いあ!いあ!まぐ=めぬえく!【完】   作:ringosuki

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第2話 悪魔召喚師との邂逅

 市の外れの廃墟にて一人の少女と珍妙な生物が対峙していた。

 

 ほんの少し前までは黒装束の怪しい集団や形容しがたい悍ましさを感じさせるスライムのような怪物もいたのだが、現在は影も形もない。廃墟の床に描かれた魔法陣のようなものや変な道具、寝袋やインスタント食品のゴミなどの生活の跡が彼らが存在していた証である。

 

 彼らを消滅させた原因であるピンクの一つ眼のメンダコのような生き物―――マグ=メヌエクはその大きな単眼で少女をじっと見つめる。

 

「く、供物……お供え物ですか?」

 

 彼を召喚した少女は、かつてないほどの生命の危機に瀕し、それを脱したことや、今まで疑うこともなかった世界の常識を超える光景を立て続けに見せられたことにより、どこか現実味のない浮遊感を覚えながらもおずおずと問う。

 

「左様。先ほど我が権能を振るったため回復のための血肉となるものが望ましい。差し当たり栄養価の高い食物を所望する」

 

 見れば、彼の姿は最初に見たときよりも心なしかほっそりし、頬?もこけている気がする。そこで彼女は自分がスーパーで買い、先ほど彼から手渡されてリュックにしまった好物である納豆パックに思い至る。

 

「よ、よければこれを……さっき拾ってもらったものですけど……」

 

 少女はリュックから納豆のパックを取り出し、開封しながら何かに思い至ったのかはっとした表情になる。

 

「こ、これは納豆といってこんな見た目と匂いだけど腐っているんじゃなくて栄養も―――」

「よい。我は納豆について知っている。高タンパクの穀物を発酵させたもの……その粘性と腐臭が混沌を想起させる……我の好物だ」

 

 破壊神は納豆のパックを受け取り中身を口?に運びながら答える。

 

「え!?神さまも納豆を知っているんですか?えっと、メグ=マヌエク様?」

「『マグ=メヌエク』である。まあ、その名はニンゲン共が我が真名を下等生物の声帯で表現できるように再現したものでしかない。貴様の呼びやすいように呼ぶがよい」

「で、ではマグ様で」

 

 彼女は納豆を捧げものとして受け取ってもらえたことにほっと胸をなでおろす。ちなみに彼は絶えず納豆を摂取しながら話している。人間なら食べながら話そうとすると、抑えても咀嚼音が言葉に混ざってしまうことがあるが、彼はなかなかのペースで納豆を口に放り込み続けているのに、不思議なことに一切話し方が変わらない。

 

「ところで……我を混沌の神々が一柱だと見抜いたのはなかなかの慧眼だが……先ほどの問いは?」

 

 彼女は別に神聖さや神気を感じたとかではなく、彼の口調があまりにも尊大かつ自分を助けてくれた存在だから「神様」と呼んだだけである。もし夜の海岸で見かけていた場合は新種のUMAだと思ったかもしれない。しかし勘違いとはいえ彼は彼女を高く評価したようだ。

 

「あ、あの……マグ様は日本の神様っぽくなかったので、納豆のことは知らないんじゃないかと思って……」

「ふむ、我は上位存在であり貴様らの知りえぬ宇宙の神秘もニンゲン共の世俗の情報も等しく吸収している……」

 

 いつの間にか彼は納豆を食べ終え、げっそりとしていた見た目も元に戻っている。

 

「ところで……先ほどから貴様貴様と言っていたが、我が信徒よ……名は?」

「あ、阿座斗(あざと) (すず)、です」

「よかろう……鈴よ。これから如何にする?」

「え?」

 

 少女―――阿座斗鈴は目を見開く。

 

「この状況を見るに……どこぞの邪教徒共が儀式のために貴様を生贄としてかどわかし、あの我が同胞と似た存在を召喚せしめたは良いものの、不備があったのか離反され、そこに偶然にも我が呼ばれて貴様は辛くも命を拾った……というところか?」

「は、はい」

「ふむ、これは貴様らの社会では『誘拐事件』と呼ばれるのではないか?下手人どもは己が業により消滅したわけだがどう説明する?警察…とやらには我のことは伝えるか否か?」

 

 その言葉で彼女は今まで自分を包み込んでいたどこか地に足がついていなかった浮遊感が消え、現実に引き戻されていくのを感じる。両親が返ってこない自分を心配して何かしらの行動を起こしているかもしれない。このことを警察に伝えてもよいのだろうか。そもそも怪物を呼ぶための生けにえとして誘拐され、そこの小さな神様が全部消し飛ばしてくれたなんて信じてくれるだろうか?下手したらこの神様こそが犯人だと決めつけられ、捕獲され、研究や解剖をされてしまうかもしれない。

