魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるサイヤ人は悪魔の子~(更新一旦停止) 作:生まれ変わった人
地面に倒れ伏し、ピクリとも動かないカリフ
彼が命を削ってまで残した血の軌跡も残っている。
ジャネンバはそれを確認し、冷や汗をかく。
(危なかった……サイヤ人の戦闘力は分かっていたつもりだったが……まさか魔力容量を9%にまで消費させられるとは予想外だった……もう少しで転移する魔力すら消えるところだった……!)
カリフの記憶を辿っても今回ほどの急激な成長は予想できなかった。
事前にカリフのことを分析して戦闘シミュレーションしたはずなのに、追い詰められすぎた。
(今回は運が良かった……だから勝てたに過ぎない……)
やはり自分の選択は間違ってなかった……早めにカリフを葬れたことは正しかったと痛感する。
そして倒れたカリフの亡骸に目をやると、驚くべき光景があった。
(目を開けたままか……最期の瞬間まで戦おうとしたのか……)
果てなき闘志の結果が“死”
死ぬ間際までこの少年は勝つために戦おうとしたことを如実に示している。
相対する思想を持ち、殺し合った仲でも尊敬せざる得ない。
ジャネンバの心の中で死を悼んだ。
「カリフ……何してんだよ……なぁ……」
ジャネンバの他の面子は非常な現実を未だに受け入れられなかった。
アルフが信じられないように動かない骸に声をかける。
「冗談だよね……きっとあいつを……あたし等までも騙すような無茶苦茶な作戦だよね……分かってるよ……」
骸にかける声が皆の心を締め付ける。
ある者は放心し、ある者は歯を食いしばって瞑目する。
一部の者は既に現実を受け入れつつあった。
「覚悟しろってんだよ! そうやって油断してるとカリフにやられちまうぞ!」
「……」
「何か言ってみろよ! もう一回あんたをぶっとばして……!」
「アルフ……」
叫ぶアルフをフェイトが静止させる。
「フェイト……君は……!?」
不審に思ったクロノがフェイトを見やり、言葉を失った。
フェイトは疲弊しきった身体に鞭を打ってその身を無理矢理起こす。
目から光が消えている……現実を認めるのを拒んでいる目だった。
「カリフはきっと疲労が酷過ぎて動けないんだ……私たちがナハトの気を引かなきゃ……」
「フェイト!」
「あいつをカリフから離さなきゃ……離さなきゃ……」
「カリフは……カリフはもう……!」
「離れろおおぉぉ!」
全てを悟ったクロノの言葉にも耳を貸さずフェイトはバルディッシュを鎌に変えてジャネンバへと向かっていく。
ジャネンバは向かってくるフェイトに視線を戻すことは無く、カリフを見下ろすだけ。
もはや剣を使うまでもないと言わんばかりにフェイトの鎌を素手でつかむ。
「く……! この……!」
「お前は……そうか……憎いのだな……私のことが……」
「あぁ!」
振りほどこうとするフェイトを払いのける。
払われたフェイトはなのはの傍にまで飛ばされて転倒する。
「フェイトちゃん!」
なのはが倒れたフェイトの傍にまで駆け寄ってくる。
それでも必死に起きようとするフェイトにジャネンバは静かに語りかける。
「止せ。勝敗は決した」
「まだだ……まだ終わらせない!」
「こいつは死んだ……」
「カリフは負けたりしない! 死んだりなんか……!」
「いい加減にしろっ! まだ信じられないなら今すぐこいつの身体を串刺しにしてやるっ!」
「!?」
ジャネンバの脅しにフェイトを含めた全員が体を震わせる。
初めて見せる剣幕に尻込みし、全員を正気に戻させる。
なのはの、フェイトの、はやてたちから涙が溢れる。
落ち着いた様子を見せるジャネンバはフェイトたちに背中を見せてその場から離れようとする。
だが、それを呼び止める声がした。
「なぜ……僕たちを殺さない……?」
ユーノの問いに足が止まり、背中越しに聞く。
「君はカリフの記憶を基に造られたナハトの自動防衛プログラム……ナハトは悪意ある改変によって敵とみなした対象を殲滅してきた……なのに僕たちを殺そうともせずに見逃そうとしている。何故なんだ……」
「……分からない……」
空を仰ぎ見て徐々に話していく。
「言葉にできないんだ……本当はお前たちも殺さねばならないはずなのに……完全に自立した私には夜天の書も主も必要ないはず……なのに……」
「どういう……ことだ?」
「それは私から答えましょう」
「リィンフォース?」
そこにははやてとのユニゾンを解除したリィンフォースが立っていた。
悲しみに表情を変えて……
「ナハトは私や守護騎士たちとリンクし、感覚も魔力も共有できます……そして、感情も……」
「かん……じょう?」
「私もナハトの行動には疑問を持っていたのですが、今しがた理解しました」
「お前……何を言って……」
「ナハト……すまない。今まで私がお前と共に一緒にいたのに気付いてやれなかった……」
リィンフォースから涙が零れる。
―――お前は……本当は優しいのだよ……ナハト……
ジャネンバでさえも動揺する。
去ろうとしていた身体を振り返ってリィンフォースと向き合う。
「最初から気付くべきだった……お前がクライド・ハラオウンを吸収してまでできる限り生き永らえさせていたこと……今までの主たちにもそうしていたように……」
