ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない 作:ミーラー
正妻をモルガンにすることに決定しました!
投票に協力してくれた方、ありがとうございます。
モルガンを上手く書けるか分かりませんが頑張ります!
俺は今、唖然としながら目の前の魔物を見ている。ヤバい……アイツはヤバい……
見ただけでヤバいのを肌で感じる。
だがより正確な情報を得ようと、鑑定を使う。
しかし……
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ベヒモス レベル ーーー
筋力:10ー
体力:ーーー
耐性:ーーー
敏捷:ーーー
魔力:ーーー
魔耐:ーーー
状態:ーーー
技能:ーーーーー
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ガチで何も分かんねぇじゃねぇか!!!
アイツの筋力絶対10じゃないだろ!!
メルド団長が呟いた〝ベヒモス〟という魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。
「グルァァァァァアアアアア!!」
「ッ!?」
その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばした。
「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」
「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」
「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」
「でも……」
クソ!どっかの誰かさんのおかげで状況は最悪だ。とりあえず天之河に現状を認識させる必要がある。
「天之河!冷静になって考えろ!今何をすべきなのか!」
「だがヒキタニ!メルドさんを見捨ててなど行けない!」
チッ!こんな時……どうする?
どうにか撤退させようと、再度メルドが光輝に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。
そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。
「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」
詠唱が完了した時、純白に輝く半球状の障壁が顕現し、ベヒモスの突進を防ぐ。
衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。
トラウムソルジャーは三十八階層に現れる魔物だ。今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている。前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は半ばパニック状態だ。
隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。
その内、一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。
「あ」
そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。
死ぬ――女子生徒がそう感じた次の瞬間、トラウムソルジャーの足元が突然隆起した。
バランスを崩したトラウムソルジャーの剣は彼女から逸れてカンッという音と共に地面を叩くに終わる。更に、地面の隆起は数体のトラウムソルジャーを巻き込んで橋の端へと向かって波打つように移動していき、遂に奈落へと落とすことに成功した。
あれは……ハジメの錬成か!
俺は自身に身体強化の魔法をかけ、剣でトラウムソルジャーの群れを突破し、ハジメの元に駆け寄る。もはや魔術師のする事ではないが、気にしたら負けだ。
「ハジメ!無事か?」
「うん!大丈夫!でも、時間の問題だ!何とかしないと…必要なのは…強力なリーダー……道を切り開く火力……天之河くん!」
ハジメは天之河の方へ走り出した。
「おい!ハジメ!?くそ!こうなるなら力ずくで、天之河を連れてくればよかったな……」
俺もハジメの後を追うように走り出そうとした。
だが……
「きゃああああぁぁぁ!!」
「来るなあああああぁぁぁ!!」
「死にたくない死にたくない死にたくない」
完全に後ろがパニックになっていた。
クソ!考えてる場合じゃない!
俺はトラウムソルジャーをある程度殲滅してから、ハジメを追うことにした。
ベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。
「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」
「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」
「くっ、こんな時にわがままを……」
メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。
この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。
しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の光輝達には難しい注文だ。
「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」
雫は状況がわかっているようで光輝を諌めようと腕を掴む。
「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」
「龍太郎……ありがとな」
しかし、龍太郎の言葉に更にやる気を見せる光輝。それに雫は舌打ちする。
「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」
「雫ちゃん…」
苛立つ雫に心配そうな香織。
その時、二人の男子が光輝の前に飛び込んできた。
「天之河くん!」
「なっ、南雲!?」
「南雲くん!?」
驚く一同にハジメは必死の形相でまくし立てる。
「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」
「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君達がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」
「そんなこと言っている場合かっ!」
ハジメを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした光輝の言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。
いつも苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージとのギャップに思わず硬直する光輝。
「あれが見えないの!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ!」
光輝の胸ぐらを掴みながら指を差すハジメ。
「一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」
呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る光輝は、ぶんぶんと頭を振るとハジメに頷いた。
「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」
「下がれぇーー!」
〝すいません、先に撤退します〟そう言おうとしてメルド団長を振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。
舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた先には、メルド団長達、騎士団が全員ダウンしていた。
