2023年2月27日(月)発売のジャンプGIGAに上木先生の新作読切『サラマンドラの囚神』(作画協力:小浪豊)が巻頭カラーで掲載されます。
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駆けつけた警察に同行していたヤタガラスの人間に対して、九頭は状況の説明を行い、イナバシロウサギのルイスは召喚に使われた魔道具や魔導書などの鑑識の手に余る物品について伝える。
九頭はルイスを引っ込め、鈴と破壊神とともにパトカーに乗せてもらい、最寄りの警察署へ向かう。警察署に到着すると、鈴と九頭、破壊神マグ=メヌエクと2つに分かれて取調室に通される。
2人の方は2名の男女の警察官が事情聴取を担当し、どちらの警察官も悪魔関連の事件に精通しているが、主として聴取を行うのは少女に無用な威圧感を与えないためか女性の方となっている。
鈴にどのように事件に巻き込まれ、何が起こったかを聞いていき、彼女の応答に時折九頭が補足を加えていく。少女が比較的安定している精神状態であったため、聴取は滞りなく進んだ。
聴取が一通り終わった後、聴取を担当している女性警官が鈴に言う。
「ありがとう、聴取は以上よ。九頭さんの予想通りこの事件は表向き誘拐事件として処理されると思うわ。ああ、被害者名は非公開にするから安心して」
「はい」
「それで、もうご両親には来ていただいているけど、どこまで説明したい?」
「ええ、やはりマグ様を両親に紹介したいので、悪魔?についても伝えたいです」
「了解したわ。あっちの方の事情聴取ももう少しで終わると思うから、そこでみんなで対面と守秘義務とかの説明をしましょうか」
となにやら傍らの男性警官に指示を出し、彼は退室していく。
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一方、破壊神の向かった取調室の方でも事情聴取が行われていた。
彼の取り調べを直接担当するのは、国の霊的防衛機関ヤタガラスの人間である。万が一を考えて、彼が召喚した「聖獣 コマイヌ」が傍らに控えている。狛犬とは寺社仏閣の門番や守護を司る存在であり、この個体は口を厳しく閉じているため吽形の方のようだ。
取り調べ担当官は背筋を伸ばして椅子に腰かけており、破壊神も椅子の高さのかさ増しするためのクッション等が積まれた上に鎮座している。
三者で軽い自己紹介を行った後に取り調べが始まる。
「素直に取り調べに応じてくれたことに感謝する。まず、君の名前と種族、というか君という存在のルーツを教えてほしい。こんな神に作り出されたとか、人々のこんな信仰やうわさが元になったとか」
「我が呼び名は『マグ=メヌエク』。貴様らの観測できぬ時空より出で、深淵なる混沌を見通す叡智と世を欲しいままにする権能を持ち、永劫を生きる上位存在である……」
「君と同種の存在はいるのかい?」
「上位存在たる混沌の神々に列するのは6柱のみである。無論我は序列第1位である……」
破壊神は飲み物としてコーヒーを所望し、カロリー補給のためか角砂糖をカップに次々と放り込んでいる。
「君たち全体を指して、なんと呼ばれることが多かったかな?」
「ニンゲン共は己の理解できないものに名を当てはめ卑小な安心を得るのが好きでな……神を細分化して『邪神』と呼称されることが多かった。我のみとしては、我が『破滅』の権能を畏怖して『破壊神』とも呼ばれた……」
彼はカップのコーヒーに手をほんの少し浸けて温度を確かめ、コーヒーを己の口へと流し込む。
「焼いた豆を湯に浸け抽出した暗褐色の液体……含まれる覚醒成分が我が意識の冴えをさらに明瞭にする……」
なぜか眼球がうっすらと発光している。破壊神の発言からするとコーヒーに含まれるカフェインで眼が冴えたと言いたいのだろうが、光る意味が分からない。
「神話として語り継がれているような活躍や、信者たちにこんなことをしてやったみたいなエピソードはあるかい?」
破壊神は記憶を辿り、元の宇宙で信徒に請われて行った大規模な破壊や他の混沌の神との間に起こった争いを語る。担当官は要点を書き記しながら、内線で裏付けのための調査を依頼する。
破壊神の語りに熱が入り、話が脱線して己を讃える賛美歌ならぬ賛邪歌の紹介を始めたころに、ひとまずの調査の結果が返ってくる。
