ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない   作:ミーラー

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第6話 力の使い方

 

 

 

「何やってるの!?」

 

先の大きな音を聞き付けて、香織達がやって来た。

 

その声に「やべっ」という顔をする取り巻き達。それはそうだろう。その女の子は小悪党達が惚れている香織だったのだから。香織だけでなく雫や光輝、龍太郎もいる。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

 

「南雲くん!」

 

取り巻きの弁明を無視して、香織は、ゲホッゲホッと咳き込み蹲るハジメに駆け寄る。ハジメの様子を見た瞬間、取り巻きのことは頭から消えたようである。

 

「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」

 

「いや、それは……」

 

「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」

 

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

 

三者三様に言い募られ、取り巻き達は気絶した檜山を連れて誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去った。香織の治癒魔法によりハジメが徐々に癒されていく。

 

「あ、ありがとう。白崎さん。助かったよ」

 

苦笑いするハジメに香織は泣きそうな顔でブンブンと首を振る。

 

「いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」

 

何やら怒りの形相で檜山達が去った方を睨む香織を、ハジメは慌てて止める。

 

「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!それに、八幡が助けてくれたから」

 

「でも……」

 

 それでも納得できなそうな香織に再度「大丈夫」と笑顔を見せるハジメ。渋々ながら、ようやく香織も引き下がる。

 

「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ。後、檜山くんを殴ったのって比企谷くんよね?」

 

「まぁな」

 

「まぁ、気待ちは分からなくはないけど、もう少し手加減してあげられなかったの?」

 

「悪いな、ちょっと感情が抑えられんかった」

 

「あなたがそこまで言うってことは、檜山くん達、相当南雲くんに絡んでいたようね」

 

はぁ〜とため息をつく雫。ある程度状況を把握出来てきた頃。そこで水を差すのが勇者クオリティー。

 

「おいヒキタニ!何であんなになるまで檜山を殴ったんだ!」

 

いや明らかに頬に一発だけだっただろうが!

どこに目をつけてやがる!

 

「殴ったのは事実だが、一発だけだぞ」

 

「そんなわけあるか!一発殴っただけであんな傷」

 

「それは俺達が持っている力の危険性を過小評価し過ぎなんじゃないか?」

 

俺達はまだ自分の力のことを、何も分かっていない。一撃で人を殺すことのできる力だ。自分の力量を把握すること、それは強くなることよりも重要だ。

 

俺が檜山を殴ったのは死なないという確信に近いものがあったからだ。

 

ん?俺が何も考えてないと思った?

さすがに俺も人殺しにはなりたくないからな。

 

大丈夫だと思った根拠はハジメだ。最初にハジメの状態を見た時、重症ではあったが死ぬほどのダメージではなかった。治癒魔法で十分回復できる。

 

曲がりなりにも檜山達はチート集団だ。その攻撃を受けて、ステータスの低いハジメが何とか耐えている。

 

なら俺がある程度の力で殴っても死にはしないだろうと思った。それと身体強化の魔法は、授業で習っていたというのもある。

 

「そんな事は……だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

と、今度は全く意味不明な事を言い出した。

何をどう解釈すればそうなるのか。俺達は半ば呆然としながら、ああ確かに光輝は基本的に性善説で人の行動を解釈する奴だったと苦笑いする。

 

「ごめんなさいね? 光輝も悪気があるわけじゃないのよ」

 

「アハハ、うん、分かってるから大丈夫」

 

「あいつに自覚がないから、なおタチが悪いんだがな」

 

ハジメは、汚れた服を叩きながら起き上がる。

 

「ほら、もう訓練が始まるよ。行こう?」

 

 ハジメに促され一行は訓練施設に戻る。香織はずっと心配そうだったがハジメは気がつかない振りをした。流石に、男として同級生の女の子に甘えるのだけはなんだか嫌だったのだろう。

 

訓練施設に戻りながら、俺は本日何度目かの深い溜息を吐いた。本当に前途は多難である。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルド団長は野太い声で告げる。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! ああそれと、八幡はこの後、俺のところに来い!事情聴取だ!以上!では、解散!」

 

そう言って伝えることだけ伝えるとさっさと行ってしまった。ざわざわと喧騒に包まれる生徒達の最後尾で俺とハジメは天を仰ぐ。

 

(……本当に前途多難だ)

 

その後、メルド団長から根掘り葉掘り、事の一部始終を聞かれた。ハジメや白崎、八重樫も同行してくれた事で事なきを得た。

 


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