魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるサイヤ人は悪魔の子~(更新一旦停止)   作:生まれ変わった人

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時は数分前

 

アースラ内部ではなのはたちとカリフがジャネンバをマグマの中に落としたところまで遡る。

 

「対象反応……ロスト! ナハトヴァールの反応ありません!」

 

エイミィの報告でアースラ内部が喜びで湧く。

 

「やったああぁぁぁ!」

「終わった……!」

 

互いに喜びを分かち合い、拍手を送る者とハイタッチを交わす者がいる。

 

「やったわすずかー!」

「アリサちゃん落ち着いて!」

 

抱き合ってくるアリサを宥めるすずか

 

「終わったのね……」

「あぁ……」

「あなた?」

「いや……ただ、長かったなぁ……と」

 

バスタオルを巻いたクライドと寄り添うリンディ

 

それを遠目で見ていたエイミィは微笑みながら仕事を続ける。

 

「あらあら……」

 

そしてプレシアはフェイトがあのカリフに泣きながら起こる姿に微笑ましさを覚える。

 

「く~! あの歳で膝枕とはなんて奴だ!」

「あの子……将来格好よくなりそー……」

 

モニター越しのフェイトとカリフの膝枕に局員たちが各々思ったことを口にする。

 

事件への緊張が解かれた証拠が表れる。

 

アースラ内で和やかなムードが広がっていた……その時だった。

 

「きゃああああああああぁぁぁぁ!」

 

突然の局員の悲鳴に全員は動きを止めた。

 

ブリッジから見える光景には胸を一刺しされて吐血するカリフと生々しい姿で現れたジャネンバが地面から現れるシーンだった。

 

「どういうこと!? 対象はさっき反応をロストさせたのに……!?」

「わ、分かりません! 恐らく、魔力反応をステルスで隠していたのかもしれません!」

 

エイミィたちに再び焦りの色が出てくる中で、カリフの首が斬られて再び大量の出血を起こす。

 

「ひっ!」

「あ……ぁ……」

「見ちゃ駄目!」

 

同い年の男の子に起こる惨劇に怯えるアリサとすずかの目をプレシアが防ぐ。

 

「現地に向かった方々をアースラへ避難させてください!」

「やっています! ですが、先ほどの転移で魔力量を使ってしまいました! 回復には時間が……!」

 

リンディの指示の間にもカリフはエネルギー波を浴びて傷つき、なのはたちも圧倒的な力の前に無力化させられていく。

 

そして、カリフにのみ執拗に痛めつける。

 

「酷い……こんなの……」

「子供相手にすることじゃない……」

 

魔法関連の事件を担当しているリンディやアースラ局員も少年が痛めつけられる惨状に寒気が奔る。

 

中にはこの惨状を目にすることに耐えられずに瞑目する局員もいる。

 

だが、その直後には到底信じられないような光景が待っていた。

 

 

血まみれになりながらも立ち上がる少年

 

その少年は自分が死ぬ寸前になりながらもフェイトたちを気にしながら再び立ち上がる。

 

そして、人の身体からこんなに血があるのか……と思うくらいの出血を流しながら未だにジャネンバへと向かっていく。

 

「な……なんて子だ……もう死んでもおかしくないんだぞ……」

 

グレアムの驚く間にも刺され、斬られるカリフは向かっていく。

 

「カリフくんのバイタルが危険です! 早めに止めさせないと……!」

 

そして、十数年の短い人生しか歩んでいない少年が倒れた。

 

アースラ内が重い沈黙に包まれ、時が止まった。

 

ピクリとも動かなくなった少年が映し出されるスクリーンを目にしながらエイミィが口を開けた。

 

「カリフくんの心肺停止……脈は……ありません……」

 

その瞬間、誰もが幼い命がこの世を去ったことに心を痛ませた。

 

「う……く……っ!」

「リンディ……!」

 

自分の息子と同じ年しか生きていない少年を助けられなかった無力感に涙を流すハラオウン夫婦

 

