いあ!いあ!まぐ=めぬえく!【完】   作:ringosuki

22 / 23
第22話 どうかkappaと発音してください

「邪魔するぞ~」

「邪魔をするなら帰れ……」

 

 そういいながら部屋に入ってきたナプタークに対して、破壊神はグイグイと押し出そうとする。

 

「待て待て、本当に帰らそうとするな!謙遜というものを知らんのか!」

 

 邪神はその押し出しに対してがっぷり四つに組んで抵抗する。

 

「ごきげんよう、鈴さんと破壊神さま。これ、旅行のお土産です。今日はこれを渡しに来たんです。あと、ご卒業おめでとうございます」

「こんにちは。ありがとうございます」

 

 ナプタークのパトロンである火手布内亜(ほてふないあ)が邪神どうしの相撲を華麗にスルーしながら入ってくる。そのスルーっぷりに鈴も倣うことにした。

 

 この間鈴の小学校の卒業式が行われた。破壊神は天井に挟まったボールに擬態して参列し、己の信徒の卒業を祝った。

 

「旅行ってどこへ行ったんですか?」

「ふふん。聞いて驚くがいい子娘よ。『新宿』に行ってきたぞ!」

 

 床に転がり相撲自体には負けたものの、部屋からの押し出しを回避したナプタークが誇らしげに言う。

 

「新宿ですか、都会ですね」

「ええ、刺激的な街でしたわ」

「貢ぎ物とは殊勝だな……ナプターク(貴様)は水、他は茶でいいか?」

 

 取り組みを終えた破壊神は台所へ向かいながら言う。

 

「お願いします、マグさん」

「あら、お構いなく」

「ちゃんと吾輩にも茶を出せよ!?3人分も4人分も変わらんだろう!?おーい、聞いているのか(うぬ)?おーい!」

 

 特に返答は返ってこなかった。

 

「でも、ナプタさま以外の邪神の方が家事ができるとは驚きですわ」

「マグさん、ひょっとしたら私より家事が上手かもしれません。一番得意な服のシミ抹消とかすごいんですよ!まるで最初からなかったみたいになるんです」

「シミ抜きではないんですね……」

 

 実際には権能の力加減を覚えるまでに過去多くの衣服が犠牲となったが、知っているナプタークは何も言わなかった。

 己の信徒に見栄を張るのを、見て見ぬふりする情が恐るべき邪神にも存在した。

 

「ほら。茶だ……」

 

 破壊神が茶を淹れて戻ってきた。

 

「じゃあお土産をあけるのはどうです?ちょうどお茶に会うものなんです」

「いいですね。そうしましょう」

 

 風呂敷で包まれたお土産を開けると、お煎餅が出てきた。

 

「『新宿』で評判のお煎餅屋さんのものです。なんでも、店主さんがお米農家さんと直接契約して仕入れてお店で焼いているそうですよ」

「それはすごいですね。あ、いい香り……」

 

 せんべいを出すとコメの焼けた匂いがふんわりと広がる。

 

「この国で一般的な穀物を練ってタレをつけ焼いたもの……これが日本の聖餅か……」

「食レポが独特ですね」

 

 一同はお茶を飲みながら土産話に花を咲かす。

 

「そういえば、そのお煎餅屋さんには売りがもう一つありまして、店主さんがとても美しい男性でした」

「それが売りのおせんべい屋って珍しいですね」

「驚きました、あんなにきれいな殿方がいるなんて。もしかして()()かとも思ったのですが普通?の人でしたし」

「ぼんやりした奴だったがせんべいに対してはなかなか熱いものを持っていてな!コメ談義で盛り上がったぞ!」

 

 

****

 

 

「そんなに変わった悪魔が多いんですか?」

「そうっスよ!こっちを狙って走ってくるトロッコにはねられた人もいるんスよ!?」

「トロッコ問題の悪魔か……?」

 

 鈴と破壊神、羊子とウーネラスで藪の中を進んでいる。

 

 今回の依頼は異界討伐のヘルプである。

 

 元は羊子が他の豊穣の会会員と進めていたもので、変種の悪魔の初見殺しにより仲間たちは一時的にリタイアしてしまった。今は療養中だ。

 

 そこでコネがあり、羊子より腕が立つ鈴に白羽の矢が立った。 

 

「だって鈴ちゃんとアナタ、変わった悪魔との遭遇多いでしょ?貴方だってユニーク個体じゃない」

「並ぶ者なき孤高の存在と言って欲しいものだ……」

 

 そういって藪を漕いでいくなか、ふと破壊神がつぶやく。

 

