魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるサイヤ人は悪魔の子~(更新一旦停止) 作:生まれ変わった人
「あら? 起きた?」
唐突にかけられた声にカリフは一瞬だけ何が何だか分からなかった。ただ分かっているのは自分が気づいたらどこかのベッドの上にいることだけだった。
「……え?」
「その様子だと状況が分かってないようね……」
簡素な治療室の中にはカリフとプレシアだけ……そのプレシアはカリフの治療用ベッドの横でリンゴの皮を剥いている。
「おかしいな……さっきまでナハトヴァールの最期を見送ったはずだったんだが……」
「その後にあなたは疲労とダメージで倒れたのよ。その時に大人から子供に戻ったわ」
「あれ? あ、マジだ」
そういえば、と思いながらカリフは自分の身体を見ると薄い生地の入院衣装の下はいつもの姿になっていることに気付く。
「そうか。戻ってしまったか。あれからどれだけ経った?」
「あれから一日ね」
「一日!? しまった寝過ごした……」
「いやいや、あれだけの死闘をして一日で全快してるほうがおかしいのよ! 普通なら一年越しの治療になっているはずよ!」
愚痴るカリフにプレシアは非常識を指摘するが、カリフはそれを無視。近くにあったカレンダーに目を通す。おもむろにベッドから飛び上がって降りる。
「トイレ」
「あ、それなら」
「付添なんてみっともなくて外なんて歩けるか。自分で行く」
「でも、あなた身体のダメージが……」
カリフを心配したプレシアがカリフを支えようとするが、その前にカリフが肌着の襟元をはだけさせて胸を見せる。
「もう治った」
「え!?」
「んじゃ」
「あ、いや、ちょ……!」
一瞬の驚愕の隙に部屋を出て行ったカリフにプレシアはそのまま固まっていた。
「治ったって……んな無茶苦茶な……」
改めてカリフの出鱈目さを感じていたプレシアだったが、しばらく呆けてから一つ思い出した。
「そういえば、パーティーのこと言い忘れてた……戻ってからでいいわね」
カリフへの伝言を思い出したプレシアだったが、急ぐ用事でも無いのでそのまま放っておくことにしたのだった。
◆
「オレ、寝てたんだよな……」
トイレの中で用を足していたカリフが自分の“息子”を見ながらどこか憂いた表情を見せている。
「寝ている間に搾り取られたんかな~……クソっ」
独りごととしても内容は人前で言えるようなことでなく下らないものだった。だが、その下らないことが本人にとっては重要だったのか溜息を吐いて暗い顔になっている。
自分の恥部を他人に触られたという疑心暗鬼にカリフはブツブツと軽い呪詛を唱えながらトイレから出る。するとその途中で後ろから声がかかった。
「カリフ!?」
「カリフくん!」
「あれ、怪我してるんじゃなかったの?」
「もう起きてるん!?」
「ちょっ、あんた怪我人なのよ!? 寝てなきゃダメじゃない!」
「皆、静かにしよう? ね?」
気を抜いていたせいか、直前まで気付かなかったことに対してか、もしくは考えられる中でやかましくなる最悪の面子が揃ってしまったことにカリフは辟易しながら名前を呼んでくる声を無視する。その際に肌着で顔を隠しながら早歩きで自分の病室へと戻る。
「え!? なんで!?」
「ストップカリフ! ストップー!」
「待ちなさい!」
突然の奇行にお見舞いに来ていたなのはたちは急いでカリフの後を追った。締め出されるように閉められる横スライドのドアにお見舞いのバスケットを挟んで逃走を阻止するアリサ
「なんで私たちから逃げるのかしら~? ただお見舞いに来ただけなのに!」
「この病室の患者はまだ昏睡状態だ。だから早めに帰ってくれ」
「騙せる見込みのない居留守なんていい度胸じゃない!」
「アリサちゃん落ち着いて! きっとカリフくんは寝起きでビックリしてるんだよ」
「こんな密室に女六人なんて入れてみろ! お見舞いとは名ばかりで大半がガールズトークになるだろう! 残念だったなそんなことさせる訳ねえだろ! この密室でお経でも読んでもらった方がありがたいわ!」