「なに……これ……なんで……」

「アリサちゃん……」

「嘘よね……これ、何かの間違いだって……」

「アリサちゃん!」

 

前回に友達になってやる、と宣言したはずの生意気な男の子が死んだ……ついさっきまで平和に生きていた少女にとっては受け入れがたく、耐えがたい現実

 

動揺するアリサをすずかが宥めようとするも、すずかも限界が近い。

 

それからというもの、ナハトの心の内が分かってくる。

 

今まで苦しんできたこと

 

 

ただ幸せに暮らしたかったこと

 

 

 

そして、そのためにカリフを殺さなければならなかったこと……全てを聞いたアースラの局員たちはスクリーンの向こう側のなのはたちと共にどうしようもない感情が生まれる。

 

複雑な感情が渦巻くブリッジ内でプレシアは声を震わせて呟いた。

 

「なんで……なんであの子だけがこんな目にあうの……?」

 

非難と犠牲の捌け口にされた少年に悲しみが襲い掛かる。

 

そんな時だった。

 

「!? 艦長……モニターを変えてもいいですか……?」

 

エイミィは静まり返ったアースラの中で再びざわつきが蘇る。

 

幼い少年の死が局員には酷すぎたのか、暗いムードの中でエイミィがカリフを映す。

 

『『『!?』』』

 

そこでなのはたちと同時期に皆は驚愕する。

 

さっきまで死んだと思っていた少年が立ち上がっていた。

 

突然の出来事にリンディは涙を拭うことも忘れて大声を張り上げる。

 

「彼のバイタルは!?」

「それが……さっきまでの生命活動が嘘のように血圧も心拍数も上がってきて……嘘!? こんな数値は!?」

「彼の血圧と心拍数が成人男性のそれを上回って……そんな、これ以上上がれば全身の血管が破裂しますよ!?」

「下手したら心臓そのものが爆発を起こします!」

 

カリフのバイタルは既に驚愕すべき数値を示していた時だった。

 

彼の身体に異変が起き始めた。

 

「こ、これは!?」

 

リンディやエイミィ、クライドやグレアムたち

 

そしてプレシアとアリサ、すずかたちまでもがなのはたちと心が一つになったかのように驚愕する。

 

『がぁ……ああぁぁぁ!』

 

狂ったように唸り声を上げるカリフに同調するようにバイタルを示す数値も物凄いスピードで上がっていく。

 

『danger』の警告が鳴り響く中、遂に異変の全貌が露わになった。

 

「な……なんだこれは……」

「ひぃ……!」

 

スクリーンに映されていたのは死にかけの少年の姿とはかけ離れた

 

 

金色の大猿の姿だった。

 

◆

 

「ウ~……フウゥゥゥ~」

 

突如として現れた大猿は周りを見渡しながら唸る。

 

なのはたちからすればここは逃げるのが得策なのだが、そうはいかない。

 

なにせ、あの大猿は“カリフだった”のだから。

 

「おいおい……これってどういうことだよ……」

「奴のことについては何か知らないのか? お前たちの方が我らより先に会ったのだろう?」

「知らないよ……あいつってば自分のことなんて全然話さないし……」

「誰かの使い魔……いや、しかし魔力が感じられない。そもそも使い魔は主人からは離れられないのだから……」

 

様々な憶測が飛び交う中、ユーノの頭の中で一つの可能性が浮かび上がる。

 

(ナハトがカリフに『サイヤ人』って言ってた……カリフの記憶を読み取ったナハトなら……!)

