いあ!いあ!まぐ=めぬえく!【完】   作:ringosuki

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第11話 飲酢枡(いんすます)を覆う影 真相

 僕こと尾部升夫(おべますお)は旅先の旅館で、鍵をこっそりと開けて部屋へと不法侵入しようとする者を迎え撃とうとしていた。

 

 しかし、そこにいたのは桃色をした単眼のメンダコのような珍妙な生物で、こちらをじっと見つめている。

 

 当初の即席の計画では相手の予期しないタイミングで扉を開けて懐中電灯で照らし、怯ませることでイニシアチブをとって正体を暴くつもりだった。

 相手が強そうだったり武装していたら大声を出して周りに助けを求めるつもりだったが、最早強そうとか弱そうとかの次元ではない相手だったこともあり硬直してしまう。

 

「ぬ、部屋を間違えたか。すまぬが(かます)の間は―――」

「バ、バケモッ、た、助け……」

 

 足をもつれさせながら部屋の奥へと逃れようとする。自分では周囲に響き渡るような大声を出しているつもりなのだが、恐怖と混乱でかすれた声しか出ない。

 

 ところが振り向くときに足をつっかけてしまい、頭から転倒する。

 

 気持ちだけは逸って足を動かせと念じながらなすすべもなく倒れていき、頭部の強打を覚悟したとき、僕の体を何か柔らかく細長いものが抱き留める。

 

 それは僕が逃げようとしていた、推定UMAの触手のような器官だった。

これは後で知ったのだが、倒れていく僕の後頭部の先にテーブルの角があったため助けてくれたらしい。

 

「大事ないか。下等生物(ニンゲン)よ……」

「あ……あ……」

「無事そうだな」

「あ……あ……」

「む、しまった。このままだとこの世界では悪魔の仕業になるのか……」

 

 そういうと推定UMAは僕を床におろして何か考える様子を見せ、いまだに腰が抜けて震え声すら同じものしか返せない僕を見てどう解釈したのか、僕の体を布団に押し込めて掛け布団を掛けた。

 

「この状況を説明して丸くおさめてくれるであろう者を呼んでくる。疲れているならゆっくり休め……」

 

 そういうと部屋を出ていった。

 体を硬直させた僕がまんじりともせず布団に横たわっていると、控えめなノックののち先ほどの推定UMAと寝巻の浴衣を着た小学生らしき女の子と中年男性が部屋に入ってきた。

 

「ど、どうもこんばんは」

「大丈夫かいアンタ……おっと、こりゃまずいな」

 

 僕の状態を見た男性は懐から石のようなもの(パトラストーン)を取り出して僕へと掲げる。すると混乱と恐怖の只中にあった僕の心は落ち着きを取り戻し、それに伴い身体のこわばりも取れた。

 

 

****

 

 

 いきなり取って食われたり口封じに殺されることもなさそうだと冷静さを取り戻した頭で考えたのか尾部は布団から這い出して話をすることにした。

 

 結果彼がUMAだと勘違いした悪魔について、この世界の裏についてかいつまんで教えてもらった。不安なら後日ヤタガラスの支部で講習を受けたり、望むなら記憶消去も受けられるとのことだ。

 

 ちなみに部屋を間違えたのは破壊神が自室の(かます)の間と尾部の(ぶり)の間を勘違いしたからである。真相が発覚したときはさしもの破壊神も気まずそうであった。

 

「すまなかった……」

「私も彼のサマナーとして謝罪します……」

 

 破壊神と鈴は深く頭を下げて謝罪の意を示す。特に破壊神の方は自らの信徒でありサマナーでもある少女に頭を下げさせたことを気にしているのか普段の尊大な態度がない。

 

「い、いや。そこまで気に病まないでくさい」

「ですが……」

「旅でオカルト関係の噂があるところに行くと不思議なものを見ることもあってね。今回のことで腑に落ちてある意味得したよ」

「だが、それはそれで、これはこれだ」

 