「最近霊格の伸びが悪くてな……この活躍と信仰ならもっと伸びてもよさそうなものだが……」

 

 実際に依頼をこなしてきたことにより徐々に知名度が上がっている。ダゴン秘密結社内でも広まってきているらしい。

 

「マグちゃんはゲームでいう()()キャラなのかもね」

「?」

「マグさん、えーと、大器晩成ってことです」

「いわゆる600族っス」

「何だ……そういう意味か……」

 

 鈴がフォローを入れるも、ウーネラスはバッサリと言う。

 

「RTAでは採用されずおいていかれるキャラね」

「あと、経験値配分やリソースが厳しいゲームだと普通プレイでも花開く前にエンディングってこともあるし、弱キャラと勘違いされて育ててもらえないこともあるわね」

「進化先があると信じてどん詰まりのキャラや武器を育てたあの時間……ウッ、頭が……」

「何だこやつは1人で……」

 

 ゲーム知識を語っているうちにトラウマを掘り起こしてしまったウーネラスを、破壊神が冷ややかに見る。

 

 ようやく藪の中から異界へと侵入する。

 

「スポンサー様は普段は特別製カメラで見てることが多いのになぜ現地へ来たんスか?」

「面白そうなものが見れそうだったからよ」

 

 そういうウーネラスはビット型カメラを付随させている。

 

「これ良いでしょう?しかも脳波コントロールできるのよ」

「でもマグちゃんと鈴ちゃんが積極的に出ると山なし谷なしの依頼になりそうで面白くないわね。今回は2人は前衛後衛反対で行かない?」

「戯けたことを……」

「今なら私特製の近接武器も貸すわよ?」

「そんなものがあるならそこの羊子にでも貸してやれ……」

 

 破壊神は全く取り合う様子がない。しかし、ウーネラスは口調を真剣なものにして語る。

 

「アナタ、いつも鈴ちゃんを庇えるような位置で戦っているでしょ。遠距離攻撃も全部受け止めているみたいだし。接近されて逃走も近距離で迎撃もできない遠距離支援ユニットはダメよ」

「鈴の霊格ならそこらの有象無象には……」

「そこが問題なのよ。なまじ2人が優秀だからサクサクこのレベルまで来てしまったの。鈴ちゃんは訓練以外でそのさすまたや警棒を使ったことはある?」

「いえ、あまり……」

「でしょう。この異界は2人の適正レベル未満みたいだし、いい機会だし体験しておくべきだわ」

「しかし……」

「マグちゃんも信頼してやりなさいな。ワタクシがいるから万が一は起こさないわ」

 

 そういってどこからともなくバカでかい杭付きの武器出して鈴に手渡す。

 

「あの、これは?」

「良いでしょう?これでルビコニアンデスキュベレイを倒したのよ、伝奇ノベルゲームの聖職者も使ってたしね~」

「ちょっと扱える気がしないです……」

「じゃあこれは?」

 

 そういうと今度は砲身が2つくっついた消しゴムのような形の砲台を出す。

 

「これは肩に載せて使うの。私もアプデ前は散々お世話になったものだわ~。両手が空くから何かと便利よ」

「あの……私はこの討伐棒で行きます。それは良かったら羊子さんにどうぞ」

「そう?残念ね。あと、これレベル制限がある装備なのよ。羊子にはまだ扱えないわ」

 

 邪神が出す過剰火力の武器を使う気はないが、破壊神に守られている自覚はあったため前に出て戦うことは乗り気のようだ。

 

 パーティーの隊列を変えて進んでいくと河童がいた。向こうもこちらに気づいており、戦闘をする気はないようだ。

 

「やあ御客人。私のことは二十三号と呼んでくれ」

 

 話を聞いてみると、現在この異界では異界の主を自称する3体が争いあっているとのことだ。本当ならここの住人である彼にとっては真剣な話題のはずだが、随分とおかしそうに語っていた。

 

 事情を話した後、厳かな場での不謹慎ジョークを考えるのに忙しいと真剣な様子で別れていった。

 

「そんな事情があったなんて知らなかったっス。その前に撤退したんで」

「そういえば今回もあの梅の枝を?」

「あるっスけどあれは奥の手っスよ。でも一応捧げ物としてドイツ語の詰め込み教育をしてきたっス」

「使わないように頑張りましょうね」

「はい!センパイ!」

 

 何者かが近づいてきているようで竹が揺れ、葉が落ちてくる。どうやら相手は竹を飛び移って上空を立体的に機動しているようだ。

 

