ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない   作:ミーラー

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第5話 無能

 

 

 

俺達がトータスに来てから2週間がたった。

現在、俺とハジメは王立図書館で調べ物をしている。なぜそんなことをしているかと言うと、俺達はこの世界の事を何も知らない。なので、訓練の休憩時間の合間に、図書館で調べ物をしているのである。

 

「八幡、本当に大丈夫?」

 

「ああ、なんとかな」

 

「急に倒れたから驚いたよ」

 

そう、俺はこの2週間のうちに3回ぶっ倒れたのである。

 

なぜそんな事になったかというと…

 

1回目が、鑑定の練度を上げようと、ずっと鑑定を使った状態で生活していた。鑑定を使った状態というのは、俺の目に見える物全ての情報を、俺の脳に送り続けるという事だった。結果、俺の脳が負荷に耐えきれず、鑑定を使ってから一時間程で、俺は意識を手放した。

 

2回目は、俺が鑑定を使うと目の前にウィンドウが現れる。これはおそらく、俺が鑑定と言えば"こういう物だ!"という固定観念から、ウィンドウに文字で表すという方法になっているが、この場合俺はウィンドウに書かれた文字を読まなければいけない。

 

もし、読んでいる暇なんてない状況に陥った場合の対策として、何かないかと悩んでいた時、1回目の失敗を思い出したのだ。脳に情報が流れてくるなら、流れ込んできた瞬間に俺が理解出来れば、文字を読む必要ないんじゃね?

と、結果は案の定、脳が負荷に耐えきれずシャットダウンした。

 

3回目は、ただただヘマをしただけだ。1回目と2回目の失敗から、徐々に慣れて行こうという事になったのだが、ちょうど鑑定を使っている時に、王立図書館に入ってしまったのだ。その結果、目の前にある大量の本の情報に耐えきれず、意識は闇の中へ。

 

という感じだ。

だがそのおかげもあってか、今では熟練度がかなり上がった気がする。

今では何となく自分がどれくらい鑑定出来るのか分かるし、鑑定する内容も前より詳しくなっている。

 

まぁ倒れて3日寝てた時もあったくらいで、俺は訓練に参加できない日も多くあり、俺のレベルは2週間前から何も変わっていない。

 

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比企谷ハチマン 17歳 男 レベル:1

天職:魔術師、召喚士

筋力:40

体力:40

耐性:80

敏捷:40

魔力:320

魔耐:80

技能:魔術・召喚魔法・召喚魔法陣作成

・召喚詠唱補助・魔術礼装スキル作成

・高速魔力回復・鑑定・言語理解

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耐性はおそらく、倒れまくった結果だろう。

魔力に関しては、少しの訓練でめっちゃ伸びた。

あと魔術師なので当然だが、やっぱり魔術回路があった。

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:2

天職:錬成師

筋力:12

体力:12

耐性:12

敏捷:12

魔力:12

魔耐:12

技能:錬成、言語理解

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ハジメに関してはこれが、二週間みっちり訓練した成果である。「刻み過ぎだろ!」と、ハジメがツッコミをいれたのは言うまでもない。ちなみに光輝はというと

 

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天之河光輝 17歳 男 レベル:10

天職:勇者

筋力:200

体力:200

耐性:200

敏捷:200

魔力:200

魔耐:200

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読

高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

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ざっとハジメの五倍の成長率である。

ハジメはステータスが高くない分、知識で補うことで差を埋めようとしている。

 

だが、ハジメには魔法の適性がないことも発覚してしまった。

 

トータスにおける魔法は、体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動するというプロセスを経る。魔力を直接操作することはできず、どのような効果の魔法を使うかによって正しく魔法陣を構築しなければならない。

 

例外として、適性があればどの属性かを省略できたり、式を小さく出来るのだが…初めの場合、"火球"一発放つのに直径二メートル近い魔法陣を必要としてしまい、実戦では全く使える代物ではなかったのだ。

 

「はぁ……」

 

