いあ!いあ!まぐ=めぬえく!【完】   作:ringosuki

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第7話 第一使徒のスマホデビューと破滅使徒血盟の書

 ヤタガラスで破壊神マグ=メヌエクの処遇を決定した会議の数日後、表向きはヤタガラスホテルグループ支社であるヤタガラス地方支部の一室に阿座斗家の両親、鈴、マグ=メヌエク、破壊神の取り調べ担当官の男性が顔を合わせていた。

 取り調べの際のコマイヌも後ろで控えている。床に腹をつけてくつろいだ姿勢だが、目は油断なく警戒してる。

 

「本日は来てくれてありがとうございます。以前マグ=メヌエクさんの取り調べを担当しましたヤタガラス地方支部刑事部兼生活安全部所属の宇色です」

「よろしくお願いします」

「うむ。宇色よ、良きに計らえ」

 

 お互いの挨拶から話が始まる。約1名はあまりに尊大な発言のため、挨拶とみなしていいのかは疑問符が付くが。

 阿座斗家に破壊神と鈴のデビルサマナー活動についての通知が届き、本日最終決定の確認とこれからについて話し合うためこの場が設けられた。

 

「これから私が阿座斗鈴くんとマグ=メヌエクさんのヤタガラスとの窓口になります。連絡先を渡しておくので、何かあったら気軽に連絡をください」

 

 そう言ってそれぞれ鈴と両親に名刺を渡す。

 

「ヤタガラスの決定は先日送らせていただきました。皆さんご確認されましたね?」

 

 3人と1体がうなずく。

 

「では最終確認となりますが、阿座斗鈴くん、マグ=メヌエクさん、お二人は契約を結んでデビルサマナーとしての活動を始めるということで?」

「はい。あのあと両親と話し合ったり、カウンセリングの際にそちらにもいろいろ聞きましたが、私の決心は変わりませんでした」

「我にも異存はない……」

「では本契約ということでヤタガラスからこちらを貸与させていただきます」

 

 そう言って宇色は小型のアタッシュケースからスマホを取り出す。

 

「このスマホは?」

「以前説明した悪魔召喚プログラムがインストールされたスマートフォンで、こういった悪魔召喚・使役のための機械をCOMPと言います。ガワは市販のものですがかなり改造されており、物理的、霊的にかなり頑丈になっています」

「ふむ、このような小さな絡繰りに我々を呼び出す仕組みが備わっているのか。興味深い……」

 

 破壊神はまたも砂糖を大量に投入したコーヒーを啜りながらしげしげとスマホを眺める。

 

「じゃあ使用者登録と召喚機能の確認だけやってみましょうか、どうぞ」

 

 宇色が鈴にスマホを手渡す。

 

「えっと、あの、どうすれば……」

「ああ、普通のと同じだからそこの電源ボタンを長押ししてね。起動した人にデビルサマナーの才能があれば自動で使用者の登録が始まります」

 

 鈴が受け取ったスマホの電源ボタンを長押しすると、彼女から発せられるマガツヒを読み取り、使用者登録が自動で行なわれる。

 少しして登録が完了し、スマホ画面に悪魔召喚プログラムのホーム画面が表示される。

仲魔欄には1体のみ登録されており、「破壊神マグ=メヌエク」とある。

 

「もう契約しているからかCOMPに表示されているね。いったんCOMP内に送還して召喚してみようか」

「それはそこな機械を我の仮住まいとするということか?」

「ああ、これで人目につく所でも一緒に行ける。COMP内に居ればマガツヒの消費も抑えられるしね」

「それで、操作方法はタッチパネルと音声認識があって手順は―――」

 

 鈴が言われるままにCOMPを操作すると、破壊神の姿が消える。

 

「え!?これでこの中に入っちゃったんですか?」

「ああ、じゃあ今度は呼び出してみようか」

 

 彼女はおっかなびっくりCOMPを操作し、付近の床に魔法陣が浮かび上がったかと思うと破壊神が召喚される。

 

「ど、どうでした?スマホの中って」

「なかなかに悪くない空間であった……」

「いっぺんには覚えられないだろうから今日はこのくらいで、後日座学で扱い方を詳しく学んでもらう予定ですので」

「わ、わかりました」

「あとこれはメーカーの取扱説明書です。悪魔召喚プログラム以外は市販のと同じなんだけど、スマホは持ってる?」

 

 宇色は先ほどの手つきを想起して、半ば答えを予想しつつ厚みのある取扱説明書を渡しながら問いかける。

 

「いえ、これが初めてです。学校で配布された学習用タブレットは使ってますけど……」

「じゃあ、説明書をじっくり読みこんで少しずつ覚えていってください。子供向けのフィルタリング機能とかも普通に使えるので、そこらへんは親御さんと相談して決めてね」

「あ、そのあたりは本当に普通のスマホと同じなんですね」

 

