8月下旬夏休みも残り数日、鈴はCOMPを操作しながら、破壊神マグ=メヌエクはオカルト雑誌を読みながら本日のおやつを食べていた。
「
「独特な食レポですね……」
夏休みの宿題を終わらせ、休み明けの準備も終わりつつある今、すぐにやるべきことというものはない。鈴が描いた破壊神の絵画も数点が完成し、応募要項が当てはまる絵画コンクールに片っ端から応募している。
初の単独依頼も成功し、夏休みの間に鈴がレベルアップしたことにより破壊神の現界を維持するだけなら彼女の自己生成マガツヒで賄えそうなところまで来ている。
そのため破壊神はいったん休息とし、修行や依頼よりも学生の余暇を楽しむよう勧めた。そのためここ数日鈴は自分と同じように宿題を終わらせて余裕のある友達と遊びに出かけたり、逆に尻に火が付いている友達のヘルプに行ったりしていた。
そんな折、鈴の方から破壊神へと提案が上申される。
「マグさん、良さそうな依頼があるんですが夏休みの締めくくりにどうですか?」
「あまり根を詰めなくていいと言ったはずだが……」
破壊神はあまり乗り気ではない様子だ。
「長引くようなものではないですし、私たちにあった依頼だと思います」
そこで鈴はいったん言葉を区切って破壊神に問いかける。
「それにマグさんが攻めに集中できるようなサポートしてくれる新しい仲魔が欲しくありませんか?」
「ふむ……その依頼で我の背中を任せられるような者は出るのか?」
「はい。説明によると―――」
依頼の内容は端的に言うと特殊な異界の攻略である。
1ヵ月ほど前にこの市から数十km離れた山中に発生した異界である。集まった情報によると出現悪魔の平均レベルは12前後とのこと。この程度であれば早々に腕に覚えがあるものが異界の主たる悪魔を討伐して、異界発生の事後報告がなされることも珍しくない。
しかし、この「異界・
この異界に出現する悪魔は大きく2種類に分類される。
魔獣や妖獣などの大型かつ攻撃的な「
そしてこの異界の最大の特徴だが、この異界出身以外の者が足を踏み入れると自身の外見的属性によって強烈な補正がかかる。具体的にはサマナーや仲魔の身体のサイズが大きく、厳つく強そうな外見をしているほどステータスにデバフがかかって周りに敵視されやすくなるというものだ。逆に小さく戦いに向いていなさそうな外見ほどステータスにバフがかかり、この異界の悪魔とコミュニケーションがとりやすくなる。
どうやらでかつよは「討伐される側」、ちいかわは「討伐する側」として定義されているようだ。
情報によると人間は女子中学生の平均身長、悪魔は小型犬のサイズを超えるとデバフがかかり始めるようだ。
厄介なことに、このレベル帯の悪魔は基本的に体が大きく恐ろしい外見をしている方が強い。もっとレベルが高くなると外見の威圧感というものはあてにならなくなるが、レベルが低いと質量は正義なのだ。
高レベルの実力者であれば、メギドラオンを放ったり体当たりで敵の体を貫通するような魔改造ピクシーを仲魔にしていることもある。もしくは、この異界に適した仲魔がいなくともごり押しで異界攻略が可能だろう。
しかし、そのレベルの実力者はリターンが見合わないためこの依頼に手を出すことはない。
こうした要素が重なり、「異界・血夷禍倭」そのものの脅威度が低いこともあってこの異界はいまだ存在している。
そこで両名とも背丈が小さく、破壊神はパッと見ではその脅威が分からない見た目ということでこの異界の討伐に適しているということだ。
また、この異界に出る友好種を仲魔にできたらという鈴の思惑もある。妖精は魔法に長けてサポートや後衛に適したものが多いので、ぜひとも欲しい人材なのだ。友好的であるならば、通常の悪魔交渉で仲魔を作ったことのない自分の悪魔会話初挑戦としてよいだろうという考えもある。
「―――というわけなんですがどうですか?」
「ふむ。悪くないな……」
「じゃあ―――」
「だが鈴よ……」
破壊神が前向きな姿勢を見せたため早速依頼を受けようと言いかけた鈴だったが、制止される。
「はい?」
「異界の主の討伐ということは、その異空間の最深部まで行くこととなる……」
「そうですね?」
「今までとは違い目の前の敵をただ打ち倒せばよいというものではない……」
「あ!そうですね……」
「主を倒したところで帰り道もあるのかもしれぬぞ?」
「異界はいわゆるボス?を倒せば元に戻ると習いましたが……」
