から切っただけ。
俺の手には、赤黒く輝く聖剣が握られていた。
「あ、あぁああぁぁぁ!?いでぇ!いでぇよぉ!だれがたずけ───」
ズシャッ!!
チャラ男が何かを言い切る前に、粉々に切り刻んだ。
そこで、ようやく状況を理解し始めた帝国兵たちが行動を開始する。そこには、先程までの余裕など皆無だった。
「え、詠唱を始めろ!ヤツらを殺せッ!」
と、小隊長。
詠唱を始める後衛と、突っ込んでくる前衛。
俺は帝国兵たちに向けて左手をかざし〝魔力操作〟を発動。
周囲の魔力を掌握し、遠隔操作することで帝国兵たちの動きを止める。簡単な念動力のようなものだ。
「な、何だ!?身体が!?」
「くッ、動かない!」
「ハアハア……」
帝国兵たちは身体を動かそうと必死に藻掻くが、動く気配はない。そして、そんなカカシ状態の敵を見逃すはずがなく──
──ドパァァンッ!
一発しか聞こえなかった銃声が、同時に九人の帝国兵の頭部を吹き飛ばした。
もはやハジメの射撃速度は異次元のレベルに到達している。まぁ、それを可能にするドンナー&シュラークもおかしいんだけど。
改めてハジメ兵器がやべぇと思いつつ、俺は念動力で動けなくなっている残り二十人に視線を向ける。
「た、助けてくれッ!何でもするから!」
「いや!助けるなら俺を!」
「頼む!俺には家族がいるんだ!」
「ハアハア……モット」
「僕は帝国の内情について知ってる!だから僕を!」
一番近くにいた帝国兵が命乞いを始めると、それにつられるように他のヤツらも命乞いを始めた。
俺が冷めた目で見ていると、ハジメが動き出した。
「だったら、他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。結構な数が居たはずなんだが……全部帝国に移送したのか?」
そう言って立ち止まったハジメの視線の先には、先程ユエに目をつけていた帝国兵、帝国の内情について知っていると叫んでいた男の姿があった。
「……は、話せば殺さないか?」
「お前、自分が条件を付けられる立場にあると思ってんのか?別に、どうしても欲しい情報じゃあないんだ。今すぐ逝くか?」
「ま、待て!話す!話すから!……多分、全部移送済みだ。人数は絞ったから……」
人数は絞った。つまりは、売れそうにない兎人族は殺したということだろう。
帝国兵の言葉に、悲痛な表情を浮かべる兎人族たち。
ハジメは、その様子をチラッとだけ見やる。直ぐに視線を兵士に戻すともう用はないと瞳に殺意を宿した。
「待てッ!待つんだ!他にも何でも話すから……ほら!帝国の内情でも何でも!だから!」
ハジメの殺意に気がついた兵士が再び必死に命乞いする。しかし、帝国に対して微塵も興味がない俺達に言ったところで意味のない話。その返答はもちろん──
──ドパンッ!
一発の銃弾だった。
辺りを静けさが包み込む。しかし、それも一瞬で、
「うわぁあああ!!」
「イヤだぁ!助けてくれ!」
「エヒト様!エヒト様!エヒト様!」
「死にたくねぇよぉおお!!」
「ハアハア……アフン」
泣き叫ぶ帝国兵たち。
聞きたい情報はもう聞けた。あとのヤツらにはもう用はない。
俺はかかげていた左手をキュッと握った。
同時にグシャッ!という音が響き、全ての帝国兵を文字通り捻り潰した。
「フゥー……」
息を吐く。
人を殺した。
その事実を目の前の光景と充満する血の匂いが教えてくれる。
だが、
────何も感じない。
「我が夫、大丈夫ですか?」
後ろからモルガンの声が聞こえる。
「ああ、問題ない」
俺がそう簡単に伝えると、モルガンの気配が近づいてくるのを感じた。
視界の隅にモルガンの綺麗な銀髪が映り、モルガンが俺の隣に来たことが分かった。
次の瞬間、左手に柔らかい感触が伝わってきた。
「モルガン?」
手を繋いでいる。
そう理解するのに、一秒もかからない。
少し驚いて、隣に立っているモルガンを見つめる。
「私がこうしたかっただけですから、気にする必要はありませんよ」
モルガンはこちらに視線を向けず、正面を向いたままそう言って軽く微笑んだ。
「……そうか」
俺も深くは聞かず、モルガンから視線を外す。そうすると、モルガンの手の温もりが強く感じられた。
モルガンの手を握る力が、自然と強くなる。
それに気づいたモルガンも、俺の手を握る力を強めた。
「我が夫が本当に困って、助けて欲しい時は、手を伸ばしてください。私がその手を必ず掴みます」
どこかで聞き覚えのあるセリフだ。
それも当然だろう。
「それ、俺のセリフなんだけどな……」
「ふふ、真似してみました。ですが、これが今の私の本心です。我が夫が背負おうとしているものを、私にも背負わせてください」
「一蓮托生ってやつか」
冗談ぽく笑いながらそう言うと、モルガンはこちらに視線を向ける。そして、とてつもなく妖艶な雰囲気を発しながら言った。
「ええ、絶対に逃がしませんから。覚悟しておくように」
モルガンのこういったちょっと重めの発言は、毎回破壊力がすごい。
いつもの俺なら普通にそっぽ向いて流していただろう。
だが、今はなぜか俺もやり返したくなった。
「俺も離すつもりはないから、覚悟しておいてくれ」
まさか反撃されると思ってなかったのか、モルガンが目を見開いて固まる。しかしそれも一瞬で、次の瞬間にはとても満足げに目を細めた。
「我が夫……ふふっ、満点です」
そう言ってもたれかかってくるモルガン。
───やはりモルガンが最強なのは間違っていない。
ハジメ「オレ達、今人殺したばっかだよな……?」
ユエ「ハジメもして欲しい?」
ハジメ「……」
バーヴァンシー「オマエらも大概だろ」