いあ!いあ!まぐ=めぬえく!【完】   作:ringosuki

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第6話 特殊召喚事例-XX号についての協議

 破壊神と悪魔召喚プログラム開発者の対面から約10日後、ヤタガラス地方支部にてその地方支部の各方面の代表者等が顔を突き合わせて情報の共有、重要案件の方針決定・承認などを行う会議が開かれていた。

 

 本人自身の出席率は7割強といったところで、機械によるリモート参加が2割、こだわりか特殊な事情があるのか式神などの非電子的なリモート参加が1割弱である。

 

「空飛ぶスパゲッティモンスターの反存在である地に潜るひやむぎモンスターの出現事件につきましては以上です。次の議題は特殊召喚事例-XX号についてとなります」

 

 会議の司会進行役が端末を操作し、会議室の大画面ディスプレイに表示されている内容が切り替わり、ピンクのメンダコに似た姿の悪魔の画像を映し出す。

 

「この召喚事例の存在しなかった悪魔XX号、本人は『破壊神 マグ=メヌエク』を名乗っておりますので今後はマグ=メヌエクと呼びます、の処遇についてです」

「それではXXさん、XXさん、マグ=メヌエクの説明をお願いします」

 

 進行役が普段はこの会議に参加しないはずの2名に話を振る。

その2名は破壊神の事情聴取を受け持った者と、彼の調書の際に分析を行った情報系術者のうちの1人で、分体を受け取ってその後の調査にも一番長く関わった女性である。

 

「悪魔マグ=メヌエクの取り調べを担当しましたXXです。彼について、召喚経緯、取り調べ内容とその裏付け、文献の調査結果と分体の検査結果を踏まえた正体の推論を要点をかいつまんで説明をさせていただきます」

 

 そういうと彼は端末を操作し、破壊神の召喚のきっかけとなった邪教徒の儀式の現場写真や儀式現場の調査結果と召喚時についての破壊神の証言の抜粋を表示する。

 

 邪神の召喚儀式とそれに伴う誘拐事件に関しては、既に別の会議で情報の共有や今後についての議論が終了している。そのため事件のあらましの振り返りと現場検証や、生け贄として誘拐された少女や第一発見者のデビルサマナーの証言と破壊神の証言が矛盾していないことの再確認で終わった。

 

 次に画面に彼自身の来歴についての証言の抜粋が表示される。

大きな規模で権能を振るったり、他教団や敵対組織との抗争など事実であるならば、どんなに秘されようとも確実に何かしらの爪痕を残すであろう出来事が中心である。

 

「此等については、証拠となるものが一切発見できませんでした。これだけならぽっと出の新種や突然変異の悪魔の戯言と捉えることもできます。しかし、後で述べますがマグ=メヌエクの能力を考えるとあながち嘘とも言い難いです」

「次はマグ=メヌエクの提供した分体の検査結果をお伝えします。XXさん、お願いします」

 

 彼は端末を操作して画面を切り替えると、説明を情報系術者の女性にバトンタッチする。

 

「検査に携わりましたXXです。体組織の検査結果としては、皮膚や筋繊維の様な生物的要素のない珍しいタイプと言えます」

 

 悪魔は人間界においては感情エネルギーであるマガツヒを用いて実体化している仮初めの存在にすぎない。しかし、天使族から羽を、邪鬼族から角などをドロップアイテムとして獲得できるように固有の組成をしており、倒されるなどしてマガツヒに戻っても人間界に一部が残ることがある。例えば、魔獣オルトロスであれば発達した牙や体毛などイヌ科の特徴が、妖樹マンドレイクであれば細胞壁や葉緑素のようなものなどの植物的特徴が、というようにその体の組成は伝承などに大きく影響されている。人間型や動物型であれば骨折や出血といった概念も存在する。

 

 そこから考えると破壊神は精霊などと違い確固たる肉を持った体であるのに、生物的要素が見受けられない。触腕を持つ悪魔も内部に筋肉を内蔵していることが多いが彼にはそれがない。例えるなら不定形で変幻自在だが、根本的に成り損ないで各種属性に脆弱なスライムを強めて確固たる存在として安定させた形といえるだろうか。

 

「物理属性に強く、特に切断に対しては切り口が癒着してすぐに元通りになりました。分体自身曰く『上質な栄養があればこの状態から切り分けられても4体まで分裂できる』とのことです」

「まるでプラナリアだな」

 

 会議の参加者からの所感が飛ぶ。

 

「ええ、ですがプラナリアと違い合体してひとつに戻ることができます」

「次に、エネルギーを補給しつつ分体の維持に問題のない範囲で権能を使用してもらってスペックを測定しました」

 

 ディスプレイの画面が切り替わり、とある動画が映し出される。そこには魔術的防除を施した巻き藁に向かって破壊神が眼からビームの様なものを撃つ姿が撮影されている。時折チャクラドロップ*1やカロリーバーをかじりつつエネルギー補給をしているようだ。

 

「分体ではあのビームのような魔法『破滅の眼光』と自爆しか使えませんでした。あの巻き藁は分体のレベルである4を想定した耐久力に設定してあります」

 