 尾部がオカルトに潜む真実を知れて良かったとフォローをするも、九頭が切り捨てる。

 

「異界に迷い込んだのを保護したり、悪魔のターゲットだったり、調査で信頼を得るために一般人に悪魔のことを明かすのはあまりとやかく言われない。だが今回は何の必要もなかった」

「九頭の言う通りだ……」

「郷に入っては郷に従えだ。サマナーの仲魔としてやっていくならな」

「うむ……」

 

 破壊神が消沈しているのを見て、尾部が話題を変えようと口を開いた。

 

「で、でも僕を脳挫傷の危機から助けてくれたのは感謝してます。陀金秘密結社かと思って震えてたので……」

「え、どういうことですか?」

 

 尾部は人間違いをした老人の意味深な言葉を根拠にした妄想にも等しい考えを話そうか逡巡し、目の前の相手がそういった胡散臭い話のプロフェッショナルだと思いなおしてこの町に来た理由と体験した出来事、そこからの所見を語った。

 聞くところによると彼らはこの町の調査に来たそうなので、自分の陰謀論のような考えの白黒をつけてくれるかもしれないと思ったのだ。

 

 そこで鈴が提案をする。

 

「そうですか……なら、一緒に調査に来ますか?」

「え?しっかりした予定のある旅じゃないから大丈夫だけどいいの?阿座斗さん」

「はい。九頭さんとマグさんも大丈夫ですよね?」

「ヒト一人増えるくらい造作もない。鈴も貴様も問題なく守ってやろう……」

「まあ、ヤバい悪魔の気配とかはないけど……」

「やっぱり僕みたいなパンピーが付いていくのはまずいですかね?」

「ああ、違うんだ。顔が似ている……か……」

 

 九頭は何か考え込んでいる様子を見せる。

 

「なあ、尾部さん。先祖がここ出身だとかそういうことはあるかい?」

「可能性はあるとしか……」

「じゃあ、思い出せる限りの家系図を書いてもらっていいかい?ヤタガラスに調べてもらおう」

「あっはい」

「え?そんなこともしてくれるんですか?」

「今回の直接の依頼主は向こうだしな。治安維持のためだ、ガンガン使ってやるのがいい」

「そうですか……」

「今日はもう遅いし、明日やろうか」

 

 九頭の鶴の一声により、鈴と破壊神は再度尾部に謝罪をして退室していく。

 

 

****

 

 

 翌日、尾部に書いてもらった家系図の写真をヤタガラスに送った一行は謎の集団の目撃情報がある岩礁へと向かう。

 

「マグさん。何か分かりますか?」

「マガツヒとやらの乱れは見えぬな。真なる混沌の儀式を行ったのなら生贄がニワトリ1羽だろうと分かるのだが……」

「そうですか……」

「だが、うっすらと混沌の気配を感じるな……同族の匂いだ……」

「本当ですか!?」

「貴様らの感覚だと己の故郷の隣村にいる親戚の召使いの一族の遠い末裔……といったところか……」

「だ、だいぶ遠いですね……」

 

 それを受けて九頭が尾部に語りかける。

 

「今のところヤバげな証拠は何一つつかめてないが、悪魔が関わってそうな感じが強くなってきてる。町を離れて後日教えられる範囲で調査結果を聞くという手もあるが?」

「いえ、自分の目で確かめたいんです。それに……」

「それに?」

 

 尾部は海に視線を向けている。その目は見えるはずのない海底を見透かしているような遠い眼であった。

 

「なんだかすごく懐かしい感じがするんです。不思議ですよね、仮に先祖がここの出身だとしてもだいぶ昔の話なのに」

 

 そういう彼の眼は熱に浮かされたような郷愁を湛えている。

 

「まあ、若者の一人旅っていうのはそういうメンチメンタルな気分になることもあるもんさ」

 