 一般人からすると催眠アプリ並みに信憑性の薄いアプリが入っている魔法のアイテムなのに妙に現実的だと両親は驚いた。

 

「ああ、『故障かな?』と思ったら私やヤタガラスに連絡をください。この地方にもCOMPの販売・改造・修理を行う業者はいますが、そちらの品は貸与品なのでこちらで対応を行います」

「分かりました」

「ではデビルサマナーとしてのいろはを学ぶための予定を立てましょうか」

 

 そう言って宇色、鈴、両親の4人で今後について話し合っていく。

ちなみにマグ=メヌエクは口を挟む気はないため、コーヒー、紅茶、緑茶と飲み物の種類を変えつつその全てに砂糖を大量投入して啜りながら黙って話を聞いている。

 

 破壊神がほうじ茶にも砂糖を入れようとしている頃に、これからのおおよその流れと日程が決まった。

 

 まず、ヤタガラスの主導でデビルサマナーについて学ぶ座学と戦闘術を修める。そしてこの地方のデビルサマナー御用達の装備や消耗品を扱うお店の紹介をしてもらう。その後異界と呼ばれる一種の異空間と化した悪魔出没のホットスポットで実地訓練を行い、いよいよ初依頼となる。

 

 スケジュールに関して、一部実践を伴う内容と戦闘術はヤタガラスの施設へ休日に出向き、それ以外はリモート学習と宿題やレポート提出でもって日常生活の合間に進めていくこととなった。

 

 これはヤタガラスが鈴の両親と破壊神にそれぞれ前もって悪魔の学習については急がないことを通達し、了承を得ているものであったが、彼女の孤立を防止し、将来の道を狭めないための措置である。

 

 大人でも起こり得ることではあるが、今まで悪魔などといった超常を知らなかった人間が異能に目覚めると道を踏み外すことが往々にしてある。

 

 特に自分で決めた職業に就いて金銭を稼いでいるでもなく、配偶者や扶養家族がいるわけでもないことが多い未成年はそうなる確率が大人よりも高い。

 物語の中でしか存在しないと思っていた超常の力を手にした多感な年頃の子どもは、誰もが持ち、いずれ捨てることになる全能感と特別感を確固たるものとしてしまう可能性がある。そうなると周りの人間が自分より低い場所に位置するように見え、孤立するようになる。

 そこで事件を起こしてヤタガラスなどに捕捉されたり、実力差を考えずに格上の悪魔に挑んでいって行方不明になるのは、これ以上被害が広まらないという点ではまだマシな結末である。

 孤立を深めた結果、自分より力があって裏の業界に詳しそうな人間に素質があると認められてついていって、気づいたら国家転覆を狙う組織の一員である立派なダークサマナーになっていました、というケースもある。

 

 だからあくまで今までの日常を主とし、自分の実力と悪魔業界にも多くの人が関わっていることをゆっくりと教え、無駄に万能感と特別感が育たないようにするのだ。

 

 ちなみに実地訓練開始までの破壊神の維持コストであるマガツヒ費は、ヤタガラス持ちである。これは悪魔関係の事件被害者の救済と新人サマナー育成支援という赴きが強い。

 

 ちなみに仮に鈴がサマナーにならなかった場合、彼女のレベルで自己生成できるマガツヒでは破壊神の現界に必要な量に達していなかった。ヤタガラスからの援助がある可能性が高いとはいえ、彼女のボディガードたる破壊神の顕現に必要なマガツヒ費が阿座斗家の家計に支出として入ってきただろう。

 いくらマグ=メヌエクが燃費が良く食物でもエネルギー補給が可能とはいえ、月に大型犬1〜4頭分の飼育費にあたる金額が必要になったであろう。

 とはいえ、彼は表の世界のどんな番犬や警備システムよりも強力であり、その金額で雇えるなら安いものではあるが。

 おまけに本人は価値を把握しきれていないとはいえ、破壊神自身の財産もあるので阿座斗家が破産という未来になった可能性はない。

 

 晴れて鈴とマグ=メヌエクの本契約が結ばれたため、この日は破壊神をCOMPに送還して帰宅となった。

 

 

****

 

 

 鈴とマグ=メヌエクのデビルサマナー教習が始まり、7月に入ったある日の休日、鈴が教官役のヤタガラスの人間に対してこんな質問をした。

 

「最近COMPのマガツヒバッテリーに貯まる量が増えた気がするんですが、これって勉強や訓練の成果が出ているってことでしょうか?」

 

 ちょうどその時マガツヒについての学習から一歩踏み込んで、マガツヒの獲得・利用・換金方法などについて学習している最中だった。

 

 教官は少し考えたのちに、気遣うような口調で答える。

 

「いや、鈴君には悪いんだがこのような基本的な学習や訓練で霊格、つまりレベルが上がることは基本無いんだ。レベルが上がるようなことっていうのは難しい魔導書を解読して魔法を覚えたり、ギリギリまで自分を追い込んで限界を超えるような特訓とか、あとは単純に自分と同じくらいかそれより強い悪魔との実戦だね」

