クルミ視点
ボクは同業者のロボ太に命を狙われている。そこで連絡があったDAの支部に死の偽装を依頼した。まさかあんな方法でボクの死の偽装をするとは思わなかった。
だけど、時間が稼げた。ロボ太の奴はじっくりと仕返しをしてやるつもりだ。ボクに勝とうなんて100年早いんだよ!
「じゃ、じゃあ誰も死んでない?」
「ああ、そうだ。……騙して悪かったな」
「よかった~……」
赤い服のリコリスの錦木千束に抱きつかれた。まったく大げさなんだよ。もう一人のリコリスの井ノ上たきなはほっとしたのか、背中を壁に預けていた。
「ミズキさん。これ、もっと通気性よくなりませんでした?」
「しょうがないでしょ。防弾で撃たれた血糊が派手に出る仕様なんだから」
「危うく蒸し上がるところだったですよ」
「あら、ダイエットにはもってこいじゃない」
「俺は太っていません」
今回の依頼で一番注目するのはやはりこの男だ。作戦の立案者でボクの代わりに殺される役の比企谷八幡だ。最初、目にした時はすごい目をした男だと思った。
細かい手配はミカとミズキがやっていたが、大まかな準備はこの男だけでやっていた。確かリリベルだったか?
中々に優秀なようだ。ここに依頼したのは正解だったようだ。しばらくの間、居候させてくれると言うので助かる。
「それでウォールナット、例の件だが……」
「分かっている。銃取引の連中の尻尾はボクがちゃんと捕まえてみせる」
「八幡。それってたきなの……」
「ああ。このハッカー様が犯人を見つけてくれるってよ」
「良かったね!たきな!」
「はい。よろしくお願いします」
比企谷八幡から居候するにあたって、条件を出された。DAが追っている武器取引した人間を特定する事だった。それもDAよりも先に見つける事が前提だ。
まあ、ボクに掛かれば犯人なんてすぐに見つけてみせるけどね!それにしても千束はいつまでボクに抱きついているんだ?
「ホント良かった~……あ、そうだ。忘れる所だった。八幡、目を瞑って」
「目を?どうして?」
「いいから早く!」
「あ、ああ……」
千束がボクから離れて八幡に目を瞑るように言った。何をするつもりだ?すると千束が拳を握ったらと思ったらそれを八幡に向けて勢い良く放った。
「がはっ!?」
「次!同じ事をしたらセーフハウスに監禁するからね!」
ボクを含めた全員が千束を呆然と見ていた。今の行動がそれほど意外だったのだろう。特に八幡の顔は中々に傑作だった。面白いものが見れてボクは満足だ。
八幡視点
俺は今、千束に殴られた。それもグーパンでだ。これまで千束に叩かれる事はあったが、殴られたのはこれが初めてかもしれない。
目元に涙を溜めているけど、表情は怒っているようだった。怒られる事は覚悟していたけど、ここまでとは予想外だった。
「すまなかった……二度とこんな事はしないと誓う」
「絶対だよ!」
「ああ、悪かった」
「ならいい!絶対だからね!?」
千束はしつこく言ってきた。正直、殴られた頬より心が痛かった。感情なんて殆んど死んでいるような俺でもこんなにも痛いもんだな。
店長は申し訳なさそうにして、ミズキさんはこっちを見てニヤニヤしていた。井ノ上は怒りたいのか、心配したいのか分からなかった。
「八幡。制服、持ってきた?」
「持ってきたが、どうした?」
「ミズキ!この先で私と八幡を降ろして」
「あいよ」
「八幡は着替えて」
「え?ここで?」
「ここで!」
女性の前で着替えるのは少し気が引けるけど、千束に強く言われては仕方ない。俺は着ぐるみを脱いで、リリベルの制服に着替えた。
それにしても千束はどこで降りようとしているんだ?この辺りはデパートくらいしかないはずだけど?
「それじゃ先生!私たちは後から帰るから」
「ああ。ゆっくりするといい」
俺は千束はリコリコのメンバーを見送った。さて、どうしてここで降りたんだ?千束は俺の腕に自分の腕を絡ませて、俺を逃げないように拘束していた。
「八幡!あれを見るよ!」
「あれ?……うげっ!?」
千束が指差したのは最近、ニュースになっていた青春ラブコメ映画だった。10代の若者に人気で千束も興味を持っていた。
しかし俺はこの手の青春ラブコメが苦手でずっと避けてきた。もちろん千束もそれを知っているので一緒に映画鑑賞する際はラブコメ以外だったのに。
「千束?俺がこの手の映画が苦手な事は知っているはずだけど……」
「だからいいんじゃない。私を騙した罪は重いよ?」
「ひぃ!?」
千束がこちらに向けてくる笑顔だけど、目が笑っていなかった。誰もが美少女から笑顔なんて役得だろうと思うだろう。
しかし目が笑っていないんじゃあ……恐怖しない。精神が麻痺している俺にも恐怖を感じる日が来るなんて、思わなかった。
「ちなみに二時間の二回見るから」
「え……」
俺は千束からの死刑宣告に呆然とするしなかった。そして四時間後の俺は死屍累々と成り果てていた。もう二度と青春ラブコメ映画なんて見ない!
「また来ようね♪八幡」
「……二度といかない!」
こうしてリコリコのウォールナットからの依頼は終わった。早く帰ってベッドで寝たいと切実に思った。