「軽く調べてもらったけど、『破壊神 マグ=メヌエク』の記録は皆無だね。それだけの活躍をしていたら何かしらの記録は残るはずだけど……マイナー神話の神様にしては不釣り合いな力を持っているし、九頭くんの報告には初めてこの世界に来たかのような発言があったらしいが……」
「左様。我は位相を異にする別宇宙より来訪した……」
ここで破壊神は己が別宇宙から来たこと、邪教徒たちが似通った性質を持つ邪神を召喚したこと、封印から目覚めかけで夢がこの宇宙とつながったこと、少女の助けを求める思念を感じたことなど自分が顕現したと思われる理由を説明していく。
「ありがとう。君の話は矛盾がなく筋が通っている。しかしイレギュラーな事態過ぎてその話の証明に時間がかかるかもしれない……」
「此方としても無駄な時間はかけたくない。これを持っていけ……」
そういうと破壊神はむちりとパン生地のように自分の片腕をむしると、机に置く。腕の切れ端は小さなマグ=メヌエクへと姿を変え、担当官の近くまで行く。
「これは!?」
さすがに担当官が驚いて問いかけると、破壊神は角砂糖をかじりながら答える。
「我が分体を生成した。好きなように調べるがいい。ああ、栄養を与えすぎると爆裂するので注意せよ……」
「こんなことまでできたとはね……これで君の調査が進むし、ここまで協力的な態度を示してくれたこともプラスに働くよ」
「そちらで潜んで見ているものにでも任せるがいい……あとコーヒーのお代わりを所望する」
破壊神は取調室に据えられている鏡の一点に視点を合わせながら言う。
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―――気付かれた。
破壊神がいる取り調べ室の隣室にいたヤタガラスの女性は、マジックミラー越しに破壊神を自称する正体不明の悪魔と目があったことに驚愕する。
彼女がここにいるのは、正体不明の悪魔の存在の報告があったことに起因する。レベルの割に強大な力を持ち、神性を感じさせ、名前に一切の心当たりがない。邪教徒捜索依頼請負人の1人である九頭からそのような報告があってから、ヤタガラス側はすぐに調査を始めたが、一向にヒットしない。
「怪異 トイレノハナコサン」や「外道 ホッケーマスク」など現代の畏れや信仰から新しく生まれる悪魔は珍しいながらも確かに存在する。しかしそういった悪魔は存在の骨子となる歴史が浅いため、得てして弱めであったり、発生場所の風評や言い伝えに影響されやすい。
例えば「外道 ホッケーマスク」は、マチェット(鉈の一種)やチェーンソーを持った個体が確認されている。
だが、アイスホッケーの本場カナダで確認された個体は、名前と土地柄に引っ張られたのか手にホッケースティックを持ち、殴打やパックを撃ち出す
だが「マグ=メヌエク」なる悪魔は神格持ちである可能性が高いのに、過去の記録が存在しない。神格というものは適当な人や超常現象を祀って、大勢の人間が祈りを捧げればすぐにポンと付与されるようなものではない。
とある界隈で物理法則を司る神扱いされている物理エンジンなどは、最低でもあと300年は神扱いされたうえで語り継がれないと神格を持つことはないだろう。
そういうわけでその悪魔が取り調べに応じて警察署に来ると分かると、彼女も情報系術者として呼ばれたのだ。
彼女は数名の同僚とともに件の悪魔が入る予定の取調室の隣の部屋へと入り、認識阻害の術を掛けた。念のために悪魔本人に認識されていない状態で観察・分析してほしいとの上の指示だ。
たとえ知識としてマジックミラーを知っていて、気配を探っても隣室は無人であると誤認させるようにした。
仮にその悪魔が百目*1の多眼による360°の視界のような何かしらの「視る」力を持っていても、非敵対状態であるならば確認されたレベルの約2倍のレベル30台であったとしても何とか隠ぺいできるはずだった。
その悪魔の取り調べの様子を観察しつつ、報告や応答の内容、分析した情報に矛盾がないか示し合わせたり、所見を述べあったりしていたのだが、悪魔が何でもないことのようにこちらに気づいていることを伝え、こちらを見つめてきた。
しかも認識阻害の術を掛け、この部屋の中で一番悪魔の解析に秀でているであろう自分に視線を合わせている。
思えば大きな単眼が特徴の悪魔であった。メデューサやバロールの「魔眼」や、広目天の「千里眼」のごとく「視る」ことに対する絶対的な権能を所持していたのかもしれない。それならば低レベルで顕現したとしても、認識阻害を見破れたことに納得がいく。
