たきな視点
美術館に初めて来たけど、芸術はあまり理解が出来なかった。上手だと思うけど、何をどう理解していいのかが分からない。
『井ノ上、ちょっといいか?』
「比企谷さん?どうしました?」
『依頼人の言動などに違和感があったりするか?』
「いえ、そんな事はないと思うますけど」
『そうか……』
絵を見ていると比企谷さんから通信があり、依頼人についてきてきた。店でも何か思う所があるようで依頼人を見ていた気がする。
依頼人は車椅子で自分で動けないくらいで普通の老人に見える。それでも比企谷さんは依頼人の事が気になるようだ。
『おい!大変だ』
「クルミ?どうしました?」
『暗殺者ジンがそっちに向かっている』
「暗殺者ジン?」
今度はクルミからの通信だった。しかも暗殺者が近づいているなんて!一先ず依頼人を移動させないと!
『サイレント・ジンの二つ名で有名な暗殺者だな。文字通り、静かな仕事をするらしいぞ』
「そんな相手に狙われているなんて!」
『ジンか……』
「店長の知り合いですか?」
『15年以上前に一緒に仕事をしていた』
まさか店長の知り合いが依頼人を殺しに来る暗殺者とは!早く千束と合流しないと!
『くそ、やられた!』
「どうしました?クルミ」
『ドローンが潰されてミズキと連絡が取れない』
「ミズキさんがやられたんですか!?」
『分からない。千束と合流してくれ。八幡もそっちに向かっている』
「分かりました」
私は依頼人を改装中で無人の別館に移動させた。もし銃撃戦になれば、人がいない方がいい。
「くっ!?」
移動中にジンに見つかり、撃ってきた。反撃しているけど、非殺傷弾では命中率が低いのであまり当たらない。
「―――井ノ上!伏せろ!」
「っ!」
比企谷さんの声がして私は頭を低くした。先に比企谷さんが合流してくれた。ジンは流石に二人になったら姿を隠した。
「無事か!?」
「はい。何とか……」
「移動するぞ。ここでやるには狭すぎる」
「はい!」
比企谷さんがジンの足止めをして、私は依頼人を移動させた。千束とは別行動していたから合流まで時間が掛かってしまう。
「足、大丈夫か?」
「掠めただけです」
「ちょっと待て止血だけでもしておくぞ」
「すいません……」
先ほどのジンの発砲で弾が足を掠めていた。比企谷さんが傷口を消毒してからハンカチで塞いでテープで剥がれないようにしてくれた。
「ハンカチは洗って返します」
「気にするな。まだ持っているしな」
「ちゃんと返します」
「分かった。動けるか?」
「はい。さっきよりはマシになりました」
比企谷さんが周りを警戒しながら私が依頼人を移動させた。なんとか別館まで到着した。でもジンは先ほどからまったく撃って来ない。
「逃げた訳ではないですよね?」
「ああ。視線を感じる。近くにいる」
「視線?」
「俺は人の視線に敏感なんだよ」
比企谷さんは視線を感じ取れるのか。私たちは身を潜めているけど、いつまでもここに留まっている訳にはいかない。
私たちは依頼人を守りながら戦わないといけない。するとジンの方から姿を見せた。
「井ノ上。援護、頼む」
「はい!」
比企谷さんがジンに向かって突っ込んだ。私はそれを援護射撃でジンを牽制した。比企谷さんはいつかの千束のように弾を避けながらジンとの距離を詰めた。
「ぐっ!?」
「…………」
ジンもまさか至近距離で避けられるとは思わなかったようで動揺していた。あれで動揺しない人はそうそうにいないだろう。
比企谷さんは非殺傷弾でジンの拳銃を弾き飛ばした。ジンは近づいてくる比企谷さんに蹴りを放った。
「……捕まえた」
「なっ!?」
比企谷さんはジンの蹴りを避けずに受け止めてからジンの足を捕まえた。どうして避けずに足を捕まえたのか分からなかったけど、理由はすぐに分かった。
一つは比企谷さんの銃の弾がなく装填する時間がなかったのと、千束がやってきたからだ。
「このっ!」
「がはっ!?」
千束は零距離でジンに非殺傷弾を何発も叩き込んだ。死なないとはいえ、非殺傷弾をあれだけの距離で何発も撃たれてジンは後方に吹き飛んだ。
吹き飛んだジンはピクリとも動かなくなった。流石に気を失ったようだった。
「八幡、たきな!無事!?」
「はい。私も比企谷さんも無事です」
「そっか。よかった~……」
「ミズキさんはどうした?」
「ミズキは無事だよ。気を失っていただけだって」
ミズキさんは無事でしたか。暗殺者は無力化したので、依頼はもう終わったようなものですね。ですけど、最後まで気は抜けない。
そう言えば、依頼人はどこに?先ほどまで物陰に隠れていたのに私たちの前に現れていた。何を考えているんですか!?
命を狙っている相手に姿を現すなんて自殺行為だ!早く依頼人を隠さないと!
『殺すんだ』
依頼人の車椅子に取り付けられたスピーカーからそんな機械音が私たちの耳に届いた。その言葉はまるで千束に向けて言っているように見えた。