魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるサイヤ人は悪魔の子~(更新一旦停止)   作:生まれ変わった人

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母の片鱗

 マンションに帰ったフェイトはすぐにジュエルシードから受けた傷の治療を受けていた。フェイトの手の傷も軽かったのは不幸中の幸いだった。

 

「……」

「えっと……カリフ……」

「……」

「「……」」

 

 だが、新たなる不幸が今まさにフェイトたちに牙を見せていた。

 

 めっさ不機嫌そうなカリフが二人をごっつい睨んでいるのだった。

 

 二人は自分たちの無茶な行動に怒っているのだと思っているようだが、実際は違った。

 

(くそ……このオレが約束を破るとは……!)

 

 戦いとは別の鋼鉄のルール、その一つを直接的とはいえ破ってしまった。それはすなわち力が無いという敗北感をカリフに与えていた。

 

 そして、約束という重荷は自分という存在を確立させるものだと考えている。

 

「あの……カリフ……大丈夫?」

 

 大層不機嫌そうなカリフにフェイトはオズオズと話しかけに来た。

 

 そして、カリフは目を見開いてフェイトの真ん前にまで詰め寄ってきた。

 

「なにが大丈夫だ! 手を組む前にオレに怪我するなとか言っておきながらなにお前が怪我してんだ!!」

「あぅ……」

「いくらお前でも分かっただろ! あの石の力を!! 己の力量も測れずに向かって行くなど愚の骨頂! 笑止千万!!」

「うぅ……」

「お前が怪我したおかげでオレも約束を破ることになった! オレに恥かかせやがって!!」

「……」

 

 反論の余地も許さないようなカリフの説教にフェイトも徐々に涙目になっていった。

 

 アルフも止めたい気持ちはあったが、カリフの言うことも尤もであり、これで無茶な行動が減るのではと少しの期待から口を出すことはしない。

 

 カリフは一通り言いたいことを言った後は目の前の泣きじゃくるフェイトを見て落ち着きを取り戻していった。

 

「……まあ、これはお前を抑えられなかったオレの責任でもある……」

「そ、そんなこと……」

「まあ、今回はこれくらいにするが、こういうのはこれっきりにしてもらいたいものだ」

「うん……ごめん……」

「分かったならいい……」

 

 カリフも気持ちも落ち着いてきたのかテーブルのイスに腰かけた。

 

「ただ覚えておけ。お前が怪我するのを良しとはしない奴等がいることだけは……それさえ分かったなら良い……」

「……うん」

 

 フェイトもここで少し微笑み、アルフも笑いながらカリフの近くにまで寄ってくる。

 

「アンタ〜中々格好いいとこあるじゃないか? お姉さん嬉しいぞ〜?」

「ほう……どうやら八つ裂きにされて食われたいようだな……上等だ来いよ」

「カリフ……落ち着いて……」

「なんだい照れてるのかい? 案外可愛いことあるじゃないか♪」

「……」

「無言で拳鳴らさないで!! アルフももうそれくらいにして!!……そうだ!! これからどこか美味しい物でも食べに行こうよ!!」

 

 フェイトの必死な話題変えにカリフとアルフも動きを止める。

 

「ふむ……それならバー○ーキングに行くか……」

「あ、いいねぇ! あそこが結構好きなんだよ〜」

 

 そう言って二人は意気揚々と外へと出ていくのを見てフェイトは満面の笑みを浮かべて二人の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……体もあともう少し……か……」

『ええ……本格的にやばくなってきたわ……』

「そうか……それなら早めにペースを上げるしかないな」

 

 フェイトとアルフが寝静まった後、マンションの屋上に上がってプレシアと定時連絡をしていた。

 

 少し肌寒いにも関わらずカリフは無地の白いタンクトップな上に修業後なのか汗で体が光っている。

 

『それにしても聞けば酷い出来のようね……あれだけ待たせてたったの四つだけなんて……』

「ふん。こちらの苦労も知らずにほざくな。あの石を探すのは発動してからでないと到底無理だ。サイズも小さければ力も無いガラクタだ。力さえ出なければただの石でしかない」

『……まあいいわ。明日にはフェイトの報告……その時にでも躾けてあげるわ……』

 

 プレシアの薄ら笑いが聞こえた時、カリフの無表情が強張る。

 

「一つ言っておく」

『なに?』

「今のフェイトは疲れているのだ。労いこそすれ奴に手を出そうものなら容赦はせんぞ」

『なんですって?』

 

 電話の向こうのプレシアは意外そうに声を洩らした。

 

『貴方……今は私と契約しているはずよ……』

 