「ん?どうしたハジメ?」

 

「旅にでも出ようかなと思って……」

 

「旅か〜確かにいいな!ハジメはどこか行きたい場所があるのか?」

 

「異世界と言えば…やっぱり亜人の国でしょ!」

 

「あ〜そういやハジメ、ケモミミ好きだったもんな」

 

「でも、現実的じゃないんだよね〜」

 

亜人族は被差別種族であり、基本的に大陸東側に南北に渡って広がる【ハルツェナ樹海】の深部に引き篭っている。なぜ差別されているのかというと彼等が一切魔力を持っていないからだ。

 

この世界では、魔法は神からのギフトであるという価値観が強いのだ。もちろん、聖教教会がそう教えているのだが。

 

そのような事情から魔力を一切持たず魔法が使えない種族である亜人族は神から見放された悪しき種族と考えられているのである。

 

「確かに……じゃあ、エリセンとかどうだ?ケモミミもいいが、マーメイドもロマンがあるだろ?」

 

【海上の町エリセン】は海人族と言われる亜人族の町で西の海の沖合にある。亜人族の中で唯一、王国が公で保護している種族だ。

 

その理由は、北大陸に出回る魚介素材の八割が、この町から供給されているからである。全くもって身も蓋もない理由だ。「壮大な差別理由はどこにいった?」と、この話を聞いたとき俺達は内心盛大にツッコミを入れたものだ。

 

「確かに……あと海鮮料理が食べたいなぁ〜」

 

ちなみに、西の海に出るには、その手前にある【グリューエン大砂漠】を超えなければならない。この大砂漠には輸送の中継点として重要なオアシス【アンカジ公国】や【グリューエン大火山】がある。この【グリューエン大火山】は七大迷宮の一つだ。

 

七大迷宮とは、この世界における有数の危険地帯をいう。

 

ハイリヒ王国の南西、グリューエン大砂漠の間にある【オルクス大迷宮】と先程の【ハルツェナ樹海】もこれに含まれる。

 

七大迷宮でありながらなぜ三つかというと、他は古い文献などからその存在は信じられているのだが詳しい場所が不明で未だ確認はされていないからだ。

 

一応、目星は付けられていて、大陸を南北に分断する【ライセン大峡谷】や、南大陸の【シュネー雪原】の奥地にある【氷雪洞窟】がそうではないかと言われている。

 

「砂漠は嫌だな……」

 

「うん、だとすると、もう帝国に行って奴隷を見るしかないんだろうけど……流石に奴隷扱いされてるケモミミを見て平静でいられる自信はないなぁ」

 

「だな」

 

帝国とは、【ヘルシャー帝国】のことだ。この国は、およそ三百年前の大規模な魔人族との戦争中にとある傭兵団が興した新興の国で、強力な傭兵や冒険者がわんさかと集まった軍事国家らしい。実力至上主義を掲げており、かなりブラックな国のようだ。

 

この国には亜人族だろうがなんだろうが使えるものは使うという発想で、亜人族を扱った奴隷商が多く存在している。

 

帝国は、王国の東に【中立商業都市フューレン】を挟んで存在する。

 

【フューレン】は文字通り、どの国にも依らない中立の商業都市だ。経済力という国家運営とは切っても切り離せない力を最大限に使い中立を貫いている。欲しいモノがあればこの都市に行けば手に入ると言われているくらい商業中心の都市である。

 

「そろそろ訓練の時間だね。行こう、八幡」

 

「先行っててくれ、トイレ行ってくる」

 

 

 

トイレを済ませ、訓練施設に到着すると既に何人もの生徒達がやって来て談笑したり自主練したりしていた。どうやら案外早く着いたようだ。ハジメがいないが、自主練でもして待つかと、俺は自身の魔術回路から魔力を生成し始めた。

 

本来、魔術回路とは、生命力を魔力に変換するための器官の事だ。しかし異世界に来た事で、魔力を自分で生み出すことが出来るようになってしまった。これはクラス全員だ……

 