 

「ところで……我々を覗き見をしている輩がいるようだな……そこな者よ、何者だ?」

 

 マグ=メヌエクは自らの権能によりできた廃墟の壁の大穴の向こうに語りかける。と、同時に彼女の前へと移動する。

 鈴はもしかしたら事件の関係者かと恐れ、同時に市の外れのため静かな環境なのになんの物音もしなかったことに驚き警戒心を強める。

 

「ドーモ、お二人さん。九頭(くとう) 古夫(ふるお)です。フリーのデビルサマナー、悪魔使いをやっています」

 

 その男は両手を挙げて敵意がないことをアピールしながら自分の姿がはっきりと見える距離までゆっくりと近づいてきた。その後あえて隙をさらすようにアイサツをしながらゆったりとオジギを繰り出す。

 

「ど、どうも」

「ふむ、九頭とやら、殊勝な態度だ、『破壊神』マグ=メヌエクである」

 

 少女は慌ててぺこりと頭を下げ、破壊神は悠々と頭らしき部位を少し下げる。

 

「デビルサマナー―――悪魔を召喚し、使役する者ときたか。それを証明できるものはあるか?此処で儀式を執り行っていた邪教徒共の関係者では無いのか?」

 

 威圧のつもりか破壊神はその肉体を引き伸ばし、九頭の頭上から鋭い眼光で睨み付ける。その小さい体を縦に引き伸ばしたことで、その体のピンク色も相まって切り分ける前の飴にも見える。

 

「我が信徒鈴は儀式の生け贄とされかかったことにより不安定な状態だ……この様な幼な子の心はかよわいニンゲン共の中でも特に脆弱だ……」

 

 彼のその単眼の周りに牙のようなものが生え、バチバチと破滅的なエネルギーが音を立てる。

 

「我は此奴に助けを乞われて此処に現界してやったのだ、それは眼前の脅威を消滅させるだけではなく、元の無為な生活に戻るのを見届けてやるまでが我が信徒への施しとして妥当であろう……」

 

 彼女としては助けてくれたお礼を渡した程度の感覚であるが、破壊神の中では、神への誓願→権能を振るう→供物を捧げられるのプロセスを経て少女が自分の信徒となったことはすでに確定済みの事実である。

 

「いや、俺はここで儀式をした者たちの捜索と捕縛依頼を受けた者だ。結果的に俺は間に合わず、犠牲が出るところだった。その点には感謝している、マグ=メヌエクさん」

 

 彼は己の命が危険にさらされているにも関わらず、再度頭を下げて謝意を示す。

 

「それにあんたに敵いそうにないことは一目見たときから分かってるんだ、とりあえず身分の証明になりそうなものは……」

 

 九頭は敵対行動ととられないようあくまでゆっくりと財布から免許証と保険証を取り出し、破壊神に差し出す。

 

 破壊神はそのような九頭を見据え、目の周りの牙を引っ込めた後手を伸ばしてその2つを受け取り、身体のサイズを少女と同じくらいに縮めて2人でそれをのぞき込む。それは少女から見て色やこまごました内容を除けば、何一つ父や母のものと変わりない免許証と保険証であった。

 

「た、たぶん本物だと思います」

「これでその場で考えた適当な偽名を名乗ったりしてないって分かってくれただろう?まあ、偽造じゃないかとかまで疑われたらきりがないが……」

 

 九頭は破壊神が返してきた己の免許証と保険証を受け取りながら答える。

 

「次はデビルサマナーの証明だな。ああ、ちなみにこの業界じゃ妖怪も天使も全部『悪魔』だ。今から俺の悪魔を喚ぶ。別に大魔王みたいなのが出てくるわけじゃないから安心してくれ。あくまで出てもらって話をするだけだ、()()()でな」

 

 2人が何のリアクションも返さず悪魔が出てくるのを待っており、彼の場を和ませるためのギャグが失敗どころか認識すらされなかったことを察した九頭は、リアクション待ちのために開けた妙な間をなかったことにしつつ自分のスマホに呼び掛ける。

 

「出てきてくれ、『イナバシロウサギ』」

 

 九頭の傍らの床に魔法陣が展開され、小さな動物のようなものが姿を現した。それはまごうことなき白うさぎであった。動物園で見るようなものよりも一回りほど大きいが、小学生の鈴でも抱えられそうな大きさである。

 日本神話に登場し、ワニを口先で騙すことにより海渡りをしようとした因幡の白兎その人である。九頭はその話術、少女に対して警戒心を抱かれにくい見た目を期待してこの悪魔を喚び出した。

