いあ!いあ!まぐ=めぬえく!【完】   作:ringosuki

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第19話 悪魔が来りて餅を喰う

 冬休み中、鈴と破壊神はやや遠方の依頼へと遠征していた。

 

あくまで悪魔!(マハブフーラ)

【毒ガスファート】

 

「迎撃を!」

 

【破滅の眼光】

【火炎弾+クイックショット】

 

 キツネの悪魔が発した同じ音をかける言葉遊び(ダジャレ)をもとに発せられた冷気と氷塊を破壊のエネルギーが打ち砕いた。

 2体のイノシシの悪魔が発した毒性を持つ気体は、可燃性があったためか炎の力が込められた銃弾の早撃ちにより発動直後に爆発し、技を出した本人たちを巻き込んだ。

 

「うわ~っ」

「「ぐえ~」」

 

 キツネの師匠と弟子であるイノシシの兄弟は吹っ飛ばされ、降り積もった雪の中に顔から突っ込む。

 

「ま、参った!降参だ!」

「「おらたちもだ!」」

 

 ガバリと雪からはい出すと各々白旗を振って降伏をアピールする。1名は顔面着地をした際に出た鼻血をぬぐった白いハンカチを使ったため国旗のようになっている。

 

「あなたたちは近隣をいたずらで荒らしまわった悪魔ですが、特異個体である可能性が高いため必ずしも討伐とは言われていません。ヤタガラスに出頭してもらえますか?」

「逆に言えば、抵抗が激しいようなら……と、いうことだ」

「分かってる。次のいたずらの王者はあんたたちだ」

「いや、別にそれは目指していないが……」

 

 急な謎の肩書きの継承指名に破壊神が怪訝な様子になる。

 

「じゃあ、私を仮契約者として一時的にCOMPへ入ってください」

 

 3体の悪魔はぺこりとお辞儀をする。

 

「おれさまは神獣 テンコのゾロリ。コンゴトモヨロシク」

「おらは聖獣 ヒルディスヴィーニのイシシ。コンゴトモヨロシク」

「おらは妖獣 イノササオウのノシシ。コンゴトモヨロシク」

 

 そしていそいそとCOMPに格納された。

 

「今何か二重にすごい名前が聞こえたような……」

「伝承から生まれた悪魔にさらに別の物語の皮を被せているのか…?あのようなものが自然発生するのか?」

「ほ、本当に彼らだったなんて!後でサインと写真をもらって、あ、あとで長野さんにも教えないと……」

 

 ヤタガラスに連行された3体の悪魔は、ほうれんそうマン時代から知っている年配の職員がいたため丁重な扱いを受けたらしい。悪いことにはならないそうだ。

 

 

****

 

 

 お正月があけて社会人は気合を入れ直し、正月太りと仕事と戦い始める頃。

 

「いいネタが見つかるとよいな!」

視聴者(下等生物)の人気取りに余念がない事だ……」

「ふん、吾輩が全世界に名が売れても吠え面かくなよ」

「まあまあお二人とも」

 

 鈴たちはややマイナーな温泉地へ来ていた。

 

 きっかけは恐るべき料理系VTuberナプタークのパトロンである火手布内亜からの提案だった。今度ネタ探しへ温泉地に行くから、邪神関係者たちで親睦を深めないかとのことだ。

 

「ここまで運転ありがとうございます」

「いえいえ鈴さん。ではお嬢様、2日後にお迎えに上がります」

「ええ、お願いします」

 

 内亜が用意した運転手は説明されていたのか悪魔に動揺する様子を見せなかった。それにしても車内で珍生物がわちゃわちゃとしていたのに堂々とした態度で、こちらとにこやかに談笑までする余裕があった。

 

 運転手はその浅黒い肌とは対照的な白い歯をのぞかせてにこりと笑い、引き返していった。

 

 ウーネラスのお気に入りのうちの一人である千黒山羊子は、交通手段も宿泊費も向こう持ちと聞いて即座にOKした。装備の新調のため貯蓄が吹き飛んで懐が寂しかったらしい。

 

 ウーネラスも三度笠を被って渡世人の恰好をしており、旅を楽しんでいるようだ。

 

「お誘いいただき、まことに感謝っス!」

「でもよく豊穣の会じゃなくて私のスマホの電話番号がわかったわね?鈴ちゃんに聞いたら私に会ったことはナプちゃんたちに言ったけど、番号は教えていないって」

「まあまあ、いいじゃないですかウーネラスさま」

 