「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」
「やるしかねぇだろ!」
「……なんとかしてみるわ!」
二人がベヒモスに突貫する。
「香織はメルドさん達の治癒を!」
「うん!」
香織がメルドの治癒し、龍太郎と雫が殿を務め、
その間に光輝は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。
「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――〝神威〟!」
詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。
先の天翔閃と同系統だが威力が段違いだ。橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへ直進する。
光輝の神威は間違いなくベヒモスに直撃した。
徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われた。
その先には……
無傷のベヒモスがいた。
「ボケッとするな! 逃げろ!」
メルド団長の叫びに、ようやく無傷というショックから正気に戻った光輝達が身構えた瞬間、ベヒモスが突進を始める。そして、光輝達のかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。
光輝達は、咄嗟に横っ飛びで回避するも、着弾時の衝撃波をモロに浴びて吹き飛ぶ。ゴロゴロと地面を転がりようやく止まった頃には、満身創痍の状態だった。
どうにか動けるようになったメルド団長が駆け寄ってくる。他の騎士団員は、まだ香織による治療の最中だ。ベヒモスはめり込んだ頭を抜き出そうと踏ん張っている。
「お前等、動けるか!」
メルド団長が叫ぶように尋ねるも返事は呻き声だ。先ほどの団長達と同じく衝撃波で体が麻痺しているのだろう。内臓へのダメージも相当のようだ。
「やっぱあいつらでも無理だよな」
俺は天之河のステータスは見れるので、天之河がベヒモスに勝てる可能性は皆無だ。だが、チート天職の上位陣数人ならあるいはと思ったが、やはり結果は変わらなかった。
俺はトラウムソルジャーをあらかた殲滅し、ハジメの元に向かっていた。
だがやはり時間が足りない。トラウムソルジャーはどんどん魔法陣から溢れてきている。天之河が動ければ、トラウムソルジャーの群れは何とかなるだろう。となると、何とかベヒモスを抑える必要がある。どうすれば……
ふとベヒモスの方を見る
そこには……
「錬成!!」
錬成でベヒモスの動きを止めているハジメの姿があった。
石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、ハジメが錬成して直してしまう。
ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、ハジメは、その埋まった足元を錬成して固める。
「ハジメ!」
「八幡!どうしてここに!?」
「水臭いぞハジメ、全部一人で抱え込む必要なんてない。俺も手を貸す!」
「ッ!?うん!ありがとう!!」
「やるぞハジメ!俺達が勝つ!」
ハジメは錬成を繰り返し、ハジメの魔力が尽きそうになった時、俺がガンドで動きを止める。
俺達はそれを繰り返した。
トラウムソルジャーの方は、どうやら幾人かの生徒が冷静さを取り戻したようで、周囲に声を掛け連携を取って対応し始めているようだ。立ち直りの原因が、実は先ほどハジメが助けた女子生徒だったりする。地味に貢献しているハジメである。
「待って下さい! まだ、南雲くんと比企谷くんがっ」
撤退を促すメルド団長に香織が猛抗議した。
「坊主の作戦だ! ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する! もちろん坊主がある程度離脱してからだ! 魔法で足止めしている間に坊主が帰還したら、上階に撤退だ!」
「なら私も残ります!」
「ダメだ! 撤退しながら、香織には光輝を治癒してもらわにゃならん!」
「でも!」
なお、言い募る香織にメルド団長の怒鳴り声が叩きつけられる。
「坊主の思いを無駄にする気か!」
「ッ――」
香織は泣きそうな顔で、それでもしっかりと詠唱を紡ぐ。淡い光が光輝を包む。体の傷と同時に魔力をも回復させる治癒魔法だ。
トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。
それに、騎士団員達のサポートがなくなり、続々と増え続ける魔物にパニックを起こし、魔法を使いもせずに剣やら槍やら武器を振り回す生徒がほとんどである以上、もう数分もすれば完全に瓦解するだろう。
生徒達もそれをなんとなく悟っているのか表情には絶望が張り付いている。先ほどハジメが助けた女子生徒の呼びかけで少ないながらも連携をとり奮戦していた者達も限界が近いようで泣きそうな表情だ。
誰もが、もうダメかもしれない、そう思ったとき……
「――〝天翔閃〟!」
何とか回復した光輝の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。
「皆! 諦めるな! 道は俺が切り開く!」
そうして、光輝やメルド団長、回復魔法で復帰した騎士団員たちが加わり、階段への道が開けた。
「皆! 続け! 階段前を確保するぞ!」
光輝が掛け声と同時に走り出す。
階段前を確保した生徒達が声を漏らす。
「なんだよあれ、何してんだ?」
「あの魔物、上半身が埋まってる?」
次々と疑問の声を漏らす生徒達にメルド団長が指示を飛ばす。
「そうだ! 坊主達があの化け物を抑えているから撤退できたんだ! 前衛組! ソルジャーどもを寄せ付けるな! 後衛組は遠距離魔法準備! もうすぐ坊主の魔力が尽きる。アイツが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」
「ガンド!」
「錬成!」
「ハジメ!詠唱終わったぞ!俺達も撤退だ!」
「うん!」
次の瞬間、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。
夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、しっかりと足止めになっている。
いける! と確信し、転ばないよう注意しながら頭を下げて全力で走る。
しかし、無数に飛び交う魔法の中で、一つの火球の軌道が、クイッと僅かに曲がった。
…ハジメの方に向かって。
明らかにハジメを狙い誘導されたものだ。
「なんで!?」
「ハジメ!?」
火球はハジメの前に突き刺さり、俺達は衝撃で吹き飛ばされた。
そして遂に……橋が崩壊を始めた。
度重なる強大な攻撃にさらされ続けた石造りの橋は、遂に耐久限度を超えたのだ。
「グウァアアア!?」
悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていった。ベヒモスの断末魔が木霊する。
ハジメもなんとか脱出しようと這いずるが、しがみつく場所も次々と崩壊していく。
そして、ハジメの足場も完全に崩壊し、ハジメは仰向けになりながら奈落へと落ちていった。徐々に小さくなる光に手を伸ばしながら……
「諦めてんじゃねぇぇぇ!!」
俺はその手を掴んだ!
「ハジメ!大丈夫か!?」
「八幡!?うん、ありがとう!」
だが、"ガクン"と俺達の高度が少し下がった。
今俺は、崩壊しなかった橋の一部に剣を突き刺して身体を支えている。早く引き上げないと、2人とも奈落に落ちることになる。
「くそっ!こんな時に…力が…」
俺は魔術礼装の全体強化を自身に使い、何とか引き上げる。
「おりゃァァァ!」
もう少しで引き上げられる。その時、
"ポキンッ"と剣が負荷に耐えきれずに折れた。
おそらく、トラウムソルジャーとの連戦も響いていたのだろう。
俺は落ちる瞬間、檜山の歪んだ顔を見て確信した。アイツがハジメに向けて魔法を放ったと。
「クソがぁぁぁー!!」
俺はハジメを抱き寄せ、ハジメに『オシリスの塵』、自身に『騎士の誓い』を付与して奈落へと落ちていった。