つまり、魔術回路を通じて生命力を代償に魔力へ変換する必要は無い。だが、魔術を使うためには、魔術回路が必須なのだ。

 

簡単に言えば、魔術を使う時に魔術式に命令と魔力を送るのだが、その際に魔術回路を通さなくてはならない。

 

だが俺は魔術を使用する時、魔術回路に何か詰まっている感じがあり、上手く魔術が使用出来なかった。

 

鑑定の結果、全く使ってなかった器官を急に起動し始めたから。ということらしい。まぁそりゃそうだ。俺はただの高校生だったわけだからな。魔術師の家系なんて事はないはずだ。

 

だから俺はその詰まった部分を解すため、ない体力を代償に魔力を生み出しているのだ。

 

これは後から気づいたのだが、俺には令呪がない。つまり、マスターの資格が無いということだ。それに気づいた時は膝から崩れ落ちたものだ。まぁ…サーヴァント召喚には膨大な魔力が必要だから、令呪あっても無くてもサーヴァント召喚はできないんだけどね?

 

泣いていい?

 

とそんな事を思っていた時、後ろの方からハジメの苦しそうな声が聞こえた気がした。

 

俺は嫌な予感がして、声のした方に向かった。

 

声のした方向は、ちょうど訓練所から死角になっている所だ。

 

そこには……

 

蹲るハジメを檜山達四人組が、リンチしている所だった。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

時間は少し遡る。ちょうど八幡がトイレに行っている時だ。

 

訓練所に着いたハジメは、西洋風の細身の剣を取り出し、自主練でもして八幡が来るのを待つことにした。

 

と、その時、唐突に後ろから衝撃を受けてハジメはたたらを踏んだ。なんとか転倒は免れたものの抜き身の剣を目の前にして冷や汗が噴き出る。顔をしかめながら背後を振り返ったハジメは予想通りの面子に心底うんざりした表情をした。

 

そこにいたのは、檜山大介率いる小悪党四人組(ハジメ命名)である。訓練が始まってからというもの、ことあるごとにハジメにちょっかいをかけてくるのだ。ハジメが訓練を憂鬱に感じる半分の理由である。(もう半分は自分の無能っぷり)

 

「よぉ、南雲。なにしてんの? お前が剣持っても意味ないだろが。マジ無能なんだしよ~」

 

「ちょっ、檜山言い過ぎ! いくら本当だからってさ~、ギャハハハ」

 

「なんで毎回訓練に出てくるわけ? 俺なら恥ずかしくて無理だわ! ヒヒヒ」

 

「なぁ、大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから、俺らで稽古つけてやんね?」

 

 一体なにがそんなに面白いのかニヤニヤ、ゲラゲラと笑う檜山達。

 

「あぁ? おいおい、信治、お前マジ優し過ぎじゃね? まぁ、俺も優しいし? 稽古つけてやってもいいけどさぁ~」

 

「おお、いいじゃん。俺ら超優しいじゃん。無能のために時間使ってやるとかさ~。南雲~感謝しろよ?」

 

 そんなことを言いながら馴れ馴れしく肩を組み人目につかない方へ連行していく檜山達。それにクラスメイト達は気がついたようだが見て見ぬふりをする。

 

「いや、一人でするから大丈夫だって。僕のことは放っておいてくれていいからさ」

 

一応、やんわりと断ってみるハジメ。

 

「はぁ? 俺らがわざわざ無能のお前を鍛えてやろうってのに何言ってんの? マジ有り得ないんだけど。お前はただ、ありがとうございますって言ってればいいんだよ!」

 

そう言って、脇腹を殴る檜山。ハジメは「ぐっ」と痛みに顔をしかめながら呻く。

 

檜山達も段々暴力にためらいを覚えなくなってきているようだ。思春期男子がいきなり大きな力を得れば溺れるのは仕方ないこととはいえ、その矛先を向けられては堪ったものではない。かと言って反抗できるほどの力もない。ハジメは歯を食いしばるしかなかった。

