いあ!いあ!まぐ=めぬえく!【完】   作:ringosuki

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第20話 要注意団体と原初なる言語

 黒い雲が空を流れている。かと思うと急にうねりを上げて地へ流れて来る。

 それは飛蝗(バッタ)であった。

 

 正確には地を覆い尽くすバッタの大群の1匹1匹全てが小型のバッタ型悪魔であった。

それらはろくにマガツヒの含まれていない草や木まで喰らい尽くしてその異界を荒涼とした無の世界に変えていく。

 

 広さだけが取り柄の大したことのない異界とはいえ、周囲の土地や他の悪魔にいっさい還元されることなくマガツヒをただ一種の悪魔に独占された場合、恐るべき暴食の悪魔が誕生するであろう。

 

「これが第五の喇叭が吹かれしときに現れる蝗を引き連れる底無しの淵の王、アバドンか」

「いえ、アナライズにはイペクルイセイ*1とあります」

「本家本元ではないのか?その名は何処かの文献で見たな……」

「ではマグさん、気を付けてください」

 

 鈴と他の仲魔は破壊神にありったけのバフをかけると、破壊神が空けた縦穴に飛び込み防御を固める。

 

 破壊神はのしのしと大群に向かって歩いていく。その体のあちこちに眼が生成され、全方位を睨む。

 

【多眼生やし】+【破滅の眼光】

 

 破壊神を中心として地中以外全方位へ攻撃が放たれる。破壊神は眼光を迸らせたままその場でぐるぐると回る。幻想的でまるでコンサートでのレーザーの演出だが、触れたバッタが片端から消滅していく。

 

 この技は破壊神が今回の依頼のために考えた新技である。自らを企業と自称する男の人型兵器が繰り出してくる薙ぎ払いレーザー攻撃を参考にして開発した。

 長い溜めが必要なうえに周囲の物や味方を招きこみまくるクソ技である。こういうときでもないと使えないだろう。全方位攻撃なら分体生成+自爆の方が使い勝手が良い。

 

 破滅のビーム乱舞がたっぷり数分間照射された後、バッタの大軍は消え失せていた。

 

 取りこぼしがないか鈴も穴から出てきて一緒に見回る。

 

「話を聞いた時はアバドンだと確信したものだがな……」

「それはさすがに手に負えませんし、何よりメサイヤ会の人たちが黙っていませんよ」

 

 見回り中、中心的個体がいたと思われる跡にジンギスカン味のキャラメルを発見した。

 

「イペクルイセイはアイヌの人喰いバッタらしいですけど……まさかこれで?」

「そもそもこの地に発生するのか?誰かが連れてきたのか?」

 

 破壊神がジンギスカンキャラメルを掲げてまじまじと見分し、鈴もアナライズをかける。

 

「ふむ、これは本当にただの砂糖菓子のようだな……珍しい味のようであるし、皆で分けるか?」

「いえ、それはマグさんだけのものです」

「?献上するというのならもらうが……」

 

 鈴は食い気味にジンギスカンキャラメルは破壊神だけで食べることを勧めた。

 

 だが帰っていく2人はこっそりとこの様子を撮影していたカメラに気づかなかった。

 

 

****

 

 

 本日の美術クラブは書道だ。ただし日本語以外の。

 

 鈴は英語で「Happy New Year」に挑戦しているが、アラビア語でSNSのスパムを再現している者がいる。

 

「昨日の授業参観、鈴ちゃんのお母さんも来てたね」

「うん、スピーキングの時緊張したよ」

 

 実際の緊張の理由は破壊神が母親のバッグに擬態して授業参観に参加していたことであり、鈴としては気が気ではなかった。

 

「あーあ、中学からは英語が本格的に始まるのかあ」

「世界中を1個の言語でまとめられたいいのにね」

 

 同級生からなかなかに乱暴な願望が飛ぶ。

 

「今からやろうとしたらみんな自分の国の言葉を推すにきまってるよね」

「じゃあ、万能リアルタイム翻訳機ができる方が現実的かな?」

 

 帰宅後。

 

 授業参観について破壊神からの宣託が告げられる。

 

「異国の者たちへの布教に言語理解は大切だ、頑張っていたな鈴よ……」

「あ、ありがとうございます……」

「依頼が来たぞ、以前ともに十戒の調査に向かったメサイヤ会だ……」

 

 

****

 

 

「今回の相手は『共通言語』です」

 

 今回は直接メサイヤ会の拠点へと赴いた。

 