 動画では、巻き藁にか細いビームが着弾するごとに当たった箇所がきれいに消失している。

 

「これはターゲットにラクカジャ*2を最大限まで重ね掛けして防御力を上げた状態、これらはそれぞれ火炎・氷結・電撃・衝撃の四系統に耐性をつけた状態、これはマカラカーン*3を掛けた状態です」

 

 それぞれ巻き藁の状態を変えて魔法を打ち込む姿が映される。巻き藁の防御力を上げた場合に消失範囲が幾分狭まったのみで、他は素の状態と結果が変わらなかった。

 

「結論として、マグ=メヌエクの最も基本的なスキルはメギド系列の反射不能な万能属性の魔法です」

「質問です。消費魔力の方はどうなんですか?」

「威力は素晴らしいですが、発動に必要な最低限の魔力消費量が高いためガス欠になりがちです。ただ回復が早めで、通常の食料でもある程度MP回復効果が見込めるのは特筆すべき点かと」

 

 会議の場に少しではあるが驚きが広がる。チャクラドロップ等を用いずにMPが回復できるのは非常にお財布に優しい。駆け出しには引っ張りだこの特性だ。

 

「次の動画をご覧ください。最後に実験の締めくくりとして過剰にエネルギーを接種したうえでターゲットに向かって自爆してもらいました」

 

 動画は己の体積ほどもある羊羹を食した破壊神の分体が、ターゲットの巻き藁に突撃していく姿を映している。分体が巻き藁に飛びついた途端、分体の体から破滅的エネルギーが球状に放出され、白い閃光が辺りを包む。その結果、地面から突き出た巻き藁の竹の一部が残されるだけとなった。

 

「このターゲットは分体のレベルの倍であるLv8相当の耐久力に設定しました。このレベルで万能属性を扱えることも驚きですが、使い過ぎると干からびるだけで絶大な破壊力を継続的に発揮できるのは脅威です」

「他の検査結果と併せて考えるに、『破滅』の権能を司る邪神として崇められていたとの証言は信憑性があります」

「そうなると悪魔マグ=メヌエクの居た世界はこれと同格の邪神があと5柱存在して覇を競っていたことになりますね」

 

 皆がそのような魔境を想像して少し背筋が冷える思いをした。

 

「まあ、現在の我々には信頼のおける異世界や平行世界の観測手段が確立されているわけではないので、信憑性のある仮説としておくのが無難かと」

「XXさん、ありがとうございました。次はマグ=メヌエクのルーツです。それにつきまして、過去の会議で検討されたように、今回の召喚の対象は儀式の痕跡からクトゥルー神族の邪神である可能性が高いです」

 

 クトゥルー神族。

 

 強大で冒涜的な力を持っている存在が多いが、複雑な対立構造をしているようで、これ関係の事件があっても、「何かがあった」ことしかわからないことが多い。信奉者や関連する教団も秘密主義だ。ヤタガラス内で蓄積された事例や情報もそこまでのものではない。

 

 多いのは波長が合ってしまった感受性豊かな者、特に芸術家がクトゥルー神族に関わると思われる小説や歌や絵画、彫刻を創作し、話題を呼ぶことである。その後、まあまあの確率で彼らは非業の死を遂げるのでそれで彼らの影響力を推しはかることができる。

 

 ただ、人間を利する存在であれ害する存在であれ、基本的にこちらを路傍の石以下とみなして大した価値があるとも思っていないのは共通している。

 これは人間の認識に多かれ少なかれ影響を受ける悪魔にしては珍しい。彼らは憎むにせよ愛するにせよ利用するにせよ弄ぶにせよある程度人間を意識している。

 我関せずのスタンスでそこまで強大な力を持っていることは驚くに値することだ。プライベートや人間味を一切見せない人気商売のアイドルの様なもので、それで食えているのはある種の偉業である。

 

 たとえば妖怪のぬらりひょんの本質は「とらえどころがない」であり、ぶっちゃけ伝承や起源を辿ってもあやふやである。しかし某妖怪漫画家の活躍により、妖怪を率いる参謀としての認識が広まったため総合的には強くなった。その代わり後ろに伸びたような特徴的な頭部の老人の姿で顕現することが多く、たいていの場合アナライズされる前から一発で正体を看破される。ぬらりひょん本人も「悪役」として呼ばれることの多さに思うところもあるらしい。

 

「そのクトゥルー神族の中でも召喚対象最有力候補はク・リトル・リトルですが、これはマグ=メヌエクの証言から作成した全盛期の姿に似ています」

 

 ディスプレイに蛸と悪魔を合体させたような緑色の怪物と、それの色を肉々しい色に変えてかぎ爪のある足を触手塊に交換し、大きな単眼の顔にしたような怪物の絵がそれぞれ映し出される。

 

「しかし、彼は自分に水の属性は含まれていないと証言し、事実アクア系の魔法は所持しておりませんでした。精神に働きかける権能も有していないようでした」

「そこで我がヤタガラスのクトゥルー神族の少ない資料をひっくり返して調べたところ、該当しそうな神格がもう1件見つかりました」

 