 そう答えつつ九頭はヤタガラスに尾部なる青年の系図調査を依頼したことは正しかったと内心ひとりごちた。

 

 確たる証拠は無かったが調査も完了したので岩礁を離れる。次に向かうのは「次世代の町の柱となる新事業の試行」とやらを行っている金の精錬所である。

 

 

****

 

 

 一行は目的地の精錬所に到着し、事務所へと向かう。下手に告知して隠蔽をされても困るのでアポなしである。一応国(ヤタガラス)がバックにいるのでゴネられてもなんとかなるとの見通しだ。

 

 受付で新事業について上の者と話したいことがあると告げると、こちらの顔ぶれを見た職員は特にこちらの身分などを聞くこともなく実にスムーズに応接間らしき部屋に通された。

 

 程なくして大きな水槽を小刻みに揺らしながら運んでいるようなちゃぷちゃぷとした音が近づいてくる。

 

 そして戸を開けて部屋に入ってきたのは映画でしか見ることのないような丸っこいフォルムをした大柄な潜水服であった。だが一般に想像される潜水服とは違い、中に液体が満たされている。大部分が透明な素材でできている見通しの良い頭部の内側にはぎょろりとした眼の半魚人としか言いようのない顔がのぞいていた。

 

 即座に破壊神が召喚され、その単眼で睨めつける。

 

 突然の悪魔の召喚に対して潜水服の者は警戒するでもなくむしろどこか嬉しそうな様子で戸を閉め、のしのしと3人と1柱の前に立つ。

 

「いやいやどうも。『宇宙開発プロジェクト ~星辰を揃えよう』のオールドエイジ(老後)側の責任者の深木(ふかき) 藻乃雄(ものお)です」

 

 そう潜水服に取り付けられたスピーカーから発声してお辞儀をすると名刺をそれぞれに渡す。ご丁寧に耐水性の高いプラスチックでできた名刺で「増油精錬所元副社長 深木藻乃雄」と刻まれている。

 

「いやあまさか本家の血筋の方が悪魔関係のお人たちを連れてきてくださるとは」

「どういうことだ……?」

「え?そこのお方が外へ出た増油家の血筋で、お2人は我々の計画に賛同もしくは視察に来た何らかの組織の方では?」

 

 深木なる潜水服は「そこのお方」で尾部を指し、破壊神をまじまじと見つめる。

 

「ヤタガラスやガイア系列の団体かと思っていたのですが、まさか我らの信ずる神の上位神に似たお方を連れてくるとは。もしや我々より歴史があってよりこの宇宙の神秘に近づいた組織からお見えに?」

 

 鈴がどう返してよいかわからず困っていると、それをどう捉えたのか深木が慌てた様子で言う。

 

「まさか我々の団体を吸収しに?そ、それとも我々の活動がお気に召さず誅罰を?」

 

 自分で言っているうちにヒートアップしてしまったのか潜水服を動かして身振り手振りを交えて熱弁し始めた。動きに合わせてちゃぷちゃぷと潜水服から水音がする。

 

「確かに混沌の神々を奉じる団体としては手ぬるい、何を悠長なと言われるかもしれませんがこれも時代の流れを見た――」

「あ、あの!」

 

 誤解を解こうと鈴が声を上げて話を止め、向こうに一目置かれているらしきマグ=メヌエクが語りかける。

 

「落ち着くが良い。行き違いがあるようだな……」

「な、なにを……」

「我が名は破壊神マグ=メヌエク。貴様らが崇める神々の遠い同胞のようなものだ……」

「おお、やはり!」

「だが、我々はヤタガラスの依頼でここに足を運んでおり、そこの尾部はただの旅人だ」

 

 破壊神は鈴と尾部に詳細を話すよう促し、2人はそれぞれの事情を話す。途中で事務員が持ってきてくれたお茶を破壊神が飲み終わるころには、2人の説明は終わり場の空気も落ち着いたものとなっていた。

 