 プレシアの地獄の底から聞こえるような声が電話から聞こえてくる。

 

 だが、カリフはそんな声にも臆することなく続ける。

 

「オレと奴も互いに誓約を交わしている。そのためなら貴様の一人や二人消してくれる」

『私とも契約しているはずよ? 約束をモットーとしているあなたが自らその約束を破るのかしら?』

 

 意趣返しのつもりで言った皮肉もカリフは一笑する。

 

「貴様とは“ジュエルシードを集める”と交わしただけでお前の命の保証した覚えはない」

『……』

「それでも躾たいのなら、オレが貴様を二度とおイタができないように調教するだけだ」

『……分かったわ……貴方相手じゃあ躾けは諦めるしかないわね……』

「そんなに急がせたければレーダーでも造れ」

『できるならとっくにやっているわよ』

 

 ともあれ双方とも目的には不可侵を守っている。余計な詮索は互いの時間の無駄でもあり、寿命を減らしかねない。

 

 そんなこともあり、この話はすぐに終わった。

 

「ところで明日はお前に聞きたいことがある。フェイトの報告が終わり次第すぐにこっちの世界に来い」

『……なにか気になることが?』

「ああ……お前は魔法を使えそうにないからな。フェイトに送らせてやる。なにせこっちの世界でないと都合が悪いからな」

『……ええ、丁度私も聞きたいことがあるのよ』

 

 聞きたいこと?…と聞き返しそうになるが、逆に都合がよさそうなのでそこは放っておいた。

 

「そうか……なら、明日にまた会おうか」

『ええ』

 

 そう言って電話は切れ、カリフはしばらく闇の中で蛍のように動く車の、街路樹の光をしばらく望んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、プレシアの時の庭園での報告の日が来た。

 

「それじゃあ準備はいい?」

「あいよ」

「当然だ」

 

 いつもフェイトたちには内緒でプレシアと連絡を入れている屋上へと登っていた。今回違うのはカリフ、アルフ、フェイトの三人が集まっていることだ。

 

「でも、こういうのあの人は喜ぶのかねぇ……」

「こういうのは気持ちだから」

 

 フェイトが持っているのはケーキの箱。

 

アルフとしてはここまでプレシアに尽くすフェイトが眩しかった。

 

「それよりも速くしないか?」

 

 ここで痺れを切らしたカリフはフェイトを急かす。

 

「あ、ごめん。じゃあ行くね?」

 

 そう言ってフェイトが何か呟いたと思った時には既に光に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、着いたよ」

 

 フェイトの声で周りの風景が変わっていることに気付いた。

 

 マーブル状の風景に浮かぶ巨大な城は明らかに異質なものを感じさせた。

 

「相変わらず広すぎるな。オレがリフォームしてやろうか?」

「だ、大丈夫だと思うけど…」

「あはは……」

 

 カリフのジョークに二人が苦笑いを浮かべながらプレシアの部屋にまでたどり着いた。

 

「じゃあ行って来るから」

 

 フェイトは一人で行こうとするが、そこでカリフが申し出た。

 

「待て。オレも奴に用があるからオレも行く」

「え? そうなの?」

 

 意外そうにフェイトが目を真ん丸にする。

 

「ああ、今回の件は事情が変わった。その判断材料としてプレシアからの意見が欲しい」

 

 カリフからの予想外な要望にフェイトは答えに困る。

 

「で、でも……母さんが許してくれるかどうか……」

「構わんオレが許す」

「大丈夫かなぁ……」

 

 あまりのカリフの自己正当化にフェイトも困り果てる。

 

 だが、そんなフェイトとは対称的にアルフは思いがけない助けに内心で歓喜した。

 

 自分がプレシアと相手をしてもフェイトを護り切る自信は無い。

 

 だけど、自分とフェイトを相手に勝利を飾ったカリフならフェイトを護ってくれる。そう確信できた。

 

(本当はアタシがやらなきゃならないことなんだけどね)

 

 フェイトの使い魔という役目がアルフの悔しさを少しだけ掻き立てる。

 

 それでも、やっぱりフェイトには傷付いて欲しくない。

 

「カリフ」

「?」

 

 だからこそフェイトは素直に感謝できた。

 

「フェイトを護ってあげて……」

 

 アルフの突然の願いにキョトンとはしたが、すぐに自信満々に親指を立てる。

 

「オレを誰だと思っている?」

 

 そうとだけ言うと、すぐに先に向かって行ったフェイトの後を追う。

 

「ありがとね……」

 

 アルフは遠ざかるカリフの背中を見つめて独り口ずさんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、帰ったのね……フェイト……」

「はい……」

 

