いあ!いあ!まぐ=めぬえく!【完】   作:ringosuki

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第14話 モーセの十戒 VSノックスの十戒

 夏休みが明け、子どもたちも学校生活のリズムを取り戻した頃。

 

 放課後のクラブ活動にて、鈴は一心不乱に木炭を画用紙に滑らせている。もともと絵を描くのが好きな鈴だったが、破壊神の絵を多数描いてコンクールに応募したことにより火が点き、現在はより良い破壊神の作品のため画力向上に努めている。

 

 この小学校の美術クラブの活動は多岐にわたり、各人の注力の度合いもさまざまである。各種絵画の書き方や画材の説明、美術史、引率に引きつられて展覧会への鑑賞に行ったこともある。

 

 何を作るかも自由でスケッチ、クレヨン、クーピー、水彩、油彩、粘土、版画、彫刻など当人に委ねられている。高難易度折り紙を折り続けてついにオリジナル作品を作り出した者や、許可を取って自前のタブレットを持ち込んでデジタルイラストを描いている剛の者もいる。

 

 クラブの備品にはさすがに3Dプリンターなどの高価な機材はないものの、一通りの画材はそろっている。そのため、色鉛筆とスケッチブック、水彩セットや彫刻刀などの小学校の教材しか持っていない鈴にはありがたいクラブである。他の試しに何かやってみたい生徒たちにも人気だ。

 

 鈴はタコの足1本を丸々漬けて作った珍味を皿に乗せてモデルとし、木炭デッサンを行っていた。本当は生のタコを使いたかったのだが、さすがに厳しいので妥協した。

 

 食パンを消しゴム代わりとして使うことにより濃淡を際立たせてタコの吸盤を表現していく。これは破壊神の触腕を表現するときに役立つであろう。ちなみに木炭まみれになった食パンは破壊神への供物となる。

 

「鈴ちゃんは何でタコ足のスケッチをしてるの?」

 

 隣で鉛筆デッサンをしていた生徒が聞いてくる。彼女の題材は鮭を咥えている木彫りの熊の置物である。

 

「え、えっと……」

 

 まさか「邪神の絵画のクオリティを上げるため」とは言えず、鈴は言いよどむ。するとそこに助けが入った。

 

「鈴ちゃん自由研究と絵画コンクールで『架空の海洋生物』っていうテーマで絵を描いたんでしょ?その関係じゃない?」

 

 鈴の事情をある程度把握している長野からの言葉である。ちなみに彼女は彫刻でグッズ化されていないマイナーキャラの立体化を試みている。

 

「そ、そうなの。描いた後そもそも自分の中の海の生き物の引き出しが少なかったことに気づいたの」

「それでいろんな海の生き物の絵を描いて次につなげたいってこと?」

「うん。そんな感じ」

 

 聞いてきた彼女は納得したようで、感心したように「へー」とひとこと言うと自分のデッサンに戻っていった。

 

「(ありがとね、長野さん)」

「(いいのいいの。この前のお礼だよ)」

 

 鈴と長野は囁き合う。

 この前とはコロポックルと長野を合わせたことである。彼女はコロポックルとのツーショットを希望し、コロポックルはお菓子と引き換えに快く了承した。

 

「冬休みも自由研究で何か描くの?」

「うん。そのつもり」

「やっぱりどこか()()に行ったりするの?」

 

 長野が何かを期待したような意味深な表情で問う。

 

「うん。学期中は何日も家を空けての遠出はしにくいしね」

「もしも雪男とかに会ったりしたら教えてね」

「あはは……会ったらね」

 

 元から仲が良かった方ではあるが、破壊神と会わせた一件後彼女の方からグイグイ来るようになって押され気味の鈴であった。

 

 

****

 

 

「次回はきなこを使った菓子に挑んでみせよう。興味があったら次回も吾輩の動画をよろしくな~」

 

「鈴よ。指名依頼が来たぞ……」

 