「申し訳ありません。世間を驚かせたかったもので秘密主義で進めてしまい不必要な警戒を招くとは……」

「いえ。でもこうなったからにはすべて説明してくれるんですよね?」

「はい。でもその前に陀金秘密結社について説明させてください」

 

 深木の言うことには、陀金秘密結社はアメリカ大陸に存在する邪神教団の日本支部の分派のようなものらしい。袂を分かったのには複雑な事情があるらしいが、主な理由は「解釈違い」だそうだ。

 強引だったり非合法な手段に頼りがちな分派元を嫌い、まっとうな手段で本拠地を富ませ教義を広めることに尽力してきたそうだ。

 

「それで、爆発音を出すような新しい町おこしって何ですか?」

「はい。近頃結社の上層部の間で下○ロケットが流行りまして……そのころタイミングが良いのか悪いのか幹部の一人が貴重な資料を発見したんです」

 

 その資料とは海底都市に眠れる邪神の覚醒方法であり、星辰、つまり星の並びが相応しいものになることであったそうだ。その資料はヒトの矮小な活動に何の意味もないのだと悲劇的に締められていた。

 

「ですが、幹部の誰かが『物理的に星を動かしたり新しく創ればいいのでは?』とぬかし……いえ、仰ったんです」

「飲み会で泥酔したときに出てくるアイデアみたいだな……」

 

 九頭があきれた様子でツッコむ。深木はストローと潜水服の機能で器用にお茶を飲み、苦笑いしながら話を続ける。

 

「勿論下と一部の良識派の幹部から猛反対にあったのですが、『この取り組みが失敗に終わろうとも人類の発展の一助になればよいし、我々には他にはない強みがある』と……」

「強み?」

「はい。『再誕者』の存在です」

 

 「再誕者」。

 

 陀金秘密結社の者は薄れてしまったものの本尊の陀金神の眷属の血を引いている。素質があり修業等で血を目覚めさせたものは、人としての寿命を迎えるころに体が魚類寄りに変化し眷属として「再誕」し、不老の肉体となるのだ。

 

 中には老後や第二の人生として認識している者もおり、オールドエイジ(老後)を名乗っている。

 

年を経た再誕者はヒトと比べると非常に頑強で、深海の水圧をものともしない。クマムシのような休眠も可能で、おそらく宇宙空間でも生存可能だろう。

 

 有人の宇宙探査は意図しないトラブルに対しても柔軟な対応が可能であるが、「ヒト」という貨物を損なわないために宇宙船の多くの資材やスペースを生命維持のためのもので占めることとなる。無重力における筋骨の弱化など宇宙に行ける人員も回数も限られている。

 

 それらの問題を滅多なことでは死なない再誕者を使って強引に解決しようというのだ。人権を完全に無視した所業であるが、ヒトではないので問題ないらしい。

 

 これが、他と比べて資金くらいしか張り合える点のない飲酢枡町の宇宙開発の強みである。

 

 岩礁で目撃された集団に関しては再誕者の宇宙開発計画参加者募集の説明会だったそうだ。

 

「邪神覚醒について言いたいことはあるが、手段がある意味正攻法過ぎるのと時間がかかりすぎるから何も言えねえ……」

「あれ?深木さんのその恰好は……」

「ああ。私は水中に適応しすぎてしまって陸上だとすぐ干からびて動きが鈍くなるんですよ。他の再誕者は普通に水陸両用です」

「次は僕のことに関してなんですが……」

 

 尾部が一通り話題が片付いたのを見て話を切り出そうとすると、「ヤタガラスからの連絡だ」と先ほどからスマホを操作していた九頭が口をはさむ。

 