 その悪魔の情報をまとめたものが映されるが、情報が少ないうえに要領を得ないものが多く、名前ですら表記ブレが激しい。イメージ図すら存在しない。

 

「このアザホース?アブトース?という常に微睡んでいる悪魔の『夢』がこの宇宙の存在の一端を担っていると資料から読み取れました。マグ=メヌエクも彼の視覚という『認識』を介して存在の破滅を決定しているとも考えられます」

「XXさん、XXさん、説明ありがとうございました。本題はマグ=メヌエクの今後の処遇についてです」

 

 マグ=メヌエクの説明が終わり、議題に入る。

 

 次いで画面にマグ=メヌエクの要望である信徒やマガツヒの獲得についてや、契約主候補で邪神召喚事件の被害者でもある阿座斗鈴についての情報が映される。

 

 この件に関してのリーダーでもある破壊神の取り調べ担当官からの説明が一通り終わると、それぞれの意見や所感が述べられる。

 

「異例の悪魔召喚だが、ルーツや信頼性とかも裏付けが取れたようなものとしていいんじゃないか?」

「本人たちよりも外部が余計なちょっかいをかけてくるのを心配した方がいいのでは?」

「現在邪神召喚の犯人グループの身元を調査中だ。といっても一番の証拠となる本人たちが消滅しているからな……魔道具などの出所を探っている最中だ」

「タレコミ元が怪しいが、当然発信元は厳重に隠匿されていた」

 

 ダゴン秘密教団などヤタガラスが把握できている限りの団体は調査したが、これといった成果は上げていない。

 

「うち直属ではなくフリーとして活動するにしても、バックにヤタガラスがいることをアピールするのは必要かと」

「マグ=メヌエクよりも契約主候補、阿座斗鈴が道を踏み外さないよう留意すべきでは?」

「調査の限りでは血筋や経歴に特殊な点は何一つなく、半覚醒者となったのは『破壊神の加護』故か」

「悪魔の世界に何一つ免疫がなかったため、年齢も考慮してサマナーとしての育成は殊更に慎重になるべきでしょう」

「カウンセリングのための面談として頻繁に訪問が行われています」

「その後も定期的な面談は必要だろう。うっとうしがられるかもしれないが、その程度は必要経費だ」

 

 ヤタガラスの人間から出てくる発言はおおむね肯定的である。

理由として、マグ=メヌエクなる悪魔は己の能力にせよ心情にせよあまりに自分の手札を晒し過ぎているというのがある。

 

 自らを上位存在と公言して憚らないようなプライドも格も高い悪魔との悪魔会話は、取りつく島がないか、異様に弁が立ち相手にいいように転がされないように四苦八苦するかの二択であることが多い。

 

 対して破壊神は特に対価を求めることもなくペラペラしゃべってくれた。特に自分の活躍を語るときは弁舌爽やかであり、大災害の破壊など能力が推察できるような内容から他の邪神との関係をうかがわせるようなものなど枝葉の部分まで一貫性を持って語ってくれた。

 おまけに己の分体を寄越して好きに調べろとの大盤振る舞いをしてきた。自爆に関しても分体の最大火力を示したいとのことで、向こうから提案してきた。

 能力に関しては実験において「破滅」の権能が実証され、レベルがもっと高ければ語った内容も実行可能だろうとの結論が出た。

 この破壊神は悪魔交渉に関して随分と不慣れなようだ。

 

 新種かつ驚くべきスペックの悪魔だが、友好的で話し合いで妥協点を探れる存在であるのは判明した。

 万が一敵対しても、これだけ情報があればこのヤタガラス地方支部内の戦力で完封が可能である。

 

 何よりこの業界は万年人手不足である。この悪魔関連の業界でも都会への人材流出が著しく、就職先としてもヤタガラスは治安維持と護国に関わってきた一定の信頼はあるものの、基本的に他の営利団体のほうが実入りがいい。

 だが、マグ=メヌエクのサマナーとなるであろう少女、阿座斗鈴は高校卒業までは地元にいることがおおよそ確定しており、サマナーとなった経緯、活動方針から非常にヤタガラスの案件を委託しやすい相手である。

 

 そのためこの会議のメンバーの目つきは、警戒対象を見るというより鴨が葱をしょって来たのをどう料理してやろうかと品定めする目に近い。

 

「では、マグ=メヌエクの契約悪魔としての活動、阿座斗鈴のデビルサマナー活動と脱初心者支援についての承認を得たいと思います」

 

 こうして議題は破壊神の希望通りに承認された。

 

「これにて特殊召喚事例-XX号、マグ=メヌエクについての議題を終了します」

「では次の議題に移ります。最近多発するネズミ講式のマガツヒ・マッカ詐欺事件ですが―――」

 

 会議は続いていく。まだまだ検討しなければいけない議題があるのだ。

*1
味方単体のMPを小回復する

*2
味方の防御力が1段階上昇する補助魔法

*3
味方に魔法攻撃を一度だけ反射する障壁を貼る補助魔法




【地に潜るひやむぎモンスター】
・聖四文字に対するヤルダバオト、フィレモンに対するニャルラトホテプ
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