prodigy   作:MONO_

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夏なので、夏らしいお話を。


Haunted

 エアコンによって快適な温度に保たれた室内で、ソファに座りながら見るともなしに見ている地上波のTV番組は、僕たちにさらなる涼を提供しようと大して怖くもない心霊番組を流すことに躍起になっている。

 僕の隣に座っている冷渦は僕と一緒に番組を見ながら、写った心霊映像に時折茶々を入れている。楽しくは有るようだ。

苦手とか得意とかの次元を超えて暑い夏は、僕と冷渦から外出の気力を尽く奪い、冷房の効いた室内へと押し込めることに成功している。それによって誰が得するかは全くわからないけど、少なくとも僕たちは損をしてないので文句はなかった。

「そう言えば冷渦はこういうの得意な方?」

 楽しんでは居るようだけど怖がっているようには全く見えない冷渦に、少し気になった事を確かめてみる。

「こういう特集番組は平気かな。ホラー映画やお化け屋敷は好きじゃないけど。」

 返ってきた答えは、少しだけ意外なものだった。何というか、僕の中で彼女がそういうものを怖がるイメージが湧かない。

「怖いの苦手だっけ?」

 好きではないのだろうというのは何となく知っている。家で映画を見ようという時、その手のラインナップに対しては難色を示すことが多かったから。ただ、どちらかと言えばホラーよりも好きなものが有るから、態々見れなくもない映画を見ようとはしないと言う程度のもので、はっきりと苦手意識を持っているとは思っていなかった。

「怖いのが、というのもそうだし、吃驚するのが嫌いなんだ。映画とかお化け屋敷ってそういうのをあからさまに狙ってくるだろ?」

 まぁ確かに、あの手の物は吃驚することを楽しむものだ。恐怖感というのは、普段の生活ではそうそう味わえない感覚だし。

「驚くって結構不快な体験だと思うんだ私は。だから態々そういう経験をしに行くのは、何というか痛い思いをしに行っているような感じがするんだよね。ちょっと変じゃない?」

 言われてみればそんな気もして来る。僕自身は特に苦手という程でもないけど、自分ひとりで好き好んで見たりするものでもない。

 思い返してみれば、その手の映画や催しに行くのは決まって友達とだった。

 小さい頃に立ち入り禁止と書かれた場所に皆で入るような高揚感がある気がする。多分皆で分け合うから楽しいんじゃないだろうか。少なくとも僕にとってはそうだ。

 そう考えてみると、ロクに友達付き合いと呼べるものを経験していない冷渦からすれば、今言われたような感覚になることも頷けるような気がする。

「確かに、僕もそういうのを見に行ったりする時は、それ自体よりも友達と楽しむっていう部分に大きなウエイトがあった気がするなぁ。お互い茶々入れ合うのが楽しいというか。1人で態々行く気にはなれないし。」

「そうだろう?」

 大抵そういうものを見に行くときは、男女混成のグループで行っていたような気もする。怖がらないことで普段は見せようのない頼もしさを見せようとしている奴も多かった記憶があるし、そうやって考えてみると何というか不純な目的のための道具としてしか今まで扱ってきていないことに思い当たった。

「今考えてみると、吊橋効果を狙っていく奴らも多かったし、そもそも怖がりに行っているんじゃないのかも。」

 思い当たった事を口に出してみる。

 吊り橋効果を狙ってとか、本当に居るのかどうか好奇心を掻き立てられてとか、怖い体験をするというのは目的とはちょっと別なところにある気がしてきた。建前的と言えば良いかもしれない。

「吊り橋効果か、そんなのあったね。」

 僕からすれば、休日映画を見に行く時に時折ホラー映画へ誘ったのはそういうのを狙っていた節もあったように思う。そう考えるとさっきの発言は失言だったかもしれない。

「そう言えばキミも、時々私をそういうのに誘うね、狙ってる?」

 案の定察しのいい彼女はその結論に到達した。まぁ僕だって男ですし、そういう雑誌に書いてあるような今更とも言える戦略を取ってみることも有るさと心の中で言い訳しながら、冷渦への返答は曖昧なものにしておく。

「でも言われてみればキミとそういう状況に置かれたこと無いなぁ。ちょっと興味が出てきだぞ。吊橋効果ってどんな感じなんだろう。キミに対してドキドキするのは、結構楽しそうだ。」

 軽い自爆を起こした僕をチクチクと追求しつつ、冷渦がそんな事を言い出す。

「物は試しだ、時期も良いし、どうだろう。今度お化け屋敷が有名な遊園地にでも行こうじゃないか。キミの事だ、どうせ知ってるだろう?」

 言いながら、ちょっと意地の悪い笑みを浮かべる冷渦を見つつ、ほんの数秒で思い当たる遊園地が有ることに気付く。

「わかった、今は多分滅茶苦茶混んでるだろうから、少し時期を外して行こうか。」

 好き好んで怖い思いをしに、僕たちは行く事になった。

 


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