少しまずいことになったと、角砂糖を食べながらこちらを見やる彼の大きな眼から視線を逸らすことができないまま彼女は考える。
彼は一貫して此方に協力的であり、探知した限りでは悪魔としての正体を偽っている証拠はなく、本当に別世界の神である可能性が高い。少女を助けた件を考えると人に友好的な神格である可能性が高いが、そこは悪魔であり、神である。
神と名の付く崇め奉られることの多い悪魔は、人に欺かれることを嫌いがちだ。いたずら好きの妖精のように、騙し騙されを悪魔と人のコミュニケーションの一つと考えない。誠実さには恩恵を、偽りには罰をと割り切っている場合が多い。
今回のこの行為はあなたを信用していませんと言っているようなものだ。いつ慈悲と神罰の天秤が傾くかわからない。
未知の悪魔を警戒して念を入れるのは必要なことだが、それで相手の心証を悪くしていたら世話がない。
これならば最初から取り調べに同席させてもらって観察していた方がまだましだったと後悔しながら今後とる行動を決める。
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破壊神のいる取調室に気まずい沈黙が落ちる。取り調べ担当官は隣室に認識阻害をかけてこちらを観察していたヤタガラスの人間がいたことは知らされていなかったが、破壊神の発言によりおおよそを察していた。
彼が何か言おうとしたとき、扉がノックされて隣室に潜んでいたヤタガラスの女性が入ってくる。彼女は破壊神に対して頭を下げる。
「此方の存在を隠して探るような真似をして申し訳ありませんでした。民間人を保護し、こちらに終始協力的な態度をとってくれたあなたに対して不誠実でした」
「謝罪を受け取ろう。我ら混沌のものはニンゲンよりもはるかに智慧深く狡猾だ……おまけに世知れぬ神とあれば警戒されても仕方なかろう」
「ありがとうございます」
「それよりもそこの分体を調べるがいい。我の証言の裏付けとなるはずだ。好きなように使い潰して構わん……」
「しょ、承知しました……」
彼女は担当官からミニ・マグ=メヌエクを受け取ると、恐る恐るそれを手に乗せて退室していった。
担当官は内線でコーヒーのお代わりの要求を伝えると、再び姿勢を正す。
「申し訳なかった」
「貴様が知らなかったのは察している。これ以上物言いをするつもりはない」
「感謝する。それでこれからについてだが、九頭くんからある程度は聞いているが……」
「ああ、鈴より供応を受けたのち元の営みに戻れそうなのを見届けたら、この世界での信者獲得に動くつもりだ」
「君の一応の身分証明が終われば、我々の管轄下でという条件は付くだろうが、こちらの斡旋するサマナーと契約してマガツヒ……信仰や感情エネルギーを得ることができるだろう」
「我はそれで構わんが、この国を守る裏の機関とあろうものが、異邦の神に対して随分と手ぬるいな?」
破壊神は存在しない眉根を寄せる。彼の知る超常の組織は味方側であれば熱烈な狂信を捧げ、敵対する側であれば過度な警戒や真意を確かめるための実力行使、あるいは単に破壊神の権能を利用するために今いる邪教徒を排斥してなり替わろうとすることが多かった。
そのため九頭なる悪魔召喚師が言った、破壊神からすれば甘い見通しが首尾よく通ったことに少々驚きを感じている。
元の世界への送還のために相手が実力行使に出ることも予想していた。
そうでなくとも丁寧に礼を尽くして送還を乞われたら、了承してこの夢の肉体を覚ますつもりであった。
「ヤタガラスは万年人手不足でね、君のように強大な力を持ち、天津神や国津神でもないのにウチに肩入れしてくれそうな悪魔は希少なんだ。逃したくないというのが本音だ」
「なるほど……相分かった」
「ありがとう。では詳しい条件は後日に」
そう言うと担当官は内線で何処かに一報を入れると立ち上がる。
「向こうの事情聴取ももう終わっているそうだ。彼女の両親への説明が会議室で始まっているようだ。君も来てほしいとのことで、お代わりのコーヒーもそちらへ運ばせる」
「よかろう……」
2人は席を立ち、取り調べ室を後にする。そのあとをコマイヌが付いていった。
【邪神 ハヴォック】
・特定の世界にて物理法則を司る神。
この神から加護や神罰を受けると、物体にのめりこんだり、高速で猛烈に振動したり、手足がグニャグニャに伸び縮みしつつ空の彼方に吹き飛んで行ったりする。
受けた対象にとって有益か不利益かの違いしかなく、起こる現象の理不尽さには変わりがない。