「あーすまん。それに関してネタバレみたいになっちまうがヤタガラスから調査の中間報告が来た」

「え!?調査依頼をしたのは今日の朝ですよね?」

「別に意図的に隠されているとかじゃなかったらしい。君の先祖……というほど昔じゃないがこの町出身の者が血筋にいるようだ」

「ああ、やっぱり。その方は十中八九飲酢枡町金細工産業の祖である増油家のお人ですな」

「昨日居酒屋で増油家の人間と間違えられて『古の盟約』とか言われました」

「ああ、座徳さんですな」

 

 田舎特有のネットワークの広さと情報伝達速度に破壊神一行は驚く。もし仮に陀金秘密結社が悍ましい邪な企みを企てていて本気で自分たちをどうにかしようとした場合、町全体を敵に回す消耗戦となったであろう。

 

「『古の盟約』はかの邪神のために眷属の血を分けてもらったことでしょう」

「随分客観的な言い方ですね……」

「まあ、昔の異国での話なので実感は薄いです」

 

 尾部は頭をかきむしりなにか思い悩む様子を見せる。

 

「ただの成人旅行のつもりがこんな真実がわかるなんて。僕はここへ帰ってきたということなんでしょうか」

「まあ落ち着いて。あなたは今自分のルーツのひとつ、しかも神の眷属の血を引いていると知って驚いているし、混乱しているし、興奮してもいる」

「運命なんでしょうか……」

「ですが、あなたの先祖はその方以外にもたくさんいますし、あなたがここに来たのは偶然です」

「え?」

 

 尾部と表情には出していないが九頭が驚く。こういう運命的な出会いがあれば運命や神の思し召しと言って引き入れようとするイメージがあったのだ。だが深木は興奮に冷や水をかけるような発言を続ける。

 

「知らないだけであなたの祖先にはもっと有名な人がいるかもしれない。あなたが来てくれたことは嬉しいがこの出会いだけで将来を決めるのは性急すぎる」

「そうかもしれませんが……」

「せっかくの成人旅行なんですから旅を続けなさい。我々はいつでもあなたを歓迎しますぞ」

「……わかりました」

 

 尾部はうなずいた。自分のアイデンティティに悩む年代であり、特別な血筋というものに飛びついてしまったことを諭されて少し恥ずかしそうだ。

 

「あの、爆発音ってロケットエンジンの実験とかですか?」

「ああ、()()()()はそうです」

「最初以外?」

 

 身内の恥を知られるのが嫌なのかやたらと物損と怪我人ゼロを強調しながら深木が語ったところによると、最初の爆発音はロケットはロケットでもペットボトルロケットだったそうだ。

 

 再誕者が得意な水魔法の応用で自らで酸素や水素の生成、一瞬で気化させその勢いを推力にできないかなどを考えたらしい。それ自体は可能性のある案ではあるものの、何をとち狂ったか発案者は手元にあったペットボトルに魔術的防護をかけすぐ実験してみたらしい。

 結果は魔法が暴走してあわや大爆発というところに、慌てて駆け付けた再誕者の魔法精鋭部隊が魔術的防壁を貼って防いだのだった。

 

 魔法の利用というアイディアそのものは残ったものの、その発案者はプロジェクトから外された。

 

 プロジェクトの進捗としては再誕者をただ宇宙に飛ばすだけならもうすぐできるようになるそうだ。「宇宙開発プロジェクト ~星辰を揃えよう」の公式発表もそのころ行う予定である。

 

「その宇宙開発プロジェクトに関してはこの阿座斗さんにきっちりとヤタガラスに報告してもらう。まあ、正規の手順を踏んでいるならば問題ないだろう」

「おお、よかった」

「だが、こうして知ってしまった以上陀金秘密結社についてはヤタガラスの直属の者が来てしっかり査察をされるだろう」

「そうですか……」

 

 まだペーペーのデビルサマナーにすぎない鈴には先の見通しなどは立てられないので九頭がそう告げる。

 