 破壊神からのお告げにより鈴は家族共用タブレットで視聴していた料理動画を停止し、彼の方を向く。破壊神は鈴が廃棄せずに持ち帰ったデッサンに使った食パンを食べながらCOMPを見ていたが、共有すべき情報が来たため声をかけてきた。

 

「ヤタガラスからですか?」

「いや、余所である。覚えているか、あの酒類提供飲食店を……」

「ああ、あのスナックですね」

 

 あのスナックとは九頭に紹介された依頼の斡旋・仲介等を行う店である。一番の売りは店主の仲魔である小豆洗いが作るお汁粉らしい。甘さを引き立てる塩加減が絶妙とのことだ。

 

 だが、今まで受けた依頼はヤタガラスが仲介したり発注したものである。このスナックには顔つなぎのため買い物のついでに来店したり、ちょっとした情報交換をしていたりはしたが本格的な利用はまだない。そのため鈴は少し訝しむ。

 

「分かるぞ鈴よ……何故知名度のない我々がというところであろう?」

 

 鈴の疑問を察していた破壊神が依頼の説明を行う。それは戦闘よりも調査に重きを置いたものであり、破壊神の「眼」を借りたいと記してあった。

 

 既に見たことのない悪魔を連れた小学生デビルサマナーがいることはこの地方では広まっている。「破壊神 マグ=メヌエク」の名は布教の関係もあり特に隠してはいない。

 

「マグさん目当てということでしょうか」

「我の力に目を付けた目敏さに関心するが、それだけではあるまい……」

 

 依頼主の勢力の規模を考えれば自分たちですべて片付けることも可能なはずだ。破壊神の権能に興味がある、未知の悪魔の観察、将来有望なサマナーの唾つけなどだろうか。

 

「依頼主はどこですか?」

「法の神関連の団体とあるな」

 

 破壊神はこともなげに言うが鈴の表情が固まる。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「そこは最大手の余裕というやつで罠にはめてくるようなことはないと思うが……」

 

 最近2丁拳銃の吸血鬼が理想の終活に勤しむマンガを読み、銃剣神父の暴れっぷりを見た鈴は気が気でない。

 

「あの、受ける前に向こうの評判を調べてもいいでしょうか?」

「まあ、事前調査は大事であるしな……」

 

 そこで鈴は九頭やヤタガラスの宇色に連絡を取り、依頼主の団体について聞いてみた。

 

 すると「誠実な団体だと聞いているし、鈴と破壊神も珍妙な悪魔を連れた新人小学生デビルサマナーとして思った以上に噂になっているのでそういったお試し依頼が来てもおかしくはない」との返答をもらった。

 

「ちょっと不安ですが人脈が広がるのはいいことです。受けましょう」

「我は貴様の決定を尊重しよう……万が一があれば陀金秘密結社(ダゴンひみつけっしゃ)を率いて少し早めの終末戦争(ハルマゲドン)といこう」

 

 破壊神の物騒な意気込みは己の信者を安心させるための物言いであるが、万が一本当に危害を加えてきたら絶対にやるという確固たる神意を感じる。

 

 基本的に信奉者がやったことではあるが、弾圧するのもされるのも、異端認定するのもされるのも、教団の分断や統合も、論争や抗争を吹っ掛けるのも吹っ掛けられるのも一通り経験済みである。そういった意味では経験豊富なため破壊神に不安はない。

 

「そういえば鈴よ……貴様からの供物、小麦の発酵食品に高エネルギーな炭素の粉末がまぶしてあって悪くなかったぞ……」

「あはは……喜んでもらえたら何よりです」

 

 

****

 

 

 指名依頼の受注を行った数日後、スナックには場違いな小学生が入店してきた。

 

 依頼人との顔合わせに来た鈴である。向こうも新人、しかも子供が自分たちの拠点に来るのは尻込みするかもしれないと思い仲介者が経営するこの店となった。

 

「失礼します……」

「あら、鈴ちゃんね。いらっしゃい」

 

 いの一番にスナックのママが気付いて挨拶をする。こういう仕事をしているだけあって小学生が来店してきても動じていない。ここで顔合わせがあることは知っていたのもある。

 