 

「ブーブー」

 

 うさぎは2人の姿を確認すると、つぶらな瞳でそちらを見つめ、鳴き声のようなものを発しながらちょこちょこと近づいてくる。

 その愛くるしさに少女はしゃがんで目線を合わせ、手を広げて迎え入れる姿勢を見せる。

 

 しかし破壊神はうさぎの前に立ち塞がり、その単眼で睨めつける。

 

「三文芝居はよせ、白き魔獣よ……九頭の先程の言葉から貴様が人語を解し、話せるであろうことは察しがついている……」

 

 うさぎは近付いてくるのを止め、彼の様子を伺うと後ろ足ですっくと立ち、深々と頭を下げる。

 

「ドーモ、お二方。『珍獣 イナバシロウサギ』の『ルイス』です。申し訳ございません、騙すつもりはなく、この愛らしさでお嬢さんの好感度を上げて懐に入ってから自己紹介を、と考えておりました」

 

 照れくさそうに頭をかく。

 

「見破られてしまいましたがね。破壊神を名乗られるだけのことはある」

「当然であろう」

 

 破壊神は明らかに脊椎というものが存在しない角度でふんぞり返る。

 

「では、軽く自己紹介を。私は因幡の白兎。日本神話に登場しておりまして、私は神様であるオオクニヌシ様に助けていただき、その際に彼のプロポーズが成功することを予言し成就したため、現在は縁結びの神様を務めております」

 

 ルイスはどこからともなくチョッキと鼻眼鏡と懐中時計を取り出し、身に着け始める。どうやら世界的児童小説のアニメーション映画のキャラクターにあやかってセルフブランディングをしているようだ。世界的に見ればそちらの方が知名度は高いだろうが、己の原典をガン無視している気もする。

 

「覚えがあるぞ、因幡の白兎。ワニを謀って海を渡る橋にしようとしたが、失敗し皮を剥がされたところに来た、オオクニヌシなる神に救われたとか……」

「ええ、博識でいらっしゃいますな」

 

 ルイスはあえて触れなかった己の失敗談に苦い顔をしつつも、破壊神へのヨイショを忘れない。

 

 破壊神は自らの信徒獲得のライバルとなりうる別の神や、己の眷属の生き残りかもしれないUMAの学習に余念がなく、元の世界でも「影潜みし破滅の神殿」と名付けたオカルト研究会の部室で書物を読み漁っていた。

 

「ま、これで俺が悪魔使いであることの証明もできたな。それで俺がここに来て君たちを見つけたのはヤタガラス地方支部からの依頼があったからだ。聞いたことないか、お嬢ちゃん?いや、鈴ちゃんて呼んでも?」

 

 一応の自己紹介ができたため、九頭はなぜここに来たか、2人をどうするつもりかの本題に入るようだ。イナバシロウサギのルイスは儀式跡の検分を始めている。

 鈴は名乗った覚えがないのに相手が自分の名を呼んだことに驚く。

 

「え、ええ。あれ、どうして私の名前を?」

「ああ、俺が来て君たちを発見したのは鈴ちゃんが破壊神さんに納豆を渡している場面だったからな、君たちの自己紹介も聞いていた」

「そうですか……ヤタガラスってどこかで聞いたような……」

「例えば、旅行で宿探しって時に朱雀だのフェニックスだのおとぎ話の鳥の名前を付けてるホテル見たことないかい?」

「あ、あります!」

 

 九頭はスマホを操作して、この市にあるヤタガラスグループのホテルのホームページを見せる。

 

「そこを統括してるのがヤタガラスホテルグループだ。ま、それは世をしのぶ仮の姿……ってやつだがね」

「そんな……そんな秘密組織が実際に?」

「ああ。死ぬほどざっくり言えばオカルト版の日本警察だ。こういった事件も警察と連携してうまいこと口裏を合わせてるんだ」

「ふむ……興味深いな、こちらには国に根付いた聖騎士団のようなものが存在するのか……」

 

 破壊神は上位存在への対抗組織が地域ごとにあるのに興味を示したようだ。

 

「で、だ。ここの地方のヤタガラスにヤバイブツを所持した奴らが流れてきたっていうタレコミがあってな、捜索依頼を受けたうちの1人が俺だ」

「他にも貴様のようなニンゲンが動いているのか?」

「ああ、かなり確度の高い情報らしくてな。で、これからどうする?」

「どうするとは?」

 

 九頭は先ほど聞いた2人の会話、破壊神以外の悍ましき神性を感じる魔力の残滓、儀式跡から何があったかをおおよそ察していた。召喚され、暴走したと思わしき邪神は召喚者もろとも消滅したものの、さらにイレギュラーな存在が召喚されている。