 

やがて、訓練施設からは死角になっている人気のない場所に来ると、檜山はハジメを突き飛ばした。

 

「ほら、さっさと立てよ。楽しい訓練の時間だぞ?」

 

 檜山、中野、斎藤、近藤の四人がハジメを取り囲む。ハジメは悔しさに唇を噛み締めながら立ち上がった。

 

「ぐぁ!?」

 

 その瞬間、背後から背中を強打された。近藤が剣の鞘で殴ったのだ。悲鳴を上げ前のめりに倒れるハジメ。

 

「ほら、なに寝てんだよ? 焦げるぞ~。ここに焼撃を望む――〝火球〟」

 

 中野が火属性魔法〝火球〟を放つ。倒れた直後であることと背中の痛みで直ぐに起き上がることができないハジメは、ゴロゴロと必死に転がりなんとか避ける。だがそれを見計らったように、今度は斎藤が魔法を放った。

 

「ここに風撃を望む――〝風球〟」

 

 風の塊が立ち上がりかけたハジメの腹部に直撃し、ハジメは仰向けに吹き飛ばされた。「オエッ」と胃液を吐きながら蹲る。

 

 魔法自体は一小節の下級魔法だ。それでもプロボクサーに殴られるくらいの威力はある。それは、彼等の適性の高さと魔法陣が刻まれた媒介が国から支給されたアーティファクトであることが原因だ。

 

「ちょ、マジ弱すぎ。南雲さぁ~、マジやる気あんの?」

 

そう言って、蹲るハジメの腹に蹴りを入れる檜山。ハジメは込み上げる嘔吐感を抑えるので精一杯だ。

 

 その後もしばらく、稽古という名のリンチが続く。ハジメは痛みに耐えながらなぜ自分だけ弱いのかと悔しさに奥歯を噛み締める。本来なら敵わないまでも反撃くらいすべきかもしれない。

 

そろそろ痛みが耐え難くなってきた頃、突然、怒りに満ちた八幡の声が響いた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

ハジメ!? またコイツらか!

 

「檜山!やめろ!」

 

「ああ?んだよヒキタニ、てめぇも後で稽古つけてやるから邪魔すんなよ、ステータスが高いだけの無能がよ!」

 

そう……俺も無能のレッテルを貼られている。

さっきも言った通り、俺は上手く魔術回路が起動できない。使えるのは、火を起こす魔術くらい。

威力は皆無だ。後、コイツらは理由を知らないが、俺が倒れまくり、訓練を休んでばっかりだったのも原因の一つだ。

 

だがコイツらは勘違いをしている。

 

確かに俺の天職は魔術師で、俺は魔術を使えない無能だ。しかし、魔術回路が上手く起動出来れば、いずれ使えるようになるものだ。

 

それに俺は、この世界の"魔法"なら問題なく使える。適性も全属性程までは行かないが、申し分ない。

 

「おい……檜山」

 

「なんだよヒキタニ、もしかして自分から稽古つけてもらいに来たの?」

 

「ギャハハハ!もしかしてヒキタニってドMだったんじゃね?」

 

と、気持ち悪い笑みをしながら近寄ってくる檜山と、バカ笑いしている取り巻き達。

 

「さっきお前は、ステータスが高いだけの無能と言ったな?」

 

「事実だろ?お前の火球見たけど何だよあれ!ライターの火かってくらいショボかったもんな〜」

 

「確かに、俺の魔術はショボイかもしれない。

だがこの世界において、ステータスの高さこそが強さに直結する事を、理解しているのか?」

 

「ああ?何言って……」

 

俺は瞬時に身体強化の魔法を自身にかけ、

檜山の顔面に懇親の右ストレートを放った。

 

「ブフッ!!」

 

次の瞬間。

檜山は地面と水平に飛んでいき、

 

ドガーーーーーン!!!!

 

壁に激突した。

 

「何やってるの!?」

 

先程の大きな音を聞き付けて、香織達がやって来た。

 

 

 


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