 

そう考えていた時、なのはとフェイトが大猿となったカリフの顔の前にまで飛んでいた。

 

「カリフくん! 私が分かる!?」

「声聞こえてる!? どうしちゃったの!?」

「?」

 

二人の出現にカリフは首を捻って二人を見ているだけ。

 

大きくても動物らしい姿にもしかしたら……と思ったのも束の間

 

「なのは! フェイト! 危ない!」

「え?」

「ガアアアアアアアアアアァァァ!」

 

ユーノが叫んだ時には既にカリフが大口を開けてなのはたちにエネルギーを放とうとしていた。

 

大猿になったとはいえカリフの力は未だ健在、それどころか威圧感が増したとも言える。

 

「止めろカリフ! 二人が分からないのか!?」

「逃げるんだよフェイト! なのは!」

 

クロノとアルフが大声を張り上げようがカリフは攻撃を止める気配がない。

 

「カリフ……駄目!」

「カリフくん!」

 

二人は尚も口にエネルギーを溜めるカリフに呼びかける。

 

だが、止める気配は見せずにエネルギーが放たれようとしたその時だった。

 

「くっ!」

「え!?」

「あなたは……っ!」

 

突然なのはたちの前に現れた魔方陣からジャネンバが現れ、二人を掴む。

 

そして、はやてたちの足元にも巨大な同じ魔方陣が現れた。

 

「これは、転移魔法!?」

 

誰かが叫んだその瞬間、全員がその場から姿を消した。

 

◆

 

全員がさっきまでいた場所とは遥か遠くに転移されたのに気付いたのはそう時間もかからなかった。

 

「ここは……」

「あれはカリフ……ということはまだこの世界に……」

 

遠くで大猿が見えることから未だに灼熱の世界から出ていない。

 

そしてこれだけの人数の転移を誰がやったのか……聞くまでもなかった。

 

「ナハト……」

「あ……ぐ……」

 

すぐ近くにはジャネンバが肩から腕の全てを失ったジャネンバが蹲っていた。

 

「お前が……何故……」

「フハハハ……なに、最期にできることがあるなら全てやろうと思ってな……」

「できること……どういうことなん?」

 

すると、はやてに向かってジャネンバは懐かしむように目を細める。

 

そんな時だった。遥か遠くで特大の爆発が起こった。

 

しかも核爆発を彷彿させるほどの爆発とキノコ雲、そして衝撃波と地震が襲い掛かった。

 

「う……くぅ……!」

「またかよ……!」

 

それぞれがなけなしの魔力を振り絞って防御結界であらゆる衝撃から身を守る。

 

既に更地となっていた周りの突風が収まった直後、突如としてエイミィから通信が入る。

 

『皆大変! 今すぐその世界から退避して!』

「エイミィさん!? あれ、さっきまで……」

「私の結界が崩れ始めたのだろう……今ならアースラとの通信も転移も行えるはずだ」

「そうなの!? よかった~……」

 

ジャネンバの言葉に全員に希望が募るが、通信越しのエイミィはそうはいかなかった。

 

『良くないよ! 聞いて? 今のカリフくんの砲撃でその星が……形を変えちゃったんだよぉ!』

『『『はぁ!?』』』

 

まさかの報告に全員が信じられないといった表情を浮かべる

 

ジャネンバのみが対して驚くことはなく、真剣な表情で大猿カリフを睨む。

 

「星の形って……そんな馬鹿な……」

『嘘じゃないよぉ! 事実、その星での爆発が衛星上でも確認できるくらいの規模なんだよ!』

 

まさかの事態に全員が更なる驚愕に襲われる中、ジャネンバが静かに口を開く。

 

「いや、あれならまだ可愛いくらいだ。奴が本気で暴れてしまえばこんな星なんてすぐに壊れる……」

「んな訳ねえだろ! 確かにあの化物はやべえけど一生物がんなマネ……!」

「できる。それが奴等サイヤ人の生業だからな」

「ぐ……!」

 

確信を持ったジャネンバの言葉にヴィータが言葉を詰まらせる。

 

ユーノが気になっていたことを聞く。

 

「君がさっきから言っている『サイヤ人』というのは種族の名前のようだが……カリフと何か関係があるのか?」

「関係も何も……奴は地球とは別の星で生まれたのだ。お前たちの言う宇宙人だ」

「宇宙人……」

「なんか急にSFチックになってきたんだけど……」

 