「あの少女が……」

「ええ、来たようですな」

 

 店内へ入ってくる鈴を見て一組の男女がカウンター席から立ち上がる。

 

「あなたが阿座斗鈴(あざとすず)さん?」

「はい。あなた達は―――」

「そうです。今回の依頼を出した者ですが詳しい話は奥でしましょうか」

 

 男がママへ声をかける。

「じゃあママさん。予約どおり個室借りるよ」

「ええ、その前に注文お願いできる?今日のお勧めは―――」

 

 さすがに依頼文以上の詳細な話は人の耳があるところではしにくいとのことで、それぞれ注文後個室へと移る。

 こういった面談や商談にも使われるため物理的にも霊的にも防音・盗聴・盗視・透視対策が施してある。

 

 鈴がマグ=メヌエクを召喚し、男女と鈴に飲み物、破壊神におしるこが届いたため自己紹介を始める

 

「はじめましてメサイヤ会の(あま) 智子(ともこ)です」

「同じくメサイヤ会の高木(たかき) サムソン(さむそん)です」

 

 女性の方は「天使にラブ・ソングを…」のようなゆったりした修道服を着ている。しかしそこはかとないコスプレ感がある。

 安物のコスプレ衣装のように生地が薄くテカテカしているわけではないが、細々とした所作に見える着慣れなさと修道服のおろしたて感のせいだろうか。

 

 男性の方はゆったりめのシャツとズボンの上からでも分かるプロレスラーのような筋骨隆々の身体だ。電車で隣りに普通に立っているだけでその肉体に秘めた質量とパワーに圧迫感を感じただろう。見事なスキンヘッドで額に傷跡がある。

 

「阿座斗鈴です」

「破壊神マグ=メヌエクである……」

 

 挨拶後、二人はメサイヤ会の名が入った名刺を差し出す。

 

 着席し、メサイヤ会の軽い説明が行われた。

 

 なんでも、法の神を信ずる勢力の宗派を区別しない超党派の対悪魔戦闘集団らしい。宗教問題や教会政治に関わらない、関われない代わりに独立した権限をもつとのことだ。

 

「全世界規模の聖騎士団のようなものか……なぜ我々のような駆け出しに依頼を?」

 

 破壊神がおしるこを啜りながら聞く。

 

「この業界では大体そうですが、我々の団体も人手不足なんですよ」

 

 サムソンは苦笑しながら言う。

 

「それに破壊神さん、あなたこそが我々が直面している問題に対する銀の弾丸かもしれないのです」

 

 天がたおやかな笑みを浮かべながら言う。

 

「『求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。』新約聖書『マタイによる福音書』7章7節から……とはこのことですね」

「随分と我々を高く買っているようだな……」

 

 最初の一杯を完食したため、鈴に許可を取りお代わりを注文する破壊神。

 

 破壊神は己の実力について狂気山脈よりも高いプライドを持っている。しかし同時に今の自分たちが外部から見た場合、珍しい悪魔を連れた駆け出しサマナーでしかないのを理解している。高めに見積もっても新進気鋭のデビルサマナーとレベルの割には強い悪魔だろう。あまりにも恭しい態度だ。

 

 鈴の方は智子の話を一言一句聞き漏らすまいと集中するあまり、裏にまで考えを回す余裕がない。

 

「では今回依頼した理由を話しましょう。ずばり『十戒』が出現しました」

 

 破壊神の訝しげな様子を察したのか今回の依頼の肝について智子が話し始める。

 

「私たちの任務はそれの実態調査、場合によっては破壊です」

「通常の攻撃や我々の扱う浄化……こちらでは破魔や破邪の方が通りがいいですかね。ではパワーが足りない可能性があるため破壊神さんをお呼びしました」

 

 ここでそっと手を挙げ鈴が疑問を呈す。

 

「あの……なんていうか、もっと上の人たちならマグさんみたいな破壊神を仲魔にしているのでは?」

「ウチの所属で破壊神にもカテゴライズできるような方は少ないですし、十戒といっても総本山から見て極東の地での発生ということもあってそこまで予算が下りなかったのです」