 前回依頼をともにした似非シスターかつ回転する炎の剣(チェーンソー)使いの天智子は、顔を合わせた直後に挨拶もなしにそう言ってきた。

 

「いやいや、いきなりぶっこみすぎだろ。知らない仲じゃないとはいえ……」

 

 そういって座っていた椅子から立ち上がって呆れたように言うのは、何故か同席しているフリーのサマナー九頭である。

 

「あ、お久しぶりです九頭さん」

「よう。デビルサマナーも板についてきてるな」

「九頭か。なぜ貴様がここに……?」

「似たような案件に関わったことがあってな。それでお声がかかったわけよ」

 

 3人と1柱は会議室へと移る。

 

 

「そういえばあのプロレスラーみたいな方は?」

「ああ、高木は別件です。ダーク・ファイトなる裏格闘興行があるのですが、悪魔か覚醒者あたりが出場しているらしくレギュレーション違反ということで潜入しています」

 

 給湯室の場所を聞いていた九頭がお茶を運んでくる

 

「じゃあ依頼の話をしようや」

「さっき言っていた『共通言語』ですか?」

「はい、バベルの塔建設中断の前に人間が使っていたとされる言語です。ですが、今回は直接は関係ありません」

 

 今回は要注意団体の一つである「antaŭ babelo(バベルの前)」についてだそうだ。

それはバベルの塔以前の言語の復活を謳う団体だが、何をとち狂ったのか言葉が乱される前の共通言語を19世紀発案の人工言語「エスペラント語」としているのが他団体とひと味違うところである。

 

 antaŭ babeloによると、エスペラント語創案者のザメンホフ先生は国際語を創ろうとする試みの中、各言語に共通する「源流」を発見したのだそうだ。彼はそれ生かして作った言語を「エスペラント語」と名付けたが、それこそが人類が失ってしまった「共通言語」であるとの主張だ。

 

「共通言語、統一言語とも言いますが、それにかこつけて事件を起こした団体は今まで結構いたのです」

「バベルの塔再建計画、催眠おじさん共通言語使い説、いろいろあったな……ちなみに俺が関わったのはバビル2…じゃない、バビル3世を名乗る三つの悪魔使いだったぜ」

 

 antaŭ babeloは澄んだ目でキマリきった思想を唱える団体ではあったが、大した力もなくエスペラント語の啓蒙活動がせいぜいだった。

 

「だが、ここ最近風向きが変わったらしい」

 

 タレコミがあったらしく、急に会員が増えて新人も明らかに古参と同レベルでエスペラント語を使いこなしているのが確認された。

 加えて、会員と関係はあるがエスペラント語に興味がない人もエスペラント語が身についてきているらしい。彼らはそれだけエスペラント語が学びやすい言語であり、触れているうちに自然に身に付いたと主張している。

 

「なぜわたしたちを?」

「聞きましたよ。あのイベント会場での大立ち回りは悪魔業界には広まりました」

「あはは……そうですよね……」

「けしからん……」

 

 見ると、破壊神はお冠のようだ。

 

「なんと不遜な……創作者と発掘者の混同をするとは……偉大さを誤って解釈することはその偉業に関心を寄せぬより質が悪い……」

 

 誤った解釈、崇拝というのが琴線に触れたようだ。

 そうして宣言する。

 

「我は降って行き、彼奴等の思想と行いが真に不敬かどうか見て確かめよう……」

「もし真に不敬であれば神罰を下す……」

 

 鈴と九頭は破壊神が思った以上にやる気で慌てる。破壊神が力加減を間違えたらエスペラント語そのものに影響が出かねない。

 

 そこで天智子は進み出て言った。

 

「確かに彼らは邪法を用いて、己の偏った思想を元に言語を広めているかもしれません。しかし、そのことを知らざる者、過ちを突きつければ悔い改めるものがいるはずです。その者たちもまとめて滅ぼしてしまうんでしょうか。そのようなことをあなたがなさるはずはございません」

 

 破壊神は言った。

 

「もしそやつらの中にに正しい者が五十人いるならば、その者たちのために全員を赦す……」

 

 天智子は答えた。

 

「あえて申し上げます。最近急増したとはいえ、50人はあまりに多いかと。もしかしたら、正式な会員はそれに届かないかもしれません。それでもあなたは神罰を下されますか」

 

 破壊神はしばし考えたのち答える。

 

「もし、40人いればやめよう」

 

 すると天は恭しい態度で再度神罰赦免の人数を引き下げにかかる。

 

 破壊神が40人、30人、20人と引き下げるたびにすかさず天がもう一声と人数を下げるのを乞う。

 