 フェイトが開けた先の台座にプレシアの姿があった。

 

 感情の無い声で娘の名前を呼ぶ親とそんな母に畏れを見せる娘。

 

 どう考えても普通じゃない。

 

 親子とは思えない二人の間のやり取りは次第に空気を……

 

「よぉ、まだ生きてるな紫ばばあ」

 

 ぶっ壊した。それはもう完膚無きまでに……

 

 突然の罵倒にフェイトはオドオドし、プレシアは額に青筋を浮かべた。

 

「貴方こそしぶとく生きてたのね」

「御託はいい。ハラ減った。なんか出せ」

「どこまで私を怒らせるのかしら? 地獄か? 地獄に墜ちたいのね?」

 

 カリフの嫌味にプレシアはデバイスを構えて臨戦態勢に入る。それに応えるように指でチョイチョイと誘っている。

 

 本気で殺し合いそうな雰囲気にフェイトは冷や汗をかきながら仲裁に入る。

 

「あ、あの……! それで母さんにケーキ買ってきたんですが……」

「……いらないわ」

「よし、じゃあオレが貰おう」

 

 母のために買ったケーキを受け取ってもらえなかったことに落胆はしたが、二人の戦いを止めた安堵感が大きかった。

 

 そして、カリフを含めた報告会が始まった。

 

 とは言っても前以て結果を知らされたプレシアは特にアクションを起こすこともなく、「そう…」の一言で済んだ。

 

 また折檻がくるかと思っていたフェイトは予想よりもあっけない終わり方に唖然とした。それと同時に心の中でホッと安堵したのも事実だった。

 

 その原因が後ろでショートケーキをがっついている少年とは知らずに。

 

「……」

「……」

 

 そこから何を話すでもなく、親子の間で重苦しい沈黙が漂った。

 

「ふ〜……じゃあもう行くか?」

 

 そんな空気を木っ端みじんに砕くのも口周りのクリームを手で拭い取るカリフである。

 

「……行くってどこへ?」

 

 プレシアは空気を全く気にしないカリフにもう何も言うまいと呆れて聞き返した。

 

 もちろんその答えは……

 

「地球」

 

 冗談であってほしかったが、容易に思い付いた場所だった。

 

「んじゃあよろしく。フェイト」

「え?…え?」

 

 話が一段階も二段階も進んで着いていけてないフェイトの肩をポンと叩いてカリフは全てを丸投げにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠見市に夜を巡る四つの影があった。

 

 そして、その四つの影はとある店の中へ入って行った。

 

「いらっしゃいませー! す○みな太郎海鳴店へようこそー!」

「四人」

「かしこまりましたー!」

 

 足を踏み入れれば従業員の笑顔の接待が間もなくやって来た。

 

 お客様に即座に対応できる良い店だ。

 

「「「……」」」

 

 カリフが何かに感心する中、プレシア、フェイト、アルフは呆然とした。

 

 自分たちは何をしているのだろう、と。

 

「あの……一つ聞いていいかしら?」

「なんだ?」

「何ここ?」

「すた○な太郎」

「なんで?」

「バイキング」

「OK、質問を変えるわね? フェイトたちはいいけど、なんで私まで?」

「海鳴店限定イベント。四人以上のご来店で食べ放題時間がさらにもう一時間プラス」

「よっしゃ。覚悟しやがれ」

 

 まさか、こんなどうでもいいことに自分をも巻き込んだのか? そう思って聞いた。

 

 答えも返ってきた。

 

 マジでいい加減にしろよ?

 

 

 わざわざそんなことで呼び出したのか?

 

「まあ、待て」

 

 今にもブチ切れそうなプレシアに待ったをかけたカリフは手を突き出して一言告げた。

 

「まずは腹ごしらえだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? 本当になんの用よ?」

 

 肉を焼く時の香ばしい匂いで満たされている空間でプレシアは片肘をついていた。

 

 目の前には皿に肉のタワーを作ってホクホク顔のカリフが座っている。

 

 フェイトとアルフは少しの間だけ食べ物を集めてほしいと言って外してもらってる。

 

「ちょっと確認したいことがあってな」

「確認?」

「……そうだな…食うのはフェイトたちが持って来た物を待っても遅くはないな……」

 

 少し考えてからプレシアを手招きしてトイレを親指でクイっと指す。

 

 その意味を理解したプレシアはカリフと共にトイレへと入って行った。

 

「それで? なにを見せてくれるのかしら?」

 

 プレシアはまた馬鹿なことかと思ってため息をつきながら聞いた。

 

 完全に諦めている。

 

「ここに呼んだのは他でもない。ジュエルシードのことだ」

「あぁ、そんなこと言ってたわね」

 