危険を説いてくる破壊神に、鈴はヤタガラスで習ったことを思い出し反論する。
「基本的にはな。だが何事にも例外はあるものだ……」
「昔我を喚び出した『ケイオスの光』という集団は、自分たちが倒されて我が送還されようとも敵対者を道連れにしようと本拠地に仕掛けをしていたぞ……」
破壊神が少し昔を懐かしむかのように語る。当時混沌の泥濘を揺蕩っていた破壊神を召喚した「ケイオスの光」なる邪教集団は、邪教集団同士の争いに勝つために邪神の召喚儀式に臨んだらしい。幸か不幸か儀式は奇跡的に成功し、混沌の邪神の中でも第1柱の「破滅」のマグ=メヌエクが来訪した。
だが、邪神召喚成功を察知した他邪教集団が総力を挙げて邪神の送還もしくは奪取を目的に襲ってきた。下手に時間を与えて手が付けられなくなるほど力を蓄えたり、邪神召喚成功で賛同者が集まってくる前に叩き潰そうということだ。
だがケイオスの光は他の集団にせっかく呼び出した邪神様を奪われるくらいならと、いざという時の仕掛けを施していた。その抗争において破壊神は召喚直後で不安定ということもあって、戦いに出されることもなくケイオスの光本拠地の最深部に鎮座していた。破壊神は現界に留まる楔を抗争開始後に、割と早めに破壊されて還ってしまったため事の顛末は知らない。
だが、数百年後別の地に召喚されたときその地が消滅したかのようにえぐり取られ、禁足地として指定されていることは確認した。
「何事にも例外はある…それが千回に一回の珍事であろうとも巻き込まれ死ぬ者には関係がない……」
「はい……」
どうやら今までとは違う種類の危険があることを鈴は納得してくれたようだ。少々言い過ぎたかと破壊神が口を開こうとしたとき、鈴が言う。
「じゃあ、しっかりアイテムとかを準備して、マラソンなのに短距離走のような戦い方をしないってことですよね?」
「うむ……理解が早いようで何よりだ……」
破壊神は己の幼き信徒の返答に満足する。
と同時に、あの思慮は浅いが懐は深かった少女はこんな時どうしただろうかと詮無きことを考える。
「マグさん?」
「ああ、分かってくれたのならば問題はない……」
「じゃあ、事前準備や調査も念入りにした方がいいですよね」
鈴が破壊神にCOMPの画面を見せてくる。そこには「異界・血夷禍倭」に関連がありそうな書籍としてSNSで話題のとある漫画が示されていた。
「私も知ってはいるんですけど詳しくなくて……友達が大好きで詳しいって言っていたので一緒に会いに行きませんか?」
「我もか?それは大丈夫なのか?」
「はい。その友達はUMAの存在を確信しているので大丈夫です。もしかしたら信徒になってくれるかもしれませんよ?」
「では行こう……」
信者獲得の可能性があると知って破壊神はあっさりと手のひらを返した。
****
「
「ううん。宿題も終わって暇だったし。それに布教のチャンスを逃すわけにはいかないよ!」
「あはは……これ、お土産」
そういうと鈴は
「ありがとう!それにしても鈴ちゃん、教えて欲しいってやっぱり気になったの?」
「それについては長い話になるから、まず一番ショックが大きいのからいくね」
「?」
思わせぶりなセリフに長野が首をかしげる。
「もし仮にUMAに遭遇したとして、本人が黙ってくれって言ったら約束を守れる?」
「もちろんだよ!彼らにも事情はあるしね。こっそり隠れ住んでるタイプを脅かすようなことはしないよ」
「じゃあ、マグさん。お願いします」
鈴がCOMPを操作し、破壊神が召喚される。
「我が名は破壊神マグ=メヌエク。本日はよろしく頼む……」
「……」
鈴は驚いた顔で固まってしまった友人の様子をうかがう。
「すごーい!UMAに会えるなんて!しかも似た外見の目撃例がない個体に!」
固まっていた彼女は一転して興奮した表情で語る。どうやらは破壊神をを受け入れてくれたようだ。鈴は内心ほっと安堵する。
「しかも『破壊神』なんて二つ名があるなんて!」
長野は破壊神に握手をしてもらいながら語る。
「会えてうれしいです。この柔軟性……クラーケンの上位種とかですか?」
「それについては鈴よ、任せた……」
興奮する長野をなだめて、鈴が悪魔やマグ=メヌエクとの出会いについて、今回の依頼について説明する。鈴と破壊神とで依頼先や友人への説明をすることを考えてあーだこーだと意見を出し合って作成した、手短かつ分かりやすい紹介である。