 訝しむウーネラスだが、内亜は柳に風といった様子。

 

「でも懐かしいわね~、私達が初めてこういったことをしたのはあの時よね。流々ちゃんが福引で一等を当てたのがきっかけだったかしら?」

「……そうだな」

「マグさん?」

「そういえばあの時はスキー場ではひと悶着あったけど、旅館では大したことも起きなかったわよね」

「その点はご安心ください。この旅館、この地には何やら曰くがあることは確認済みです。ウーネラスさまの期待される様なことは起こりやすいかと……」

「それは安心できるのか?というか己、そんなところをネタ探しの旅行先にしたのか!?」

 

 どうやらナプタークの様子を見るに、この旅行の諸々を決定したうえで取り仕切っているのはやはり内亜らしい。

 

 歩いていくのも旅行の醍醐味だということで、村の中を観光しながら旅館へ向かう。邪神たちも出っぱなしだが、そこはぬかりなくウーネラスが認識阻害の魔道具を渡している。

 

「お前さんたち、何しに来た?」

 

 道中、祈祷師のような恰好をした老婆が道をふさぎ、問いかけてくる。

 

「あの、旅行で―――」

「なに!そんなら早く帰った方がええ、今は時期が悪い。出直すが良いじゃろう」

 

 老婆は髪を振り乱し、必死な形相で語りかけてくる。

 

「どういうことですか?」

「じゃあ説明してやろう」

「あ、『祟りじゃーっ!』とか言わないんっスね」

 

 そのお婆さんが随分と丁寧に説明してくれたところによると、この村は別名『八百つ墓村』と呼ばれているらしい。

 

「えらく多いっスね」

「茶化すでない。完全な史実かは置いておいて、ちゃんと伝承が残っておるのじゃ」

 

 なんでも、戦国時代800人の落ち武者が当時の村に逃げ延びてきて、この村が中心となった近隣農民の連合軍とぶつかり合ったそうだ。最終的に落ち武者たちは敗北し、命乞いをすることなく「なんでこんなに強いんだ」との声を上げて死んでいった。村の住人は敵ながらあっぱれと全員分の墓を作ってやったのが名前の由来らしい。

 

「随分とツッコミどころの多い話っスね……」

「800人の落ち武者……落ち武者?」

「大塩平八郎の乱の約3倍、赤穂浪士の約20倍の人数ですか……」

「じゃが、この村に八百つの墓があるのは事実じゃからなあ」

 

 語るところによると、現在落ち武者討伐500周年記念祭らしく村が血気盛んな盛り上がり方をしており、外からくるものも血の気の多い人間が多いそうだ。

 

「それにちょっと村内がゴタゴタしておるしのう……あのもじゃもじゃ頭の冴えない男も止めたのに行ってしもうた……」

「大丈夫です。私たちは温泉を楽しみに来ただけですので。不用意な行動は致しません」

「そうか?それなら、まぁ……くれぐれも気を付けるのじゃぞ」

 

 くれぐれも気を付けるように言い聞かせてくる老婆と別れる。

 

 それから少し歩くと旅館に着いた。予約でいっぱいらしく祭り目当ての飛び込み客と何やらもめていた。

 

 いかにも何か知っていますよといった態度の仲居さんに聞くと、以下のようなことを話してくれた。

 

 じつは落ち武者伝説は序の口であり、現在この村では伝統工芸の大家が本家分家の対立をしており、そこが大手檀家の寺の釣り鐘が老朽化で割れ、どうするかについて現在本家分家で話し合い中だそうだ。

 そして別の名家であるドッグゴッド家が当主が余命間近で当主は恩人の娘ばかり可愛がっているらしい。そして孫の1人がゴムマスク姿で帰省しており、なりすましではないのか、不吉の前触れではないかと噂されている。

 おまけに祭りのゲストとしてここ出身の歌手が帰郷しており、代表曲は「デビル・テマリ・ソング」というそうだ。

 

 なんと名家の話し合いも遺産相続会議も歌手の滞在もすべてこの旅館とのことだ。

 

「あの仲居さん、詳しすぎません?」

「でも、これは何か起きそうじゃない?ワクワクするわ~」

 

 ウーネラスは嬉しそうな様子でふよふよと浮かぶ。

 

「まあ、とりあえず楽しみましょうか」

 