「どういう考えでそんな被害妄想になったの!?」
「そんなことしないよ! 本当にお見舞いだけだから!」
どこか寝起きでテンションがおかしいカリフを説得する光景にプレシアは溜息を吐いた。
「やっぱこうなるのね……」
疲れた表情を浮かべながらプレシアは後ろからカリフを羽交い絞めにして落ち着かせたのだった。
「どう? 落ち着いた?」
「少しな」
「ねえ、本当にあんた大丈夫なの?」
プレシアの仲裁もあって落ち着いたカリフは治療用ベッドの上で欠伸をかきながら寝そべり、見舞いがプレシアからなのは、フェイト、はやて、アリサ、すずか、そしてアリシアに増えていた。その中でもアリサは果物の入ったバスケットを持参、はやては車いすに乗り、アリシアは松葉杖で移動していた。そんな面子にカリフは気になったことを聞いてみた。
「フェイト、アリシアとはもう話したのか?」
「うん……最初は驚いたけど……」
そう言いながらもフェイトは少しはにかみながらアリシアに視線を移すとアリシアは何故か自身あり気に胸を張った。
「そうなんだよ! この前カリフと話してからいつの間にか寝ちゃっててね、その後目を覚ましたらフェイトがいたってこと!」
ここでアリシアの表情が一変してフェイトをジト目で睨む。睨まれたフェイトは当然たじろいだ。
「でも酷いんだよ! フェイトったら実のお姉さんと折角会ったのにまるで幽霊を見るような目でず~~~~っと見てきてね」
「え、でも、アリシアは母さんと一緒に虚数空間の中に落ちて行ったから……」
「て言うか今のお見舞いは私の時と全然違うんだよ! ママとフェイトとアルフってば顔を合わせると何だか暗くなっちゃってまるでお葬式みたいだったんだよ!」
「そ、それはね。ママにも色々あって……」
「そんなことで私とフェイトとアルフの感動シーンを暗くしないで欲しいんだよ! 私がいなかったらずっっっとお通夜みたいなムードになってたのに!」
「その、ごめんねアリシア……」
「いいのよ。あの、私が悪いんだし……」
「いえ、母さんは悪いんじゃなくて……」
「違うわ。私がフェイトに酷いことしてきたのだから……」
何だかテスタロッサ一家が互いに謝り合ってしまった。普通にフェイトとアリシアのことを聞いただけなのにどうしてこうも脱線するのか……カリフは親子の触れ合いに大声で横槍を付いた。
「うるせええぇぇぇぇぇ! 痴話喧嘩なら余所でやれ! オレはなぁ! 寝起きなんだよ! 病み上がりなんだよ! 病人の前で喧嘩してんじゃねーよ気分悪くなるわ!」
「「……ごめんなさい」」
カリフの注意でフェイトとプレシアは申し訳なさそうに顔を伏せる。そんな中、カリフはいつもより体力が無いのか少し息切れを起こしていた。
「で、結局は和解したって見ていいんだな?」
「うん! あ、でも私はいいけどまだまだアルフとママの関係がぎこちないんだ」
「そこは一朝一夕でできることじゃねえ。時間をかけてじっくりと解決していくんだな」
「そうだね!」
「うん、アルフも本当は分かってくれてると思うから」
「私もあの時は無視しちゃったから……今度からちゃんと話していこうと思ってるわ」
とりあえずはテスタロッサ家のことは勝手に決着が着きそうだったことに一息吐いて聞いた。そして今度ははやてに目を向ける。
「シグナムとかはどうした?」
「えっとな、今は事情聴取の真っ最中や。今回の事件の重要参考人であると同時に悪く言ったら加害者やし」
「それにリインフォースさんのことも解決したんだ。本当は歪められたプログラムがある限りまた暴走が起こるからリインフォースさんは空へ還る……予定だったんだ」
「予定、ね……」
なのはの悲しそうな口調で何となく分かった気がする。気絶する前にジャネンバもそんなこと言っていたのだから。
「そうか、やっぱナハトが……」
「うん。最期まで皆を護ってくれた……私の大事な家族やった」
「はやて……」
はやてはいつもの笑顔を皆に見せる。だが、その笑顔にはどこか哀しげな雰囲気が隠し切れていない。
やっぱりはやてはジャネンバの死を忘れられないでいる。未だ心の中で整理が着いていないのだ。
