やはり俺がリリベルなのはまちがっている。   作:新太朗

2 / 31
千束と八幡

千束視点

 

私はある日、珍しく早起きしてしまった。いつもは趣味の映画鑑賞で夜遅くまで起きているけど、映画鑑賞する事無く早く寝てしまった。

そのおかげで早く起きる事が出来た。私が住んでいるのはセーフハウスで襲撃されても下の階に居る私に辿り着く事はない。

そんなセーフハウスには私以外にもう一人住んでいる。ファーストリリベルの比企谷八幡だ。このセーフハウスでの家事全般をしてくれる同居人だ。

 

「寝顔は可愛いのに……」

 

私は八幡の寝床に行って彼の寝顔を眺めていた。彼は毎日同じ時間に起きる。だからまだ起きない。八幡の寝顔を独り占め出来るこの時間が好きだ。

いつの間にか、私は八幡に好意を持っていた。最初、目が死んだ魚のような八幡を避けていたけど、今は八幡をよく目で追っている。

 

「……うん。動いている」

 

私は八幡の左胸に耳を押し付けるようにして彼の心音を聞いた。私には心臓がない。心臓の病気で激しい運動が出来ない。

でも今は人工心臓のおかげでどんなに激しい運動しても問題なかった。問題があるとすれば、この人工心臓には寿命があると言う事だ。

 

「八幡と成人式、行きたいな……」

 

この心臓は私が成人まで生かしてはくれない。その前に止まってしまう。それが活動限界で私がリコリスでいられる任期だ。

もちろん八幡には私の心臓の事は話してある。だからと言って八幡は同情する訳でもなく普通に接してくれる。それが私には嬉しい。

 

「私以外を好きになったらダメなんだからね……」

 

もし八幡が私以外を好きになったらと考えると人工心臓なのに胸が苦しくなる。私以外に向ける笑顔を想像しただけで八幡と相手を撃ちたくなる。

八幡の不器用な優しさが私以外に向けられるのが堪らなく嫌だ。誰にも渡したくない。

 

「これくらいの我がままくらいいいよね?八幡……」

 

あと数年の命なんだから。その間だけでいいから私以外に優しくしないで。私以外に笑顔を見せないで。八幡の事を考えただけで苦しい。

知らなければ幸せだったかもしれない。でも知ったおかげで私は幸せでいられる。だから私の我がままを聞いてよ、八幡。

 

「…………大好きだよ。八幡」

 

私は八幡の胸に頭を預けて瞼を閉じた。まだ動くには早い時間だ。リコリコに行くまでここでゆっくりして行こう。

この世で私が一番落ち着く場所はリコリコとここだけだ。私は意識を手放した。

 

 

 

 

八幡視点

 

朝、起きてみると布団が盛り上げっていた。布団を退かしてみるとリコリコの問題児の千束が俺の胸を枕代わりにして寝ていた。

千束が俺の胸を枕にして寝るのはこれが初めてではない。千束と同棲するようになって三日に一度の頻度でしてくる。

彼女には心臓がない。比喩ではなく実際に。人工心臓が彼女を生かしている。しかしそれには寿命があり、あと数年しか動かない。

 

「千束。起きろ」

 

「いやだ!」

 

「千束。退け」

 

「いやだ!」

 

「千束。起きてください」

 

「いやだ!」

 

「千束。退いてください」

 

「いやだ!」

 

「千束。寝ていろ」

 

「いやだ!……あ!」

 

引っかかったな!寝起きの状態で正常な判断が出来る訳ない。俺は強引に千束の頭を胸から退かした。千束は不満があるように頬をフグのように膨らませていた。

 

「ひ、卑怯だよ!八幡」

 

「朝食作らないと誰が作るんだ?」

 

「そ、それは……」

 

「ならいい加減、起きろ」

 

「なら抱っこで運んで!お姫様抱っこね!」

 

「それだと階段、上げれないだろ」

 

俺たちはセーフハウスの下に住んでいる。上は襲撃者撃退用のダミーになっている。俺と千束は裏の世界の賞金首になっており、月に数回襲撃される事がある。

下にも食料はあるけど、長期保存用の乾パンしかない。上に上がらないとまともな食事が作れない。

そのために階段を上がらないいけないのにお姫様抱っこなんてしたら上がれないだろうに。何を考えているんだ?こいつは。

 

「ほれ。さっさとしろ」

 

「ぶぅ~……」

 

千束は頬を膨らませたまま俺の背中に抱きついた。このスタイルが一番いいのに、お姫様抱っこに拘るんだよな。それがよく分からん。

俺は千束を上に運んで朝食の準備に取り掛かった。まあ、昨日の夜に下準備はしていたので後は焼くだけなので楽だ。

 

「店長が言っていたが、新人が来るのは今日だったな」

 

「そうだね。八幡、言っておくけど手を出したらダメだからね」

 

「お前な……俺がほいほいと女の子に手を出す輩に見えるのか?」

 

「前にリコリコでお客さんと写真撮っていたじゃん!」

 

確かにそんな時もあったな。でもあれは一時的なものだろう。そもそもこんな死んだ魚のような目をした男と写真を撮りたいなんて、どうかしている。

 

「問題児が増えるのか……」

 

「私が問題児だと言うのか!?」

 

「違うのか?」

 

「ち・が・う!」

 

千束は心底違うと言わんばかりに否定していてけど、本部の楠木司令からは問題児認定されているんだぞ?

俺たちは今日来る新人の話をして準備を整えてからリコリコへと出勤した。おっとこのフクロウのチャームを忘れてはいけない。

それと毎日、千束がリコリコに行くまで腕を絡ませてくるので歩き辛いと伝えると拳骨が落ちてきた。

どうしてだ!?

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。