 

 サムソンが苦笑しながら説明する。自勢力での解決は簡単だが何かしらの理由があっての依頼だと思っていたが、適材を求めてのものでもあったらしい。

 

「あなた方がちょうどいいところにいてくれた破壊神持ちのフリーのサマナーなんです」

 

 サムソンは飲み物を一口飲んで唇を湿らせる。彼はプロテインのミルク割りを注文した。

 

「破壊神持ちのフリーのサマナーは雇うのが大変なんですよ。そういった悪魔を使役しているのは大抵実力者で、依頼も高額ですし何よりクセの強い人ばかりです」

 

 破壊神を仲魔にしているということは破壊を司る神と波長が合うということだ。

 

 もちろん全員が全員「オデ、ブッコワスノスキ……」という危険人物な訳では無いが、法と秩序を尊ぶ人間とは相性が悪いことが多い。

 

 邪神だろうと大天使だろうとスポーツのメンバー選出のように仲魔を取っ替え引っ替えできるような者は英雄(ヒーロー)合一神(ナホビノ)くらいのものだろう。

 

 そこにお代わりのおしるこを手にした破壊神が疑問を投げかける。

 

「だが破壊していいのか?貴様らが神から授けられた戒律なのだろう?」

 

 十戒。

 

 出エジプトを成し遂げた預言者モーセがシナイ山にて神より授かった十の戒律である。

 

 ちなみに2枚の石板に記されているが、契約の箱(アーク)に納められたりなどの描写があるものは2代目の石板である。

 

 最初に授かった石板は、モーセを待っていた民たちが不安になり偶像崇拝を行ったのを見たモーセがキレて自身で叩き割っている。

 

「ええ。別に本物の石板に手足が生えて動き出したわけではないので」

「それに十戒は現代社会とは相いれないものもあります」

 

 旧き戒律は大工の息子の磔刑による贖罪で新たなる律法に上書きされたとの解釈が主流である。

 

「『唯一の神』や『安息日』に関してはこの国だとアレなのでまずいことになる可能性があるのです」

 

 本物ではないとはいえ神に授けられたルールである。

 戒律に反する者を一方的に即死させるような能力を持っていても不思議ではない。

 

 それに血腥い話になるため鈴には伝えなかったが、かつて十戒の復権運動が盛んになった結果凄惨な事件が発生したことがある。

 

「この国の下等生物(ニンゲン)は万物に神を見出し、休日出勤とやらが好きらしいからな……」

「別に好きなわけではないですが……」

 

 こういった教義などについては鈴よりもライバルの研究に余念がない破壊神のほうが詳しい。

 

「そういうわけで依頼を受けていただけるでしょうか?あなた方に求めるのは調査の同行と戦闘時の支援ととどめ(ラストアタック)です。もし我々で手に負えない場合は即撤退して人員が再編成されます。そこであなた方は離脱となりますが、もちろん報酬はお支払いします」

「みんなに災いが降りかかる可能性があるならぜひ受けたいです。ただ……」

「ただ?」

 

 彼女は前向きな姿勢を見せるが、急に気勢がしぼむ。

 

「そんな重大そうな事件に参加して大丈夫でしょうか?そういったことができるのか分からないですけど、マグさんだけ単独で参加とかは―――」

「鈴よ」

 

 今までよりもはるかにビッグネームである世界最大手宗教に由来する悪魔が相手とあり力不足だと感じているようだ。

 

 その弱気な発言を破壊神が咎める。

 

「確かに我と貴様は神と信徒だ……だが悪魔召喚師と仲魔でもある。この宇宙の人の世では、貴様の指示のもと我が破滅の権能は振るわれるべきである……」

「そうですね。デビルサマナーはよっぽどのことがない限り己の悪魔の手綱を離すものではありません」

「それに我々は『破壊神さん』ではなく『阿座斗さんと破壊神さん』に依頼したのです」

「わ、わかりました。精一杯やります」

 

 己の信徒がやる気を出したことを破壊神が後方主神面で見ている。とっくにお代わりしたおしるこは空になっており、自分のへそくりを使って再度注文して鍋ごと持ってきてもらう最中だ。