数分後、鈴は説明を終えた。だが、長野の様子が少しおかしい。あんなに興奮していたのに、だんだん元気が無くなっていったように見える。
「一気に詰め込みすぎちゃった?」
「いや……未確認生物通り越して神さまだったなんて……畏れ多いというか……」
どうやら思ったより大物で萎縮してしまったらしい。
「鈴の友人長野よ……」
「は、はい。破壊神さま。なんでしょう?」
「この業界は天使も破壊神もネッシーも等しく『アクマ』だ……」
「でも……」
「我も神としてのプライドはあるが、よく知らぬ者に悪魔呼ばわりされるのは気にせぬ。この世界の常識であるしな……」
「そうだよ。マグさんだって見方によってはちょっとビームが出て、ちょっとビームが当たったものを消滅させて、ちょっと別宇宙ではNo.1邪神だった、メンダコに似たちょっとしたUMAだよ」
「それはちょっとしたものではないよね!?」
鈴のあまりの暴論に彼女はツッコまざるを得なかったが、それで少し元気が出た。
「まあまあ。でもこれで長野さんのイチオシのマンガについて教えて欲しい理由は分かったよね?」
「うん。それは分かったけど……」
「これからも依頼とかでUMAに会ったら教えるから」
「本当!?できたらでいいんだけど写真とかもお願いできる?」
「うん。余裕があったらね」
破壊神の宥めと鈴の交渉により、当初の元気を取り戻してきた長野は立ち上がる。
「じゃあ、鈴ちゃんの依頼のためも○い○わについて説明していくね!」
そこから長野により「異界・血夷禍倭」に関わると思われる漫画作品についての説明が始まった。
登場人物と世界観、見どころの紹介から始まり、メディア展開、コラボ商品、己の推しキャラ、果ては同作者の別作品まで解説がなされた。聞き手が興味をなくさないように、多岐にわたりながらも長引かないようにまとめられていた。内容だけではなく話し手も淀みなくしゃべり、身振り手振りやこちらのリアクションに合わせたアドリブなど明らかに場数をこなしているのが伺えた。
熱意だけが先行して初心者に面白さが伝わらないということはなかったが、その分かりやすさのあまり逆に少しゾッとした鈴であった。
「じゃあ、今日はありがとうね」
「邪魔をしたな……」
「その異界?の攻略が終わったら話を聞かせてね!」
帰り道、破壊神はほくほくした様子で破滅使徒血盟の書を眺めている。説明のあと一緒に写真を撮ることを対価に書いてもらったのだ。もちろん写真や今日聞いた話は部外秘である。
「これでまた一人我の信徒が増えたな……」
「良かったですね、マグさん」
「異界制覇の準備は進みそうか?」
「はい。明日買い出しに行きましょうか」
「それにしても書物まで貸し出してくれるとは熱心な者であったな……」
「あの者のように非合法な手段を使わずあれだけ熱心に布教する奴は我の信者にも少なかったぞ……」
破壊神が少々羨ましそうな口調で言う。
確かに破壊神の信者には熱意で彼女を上回る者はいたが、邪神崇拝の関係上熱心であればあるほど法を犯しやすい。
鈴も「邪神の信者だからでは?」と言いたかったが沈黙を選んだ。
****
破壊神の記念すべき第4使徒誕生の2日後、「異界・
体長が2m超えのクマの悪魔が木に腰かけている。本来なら非常に恐ろしい外見であろうが、異界の影響で非常に可愛らしく丸っこい見た目になっている。何よりも目を引くのは、日本産のクマの悪魔であるのに体毛が茶色や暗褐色ではなく白色なことである。
その異界の主、「魔獣 オニクマ」はリラックスした様子で木の実にハチミツをディップして食べており、その眼は閉じられている。服従させた鳥型の悪魔の視界を借りてこの異界の
今、
別のところでは
他のところでは
オニクマは木の実を食べるのも忘れて手を叩いて喜び、目に涙を滲ませた。
そのくつろぎの空間に1人の人間と
オニクマは笑みを受けべ、無謀な挑戦者たちを歓迎するために立ち上がり、咆哮する。
「ウワァアァァァギャァァァ」
「行きます!」
「承知した……」
「承諾」
【ぶちかまし*1】
【破滅のがぶり】
【電撃の秘石*2】
【タルンダ*3】
オニクマの肉体攻撃を、身体を引き延ばした破壊神が格闘技の試合を見て閃いた技で抑え込む。そこに鈴のアイテムを用いた攻撃と新たに仲魔となった「地霊 コロポックル」の補助魔法が襲う。