「そう……ですか……」

 

 どこか期待した様子の彼女であったが、教官の返答を聞いて表情が蔭る。

ヤタガラスのデビルサマナー教習が始まって数週間、座学と護身術が中心の訓練ばかりで成長した実感があまりなく、破壊神のエネルギー源でもあるマガツヒも大部分がヤタガラス支給であった。

そこで、何らかの原因でマガツヒ獲得量が増えたのを見て嬉しくなってしまったのだろう。

 

「鈴よ。いくら肉体という器が優秀であっても、それを動かす頭脳が愚鈍であれば塵芥も同じである……」

「マグさん、はい……」

 

 近いうちに自身の成長を実感させる体験が必要だと教官は考えつつ、マガツヒが増えた理由について考えを巡らせる。

 

「2人に聞くが、最近悪魔との接触があったかい?」

「いいえ」

「なかったな」

「じゃあ、パワースポットや怪談スポットに行ったりはしたかい?」

「えーと、最近開催された近所の神社のお祭りに行ってきました」

「そうかい……」

 

 そのくらいで獲得マガツヒ量が目に見えて増加すれば苦労はない。

 

 その時、破壊神が何か思い当たったのか体内から何かを取り出しながら喋る。

 

「我が思い当たるのはこれだ。『破滅使徒血盟の書』。我への信仰の証として彼奴らに己の名を書き記してもらった……」

 

 教官が血判状の様なものかと身構えると、出てきたのはファンシーなプロフィール帳であった。主に友達などにプロフィールを描いてもらってお互いの理解を深めるコミュニケーションツールであり、小中学生でもスマホや携帯を持っていることが多い時代の前に流行したものである。

 

 このプロフィール帳もページのあちこちで可愛らしいキャラクターが描かれている。ページをめくってみると持ち主としてマグ=メヌエクのプロフィールが書かれており、他に鈴とその両親の3人分の記入がある。

 もちろん血ではなく普通のペンで書かれており、内容も名前や趣味などいたって普通の項目である。

 

「ふーむ。これが神と信徒のゆるめの契約となってマガツヒ供給ラインができたということだろうか」

 

 教官は一通りプロフ帳を検分した後、破壊神に向かって問いかける。

 

「調べてもらいたいから少し借りれないかな?今日の授業の終わりには返却できると思うから」

「よかろう……」

 

 了承をもらった教官は、連絡をしてやってきたヤタガラスの職員に調査を依頼してプロフ帳を渡す。

 

 そして日本に存在する有名な悪魔関連の団体の紹介が終わって今日の授業も完了したころ、調査結果が伝えられた。

 

「ああ。やっぱりプロフィール帳への署名を契約としてマガツヒを供給していたようだ。ということでこれは返すよ」

「あの、これってまずかったですか?」

 

 鈴がおずおずと尋ねるも、教官はあっけからんと答える。

 

「いや?本来なら虚空に消えていく程度の感情エネルギーが指向性をもって君たちに貯まるだけだ。マガツヒ消費を抑えたいなら、君たちに好意的かつ正体を知っている人物に書いていってもらってもいいんじゃないかな」

「そうですか。ありがとうございます!」

「これで我が世界中より崇められ、この宇宙を掌握する目標にまた一歩近づいた……」

「やりましたね、マグさん」

 

 何やら穏やかでないことを言っている。ただ、悪魔ですら思想・良心の自由はある。内心ではどんなことを思うのも自由だ。

 それに悪魔が信仰を得て力を増そうとして、人間と両者の合意の元、神と信徒としての契約を結ぶこと自体は咎められない。咎めるならば、世界一売れていると言われる書籍に描かれている数々の契約も否認することになる。

 

 今回は契約の小道具として用いられているのが可愛らしいプロフィール帳なのと、署名した両親も娘の相棒を応援するくらいの気持ちで書いているであろうことからこの程度の効果になっている。

 確かに世界の支配に近づいてはいる。だがそれは琵琶湖の水をスプーンで掻き出して空にしようとしているのと同じようなものではないだろうか。

 

 しかし、破壊神は口にした野望を本気で叶えるつもりらしい。その証拠にプロフ帳を大事そうな手つきでいそいそと自分の体内にしまい込んでいる。

 

「ま、まあ強要したりしないでちゃんと説明してから書いてもらってね」

 

 2人の真剣な様子に、教官はそれしか言えなかった。




【破滅使徒血盟の書】
・破壊神がさらなる信徒獲得のため向こうの宇宙で買い、貯め込んでいたプロフィール帳のうちの1冊。
この宇宙に来て、新天地での信徒獲得とのことで新品のプロフ帳を使い始めた。
記入済みのものは体内の深淵の空間のさらに奥、「宝物庫」とでもいうべき場所に保管してある。
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