「破壊神よ、最後にもう一度だけ言わせてください。もしかすると、5人しかいないかもしれません」

 

「その5人のために我は赦すだろう」

 

 破壊神は交渉が終わりだと飲み物を飲む。

 鈴は先ほどの寸劇の意味が分からず、ただ破壊神が矛を収めてくれたことにほっとしている。

 

「おい、あんた。さっきのはアレだろ?ソドムとゴモラ視察前の神とアブラハムの交渉をマネしたろ」

 

 皆の飲み物のお代わりを注ぎに行った天智子に対して、手伝いを名目についていった九頭が言う。

 

「だって、目の前に神を名乗る方がいて、不徳の者たちに怒っておられるのですよ?やってみたいじゃないですか」

「それにあの破壊神さん、おだてに乗りやすそうでチョロ…おほん、寛大そうな方じゃないですか」

「良いのかい、混沌の神をあんたらの主に見立てて」

「あれは単に不敬な輩に対して頭に血の上ってしまった仕事相手をクールダウンして差し上げただけですよ……」

 

 なかなかにこの似非シスターはくせ者のようだ。

 楽園の立ち入り禁止看板、回転する炎の剣の正体をチェーンソーだと言って振り回しているだけはある。

 

 依頼の説明から数日後。

 

 今回の相手は限りなく黒よりのグレーなため、まず殴ることから始めて違っていたら謝るという蛮族丸出しのやり方である。

 

 あなたたちの活動に興味がある多言語歌唱サークルです。私達にエスペラント語の歌を教えてくださいませんか。依頼料はこれだけで~予算の都合上人気のない開けた場所で~と、偽りの依頼をかけたところあっさり来てくれた。しかもこちらから言い出す前から全員集合で、当日も欠員が出なかった。

 

 街から離れた自然公園の一角で団体が人待ちをしている。今回の依頼のターゲットである要注意団体antaŭ babeloだ。

 

「歌と教えてくれとは初めての依頼ですね」

「それだけ我々の活動が周知されてきたのだろうよ」

「あれ、1人だけ?」

 

 会員の1人が声を上げ、みんなで指さされた方を見やると男が1人で駆け寄ってくる。

 

「ふう、ふう、すいません、依頼した八頭です。ちょっと一息つかせてください」

 

 ハンカチで汗を拭い息を整えた男が表情を申し訳無さそうなものに変えて言う。

 

「あの~こんなことはお伝えづらいのですが……」

「何かトラブルでも?」

 

 察したリーダー格が尋ねる。こういった機会が潰れてしまったかもしれないのは残念ではあるが、依頼料は全額前払いのため損はしていない。

 

「偽りの依頼、失礼した」

「なにっ」

「だがあんたらも薄々勘づいていたんだろう?自分たちにこんな都合の良い依頼が来るはずないって」

「いや、我々の認知度が上がったと……」

「……なんかスマン」

 

 少々気まずい雰囲気になったのを仕切り直すかのように八頭改め九頭が合図を出す。

 

 すると姿を隠してスタンバイしていた鈴と破壊神、天と天使ケルビムが団体を取り囲むように現れる。

 

「ネタはあがってるんだ。あんたら、違法な手段でエスペラント語話者を増やしてるな?スピードラーニングや睡眠学習なんて目じゃないくらい効果的だが、リスクもそれ相応なやつを」

「何を!あれは我々の賛同者からもたらされた秘儀だ!通販の教材と比べてもらっては困る!」

「じゃあやましいところが無いってんなら、その秘儀とやらについてここで説明してくれよ」

 

 ぶっちゃけ尋常でない手段を用いているのはほぼ確定なものの、内容に関してはさっぱりわかっていなかった。

 しかし、向こうは言って自慢したい願望があったのか少しつついただけでペラペラ喋ってくれた。

 

「その秘儀とは原初の言葉(エスペラント語)の知識と使い方を直接脳に刻んでくれるものだ」

「驚きですね。でも、それなら言語学習を通り越して世界を獲れる技術では?」

 

 天が問う。

 

「この秘儀は原初の言葉専門なのだ。それに、だいたい同じ容量の記憶がはじき出される」

「は?」

「大事な思い出を……それはひどいですよ!」

「ああ、記憶といっても思い出といったエピソード記憶ではない。九九のような陳述的記憶が対象だ」

「いや、それも困るんだが……」

「提供者曰く、漢字換算だと中学校2年分だそうだ」

「マジで迷惑じゃねか!」

 