突然の事実になのはたちは絶句する。

 

「じゃあカリフは宇宙人……」

「あの、そのサイヤ人というのは一体……」

「サイヤ人……惑星ベジータという惑星に生息していた種族なのだが……奴等は非常に特徴的でな、全宇宙人から恐れられていた」

「特徴?」

「奴らは生まれ持っての戦闘能力が非常に高く、凶暴で体格的にも戦いに恵まれている。それを生かして奴の種族は他の惑星から技術を略奪、そして目を付けた星の種族を滅ぼしては制圧した星を売りつける……言わば星の地上げを行っていた」

 

カリフのもう一つの顔……宇宙人、略奪、星の地上げ

 

不穏なワードが飛び交う度にフェイトたちの顔から余裕が消えていく。

 

「星の地上げ……他にも宇宙人が……」

「宇宙人の中でも群を抜いて戦闘能力が強いことから、宇宙最強の戦闘民族と恐れられていた」

「戦闘民族……カリフが……」

 

確かにカリフからはそう言われてもおかしくない程の素質と性格を持ち合わせているのは知っている……

 

ユーノでさえも少し予想外だったのか驚愕を表すが、今はそれどころではない

 

「あの姿はそのサイヤ人というのと関係が?」

「目から取り入れた満月の光を摂取することで尻尾と反応し、大猿へと姿を変えるのもサイヤ人のもっとも特徴的な所であり……宇宙最強と言わしめた所以だ」

「どういうことだ?」

「サイヤ人は普通の姿でも強いのだがな……大猿になったときの戦闘能力は普段の十倍にまで引き上がる」

「じゅっ!?」

 

カリフの強さを知っている者からすればほとんど信じたくない現実だった。

 

「まさか……普段のカリフが十倍強くなって、で、理性失って暴れてるということか?」

「まさしくその通りだ」

 

戦いが好きなシグナムでさえも頭を抱えるほどだった。

 

普段の手加減された状態でもヴォルケンリッターを易々と退けるほどの力が更に強く、凶暴になったというのだから

 

「あの状態はどうにかできないのか!?」

「……あるにはある」

「!? 方法は!?」

「奴が理性を取り戻すか……もしくは奴の尻尾を切り落とすのだ」

「尻尾を……」

「切り落とす……」

 

後者の提案になのは、フェイト、はやてが特に複雑な心境となる。

 

今まで一緒に戦ってきた仲間の身体の一部を切り落とすということに躊躇いが生まれる。

 

「尻尾を切っても大丈夫なんですか?」

「切り落としてもまた生える……だが、切り落とすのは難しいぞ」

「な、なんで!?」

「巨大化したらスピードが遅くなる……ということはなく、スピードは健在だ。奴のスピードを知っているだろう?」

「それは……」

 

この面子の中で最も速いフェイトでも普段の訓練で追いつけたことが無いことを思い出す。

 

明らかに手を抜かれていても、だ

 

「くそ……厄介なんてもんじゃねえ……反則だろ……」

「アルカンシェルで尻尾だけをズバっと吹き飛ばす……なんて絶対無理だろうし……」

「やっぱり正気に戻すしか……」

 

なら、理性を取り戻してもらうしかないのか……そう思っていた時だった。

 

「お前たちはアースラへ戻れ」

 

突然のジャネンバの言葉に驚愕し、黙ってはいられなかった。

 

「そんなことできる訳ないだろ! カリフだけあのまま放っておくなんて……!」

「奴のことはもう諦めろ。どの道もう助からん」

「なっ!?」

「なんだと!?」

 

ジャネンバの言葉に全員は驚愕し、フェイトに至ってはジャネンバを睨む。

 

「まさか! また戦おうなんて……!」

「奴と私は同じ時を生きられない……これだけは変えられんのだ」

「!?」

 