 全員悪魔関係者であるため、物騒な祭りと不穏な空気だけで実際に事件が起こっていないなら揺らがない。

 何なら生半可な心霊スポットに行っても鈴と破壊神なら怪異が逃げ出し、ナプタークと内亜ならば怪異が自ら出てきて跪くレベルである。

 

 皆で温泉と料理を楽しんだ。

 

 羊子はめったにない贅沢でテンションが高く、鈴は年上の後輩に付き合わされて大変そうだが楽しそうだ。

 内亜はナプタークや皆を撮影している。

 ナプタークは地方の名産と郷土料理にワクワクし、破壊神は特産の納豆と付きたての餅を組み合わせた納豆餅が特に気に入ったようだ。

 ウーネラスは何かを期待した様子でそわそわしながら他の邪神や羊子にちょっかいをかけていた。

 

 深夜。

 

「何だ、寝ておらぬのか。まあ、今までさんざん寝ただろうしな……」

「聞きたいことがある……」

「うん?」

「お前はあやつの(つがい)が亡くなったときどう思った?」

「……。何だ、しんみりしとるのぅ。いいから寝ろ!明日も早いぞ」

「……」

 

 

****

 

 

 翌朝、ウーネラスの期待通りと言っては何だが事件が起こった。

 

 被害者は大浴場の脱衣場で出刃包丁で刺されたが無傷だった。何故か出刃包丁が折れ、刺突されて倒れた被害者が呆然としているうちに逃げたらしい。

 返り血を考えてかレインコートをしており、顔は見えなかったそうだ。

 

 騒然とする中、皆で集まって囁きあう。

 

「やっぱり事件が起きましたね。寝る前に旅館の全員にラクカジャ*1とタルンダ*2を最大まで重ね掛けした甲斐がありました」

「あら、やるわねえ。貴女ホントにニンゲン?」

「みんなでできる範囲で探りましたが、悪魔の気配や痕跡は見つかりませんでした」

「うちのカミさんが知能犯の気配がするって言ってたわ~」

 

 ウーネラスはワクワクした様子でよれよれのコート姿で頭を搔き、安葉巻をくゆらせる。

 

「これ、明日帰れるんスかね?内亜さん、運転手さんに連絡とかは?」

「そうですね。どうしましょうかナプタさま?あら、ナプタさま?」

「そういえばおらぬな……」

 

 そのころナプタークは旅館の放送設備へと向かっていた。

 

「はぁ、はぁ、まだ大して名産品も堪能しておらぬのに、取り調べで拘束されるなぞ冗談ではないぞ……」

「あ、ナプさんいたっスよ!」

「ゲェ!?もう見つかったか!」

 

 ナプタークは追跡を振り切り、館内放送のマイクへ飛びつく。

 

狂乱の咆哮(自白しろ)

 

「ナプタさん、何を!?」

「遅かったようね……」

 

 旅館内が騒ぎとなり、見に行ってみると客の1人がペラペラと自供している。ナプタークがこっそりと追い狂乱の咆哮をして今後の犯行計画までしゃべらせている。

 

 駆け付けた警察が手分けして捜索し、今後の犯行の仕込みを確認した。

 

 しかし自供した男は指紋や監視カメラなどの完璧な物証がないことを主張し、徹底抗戦の構えだ。

 

「ナプタさん、もう1回お願いできます?」

「も、もう無理だ……短時間で使い過ぎた……」

 

 するとモジャモジャ頭の男が犯人の前に出てくる。

 

「何だ?あんたは?」

「ぼくは依頼で来ました―――――と申します」

 

 その男は興奮で時折頭を掻きむしりながら仕込みと計画から犯人の動機を見事に導き出してみた。

 

 この推理に関して、真に驚くべき内容であったが、この余白はそれを書くには狭すぎる。

 

 最後のあがきで否認を貫いたため己の生い立ちの秘密、内に秘めた復讐心、恋心まで暴かれてしまった犯人はさすがに降参した。

 

 揉めていた村の各名家もクールダウンし、穏便に話を進めていくようだ。

 

 あまりにスムーズな解決のため、予定通り観光が可能となった。

 

「ナプちゃんは今後ミステリー展開のとき出禁ね」

「吾輩が事件解決の一番の功労者なのに!?」

「あはは……」

「そういいたくなる気持ちも分かるっス」

 

 知らず知らずのうちに名探偵の見せ場を奪った恐るべき邪神の叫びが上がった。

*1
味方の防御力を1段階上昇させる

*2
相手の攻撃力を1段階下降させる

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