千束視点
朝、起きてみるとそこには八幡の姿はなかった。昨日、例のハッカーの一人の依頼で準備が必要で私が起きる前に出て行った。
でもちゃんと朝食とお昼のお弁当を用意してくれた事に思わずニヤニヤと笑ってしまった。本当に八幡の優しさが感じられる。
しかしお弁当が二つあるのは気に入らない。一つは私のだけど、もう一つはたきなの分だ。二つのお弁当の中身を確認した。
「気に入らない……」
私のお弁当の中身はしっかりと好みのおかずになっていた。その上、栄養バランスがしっかりしているのでいい。たきなのお弁当は私と中身が違う。
それは八幡がたきなの好みを聞いて、それに合わせて作ったという事だ。私以外に向ける優しさが気に入らなかった。
たきなの事は好きだけど、思わず嫉妬してしまう。八幡の優しさが私以外に向けられているからだ。
「よし!行こう」
私は着替えて朝食を食べてからリコリコに向かった。リコリコではたきながすでに来ていた。たきなも準備はバッチリのようだ。
「おはよう!たきな」
「千束。おはようございます」
「二人とも今日はしっかりとな」
先生に見送られて私たちはリコリコを出て駅に向かった。今回の依頼はハッカーの護衛だ。なんでも命を狙われているから国外逃亡したいらしい。
どんな人なんだろうか?ハッカーの人と直接会う事なんてないから少し楽しみ。私は電車でハッカーさんとの合流ポイントに向かった。
「ハッカーさんってどんな人かな?やっぱりメガネを掛けた人でカタタータン!って感じでハッキングするのかな?」
「映画の見過ぎですね……」
「ええぇ……たきな、それ何?」
「昼食ですが?」
たきなが昼食と言って食べていたのは栄養ゼリーだった。それじゃ力が出ないよ。私は八幡のお弁当をたきなに渡した。
「これは?」
「八幡が作ったお弁当だよ」
「千束は駅弁なんですね」
「だって、駅弁はこんな時じゃないと食べれないじゃん!八幡のお弁当は依頼が終わってから食べるの」
私は駅弁を味わって食べた。八幡のお弁当もいいけど、やはり駅弁も美味しい。目的の駅が近づいてきたので私は急いで駅弁を平らげた。
「それでどこでハッカーさんと合流するんだっけ?」
「話を聞いていないじゃないですか……」
「ごめ~ん。たきな、もう一回お願い」
たきなに呆れられたしまった。だって駅弁に夢中で半分くらい聞き流していたんだもん!たきなが先頭で駐車場に到着した。
私はそこである車を発見した。あのフォルムは間違い!まさかあれを運転出来るの!?
「スーパーカーじゃん!すげぇー!すげぇー!」
「目立ちますね……」
「ああ!絶対に私が運転する!」
「いえ、私が運転します」
たきなが運転をすると言っているけど、絶対に私が運転する!あんなスーパーカーを運転出来る機会なんて今後あるか分からない!
たきなと駐車場に入ろうとした時、どこからかエンジンを聞こえて近づいてきた。茂みから白い普通の車が飛び出してきた。
『ウォール!?』
「―――ナット」
『よし!乗れ、追っ手がすぐそこまで迫っている!』
「え?今の合言葉?ださぁ……え?スーパーカーは!?」
「千束。早く乗ってください!」
「えぇぇ……スーパーカー、乗りたかった!」
スーパーカーに乗れると思っていたのにまさか普通の車でカーチェイスをするなんて思いもしなかった。それにしてイメージしていたハッカーさんとは全然違っていた。
『遅くなったな。ウォールナットだ』
「千束とたきなです~……それにしても想像していたハッカーさんとは違いますね?」
『メガネでも掛けた根暗な人間とでも思ったか?』
あらあら言われる前に言われてしまった。それにしても格好が気になるな。
「どうして着ぐるみを着ているんですか?」
『ハッカーは目立たない方が長生きできるんだ』
「それだと逆に目立つよね!?」
着ぐるみが街中を歩いていたらはそれは目立つ!一発で職質されるよ!
『目立つとは言えば、リコリスはどうして制服を着ているんだ?』
「都会で一番警戒されない格好がこれなんですよ」
『制服は都会の迷彩服だったのか……』
「可愛いは罪ですよね~」
前はそれほど好きではなかったけど、八幡に可愛いといいと言ってくれたのでそれなりに好きになった。制服デートとか学生ぽくて楽しかったな。
『なるほど合理性があるな』
「ウォールナットさんの荷物はそれだけですか?」
『ああ。身軽の方が何かと動き易いからな』
「格好が身軽じゃないけどね!」
犬の着ぐるみなんてどう見ても目立つ。隣を走っている車に乗っている人なんてこっちをガン見しているし。
「その熊の格好はもっとどうにかなりませんか?」
「たきな。熊じゃなくて犬だよ」
『―――リスだ』
まさかのリスだった!?確かに尻尾は異様に大きいね。熊にも犬にもあんな大きな尻尾はないよね!それにしても八幡はどうしているのかな?
私はウォールナットさんの運転する車に揺られながら八幡の事を考えていた。昨日の夜から顔を見ていないので少し不安になってきた。