千束視点
朝、目が覚めてもベッドに私だけだ。ここは八幡の寝室だけど、当人は昨日の夜から出掛けてセーフハウスには居ない。いつもは暖かいはずのベッドは彼が居ないだけで冷たく感じてしまう。
今日はリコリコの定休日で依頼はないので遅く起きても良かったんだけど、数日前の事が気になって眠りが浅い。
八幡の妹である99号、比企谷小町。彼女の事が頭から離れない。八幡の過去は資料で読んだ事があるのである程度知っている。
そう、私はある程度しか知らない。八幡は昔の事を話したがらない。辛いってのもあるんだけど、88号としての記憶を忘れたいのかもしれない。
「千束。おはようございます」
「おはよう……たきな」
セーフハウスにはリコリスたちが襲撃にあって、たきなが住むようになった。交代で見張りをしているけど、ここに襲撃があったとしても上の無人の部屋なのでそれほど問題はない。
「今日は定休日ですよ?」
「うん……目が覚めちゃって」
「朝食は出来ていますよ」
「やったー!たきなの朝食だ!」
「比企谷さんほどではないですよ」
セーフハウスの家事分担はジャンケンで決めたんだけど、千束さんが全勝した!この千束さんにジャンケンで勝とうなんて100年早い!
家事は八幡とたきなの二人がしてくれるので私は何もしないで済む。たきなは自分の料理に自信がないようだけど、ここに来てから八幡に料理を習っているので美味しくなっている。
最初は酷いものだったけど、数日で八幡と同じくらい美味しくなった。
「比企谷さんの事が気になるなら聞けばいいのに」
「それが出来れば、苦労しないよ……」
「ずっと抱え込むつもりですか?」
「だよね~……」
顔に出たのか、たきなに指摘されてしまった。私って顔に出易いのかな?そんな事はないと思うんだけどな。
八幡がどこか遠くに行ってしまって、もう二度と帰って来ないんじゃないかと思ってしまう。私を殺すと豪語したんだから戻ってくるとは思うけど。
「千束はいつから比企谷さんの事が好きになったんですか?」
「たきな……ずばっと聞いてくるね。たきならしいよ……」
「それで、いつから?」
「答えないとダメ?」
たきなは真剣な眼差しを私に向けてくる。そこには悪意は無いから対応に困っちゃうよ。たきなはミズキのようにいじわるに聞いてきていない。
「八幡がリコリコに来て、一緒に依頼をしてしばらくしてからかな?」
「告白はしないのですか?」
「八幡って、一定以上近づくと離れちゃんだよ」
「そうなんですか?」
「うん!」
今でこそ、かなりベッタリしても問題ないけど、リコリコに来た当初は背後とかをかなり警戒していた。後ろを通ろうとすると背中を向けないようにするほどだ。
これも以前居た組織の施設の所為なんだろうね。
「比企谷さんが居た組織って何なんですか?」
「私も先生から又聞きした程度だけど、なんでも超兵ってのを作ろうとしたみたい」
「超兵?」
「うん。薬物で脳のリミッターを外して常人より強い兵隊を作ろうしたらしいよ」
初めて先生から八幡が育った施設の事を聞いた時は胸糞悪くなった。ホント、あんな組織なんて滅んで当然なんだよ。たきなも顔を歪めて怒っている。
「毎日、薬物と動物を使っての訓練を繰り返す日々だったんだ……」
「……酷い毎日だったんですね」
「うん。その中で88号……八幡は成功にもっとも近い存在だったようなんだよね」
「成功ではないんですか?」
「うん。八幡は脳に入ってくる情報が人の倍以上だから長時間、動いていると脳がパンクするんだって」
だから脳を休めるために八幡はマツ缶なんて、この世界の甘みを凝縮した缶コーヒーをよく飲んでいる。前に先生のコーヒーも同じくらい甘くしていたけど、先生のコーヒーはブラックで飲んでこそなんだよ!
「成功だと脳がパンクしないと?」
「そうだよ。だって、戦闘の度に脳がパンクしていたら意味ないでしょ?」
「そうですね……」
たきなの怒っているような落ち込んでいる顔も中々、可愛いな!写真に撮ったら怒るだろうね。ここはしっかりと目に焼き付けないと!
「暗い話はここまで!楽しい事を話そうよ!」
「楽しい事ですか?」
「最近、たきなの趣味とか?」
「料理でしょうか?千束に美味しいと言われるのは楽しいので」
「うんうん。たきなの料理は最初の頃より上達したよ!」
最初は味のないスクランブルエッグとか、形が歪なハンバーグとか、色々あったな~……でも!八幡が少し教えただけで問題ないく食べられるようになった。
「ただいま……」
八幡が帰ってきた。両手には買い物袋を抱えていた。今日の料理当番は八幡だったね!よし、ここは千束さんが手伝ってあげよう!
私はエプロンを着けて、八幡の隣で料理を手伝った。まるで夫婦のようで楽しいんだよね。将来は八幡と結婚したい!
結婚式には先生やミズキ、クルミにリコリコの常連さんに楠木さんやフキを招待しよう!
「……それまで生きたいな~」
「どうした?」
「何でもないよ!」
私は八幡の手伝いに集中した。今は八幡の隣に居られるだけで幸せなんだよ。