それを聞くとフェイトはジャネンバの前に出て手を広げ、カリフの元へ通さない意思を見せる。

 

「止めてよ……あなたは本当は誰も殺したくないって思ってる優しいヒトなんだよ……」

「だが、私がこうしていられるのも奴を殺すようプログラムを……」

「でもこのまま何もせずにただ戦うなんておかしいよ!」

「せや! ナハトは夜天の書のプログラムなんやろ!? それなら私がなんとかして……!」

 

三人が必死にジャネンバの凶行を止めようと説得する。

 

もう彼はプログラムに従うしかないのだろう……だからこそ他の人が止めなければならない。

 

二人が殺し合う最悪な出来事はもうたくさんだ……

 

そう思っていた彼女たちをジャネンバは手を添えて制す。

 

「いや、もう私が思い描いていた予定とは大きくかけ離れてしまった」

「え? どういう……」

「こういうことだ」

『『『!?』』』

 

ジャネンバはおもむろに折れた腕を見せて全員を驚愕させる。

 

なのはたちは折れた腕の凄惨な姿に絶句したが、クロノやユーノたちは違った。

 

「再生されてない?」

 

ジャネンバは自嘲する。

 

「そうだ。これで分かるだろ? 私の魔力容量が既に尽きかけているのだよ」

「ちょっと待って! じゃあお前は何をしようと……!」

「私は……もう何もできない」

 

腕を押さえ、ジャネンバは彼女たちに申し訳なさそうに向き直る。

 

「先ほども言ったように私と奴は同じ時を生きられない……奴が私を殺すことも、私が奴を殺すこともできなくなった」

「何が言いたい?」

 

ジャネンバの言いたいことが分からない……そう思っていた時、答えは意外と簡単に告げられる。

 

「私とカリフは……今日ここで一緒に死ぬ」

 

考えていた最悪よりも更に最悪な結果となって……

 

「……」

 

突然の告白に皆が絶句する中、突然の通信が入る。

 

『皆! 大変だよ! 本当に大変なんだって!』

「ど、どうした!? 落ち着けエイミィ」

『落ち着いてなんかいられないよ! 皆すぐにその世界から離脱してアースラに戻ってきて! 皆のいる星の核が暴走状態になってるの! それもとてつもないエネルギーを放って!』

 

急に言われても何が何だか……そう暢気に思っていると決定的な一言が告げられた。

 

『もう間も無くその星が爆発しちゃうんだよぉ!』

「爆……発!?」

 

突然のことに皆は、普段冷静なクロノやゼストでさえも思考が停止した。

 

だが、一瞬だけの静寂の合間に数多の天変地異を肌で感じる。

 

まるで星そのものを割るような地震

 

 

星がマグマを噴いて悲鳴を上げる

 

 

強固な岩盤を崩すほどのハリケーンの大群

 

 

空には雷が鳴り響き、オーロラが見えている。

 

今更になってようやく気付いた。

 

今、この星の自然のバランスが崩れていること

 

それはつまりこの星の滅亡へのカウントダウン……

 

「馬鹿な! なんでこんな時に限って星が……!?」

 

ゼストまでもが取り乱す事態に皆もが今の状況の悪さを理解し、体が震える。

 

「分かったか……どちらにせよ私とあの大猿は……この星とともに散る」

「で、でも、その前にカリフくんを元に戻せば……!」

「私でさえも一蹴するような化け物を相手にか? どう考えても間に合わん」

「そ、そんな……」

 

一蹴されたなのははレイジングハートを握り締める力を強めて涙を浮かべる。

 

尻尾を斬ろうにも今のカリフを相手にすれば被害は甚大なものとなり、必ずしも成功しているとは限らない。

 

時間も力も足りない……

 

「待て、なぜお前もなんだ?」

 

皆の心に絶望が染まる中、リィンフォースのみが今までの会話での矛盾に気付く。

 

