法治国家日本の首都東京の犯罪を未然に防ぎ、平和を守る存在をリコリスと呼ばれる少女たちだ。彼女たちは暗殺のプロである。そんなリコリスのトップと言うべきファーストリコリスの少女が昼過ぎから俺、比企谷八幡の背中に抱きついてきている。
「千束。いい加減、離れろ。皿洗いの邪魔だ」
「いいじゃん!お客さんいないんだし!」
「動きが制限される」
「八幡なら問題ないでしょ!」
ファーストリコリスでDA(Direct Attack)で一番の問題児である錦木千束が昼過ぎのある日、皿洗い中の俺の背中から離れない。ここは喫茶リコリコ。コーヒーとそれにあった団子を提供するどこにでもある喫茶店だ。
しかしその実態はDAの支部の一つとなっている。ここには問題児しかいないのかもしれない。
「レジ打ちの遅い店長に飲んだくれと問題児のホールスタッフとか……よく潰れないな」
「それを言ったら八幡だってリリベルの中で問題児扱いになっているじゃん!」
そう。俺もまた問題児扱いされている。リリベル、女で構成されているリコリスは暗殺がメインのに対してリリベルは制圧がメインになっている。つまり集団行動が必須になってくる。
だけど、俺はその集団行動が苦手でよく単独行動するものだからDAの支部に左遷されてしまった。ついでに面倒な指令を受けた。
『錦木千束が裏切ったり、不必要となった時に処分しろ』
これが左遷された俺への指令だ。そもそもDAで問題児とされている千束だけど、実力はファーストだけあって凄い。それこそ、リコリス内で対抗出来る人間がいないほどに。
だからリリベルの俺が千束の対抗手段としてこんな所に配属された訳だけど。俺としては願ったり適ったりだ!リリベルを辞めて逃亡しようと考えている時に左遷させたのだから。
普通に逃げたら逃亡者として殺されるけど、ここならそんな心配もないだろう。
「八幡!酒がないわよ!」
「客がいないからって飲むなよ。酔っ払い」
「いいじゃない!この時間にお客なんて来ないわよ」
この飲んだくれはミズキさん。元DAでホールスタッフの一人で裏方で俺と千束をサポートしてくれる人だ。美人の部類に入るが、酒好きで昼間からよく飲んでいる。
結婚願望があるが、性格が災いしてか素敵な出会いは皆無でよくカップルを見ては嫉妬の視線を向けている。本当に性格が残念なんだよな。
「は~ち~ま~ん~!」
「千束。掃除は終わったのかよ」
「そんなのとっくに終わったよ!」
「千束。ちょっと配達を頼む」
千束が俺に絡んでくると店の奥から褐色でガタいのいい男性が出てきた。この店の店長のミカさんだ。俺と千束の親代わりみたいな人だ。足が悪く杖を使っている。
「は~い。いってきま~す」
ようやく解放された。あの問題児の相手は疲れる、主に精神的に。俺は洗い物を終わらせてから店長が出してきたコーヒーをテレビを見ながら飲んだ。
このコーヒーは俺専用に砂糖や練乳が入ってとびきり甘い。前にそれを飲んだ千束が吹き出したほどだ。これを最初に作った時、店長の苦笑した顔は申し訳ない気持ちになった。
「現実は苦く辛いからな……」
『こちらガス爆発があったビルです』
ニュースではビルで起こったガス爆発の事をやっていた。確かこれは武器取引があったビルだったか?セカンドリコリスの一人が機関銃で武器商人を全員やったらしい。
ある意味、千束と同じくらいの問題児かもしれない。それにしても派手にやったな。リコリスは誰にも気が付かれる事なく仕事をするはずなんだけどな。
「八幡。ちょっといいか?」
「どうしたんですか?店長」
「明日、リコリスがここに来る」
「リコリスが?武器商人の件ですか?」
「ああ。そうだ」
なるほど。問題を起こしたリコリスの左遷先にここはうってつけだよな。それにしてもまた増えるのか、問題児が。問題児は千束だけで十分なのに。
「千束と組ませるからサポートを任せたい」
「千束と組ませるなんて、問題児と問題児を混ぜたら危険じゃないですか?」
店長はただ苦笑するしかなかった。千束の事を娘のように思っている店長でも千束の事を問題児と認めている。あいつを大人しくさせる事は出来ないのだろうか?
「八幡!酒!」
「帰ってから飲むか、バーで相手でも見つけたらどうなんですか?」
「何だと!アタシに喧嘩でも売っているのか!?」
「この酔っ払い面倒だな……」
ミズキさんの相手を適当にして俺は千束が帰ってくるまでに消耗品の確認をしてどれを補充するかを見る事にした。少なくともミズキさんの相手をしなくていいからな。
「ただいま!八幡、帰るよ」
「おう」
俺はリコリコの制服である和装からDAから支給されている学生の制服に着替えた。俺と千束が一緒に帰るのは一緒に暮らしているからだ。
一緒に暮らすようになって3~4年ほどになるだろうか?長いようで短いような時間を俺は千束と共有していた。