 プレシアも思い出したように言うと、カリフは全てを見せることにした。

 

「オレは昨日暴走したジュエルシードを掴んで黙らせた」

「だま……ていうか昨日の次元振を抑えたというの? 魔力も無しに?」

 

 どこまで常識はずれなのか……そう思った直後に更にその考えを裏付ける物を見せてきた。

 

「そしたらこいつが生えてきた」

「?……それは?!」

 

 カリフは服で隠していた尻尾をヒュルンとプレシアに見せ付けた。

 

 プレシアはもちろん驚愕した。普通の人間には有り得ないものだったから。

 

「貴方……使い魔だったの?」

「いや、これはサイヤ人の個性だ」

 

 素っ気なく答えながら尻尾を自在に操りながら本題に入る。

 

「それで、是非お前の意見が聞きたくなったのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは多分だけど、貴方の願いに対するジュエルシードの感応ね」

「願い……」

 

 ある程度の話を聞いてプレシアはそう確証していた。

 

 ジュエルシードは元を正せば願望を叶える宝石。

 

 だが、ジュエルシード自体の莫大な魔力が対象の願いを必要以上に叶え、逆に破滅をもたらす。

 

 ジュエルシードがロストロギアと呼称される所以である。

 

 だが、カリフはそのパワーを一身に受けたのだ。

 

 そして、カリフが勝った。

 

 つまりそういうことである。

 

「貴方の願いは強くなること、なら話は簡単よ。その尻尾が貴方の成長のキーとなる……ほぼ推測だけどね…」

「なるほど……つまり……あの苦痛を越えればオレは……」

 

 ふと一度だけなりかけた大猿化を思い出した。

 

 あの時の本能の奔流、殺意の嵐、自分が自分でなくなる感覚は今でも忘れない。

 

 だけど、逆に言えばあの苦しみの果てに目指す道がある。

 

 そう直感した。

 

「大分参考になった。礼を言う」

「え、えぇ……」

 

 普段の憎たらしい子供が真摯に礼を言ってきたのに面を喰らったようだ。

 

 そんなプレシアに関わらずにカリフはプレシアに問う。

 

 

「それで? お前は何を聞きたいのだ?」

「え?」

 

 急な返しにプレシアは面を喰らった。

 

「忘れたのか? お前も聞きたいことがあるからここに来たんだろう」

 

 ここまで言って思い出した様子のプレシアに少し呆れながらも促す。

 

 そして、プレシアはゆっくりとした口調で本題に入る。

 

「以前に言ったわよね? 同じ物はたとえどれだけ似せようが本物にはなりえないと……」

「あぁ……言ったなぁ?」

「なんで疑問系なのよ……ともかく、私も貴方の意見が聞きたいのよ」

 

 プレシアの呆れも無視してカリフは無言で続きを促す。

 

「例えばよ? もし自分の子供を亡くした母親がその子供を転生の意味でクローンを造った」

 

 プレシアの例え話にカリフは若干眉に皺を作る。

 

 そんなカリフに気付かずにプレシアは続ける。

 

「だけど、その子供は本物とは似ても似つかない失敗作だった……」

「……」

「こんな時、母親はどうしたらいいのかしら?」

 

 同じ物は二度と戻ってこない。

 

 それなら今まで、そして、これからやろうとしていることは無駄なのだろうか……

 

 それなら自分はどうすればいいのか……

 

 その答えを目の前の少年に聞いてみたかった。

 

 そして今まで話を聞いていたカリフはゆっくりと答えた。

 

「知るか」

 

 返ってきたのは本心からの答えであり、拒絶だった。

 

「……え?」

 

 まさかの一言にプレシアは硬直した。

 

「子供が似てなかったからなんだ? その後の人生などオレの知ったことじゃない。育てたければ育てればいい。捨てるなら捨てればいい」

 

 結局のところ、答えは自分で見つけなければならない。

 

 その後の人生は自分で決めなければならないのだから。

 

「ただ、自堕落に生きればいいんじゃない。オレなら終わったことをネチネチ考えるより、どう生きるかを考える」

「……」

 

 プレシアはカリフの言いたいことがなんであるかを悟った。

 

『過去よりも未来』

 

 まさにこの一言に尽きた。

 

「話は終わりか?」

「え、えぇ……」

 

 少し物思いに耽ったプレシアはカリフの声に気付き、相槌をうつ。

 

 その答えを待っていたと言わんばかりに頷き、カリフは尻尾を再び隠してトイレから出ようとした時だった。

 

 カリフは思い出したようにプレシアに言った。

 