「違う……」
「そしてなのはたちは主にとって友好的であり、危険度が少ないから殺さなくても問題は無い……代わりにカリフという強くて危険な存在を取り除くというプログラムを自分に課して自立させる必要が……」
「違うっ!」
ジャネンバの怒声にも怯まずに続ける。
「今までプログラムに従うしかなかったお前が初めて人格を持ち、身体を持った。だから主たちを守ろうと……」
「止めろ……私はただ生きたくて……」
「お前は生きたかったんだ……皆と幸せに……お前は誰よりも寂しがり屋なんだよ」
なのはたちは分かってしまった。
ナハトが生きたかった理由
それは有り触れたことだけど今まで手に届かなかったこと……
ただ……幸せに生きたかっただけだった。
ナハトは今まで望まぬ破壊を強いられ、望まぬ転生を強要させられてきた。
元は人々を助ける魔法を求めて保存し、伝えるために造られた救済の魔導書だった。
なのに、いつしか悪意ある改変を受けてから一変してしまった。
その時からナハトは苦しみ続けたのかもしれない……
だからこそ……
「……ナハトさん……悲しいんだよね……」
「そんなもの……私には……」
「じゃあ……なんで泣いてるの?」
なのはの指摘にジャネンバ自身が驚いた。
そして自分の目元を拭ってみると、指が濡れた。
そこで自分が涙をながしていることに初めて気付いた。
拭っても拭っても尽きぬ涙に鬱陶しそうに拭い続ける。
なのはも悲しそうに続けた。
「あなたが泣くのは悲しいから……本当はこんなことしたくなかったから……だよね?」
「知らん……こんなのは知らない……」
「それはね……あなたがまだ生まれたばかりだから……辛いこと、悲しいことがどういうことだか分からないんだよ……」
暴かれていくジャネンバの胸中になのはたちの言葉が染み込んでいく。
本当はもう殺したくはなかった……もう誰かが泣く姿は見たくなかった。
そして、今の心優しい主を救ってやりたかった。
どうしようもない輪廻の元でジャネンバ……元のナハトは自立を得る機会を初めて得ることができた。
カリフに過去の夢を見せた時、彼はいとも容易く過去を断ち切って闇の書からの拘束を断ち切った。
今までにない人間の行動パターンからはかけ離れた行動に闇の書の自動防衛プログラムがエラーを起こした。
この際に、闇の書は自立思考の機能を持ったナハトヴァールにカリフという“危険人物の排除”という指令の元で真の覚醒を得た。
全ての管理を任されたジャネンバにもはや呪縛など無くなった。
元の自動防衛プログラムを自分の中で抹消させることでナハトはジャネンバとなって現界し、はやてから歪められたプログラムごと独立を果たす。
ただ、“カリフを消す”という指令は自分を生まれさせるための基本的な行動原理
カリフ殺害だけはどうあっても成さなければならなかったのだ……
これは仕方のなかったこと……はやてや守護騎士、リィンフォースを開放するためには必要なことだった。
「私は……」
「ナハト……」
闇の書の一部だったジャネンバにはやては声をかけるしかなかった。
深い愛情のために起こってしまったどうしようもない悲劇
「う……あああああぁぁぁぁ……ああああん!」
フェイトもジャネンバの心を知ってしまったからこそ、どうしていいのか分からずに泣き叫ぶ。
カリフを殺したジャネンバが憎いのか……
カリフからジャネンバを恨むなと言われたから許してやりたいのか……
幸せに生きたいジャネンバに同情したいのか……
はやてを想う気持ちを分かってやりたいのか……
もう分からなくなっていた。
皆もどうしようもなかったこの事態に涙を流さずにはいられない。
どんな事情があっても一人の命を奪ったことは揺るがない事実
もう戻らないカリフに涙を流していた……その時だった。
「う……」
「風……」
突如として静かだったこの世界に強烈な突風が吹き荒れた。
砂煙が舞い、辺りの視界を全て奪うほど強い風
こんなに強い風でも犯してしまった罪を吹き飛ばすことなどできはしない。
風が止んだ後は先ほどと同じ穏やかな世界だった。
砂嵐が止んだ後、ジャネンバの姿が砂嵐の中から現れる。
「……」
だが、その顔は先ほどのような悲しみに染まった顔ではない。
それは信じられない物を目にした顔そのものだった。
「な……何故……」
ジャネンバは一歩も動けないほどの衝撃に襲われて驚愕する。
突然の砂嵐に目を瞑っていたなのはたちはそれに気づかずに目を開ける。
「な……!?」
誰かが驚く声に皆が砂嵐に塞がれた目を開けていく。
誰もが目の前の信じがたい事実に感情が揺さぶられる。何故なら……
彼らの前の
死んだであろう少年が立ち上がっていたことが原因だ
目を瞑る前までは確かに倒れていた瀕死の身体……命を繋ぎ止めることさえ困難な身体は確かにしっかりと立ち上がっていた。
「そ、そんな……」
「馬鹿な……確かにカリフは……」
死んだはずだ……
そもそも最早立てるような身体でさえない。
腹と首からの出血の跡があり得ない矛盾を表している。
「あ~……ぁ~……」
唸りながら血に塗れた腕を天に掲げて仰ぐ。
まるで何かを求めるかのような動作に誰もが混乱するしかない。
ジャネンバ以外は
カリフが求める……見事な満月に絶句する。
(つ……月だと!?)