 

「では契約成立ですね。装備は持ってきてますよね?」

「はい」

「では現在判明している情報の共有と十戒そのものの説明が終わりましたら必要があれば買い出し、その後調査に出発しましょうか」

「よろしくお願いします!」

 

 

 今後の行動が決まってさあ行こうかという時、ノックの音がしておしるこがなみなみと入った鍋が届いた。

 

「……マグさんが食べ終わったら行きましょうか」

 

 

****

 

 

 十戒が出現した廃村にて。

 

 主目的は調査のため隠密に徹しているが皆完全武装である。

 

 鈴は破壊神とコロポックルを呼び出し済みであるし、天は低位分霊の天使ケルビム(Lv19)を召喚、サムソンは身隠しの結界を発動している。

 

 破壊神が一回りほど大きくなっているが、これは先ほど食べたおしるこの糖分の影響である。鈴たち3名も1杯ずつおすそ分けをいただいた。

 

「小さき豆を煮込んだ暗褐色の液体……見た目からは侮れぬエネルギーを秘めた食物であった……」

 

 廃村の表通りを避けて進んでいると、ベンタブラックを被ったような真っ黒の人影がじっと立っているのを発見した。まるで全身タイツのようにのっぺりとしており、マネキンのように画一的な体型だ。

 

 隠密しながらアナライズをすると、「戒律 ????十戒 Lv28」との結果が出た。

 

 メサイヤ会式のアナライズでは対話困難なDARK属性に近いとの結果が出たため、奇襲して討伐することを小声で相談して決定した。

 

 一撃で葬ることができる可能性が低いため手札を見せることを避け、初撃は天使ケルビムが遠距離攻撃で出せる限りの火力を出す。

 

【コンセントレイト】+【ジオンガ】

 

 しかし、十戒たる黒い人影は電撃の直撃寸前に見事なブリッジ回避を披露し、その身をわずかに焦がすだけに留まる。

 

「暗黒非合法探偵のブリッジが役に立ったよ」

「探偵さんがご到着か。ではネタばらしと行こう。『第7戒 探偵自身が犯人であってはならない。』」

 

 バキッバキッと体が音を立てて変形していく。

 

「我が名はノックス。『第2戒 探偵方法に超自然能力を用いてはならない。』」

 

 後頭部のアホ毛が特徴的な小学生相当の体躯になったノックスと名乗る悪魔が何やら唱えた途端、全員の体が重くなる。

 

「これは……ランダマイザ*1相当のデバフ!?」

「お次は『第10戒 双子や一人二役の人物を出す場合、その存在をあらかじめ読者に伝えなければならない。』」

 

 鹿撃ち帽にパイプをくわえた長身の男性に変身した悪魔が急に2体に分裂して襲い掛かってくる。

 

「やられました。相手は十戒は十戒でも『ノックスの十戒』です!」

 

 智子が叫ぶ。

 

「探偵が犯人を名乗ったり、オカルトパワーを使ったり、いきなり双子設定を出したり、本人は破りまくっていますが?」

「推理小説フリークの詳細な考察は今は置いておきます!悪魔なのですから都合がいいように悪用しているのでしょう」

「鈴さんたちは支援をお願いします!」

「はい!マグさんは牽制と弱らせて動きを止めた後の『アレ』を!」

「承知した……」

「了解」

 

【デクンダの石】

 

 指示が鈴たちに飛び、態勢を立て直そうとしていく。

 

 ノックスの分裂した2体をサムソンと天がそれぞれ受け持つ。

 

「しゃあっ」

 

 サムソンがノックスの首をがっちりと取り、組み合う。

 

 硬直が続くかと思われたが、ノックスが長身の通信空手を習っていた巨根の大学教授っぽい姿に変形して組み合いから脱出する。

 

「なぜベストを尽くさないのか!」

 

 座右の銘らしきものを唱えると腕がゴムのように伸び、サムソンに拳を食らわせる。

 

「やばっ早すぎて拳が四重に見える」

 