「あ、そういえばオレの母親が言ってたな」

「?」

「兄が大人しければ弟は騒がしいって……世の中バランス良くできてるってな」

 

 最後にそう言ってカリフは再び戻ってきたフェイトたちを交えて肉を焼いて食いまくった。

 

 プレシアはそんなカリフを呆然と見て呟いた。

 

「バランス……ね……」

 

 いや、その無意識の言葉は必然的に心から洩れたものだった。

 

 苦笑いを浮かべるフェイトを見つめながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……久しぶりに食ったな」

「うぅ……私はお腹一杯だよ……」

「今回はアタシも満足だよ! フェイトったらあまり食べないから最近心配だったんだから!」

 

 食べ放題の店から出てきた面子は一部満足そうに腹を抑えていた。

 

 カリフも今回は満足したようだった。

 

 自分は満腹すぎて苦しいけど、アルフとカリフの笑顔を見て満足する。

 

 

 だけど一つ気になることは……

 

「……」

 

 焼肉屋からずっと黙り込んでいるプレシアに怖ず怖ずと近寄って話しかけた。

 

「あ、かあ……さん……」

「……」

 

 聞こえてないのか、全く反応がない。

 

 意を決してさっきよりも大きい声で呼んでみる。

 

「か、母さん」

「ん? あ、なんの用?」

 

 急に呼ばれて少しうろたえながらも素っ気ない言葉で対応するプレシアに少し驚いた。

 

 が、いつものように怖い雰囲気が無いのに安心もした。

 

「えっと……楽しかったですか?」

 

 差し障りのないような話をしようとするが、プレシアは額に青筋を浮かべてカリフを睨む。

 

「楽しいなんて良く言うわ……あのおバカが勢い余ってドリンクと間違えてビール瓶を5本飲んだのを頭下げたのよ……なんか疲れたわ……」

「……」

 

 完全に話題に失敗したと思ったフェイトは何も言えなくなった。

 

 そのまま無言で二人は並んで歩いていただけだったが……

 

「おい!」

「「!!」」

 

 カリフの大声に二人は驚きながらもそっちを見ると……

 

「次はミ○ド食いに行くぞ! 食後のデザートにはうってつけだからな!」

「アンタ……どんだけ食うんだい…」

「お前もだ」

「うええ!? さっきのとこで食いまくって……」

「…あはは…」

「……はぁ」

 

 二人で騒ぐ姿を見たフェイトは苦笑し、プレシアはもう本当に諦めた。

 

「全く……少しはフェイトみたいに大人しくできないのかしら?」

 

 思わずに出した一言にプレシアは自分が言ったことに気付いた。

 

(今……なんであんなことを…)

 

 自分でも不思議だった。

 

 自分はフェイトを憎んでいる。

 

 それは今でも変わらないはずだった。

 

(なのに……)

 

 その一瞬だけ思った気持ちに戸惑うばかり。

 

 しかも、この時のプレシアは自分でも他人から見ても信じられないことをしていた。

 

「ぁ……」

「!!」

 

 いつの間にかフェイトの頭に手を置いていた。

 

 それも、ただ置いただけじゃなく、優しく包むように……

 

 まるで、愛しい物を愛でるように…

 

「か、母さん?」

 

 戸惑いながらも上目づかいで見上げてくるフェイトにプレシアは慌てて手を離してフェイトから離れるように無言でカリフたちを追い掛けた。

 

 半ば置き去りみたいき取り残されたフェイトは不思議と胸が温かかった。

 

(一緒に食事なんて……もうできないと思ってた)

 

 覚えている記憶では、こうして親子で食事なんて心のどこかで無理だと思ってた。

 

 でも、今日は少し疲れたけど久しぶりに特別な時間だった。

 

 それだけでも夢のような時間だったのに、もう一つだけ彼女にとっての事件が起こった。

 

 頭を撫でてくれた……

 

 いきなりで反応できなかったが、今になって分かった。

 

 母さんが私を撫でてくれた

 

 フェイトの心はもうそのことに満たされたのだった。

 

(ありがとう……母さん……)

 

 心の中で感謝し、三人の人影を追い掛ける。

 

 自分の勘違いでも構わない。

 

 だけど、また私は母さんに笑顔を

 

 

 

 浮かべてほしいんだ

 

 

 

 フェイトが新たに決心したこの日の夜空には綺麗な形の満月が浮かんでいた。

 

 淡く光る月光は四つの影を優しく照らし続けたのだった。

 

 まるで、彼らだけを包み込むように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが、翌日にカリフたちが食べた焼肉屋はしばらくの間は休業したのは割愛しよう。

 

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