 ウーネラスと破壊神を内側として羊子と鈴が前後に立って警戒態勢をとる。

 

 眼の前に落ちてきた存在は見事なヒーロー着地を決め、叫ぶ。全身タイツに身を包んだような姿だ。

 

「地獄からの使者、スパイダーカンダタ!」

「お前たちの力を見せてもらおう!」

 

 そう言って飛びかかってくる。

 

「電撃反射です!」

「じゃあ奥の手は無理っスね、合わせて!」

 

 悪魔のレベルとステータスは羊子以上鈴以下といったところだ。

 

 激しい打撃技が矢継ぎ早に繰り出され、羊子が押され気味になる。1対2ではなく1対1を交互に行っているような形で攻め切れていない。

 

 ウーネラスは応援と撮影をし、破壊神は回復アイテムを握りしめながら見ている。

 

「この程度ではこの異界の攻略などできねえぞ!」

 

 鈴が討伐棒で爆発を起こすが、明らかに何かを狙う動きだったためあえなく躱される。体勢を崩した鈴を羊子が庇うが防戦一方だ。

 

「競うな、持ち味を活かせ……」

 

 破壊神の喝が入る。

 

「貴様が最近銃と魔法の鍛錬に力を入れていたことは知っている……近頃観た劇画と映画の影響であることもだ……」

「それは言わないでください!」

 

 かめはめ波を練習する子供のようなことをしていることをばらされ、鈴が叫ぶ。もっとも鈴の場合は実際にフィクションの技を再現可能であるが。

 

「近距離の戦いで銃を使ってはいけぬということはない……貴様なら勝てる……」

「はい!マグさん……」

「熱い師弟のやり取りの最中悪いんスけど、早く助けてー!」

 

 見ると羊子は攻撃をしのぐので精一杯だ。

 

 鈴が助けに入るも一足遅く、スパイダーカンダタが放った蜘蛛の巣に動きを封じられた。

 

「くらえい!」

 

【スパイダーネット】

 

 羊子は蜘蛛の巣を避けたものの、一部が張り付き動きが阻害される。

 

「うおおお!ソードビッ―――」

 

【メギド】

 

「ぐおっ!?」

 

 スパイダーカンダタなる悪魔は呼び出した身の丈ほどもある剣を投擲しようとしたが、タメが長かったため鈴のメギドを食らう。

 

 その隙に鈴は蜘蛛の巣から羊子を助ける。

 

「羊子さんは私を信じて相手を殴ることだけを考えて!」

「鈴センパイ、信じるっスよ!」

 

 鈴はホルスターから拳銃を出し、反対の手で討伐棒を短めに持つ。果敢に突撃する羊子の隙間を縫って弾を打ち込む。

 

【鎧通し*1

【ピンホールショット】

 

 内部に伝わる衝撃と一点集中の連続射撃を受けて悪魔は地面に転がる。2人はさらに畳みかけようとする。

 

 スパイダーカンダタは両手を上げ叫ぶ。

 

「待ってくれ降参だ!お前たちを試したんだ!」

「どういうことだ……」

 

 破壊神は2人の側にいつのまにか来ていた。宝玉*2を2人にそれぞれ使いながら聞く。

 

「この異界では2体の悪魔が争っているんだ。何度も戦っては決着がつかず、体力を回復させるために周りの悪魔を喰らってな。ひどい有様なんだ」

「河童の二十三号さんは3体の悪魔の主の争いと言っていましたが……」

「あいつらは引きこもりの偏屈種族だ」

 

 スパイダーカンダタはそう吐き捨てる。

 

「こういう食い違いは三つ巴のクエストあるあるね。その2体って?」

「ああ、燃える猿の『良秀(よしひで)』と羅生門を召喚する『下人』だ」

 

 そこで羊子が思案気な顔をする。

 

「ん?藪の中の異界……河童…カンダタ……良秀……羅生門……」

「どうしました?羊子さん」

「あ、ああ、あーー!そういうことっスか!この異界って」

「どういうことです?」

「全部芥川龍之介つながりなんすよ!わからないっスか!?」

「あの、蜘蛛の糸くらいしかわからなくて……」

「そういえば鈴センパイはこの間まで小学生でしたっスね。落ち着いててアタシより強いんで忘れてました」

 

 と、どこか遠くで獣の叫び声が聞こえた。

 

「多分あいつらが戦っている、行こう」

「あやつらにも話を聞けばわかるだろう……最終手段でまとめて……ということもできる

 

 少し歩いていくと2体の悪魔が争っている。

 