「どういうことや?」

「ナハトには転生システムを使った次元移動システムがあるはずです。それなのに……」

「簡単なことだ。異世界へ逃げるだけの魔力はさっきの攻撃を防ぐときに使ってしまったのだ。今の魔力では自分の転移は不可能、魔力が回復するころにはこの世界は……」

 

かける声が見つからなかった。

 

ただ普通に生きたい一心で死闘を繰り広げた結果が万事休す……

 

戦いには勝ったのに勝負ではこれまでにない敗北をジャネンバは喫したのだ。

 

だが、ジャネンバはさっきまでの苦しそうな表情が嘘のようにどこか満ち足りた表情となっていた。

 

ジャネンバはフェイトたちの視線に気付き、薄く笑う。

 

「ふ、敵に向ける目とは思えんな……私はお前たちの友を殺そうとした憎き敵だぞ」

「だって……死のうとしてるんよ?……怖く……ないの?」

 

はやてが恐る恐る聞くと、逆にジャネンバが満足そうに、そして慈しむように笑いながらはやてに視線を合わせるために屈む。

 

「怖くない……といえば嘘になります。ですが、それ以上に私は嬉しいのですよ」

「な、なにを……」

「その前に一つ貴女に……謝らなければならないことがあります。聞いてください」

「!!」

 

ジャネンバが跪きながら頭を下げる様子に驚きに目を見開くはやて

 

それに釣られるかのようにヴォルケンリッターの面々が驚きを見せていた。

 

口調も明らかに変わったことにも……

 

「謝るって……カリフくんのこと?」

「いえ、カリフのことは今さら弁明する気は御座いません……カリフに会う前のことになります。覚えておられますか? 貴女は春から夏へ移り変わるころの夜にバスで病院の検診から帰っていた時のことです」

「バス……夏?」

「帰り道……トラックが信号に構わず貴女に衝突してしまうかもしれませんでした」

「トラック……もしかして……あの日の……」

 

はやてに心当たりがあったのか思い出し、ハっとジャネンバと向き合う。

 

「で、でも! あれは運転手の人が直前で避けた後、私が気絶して、通報されて……また病院に搬送されて……」

「実を言えば衝突の前に私が貴女を上空へと転移させた後に地上に下ろして通報したのは私です。運転手は寝ぼけて貴女を幻覚と思い込んでその場を離れてからはあの通りに人は来ませんでした……だから近くにいた私が……」

「ナハトが助けて……」

 

告げられる過去の真実……はやては驚きの連続で言葉を失いながらも耳を傾ける。

 

そんな中、ジャネンバは瞑目し、申し訳なさそうにより一層頭を下げる。

 

「本当は貴女のリンカーコアが成熟するまで動くつもりはなかったのです……でなければ貴女があそこまで苦しむ必要など無かったのですよ……私は……貴女の枷でしかならなかったことが許せなかった!」

 

ジャネンバははやての頬を優しく撫で、はやても一瞬だけ身体を震わせるがジャネンバの愛撫を受け入れた。

 

「あ……」

 

その手から温もりが伝わる。

 

さっきまで友達を殺そうとした手がこんなにも暖かく、優しいものなのかと……

 

「貴方を苦しめることしかできなかったこの存在……それが最期に貴女を……ご友人を……命を守る盾となれることが嬉しくて堪りません」

「ナハト……何する気なん?」

「私は騎士にはなれませんでしたが、最期くらいは真似事だけで充分。この身に変えても……どうやら話はここまでのようです。もっとお話がしたかったのですが残念です」

「なに……うっ!」

 

突然ジャネンバにに押しのけられたと思ったその瞬間

 

「グガアアアァァァァァ!!」

「っっ!!」

 

上空から飛びかかってきた大猿の拳を剣で受け切った。

 

あまりの衝撃にジャネンバ以外の全員は着地の余波で吹き飛ばされはしたがすぐに持ち直してジャネンバたちを見る。

 

「ナハト!?」

「カリフ!」

「すぐに別の場所へと転移する! そこでアースラへと戻れ! それまでは私が殿を務めよう!」

『『『!?』』』

 