鈴はこの異界の友好的な悪魔から主の弱点を聞き出していたのでアナライズをせずすぐ攻撃に移った。
それから物理無効の破壊神が攻撃を受け止め、鈴が弱点かつ感電狙いで電撃の秘石をなげ、コロポックルがタルンダで相手の攻撃を下げたのちタルカジャでこちらの攻撃力を上げる。
破壊神も相手が感電で怯んでいるときは更なる感電狙いで事前に持たされた電撃の秘石を使う。タルカジャが最大限までかかると一気にダメージを稼がんと破滅の眼光を使い始める。
戦う前から弱点が知られていたのと破壊神の肉盾を突破できないことで瀕死となったオニクマ。最後の力を振り絞り破壊神に一矢報いようとする。
「ギィィヤァァ」
「不毛な攻撃だ……」
が、あえなく破壊神に受け止められる。そこに秘石を使い切った鈴が手に持ったおニューの武器で突っ込んで来る。
「なんとかなれーッ」
トゲ付きのさすまたでオニクマの首を抑え込んだ瞬間、さすまたの枝分かれした根元部分が爆発した。
「コウ……イ…フウ……ナッテ……クラ…タイ…」
力尽きたオニクマが倒れ伏し、消滅していく。乞い願うような表情でなにかを言っていたが、途切れ途切れで内容はわからなかった。
この新しい武器の名は「討伐棒」。異界攻略の準備で武器屋に寄ったところ熱心におすすめされたため購入した。ブームに乗っかってファンシーなさすまたを作ったところ誰も買わず、火力不足を補うため本来さすまたの方にはなかった爆発機構を組み込んで火力を大幅に上げたものの、ゲテモノ武器過ぎて誰も買わなかった武器である。
最終的にはこの依頼で使ってもらわなかったらいつ使うんだと泣き付かれたうえで70%オフにしてくれたため購入した。
「よくやったな鈴よ。貴様にとっては明確に格上の相手であった……」
「はぁ……はぁ……はい……」
「身に余る怪物殺しは英雄の誉れだ。誇るがいい……」
鈴一人では勝てない難敵であった。それがここまで一方的に戦えたのは破壊神の防御性能、ボス戦前の調査と作戦立案、パーティーメンバーの増員、この異界特有の小さくかわいいものへのバフの4つの要因のおかげである。
鈴が息を整えていると異界が消え、元の山に戻っていく。
「討伐感謝。勧誘歓喜」
新しい仲間のコロポックルが話しかけてくる。喋れはするが非常に簡潔な内容だ。
「ふう。こちらこそこれからよろしくね」
「同意」
「よい働きだったぞ……」
「恐悦至極」
鈴が待機しているヤタガラス提携のタクシーへと連絡を入れる。
「それにしても現代の創作が異界に影響するとはな。我も興味があるな……」
「それなら帰ったら長野さんが貸してくれたアニメのDVDを見ましょうか?」
「悪くないな……」
「興味津々」
そういって1人と1柱と1体は山を下りていった。
後日、長野へのDVD返却時にコロポックルと対面させ、大いに喜ばれた。
【魔獣 オニクマ Lv15】
ステータスタイプ:力・体型
防御相性:火炎・電撃弱点 物理耐性
スキル:【ぶちかまし】【暴れまくり】【チャージ】【タルカジャ】
・鬼熊とは長生きして妖怪化した熊のこと
・異界の影響かこの個体は白くファンシーな見た目をしている
・小さくてかわいい生き物の鑑賞が趣味
・特に小さくてかわいい生き物が追い込まれたときに見せる命のきらめきが好きだったようだ
【地霊 コロポックル Lv12】
ステータスタイプ:魔・運型
防御相性:衝撃・呪殺弱点 破魔耐性 氷結無効
スキル:【ブフ】【ディア】【タルカジャ】【タルンダ】
・「異界・血夷禍倭」にてでかつよに襲われているところを助けられ、破壊神の行動食の羊羹を与えられたことにより仲魔となることを了承
・単語のみを使ってしゃべる
【破壊神の第一使徒 阿座斗鈴 Lv12】
ステータスタイプ:技・運型
スキル:【クイックショット】【メギド】【破壊神の加護】
・今回のジャイアントキリングによりこのレベルに到達した
・銃の修練により銃属性スキル習得
・破壊神からのウィスパーイベントによりメギドを習得した。雑魚にはオーバーキル、ボスには継戦能力のなさで現状ベンチウォーマーなスキルである
【討伐棒】
・とある武器職人がブームに乗っかって作ったさすまた
・売れないことに焦って爆発機構が組み込まれた
・結果値段が跳ね上がり可愛らしい見た目で購入を迷っていた者も去った
・ゲテモノ武器だが品質は本物。ゲテモノではあるが
マグちゃんは変わらずLv16です。