突然の出来事に動揺を隠せないジャネンバだが、高度な状況把握システムが徐々に今起きていることを整理していく。
(今の突風で上空を覆っていた火山灰が吹き飛ばされたのか! ここら一帯の火山を消し飛ばしたから再び火山灰がここらを覆う時間もかかる!)
今の自分には上空で輝く満月を消し去るほどのパワーは残っていない。
自然に消すのは得策ではない。
(奴の目が開いていたことも、月の光が奴のみを照らすような場所に置いてしまったことも……何てことだ!)
さっきまでの行動を振り返り、自分の運の悪さを呪う中、カリフの体に異変が生じ始めていた。
「が……ぁ……」
胸の部分がドクンと鼓動を上げて唸る。
さっきまでの声とは違う……獣の唸る声へと変貌していく。
そして、ズボンを突き抜けて尻尾が外へと飛び出した。
「な!?」
「し、尻尾!?」
初めて見たカリフの真実に先ほどの悲しみなど忘れ去った。
ヒュルンと姿を現した猿のような尻尾を確認したジャネンバは剣を持ってカリフに襲い掛かる。
誰もその行動に反応できてないほど高速な攻撃でカリフに剣を振るう。
その行動に打算も何もない……この先の修羅場を阻止しようと必死になった結果である。
「うがぁ!」
「ぶっ!」
だが、神速をもってしてもカリフの凶暴な一撃に捉えられ、遥か彼方へ吹き飛ばされる。
裏拳で殴られたジャネンバは剣を落とし、遥か彼方の火山を幾多も貫いていく。
事態が急転直下を迎えた頃に皆の認識が追いついた。
「何があった……」
「見えなかった……」
戦い慣れた騎士たちやゼスト隊さえも一連の行動が把握できなかった。
突然、ジャネンバとカリフの姿がブレたかと思ったらジャネンバだけが姿を眩ませ、遠くでは何かが爆発したかのように火山が崩れ去っていく。
持っていた剣だけが宙に舞って地面に突き刺さる。
「う~……うがあぁぁぁぁぁぁ!」
「カリフ!?」
「駄目だ! 様子がおかしい!」
尻尾が現れた直後に唾液をまき散らせながら苦しむかのように唸り声を上げる。
普段からは考えられない行動に全員は駆け寄ろうとした時だった。
『『『!?』』』
カリフの身体が巨大化し、やがて上着まで破れる。
「あぁ……があぁぁぁ!」
そこで見てしまった。
露わになった上半身が大量の体毛に覆われていく様を……
顔が、体が変異を起こしながら巨大化し続けて別の生き物へと変貌していく。
巨大化しながら金色の体毛が全身を覆う。
唸る口から牙が生えてくる。
目は血のように赤く変色する。
「んだよ……これ……」
「……どういう……ことだ……」
「何だい……これは……」
全てが終わるころには誰もがカリフ“だった”生き物を見上げて言葉を失う。
そこにいたのはカリフでもなければ人間でもない……
「グオオオオオオオオオオオォォォォォッ!!」
そこには黄金の体毛纏った大猿が唸りを上げた。
灼熱の世界に凶暴な声が響き渡った。
~後書き~
超が付くほどの展開ですが、もうしばらくお付き合いください。
よって、ジャネンバ編完結まで残り三話くらいになるので気長にお待ちください!
それではまた次回にお会いしましょう!