「そこまで2人とも!地獄からの使者、スパイダーカンダタ!」

 

 スパイダーカンダタの名乗りと制止に、絶えず炎を纏っている猿と和服を着た男が叫び返す。

 

「貴様が共倒れ狙いで裏で糸を引いているのだろう!私は必ずしもこいつを倒す必要はない、もう格付けは済んでいるしな」

「何だと!てめえらが結託してまず俺を排除しようとしてるんだろうが!」

 

 ひとまず戦い自体は止まったが、いつこちらを巻き込んで再開してもおかしくない空気だ。

 

「なんか主張が食い違っていますね……」

「ん?これって……」

 

 ひそひそと相談をしていると、鈴たちをそっちのけで三つ巴の戦いに突入してしまった。

 

「血の池地獄の血液を喰らえ!」

「火・点・燃・全(火を点けろ、燃え残った全てに)」

「そんなもんで俺の羅生門を貫けるか!」

 

 スパイダ―カンダタがウォーターカッターのようなものを飛ばし、良秀が腕を振るうと炎が噴き出し、下人が羅生門を召喚して盾にする。

 

「まだ習ってないですけど、羅生門ってあんな話じゃない気がします……」

「これはこれで撮りごたえがあるわね~」

「藪の中の異界でこれってことは……破壊神さん、ちょっといいスか?」

「なんだ?」

 

 羊子は破壊神へと耳打ちする。

 

「どうします?3人を止めますか?」

「いや……これが最適解らしい……」

「蜘蛛男戦で経験は積めたしね~。撮れ高もばっちりだわ」

 

 破壊神が己の肉体を半分に分割し、分体を生成する。

 

 それを羊子が見事なフォームで投擲する。

 

「七夕祭りのストラックアウトビンゴゲーム優勝者の名にかけて!一球入魂!」

 

【自爆】

 

 争う3体の悪魔が固まっているところに飛んでいき、爆裂する。

 

「チミチャンガにされちまった!」

「芸術的な終わりではない……」

「きっと、そうか……」

 

 とっさに離れようとしたり防御しようとしたものもいたが、思った以上に広い爆発範囲から逃れられたものはいなかった。

 

 主を倒したからか、異界を構成していた有力者をまとめて消したからか異界が消えていく。

 

 気付いたら元の藪の中にいた。

 

「最後はずいぶん雑な解決法でしたね……」

「鈴センパイも芥川作品を授業でやったらわかるっスよ。あれは馬鹿正直に付き合って真相解明しようとしない方がいいんです」

 

 周囲を確認したのち、帰り支度をする。

 

 帰り道にて、羊子が鈴に中学での文芸作品について教えている。邪神同士は今回の1件について語り合う。

 

「別の幻想や信仰の皮を被った悪魔か……前にもこのようなことがあった気がするな……」

「私もネットの掲示板、SNSで似たような話を見ているわ」

「貴様は相変わらずニンゲンの文明にどっぷりだな……まあ良い。おそらく裏で糸引いてるものがいる……」

「でしょうね」

「そういえばあのちょっかいをかけてくる奴(同胞)は?」

「さあ?一緒に来てはいないわ。でも、今思い返してみるとこの異界渡りが都合良くうまくいったのよね。何回かトライ&エラーするつもりだったのに、まさかの一発成功」

「……」

 

 真相は藪の中である。

*1
敵単体に小威力の物理属性攻撃。3ターンの間、対象の防御力を1段階低下させる

*2
味方単体のHPを全回復する




マグちゃんはLv21、鈴はLv20です。

【地霊 スパイダーカンダタ(ツチグモ) Lv17】
防御相性:氷結弱点 電撃反射
スキル:【スパイダーストリング】【ポイズンクロー】【ジオンガ】【ソードビッカー】
・ツチグモに某親愛なる隣人系ヒーローと罪人のガワを被せた悪魔
・利己的な悪人とヒーローの言動が混ざっている

【魔獣 良秀(ショウジョウ) Lv18】
防御相性:火炎耐性 衝撃弱点
スキル:【燃えたぎる一撃】【バインドクロー】【スクカジャ】
・ショウジョウにとある絵師のガワを被せた悪魔
・溺愛する娘がいたのかその娘のペットだったのか記憶が混濁している

【外道 下人(タトゥーマン) Lv16】
防御相性:破魔無効 呪殺弱点
スキル:【羅生門召喚】【挑発】【絶命剣】
・タトゥーマンにとある職にあぶれた下人のガワを被せた悪魔
・走り出していった後のことは本人も覚えていない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。