 そのまま、ノックスのラッシュがサムソンに炸裂する。だが、ノックスがLV28、サムソンがLv21とレベル差があるのに対してあまり応えた様子がない。

 

「誰かが言っていた。世界最古のプロレスラーはあの『イエス・キリスト』だと。敵対する者の攻撃をすべて『愛』で受け止めて伝説となった……」

 

 サムソンは戦闘に入ってスイッチが切り替わったのか、丁寧だった口調が変わっている。

 

 サムソン。

 

 旧約聖書士師記に登場する士師の1人で、ライオンを引き裂くほどの怪力が有名である。誕生前に天使のお告げがあり、戒律として頭に剃刀を当てないことで怪力を授かっていた。しかしその秘密を敵対者に暴かれ、それが死因となった。

 

 現代のサムソンはなかなか子に恵まれなかった家庭にやっと誕生した子供であった。

 

 それにあやかってサムソンと名付けられ、頭部に刃物を当てない生活を送ってきた。名と誓約のおかげか健康優良な男児で、すくすくと剛力無双の男に育った。

 

 唯一の誤算だったのは父方が若ハゲの家系だったことである。彼も20代にしてその兆候が表れ始め、若くしてハゲて神通力を失うかと恐れた。

 

 だが、彼の怪力は毛髪がすべて消失してもそのままだった。

 かくして弱体化を狙い剃刀を当てようとしてももはや剃る髪がない怪力無双の男が誕生した。アキレス腱が存在しないアキレウスみたいなバグ技である。

 

 矢継ぎ早に攻撃を繰り出すも、物理攻撃では大してダメージを与えられずに攻めあぐねているノックスを見てサムソンがニヤリと笑う。

 ここからは奇蹟の逆転ファイターの時間だ。

 

「知ってるかノックスよ。旧約聖書のヤコブは主と格闘(レスリング)してな、掟破りの関節外しを出させるほどに追い詰めたんだ」

「つまりレスリングを極めれば神さまとだって喧嘩できるんだっ」

 

 一方、もう片方のノックスと天智子と仲魔のケルビムでは。

 

 貧乳のマジシャンでトリック暴きが得意そうな女性の姿に変身したノックスがトランプを手裏剣のように投げつける。

 

 天は修道服から何かを取り出しトランプを弾く。

 

「こういう服を着てると武器を隠しやすいんですよ。特に今日はとっておきなので」

 

 それは鎖鋸、いわゆるチェーンソーと呼ばれるものだった。

 

「『こうしてアダムを追放し、命の木に至る道を守るために、エデンの園の東にケルビムと、きらめく剣の炎を置かれた。』旧約聖書『創世記』3章24節から……」

「これが現代の回転する炎の剣です」

 

 チェーンソーが回転を始め、ブレードから火が噴き出る。

 

 天智子は生まれたときから智天使ケルビムの加護を持っていた。そのためレベルがデチューンされてはいるがケルビムを使役できている。

 

 この武器は他の人間が使うと回転しない上に炎も宿さないチェーンのついた鈍器という、実質彼女の専用武器である。

 

 彼女は猫背の黒髪で隈があり甘党の男性の姿に変身したノックスが繰り出すカポエイラを焼きながら切り払いつつ、仲魔のケルビムとともに連携攻撃を仕掛ける。

 

 破壊神は中衛で天とサムソンを破滅の眼光で援護しつつ、この宇宙に来て初めて使う『眼』の用意を行う。

 

 鈴とコロポックルは後衛でがっちりと防御を固め、余裕のある時に前衛の回復、バフデバフを差し込んでいる。サムソン、天とケルビムが頑張って食い止めているため流れ弾程度しか後衛の2人に行くことはない。

 

「しゃあっ、聖なる脳天砕き(ホーリー・ブレーンバスター)

「パラダイス・ロスト!」

 

 智子とサムソンの必殺技が炸裂し、2人のノックスを近い場所に吹き飛ばす。

 