ジャネンバの言葉に全員が驚愕するが、すぐに事態が動き出す。

 

周りの皆の身体が突然光りだしたのだから。

 

「これは魔力?」

「これもナハトの……」

「なのはちゃん!?」

「シグナム!」

 

一人ずつその場から姿を消していく事態にはやてはやっと事態を把握した。

 

ジャネンバは自分の身を犠牲にカリフを足止めしようとしていることに……

 

皆が次々と別の場所へと消えていく中、はやてはカリフの拳を引き留めるジャネンバへ声を振り絞った。

 

「待って! 私、もっとナハトと話したいことが……!」

「はやて様!」

「!?」

 

こっちに向かってこようとするはやてを大声で諌め、その後に優しく笑いかける。

 

「お幸せに」

「っ!? 待って! ナハ……っ!」

 

その瞬間、穏やかな笑い顔のジャネンバが巨大な拳に潰された所で

 

 

 

視界が途絶えた。

 

◆

 

なのはたちが気が付いた時には既に転移されていた。

 

再度転移された場所は比較的落ち着いた場所で、まだ異常気象は見られなかった。

 

「また転移されたのか。一瞬で転移させられるなんて……」

「だが、それで我々は救われた……」

 

ゼストの言葉に皆は何とも言えない後味悪い表情となる。

 

「あの、私はカリフを……!!」

「もう無理だフェイト! 奴らからは遠く離された! もう間に合わない!」

「でもカリフをこのままにできないよ! まだ、まだ助かるかもしれないのに!」

「私も助けたい! お願い!」

 

その中でもフェイトとなのはがクロノたちに懇願するが、クロノは首を横に振る。

 

「それでも……だ。この星はもうじき爆発する。それに加えて僕たちには僅かの魔力しかないからできることはない……もうこれで終わるしか」

「まだ終わりじゃない! 終わらせたりしない!」

 

なのはは強い瞳で戦いが起こっているであろう場所を見据える。

 

「まだ……友達が戦っているから……」

「なのは……」

「私もなのはと同じ意見です」

「フェイトまで……」

 

未だに闘志が衰えていない二人にクロノは少し後ずさるほどの意思が感じられた。

 

だが、本来二人はただの協力者なのだ。

 

これ以上危険な目に合わせるわけにもいかない。

 

このままエイミィに問答無用に転移させてもらおうとした時だった。

 

「ごめんクロノ」

「なっ!?」

「ユーノくん!?」

「ユーノ!」

 

突然、クロノをバインドで押さえつけたユーノ

 

周りは突然の彼の奇行に目を疑うが、ユーノは気にせずになのはたちに叫ぶ。

 

「なのは! フェイト! ここは何とか僕が抑えるから行くんだ! これ以上ここにいると強制転移させられるかもしれない!」

「ユーノ! お前なんてことを……!」

「これくらいの異常気象をぶち破れるなのはの火力とフェイトのスピードがあればカリフの元に行ける! 僕はそこに賭けたいんだ!」

「だからって、二人にそんな危険なことを……!」

「僕はもう蚊帳の外には居たくないんだ!」

「!!」

 

ユーノは無意識に涙を流す。

 

「僕……カリフからはやてのことを教えてもらってからずっとカリフと一緒に皆に隠し続けてきた。なのにこれまで痛い思いをしてきたのはずっとカリフだけだった……」

「お前……何を……」

「あの日、カリフを尋問した時でも僕は何も言えなかった……カリフは僕に助けを求めることなく僕に黙っていろと言ってきた……『もう慣れた』って言って僕を責めることもせずに僕を売ることはしなかった……!」

 

後悔と情けなさに身を震わせていたあの日が鮮明に思い出される。

 

