「総員、傾注!大隊長より、訓示!」
「さて大隊諸君、戦争だ。いや、戦争のようなしろもの始まりだ。折しも今日は、私の誕生日だ。なんとダキア軍からサプライズプレゼントで、実弾演習の標的を頂いた。」
「我々にはフュッター准尉がいる。私の砲撃を丸腰で受けた諸君はその信頼性を直に感じたはずだ。さらに航空支配が約束されている以上、ある種のマンハント。ボーイスカウトを蹴とばすようなものだ。落ちることはまずないだろうが、一応留意せよ」
「「「ハッ!!」」」
どうも皆様こんにちは、シェリンです。
私にも遂に初の実戦の日がやってまいりました。
敵はダキア公国、航空戦力はゼロのようです。
……そんなことあります?
なんなら魔導士も確認されていないとか。
いくら魔導士に適性のある人数が少ないとはいえ、三個師団程の戦力に配備なしなど、考えられません。
すでに私も爆裂術式を何回か敵に向かって撃ちました。
こう、何というか、あまり気持ちよくなるというものではないですね。
「どうだね、フュッター准尉。これで君も立派な軍人になったわけだ」
「……変な感覚です。人を殺すというのは、なんだか気持ちよくは無いです」
デグレチャフ少佐は私の感想にフッと笑って、そんなもんだと言葉を返します。
「人を殺すことを楽しんでるようなサイコはそうそういるもんじゃない。……ん?連中、何をしている?」
デグレチャフ少佐の視線の先を見ると、何やらバラバラだった敵が一か所に集まり陣形のようなものを組んでいるのが見えます。
「おそらく、統制射撃の方陣かと」
訝しむ声を上げるデグレチャフ少佐にセレブリャコーフ中尉が答えます。
確かその方陣って、騎兵の時代に使われていた戦術じゃありませんか?
馬鹿な、時代遅れも甚だしいぞと呆れ声で呟いていたデグレチャフ少佐が、襲撃隊列を解いたヴァイス中尉を見て、イライラ度を増幅させております。ちょっと怖いです。
しかし、私も同様に溜め息を吐きます。
「どうして隊列をとく?……」
「あれは、どうやら教本通り射程限界にまで引こうとしているみたいですね。何でしょう、私って信用されてないんですかね?」
「ハッ、空を飛ぶ魔導士に歩兵の弾が当たるとでも思っているのか?それに加えて我々にはフュッター准尉がいるのだぞ。これは帰ったら少々灸をすえる必要がありそうだな。よろしい、我々も参加だ。中隊、我に続け!」
はてさて、本当に、おかしな話です。
私たちが攻められていたはずですのに、我ら大隊、いえ、中隊のみで敵の総司令部まで到着してしまいました。
ここまでそんなに時間はかかっておりません。
途中、卑怯だぞ、降りてこい等と宣う方がおられたのですが、こう、何と言いますか、馬鹿なんでしょうか?
「帝国へようこそ、ご入国の目的は?ビザはお持ちですかぁ?」
「み、皆殺しにしろ!撃てぇ!!」
デグレチャフ少佐の降伏勧告も空しく、返ってきたのは死をお望みという返事でした。
私たちに向けられた豆鉄砲の弾が、防核術式に触れた瞬間に直角に地面に落ちていきます。
はぁ、まったく、こんなおもちゃごときじゃ実戦練習にならないじゃないですか、もう。
その後はデグレチャフ少佐の命令通り将官以外を撃ち、付近の敵兵を一掃しておりました。
終了次第大隊が集結、デグレチャフ少佐が次の命令を発します。
「残敵掃討は友軍に任せて、我々は前進する。目的は、首都だ。ものは試しだ。行けるところまで行こうではないか。我々ならば、前に進める」
……想像はしていましたが、対航空防護など皆無でありました。
今回、私の役割はほとんどないようなものです。
ダキア公国は一昔前の時代からタイムスリップでもしてきたのでしょうか。
「よし准尉、さっさと警告を発しろ。規定通り、国際チャンネルでだ」
「え、あの、本当に私でよろしいのですか?」
私の言葉に、大隊総員がデグレチャフ少佐をじっと見つめます。
それは、そうです。
「確かに、私がやった方が良さそうだな」
確かに私がやった方が良さそうだ、と一息つき、デグレチャフ少佐がマイクをONにしました。
「せんせい、ぼくたち、わたしたちは、こくさいほうにのっとり、せいせいどうどうせんそうすることをちかいます。けいこくします!ていこくぐんは、これより、ぐんじしせつをこうげきします!」
……どなたですか?
ヴァイス中尉の言う通り、実は演劇をしてらっしゃった……?
あの惨劇の再教育を行った方とはとても考えられません。
「さて諸君、国際法上の義務は果たした。仕事にかかるとしよう。総員、長距離用術式展開!」
デグレチャフ少佐からの命令に、ヴァイス中尉が号令をかけます。
「目標、兵器工場。各中隊は、少佐殿に合わせて斉射せよ!」
「総員、撃て!」
大きな花火です。ここまで大きいのはなかなか見られません。
可燃性の材料に火が付いたのか、連鎖的に広い範囲で爆発を繰り返しています。
「やれやれ、ダキアには足を向けて寝れんな。盛大な実弾演習どころか、演習後の花火まで楽しませてくれるとは。止まれ、目標は達成だ。さて、帰還するとしようか。大隊諸君」
これが、私の初めての戦場でありました。
圧勝です。もうちょっと、こう、苦戦とはいいませんが、魔導士として戦闘するくらいの練習相手であってほしかったです。
実弾演習とはよくいったものですが、あんな銃では防核術式に傷などつくはずもありません。
というか、観測術式で各隊員付近の弾道は視えているのですが、まったくと言っていいほど私たちにかすりもしません。
とはいえ、多少の緊張感を持って臨むことができましたし、私は命令を命令として割り切ることのできる人間なのだと理解もできましたので、十分実弾演習として機能してくださいました。
デグレチャフ少佐の仰る通り、ダキアには足を向けて寝れません。
余談になりますが、今後必要になってくるである術式として、眼鏡を綺麗にする術式を考案いたしました。術式を展開した瞬間に、指定した眼鏡の汚れが綺麗さっぱり落ちるというものです。
大隊のみなさんも、と思ったのですが、みなさん視力が良いのをすっかり忘れておりました……。