 最近漢字検定4級の過去問を解いてみた鈴は身震いする。あれを覚えなおすのは結構しんどい。

 

「まあ、その技術が科学由来じゃないのは一目瞭然だ。おとなしく縛についてもらおう」

「そもそも貴様らは何なのだ?天使や珍生物、妖怪を引き連れて……日本の警察にはこんな特殊部隊があるのか?」

「そこも知らないのに全部語ってたのか……まあ、ざっくりとそんなもんだ」

 

 こちらをにらみつけてくる会員たちを見て九頭が鈴に合図を出す。

 

 鈴は手近な木の側によると、コンコンと叩いてから幹に向かって拳を振るう。およそ人体が出すとは思えない破砕音が鳴り響いた後、真っ二つになった木が倒れる。

 

 あまり大きな木ではなかったとはいえ、人力では一撃で切り倒すことなど不可能なはずである。断面も生木のもので、事前の仕込みとは考えられない。

 

 このデモンストレーションによって会員たちは抵抗する気をなくしたようだ。今ここで彼らの言う「秘儀」を使ったところでエスペラント語が話せるようになった彼らに制圧されるだけである。

 

 彼らへの簡易的な尋問が行われる。

 

「聞かせてもらおうか、賛同者とは?」

「分からない。とにかく語学が堪能で流暢なエスペラント語だった。世間に出回っていないエスペラント語翻訳本をたくさん寄付してくれたんだ」

「チョロすぎる……」

「ああ、黄衣の少年だった。最初は金持ちの道楽かつ天才少年くらいだと思っていたが、神がかり的な展望の鋭さで私たちを導いてくれる導師と認定したんだ」

「黄衣の少年……」

 

 憤っていた破壊神だが、思ったよりも対象の要注意団体が有難迷惑なだけのやつらだと気づいて怒りが鎮火したようだ。それに気になる単語が出てきたため考え込んでいる。

 

 彼らに魔術的防護はないに等しいので逃走防止の術を掛けたのち連行する。最も会員たちは鈴の試し割りによって逆らう気が完全に失せていたが。

 

「こいつらどうするんだ?」

「メサイヤ会経由でヤタガラスへ連行ですね。申し訳ないですが依頼を出した私たちメサイヤ会の主な手柄となります」

「それに、彼らの更生にいい考えがあるのですよ」

 

 鈴と九頭は智子の意味深な笑みにそれ以上聞くことをやめた。

 

 

****

 

 

 事件後、ヤタガラス施設一室にて。

 

「では、あなたたちは活動をやめる気はないと?」

「そうだ!あの秘儀はやりすぎだったが、原初の言語の真実を広めるのが私たちの使命なのだ!」

 

 彼らは何者かに「秘儀」とやらの実験台にされていたテストケースという面が強いが、事件を起こしたのも事実である。今後火種になる可能性があるが、思想の自由と彼らがオカルトに安易に頼ったことは反省しているのもあって制限しづらい。

 ヤタガラスは罰則適用後の対応に困っていたところがあったが、メサイヤ会からある提案があった。

 

「あなたたちに共通言語の第一人者を呼びました」

 

 智子がイイ笑顔で語りかける。

 

「何?本当か!?」

「ええ。言語とは、意思の伝達とは何かを皆さんに学びなおしていただきます」

「では統一言語師(マスター・オブ・バベル)の後藤さん、狂乱の調理人ナプタークさん、お願いします」

 

 そういうと扉が開かれ、にこにこした表情の男性とヒトデ型のUMAが入ってくる。

 

「私はゴドーですが……まあいいでしょう」

貴様ら(下等生物)は言語を意思伝達のための声帯の振動と思っているようでいかん。吾輩が言葉とは、声とは、精神とは何かから教えてやろう」

「貴方はつい最近までしか過去を収集できない―――面白いお方だ」

「己も面白い発声をするな!今日はよろしく頼む」

【あなた」「たちは」「真剣に」「聞く】

 

 講師役のただならぬ雰囲気にantaŭ babelo会員たちが息をのむ。というか片方は人間ですらない。こいつらの教えを受けて大丈夫かと席を立とうとするも、体は椅子に座って話を聞く体勢のままだ。

 

「『我々は降って行って、直ちに彼らの言葉を混乱させ、互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう。』旧約聖書『創世記』11章7節から……」

「神にもきっとお考えがあったのですよ」

「では、頑張ってくださいね」

 

 そういって智子は部屋を後にした。

*1
アイヌの人喰いバッタの妖怪。狐の神を食い尽くした逸話がある




マグちゃんのLVは21、鈴はLv19です。
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