「もう彼に全て押し付けて安全な場所でただじっと待つだけはもう嫌なんだ! だけど僕にはそれだけの力が無いからなのはたちを頼るしかない……情けないよ……」

「ユーノ……」

「なのは、フェイト……本当に情けないことだけど僕じゃあカリフを助けるどころか助けに行くことさえできない……だから……」

 

カリフを止めてほしい。

 

彼にだけ罪を背負わせて死なせてしまったら……

 

これ以上は考えただけでもゾっとしてしまう。

 

そんな彼を見てなのはとフェイトは力強く頷いた。

 

「分かった! 絶対に連れて帰ってくる!」

「ありがとうユーノ! バルディッシュ!」

「レイジングハート!」

 

桃色と金色の魔力が彼女たちを包み、荒れ狂う空へと飛び立つ。

 

「危険よ! 戻って来て!」

「クイントさん……ですよね? すみません! でも、友達を助けたいんです!」

「私も……これ以上大切な人を失いたくないから……ごめんなさい!」

「なのは! フェイト!」

 

静止の声も聞かずになのはたちは高速で荒れ狂う地平線の彼方へと消えていった。

 

「まだあれだけの魔力が……急いで連れ戻して……!」

「いや、行かせてやろうじゃないか」

「隊長!? 何を……!?」

 

静観を決めたゼストにメガーヌや他の皆が驚愕する。

 

「そんな……なぜ!?」

「さっきもその子が言った通り、暴走した彼を助けられるとしたらあの二人くらいだ……それに……」

「それに?」

「友を失うことは……あの子たちの歳では想像も絶する程の心の傷となるだろう……やらないで終わるより最後までやらせなければ今生き残っても後が辛い……そう思ってね……」

「それは……」

 

皆も同じ心境だった。

 

本当は行きたい……だけどこれには行けるだけの魔力の高いなのはたちにしかできないことだ。

 

はやても魔力量としては申し分ない程だが、それでも魔法面では初心者同然……今行ってもできることなどないことは本人が分かっている。

 

誰もがそのことを分かっているから残りのメンバーはなのはたちを行かせたのかもしれない……

 

「さあ私たちはアースラへ戻ろう。アースラからなら戦いとあの子たちの様子を同時に見れるだろうから」

「……分かりました」

「それと、急に執務官を縛り上げたのはあまり良いとはいえないな。焦るのは分かるが、もう少し穏便に済ませられたかもしれない」

「ご、ごめんなさい……ごめんクロノ。少し頭に血が上ってた」

 

ゼストに諌められたユーノは続いてバインドを解いてクロノを解放すると、クロノは呆れた様子だった。

 

「いや、今の君の気持ちも分かる……今回だけは許してやる」

「うん……ありがとう」

 

クロノもこの状況には思うところがあるらしく、そんなに怒るようなことはなかった。

 

そんな中、クロノはエイミィに通信を繋げる。

 

「話は聞いて分かっているようだが、惑星爆発までの時間は分かるか?」

『推定で30分……なのはちゃんたちの速度なら20分までには着くと思うけど……』

「なら、25分経ったらアースラで二人を強制転移させてくれ。二人の足取りとカリフたちの同行は決して見逃すないように」

『了解!……なのはちゃんたち……上手くいくよね?』

「分からない……こうなったら二人を信じよう」

『だね……それじゃあ皆をアースラへ転移させるよ!』

 

通信のすぐ後に皆の足元に巨大な転移魔方陣が現れる。

 

この地最後の後継を皆は目に焼き付けながら全員の無事を願う。

 

その後、死を迎える星にいる生命はたったの四人しかいなくなった。

 

 

 

この出来事が後の世にまで語られる歴史的出来事の一つ

 

 

―運命の三十分―

 

その名の通り、この三十分が彼女たちに残された最後の局面となる。

 

 

 

~後書き~

 

また遅くなってしまいましたが、無理矢理理論で話を進めてみました。

 

という訳でこれが最後の局面となります。このまま終わらせる勢いを保っていきたいと思いますのでよろしくお願いします!

 

また会いましょう!

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