 ノックスたちもそれなりのダメージを負い少し動きが悪くなったが、2人の消耗の方が激しい。戦い自体は多少優勢だがこのペースではもたないだろう。それほど()()ことに主眼を置いた全力戦闘であった。

 

「ふっふっふ、『第1戒 犯人は物語の序盤に登場していなければならない。』実は私は真犯人では―――」

 

【九十九針(避雷針ver.)】 

蒼き雷霆(アームドブルー)(ジオンガ)

 

 これ以上余計なことをさせる前に動きを止めるため、智子とサムソンが特別製の避雷針を銃撃属性スキルとしてありったけ撃ち、猿顔でモミアゲが特徴的な男性の姿に変形したノックスに刺さる。

 ケルビムがそれに誘導させるかたちで電撃を発射する。

 

 刺さった避雷針を通して電撃が体に伝わったためか、2体のノックスの動きが硬直し、明らかな隙を晒す。

 

「あとは任せろ」

 

 権能の準備が完了した破壊神の耳のような部位が羽状になり、眼球周りに牙が生えて手と触手が禍々しい形に成長する。そしてその単眼の前に受けたものの存在を赦さない権能(ちから)が収束していく。

 

【破滅の瞑目】

 

 黒い閃光が2体のノックスへ突き刺さり、その跡には何も残ってはいなかった。

 

「上手くいったようだな……」

 

 破壊神は誰にも分らぬよう小さく嘆息する。

 

 「ノックスの十戒の悪魔」を存在消滅させる必要最小限の権能行使の制御を誤ると、「ノックスの十戒」という推理作家の偉大な発明にまで影響が出る可能性があったのだ。

 

 本気の権能の行使により破壊神のサイズがしぼんでいき、おしるこを食べる前のサイズに戻った。

 

「『十戒』の消滅を確認しました。依頼達成です」

「周辺調査ののち帰還しましょう。鈴さん支援ありがとうございます。破壊神さんのとどめで今後滅多なことではノックスの十戒は生まれないでしょう」

「ありがとうございます」

「やりとげたな……」

「休息、要求」

 

 調査として廃村を回る。

 

「そういえばノックスの十戒って何ですか?」

「知らなかったのですね。では鈴さんはどのくらい推理小説というものをお読みで?」

「えっと―――」

 

 後日、追加報酬として段ボール1箱分の推理小説が送られてくることとなる鈴であった。

*1
敵全体の全能力を1段階低下させる




【メサイヤ会教徒 天智子 Lv19】
スキル:【回転する炎の剣】
・智天使ケルビムの加護持ちであり、拠点防衛や追放者に対して特攻を持つ
・支援や遠距離攻撃を仲魔のケルビムに任せた完全前衛型

【天使 ケルビム Lv19】
スキル:電撃系、火炎系、破魔系、回復系
・天智子の仲魔
・本来ならもっと高いレベルでしか顕現できないが、天の加護の力でレベルを落として召喚された

【メサイヤ会教徒 高木サムソン Lv21】
スキル:【ぶちかまし】【垂直直下型ブレーンバスター】 etc.
・毛剃りが弱点だが剃る髪がもうないというバグ持ち
・とあるプロレス団体に所属しているとか
・推理小説好きで実際にベーカー街に行ったこともある


【戒律 ノックスの十戒 Lv28】
ステータスタイプ:可変型
防御相性:破魔無効 呪殺無効
スキル:【第1戒~第10戒】
・廃村にて十戒の石板の欠片と言われているものを触媒として召喚された、欠片そのものは召喚時爆発四散
・召喚者は邪神の混沌の波動を受信したとある推理小説家見習い、人外の叡智を借りて究極のトリックを創り出そうとしていた
・石版の欠片はネタ探しの骨董品や古書巡りの最中で黄衣の少年にもらったとのこと
・召喚後マガツヒが一瞬で空になり半死半生になり、ノックスの十戒には捨て置かれたがいつのまにかヤタガラス関係施設前に放り出されていて保護された
・召喚成功確率は麻雀の天和未満だった
・相手の十戒破りを咎め、自分は悪用するトリッキーな戦闘スタイルをとる
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