 

 彼はこっそりスマホのデビルアナライズ*1を使用していたのだが、解析できた情報は【破壊神 マグ=メヌエク Lv16】だけだった。本来ならば自分一人でも制圧できるであろうレベルであるのに、詳細な情報が取得できず、名前の心当たりもない。偽装情報にしては渡してくる情報が中途半端で、見覚えのない名前で警戒させる意味もない。

 よって九頭はこの破壊神を名乗る悪魔がこちらを欺いていたり、少女に害を与える可能性は低いと判断していた。

 

「俺はこれからヤタガラスに報告を行う。おそらくそこ経由で警察が来て事情聴取になるだろう」

 

 2人にスマホを掲げて見せる。

 

「その場合2人とも来てくれるか?」

「え、ええ」

「よいだろう、我は鈴を見届ける義務がある」

「さすがに事情聴取は別々になると思うが、鈴ちゃんには俺も同席する、安心してくれ」

「九頭さんはこう見えてもそれなりに信頼のあるデビルサマナーですからね、多少の融通は利きます」

 

 ルイスが周囲の調査をしながら口をはさむ。

 

「こう見えてもは余計だ。なんならお腹がすいてるならカツ丼とか頼んでもいいぜ。俺のおごりだ」

「い、いえ、今日は誕生日なので……」

「そうか、それなら早く帰らなきゃな!親御さんも心配してるだろうし、早く方を付けよう」

 

 九頭は依頼主に現状を報告し、指示を仰ぐ。

 

「すぐ警察が来てくれるとのことだ。まだ少し時間がある。親御さんにはどこまで伝えたいとか、破壊神さんをどうするかとか決めておいた方がいい」

 

 召喚儀式が行われる前に犯人たちを制圧できていたのであれば、表向きには何もなかったことにできたかもしれない。しかし、儀式が成功して邪神らしき悪魔が召喚された以上どんな影響が出るかわからないため、市民の防犯意識を高めるためにも誘拐事件が起こったこと自体は公表されるだろう。

 それに被害者である少女の精神状態も不安がある。記憶処理も万が一記憶の封印が解けた場合、抑えていた恐怖が一気に噴き出る可能性がある。本人が強く望まない限りするべきではない。少女も今現在は安定して見えるが、後々カウンセリング等が必要になるかもしれない。その場合何もなかったとして親元に帰していると、親との意識のズレが問題になる。そのため誘拐があったこと自体は親に伝えた方が賢明であろう。

 

 破壊神は少女に向き直り、問いかける。

 

「どうする?鈴よ……」

「助けてもらったので両親に紹介したいです。あ、あとお礼がしたいので私の誕生会に参加しませんか?ごちそうもありますよ」

「ふむ、では饗宴にあずかろうか……その後はこの世界での信徒獲得に向けて動こう……九頭よ、それは可能か?」

 

 破壊神は少女の話から元の世界で暮らした少女と違い、彼女が両親とともに暮らしているのを察し、孤独を抱えている様子も見られなかったため見届けた後は離れることにした。

 

「ああ、聞いたことのない神様だからいろいろと取り調べは受けるだろうが、いきなり敵対されたり封印されたりすることはないはずだ。その後は相性のいいサマナーを紹介してもらって契約、活動ってなれば御の字だろうな」

 

 この悪魔は確認例のない存在であり、レベルの割に強大な力を感じる。それに先ほどからこの世界に訪れたのが初めてであるような発言をしている。ヤタガラスも敵対して不測の事態を起こすくらいなら、取り込んで監視のきく状態に置くだろうと九頭は考えた。

 

「だが、鈴よ。貴様はこの世界での我の第一信徒である……」

 

 破壊神は少女に威厳を持って語りかける。

 

「何かあれば我を呼ぶがいい。さすれば貴様の憂いを破壊してやる……」

 

 それは命の危機に遭遇し、「悪魔」という存在を知ってしまった少女への彼なりの激励の言葉だった。その思いを受け取り、少女はうなずく。

 

「は、はい!マグ様!」

「話がまとまったところで、迎えが来たようだな。とっとと済ませて鈴ちゃんを返してやらなきゃな」

 

 九頭が外の様子を伺いながら言う。

 

 パトカーが付近に停車したのか、ライトの光が壁の穴から差し込んできた。

*1
対悪魔用アプリ 対象悪魔の名前・レベル・耐性・スキルなどを解析する




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造りがしっかりしていてもちもちしていて飽きないです。
予約しなかった人もジャンプショップで運よく見かけたらぜひ買ってほしいです。
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