「あ、あの……」

「ん?なんですかな?」

「自由研究の課題にこの町の宇宙開発計画について取材してもいいでしょうか?」

「おお、我が町の取り組みを広めてくれるのですか!あなたがたには機密保持などケチくさいことは言わず秘中の秘まで見せましょう」

「いえ、さすがにそこまでは……書けない部分も結構ありそうなので」

「それは残念ですな。ですが帰った後もより詳しい情報が欲しかったらいつでも連絡ください。すぐ資料を送りますので」

「あ、ありがとうございます」

「我も興味深い。下等生物(ニンゲン)がここまで大それたことを考えるとはな……」

 

 思った以上に向こうの調べて欲しい広めて欲しい意欲が強かったがこれで自由研究の題材も決まった。

 

「では実際に現場を―――」

「すいません、その前にマグ=メヌエク様でしたな?」

「我に何用だ?」

「あなた様は陀金さまの上位神に近しい存在でしたな」

「まあ、そうであるが……」

「我々の結社で習合という形で信仰対象になるというのはいかがでしょうか?」

「ふむ?」

「見たところだいぶ力を失っておられるようですし、そちらの阿座斗さんも神の巫女として歓迎いたします」

 

 弱体化した邪神には魅力的な提案である。陀金秘密結社は熱心な信者が数多く在籍しているようであるし、資金がありこの世界の布教のノウハウやネットワークを持っている。

 

「魅力的な提案であるが断る……我はしばらく鈴と地道にやっていくと決めている」

 

 第一信徒鈴の負担やいきなり勢力を拡大して激しい信徒獲得争いに巻き込むことを懸念しての発言である。それに口には出さなかったが崇められている旧支配者と自分は似て非なる存在であり、もし仮に向こうが降臨した場合は敵対してそれに伴い結社の内部分裂などが起こる可能性もあった。

 

「そうですか……尾部さん同様にあなた様もいつでも歓迎いたします」

「じゃあ宇宙開発プロジェクトの現地調査と行くか。尾部さんも来るよな?」

「は、はい。お邪魔でなければ……」

「いえいえ。是非とも旅の経験の一つとしていただきたい」

 

 その日は夕方まで宇宙開発計画の視察となった。

 

 

****

 

 

 翌日、旅館「儀流満家(ぎるまんけ)」のロビーにて。

 

尾部と九頭と鈴とリュックの中に隠れた破壊神が別れのあいさつを交わしている。

 

「いろいろお世話になりました。調査に同行させて下さりありがとうございました」

「いやいや。あの時同行を提案した鈴ちゃんは慧眼だったな」

「まだ旅を続けるんですよね?」

「ああ、いろいろ見聞を広げた方がいいと深木さんに諭されてね」

「貴様の旅に幸多からんことを……」

 

 バスの時間が近づいたため、尾部はこちらを振り返りつつ何度もお辞儀をしながら去っていく。

 

「じゃあ俺たちも軽く観光をしたら帰ろうか」

「そうですね。たくさんのお土産をもらったので新しくお土産を探す必要もありませんし……」

 

 昨日最後まで案内役を買って出てくれた深木から「お自分やご家族、ご友人にも」とお土産として大量の海産加工品や銘菓をいただいたのだ。いちおしは金箔を振りかけた「だごん饅頭」だそうだ。

 混沌の神との出会いに感謝と純金ダゴン像まで渡されそうになったが、それは何とか固辞した。

 

「まあ、これで初依頼はクリアだ。怪しい団体を調べたらその信仰対象が自分の仲魔だったなんてことはそうそうないぞ?」

「はい。やっぱりマグさんはすごいんですね」

「自明の理である。だがこの1件が我が信徒の糧となったようでなによりだ……」

 

 そうくぐもった声がリュックから聞こえ、2人と1柱は旅館を出ていった。




尾部升夫(おべますお)→オーベッド・マーシュ
増油雄辺斗(ましゆおべと)→オーベッド・マーシュ
深木藻乃雄(ふかきものお)→深きものども
儀流満家(ぎるまんけ)→ギルマン・ハウス
です。
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