「……」
作り笑いを少しの間眺めた後、カリフは話題を逸らすため唐突に切り出した。
「そう言えばここはどこの病院だ? 普通の所じゃないだろ?」
「えぇ、ここはアースラ内の医療室よ」
「だろうな。でなければ“これ”なんて容認してもらえねえわ」
「あ……」
そう言いながらベッドの中から尻尾がヒョコっと出てきた。それに対して皆はギョっとした表情をした。
その中で魔法関連のような超常現象に疎いアリサがオドオドしながら聞いてきた。
「ねえ、それってやっぱり……本物?」
その一言にカリフのこめかみに青筋が入った。疑われるのを嫌うカリフは意趣返しと言わんばかりに尻尾でアリサのバスケットを持ち上げた。
「これが作り物だと思うか?」
「ほ、本当に本物……なのね」
目の前でバスケットを返し、中の果物だけを器用に掴む技量にアリサも納得せざる得なかった。そして、なのはとすずかはその尻尾に興味を抱いたのか注目していた。
「なんだか、その、可愛いね」
「触っていいかな? だめ?」
「……」
何を思ったのか尻尾を触らせてほしいと言ってきたなのはたちをジト目で見返してもなのはたちは目を輝かせて見返してくる。
その様子にカリフは諦めた。
「……好きにしろ。ただし強く握るなよ」
「うんわかった!」
「わ~、フワフワ~……」
自分の尻尾を興味深そうに触ってくるなのはたちに吊られてフェイトたちも便乗してきた。
「あ、ずるい! 私にも触らせて!」
「ア、アリシア。カリフに悪いよ……」
「いいんじゃない? 本人がすずかたちに触らせてるんだし」
「ほんなら私も触ろっかな」
「あぅ……えっと……」
アリシアに続いてアリサやはやてまで尻尾に群がるのをフェイトは困った様子でオロオロして立ち尽くす。自分だけ置いてけぼりにされた焦燥とカリフへの遠慮があってか中々動き出せないフェイトは困った表情でカリフを見てきた。
「……」
「……はぁ、好きにしろ」
「う、うん!」
カリフの気も知らずにフェイトは皆に混ざって尻尾を突いたり触っていた。その後継にプレシアはクスっと笑いを堪えられなかった。
「ふふ、珍しいこともあるのね。あなたが弄ばれるなんて」
「やかましくなるよりはマシだ。これ以上相手にするのが面倒なんでね」
「そう」
まるで妹を相手にする兄のような姿だと微笑ましく見ているプレシアだったが、そこでまた思い出したことがあった。未だに尻尾を眺めているフェイトに言った。
「フェイト、なのはちゃんも。カリフに伝えることがあるんじゃなかった?」
「あ、う……」
「あ……」
「?」
途端に顔に影を落とすなのはたちに疑問を抱くが、カリフはすぐに気付いた。
このままなのはたちに流れを任せても中々進まなさそうだからカリフから切り出した。
「別にオレは気にしていない。元々から信用されてるだなんて思ってない」
「それは違うよ! カリフは悪くない! 悪いのは……」
「終わったことだ。今さらどんな慰めの言葉を掛けられた所で過去が変わるわけでもない」
「うぅ……」
封殺されるなのはたちは逆に居心地が悪そうに俯いてしまう。それに対してカリフは本当に何も気にしていない様子で我関せずといった態度
それに業を煮やしたのがアリサだった。
「あんたねえ! フェイトたちはあんたと喧嘩したことを本当に悪いと思ってるのよ!? もう少し真面目に話を聞いてもいいんじゃないの!?」
「オレは気にしていない。それでこの話は終わりだ」
「終わってない! あんた、なのはたちがあんたのことでどんなに苦しんでたか知らないでしょ!」
「アリサ……」
「もういいから、ね?」
「良くない!」
なのはとフェイトの制止も聞かずにアリサの感情は燃え上がっていく。そして、決定的な事実を突きつけた。
「もしかしたら……謝ることさえできなくなってたかもしれないのよ! 一回死んじゃったじゃない!!」
「……」
感情を爆発させた後に残ったのは静かな沈黙
だが、その後にアリサから鼻をすする音と、流れる涙が出てきた。
「怖かったんだからっ……!」
「!?」
突然のアリサの涙にカリフは驚愕して思わずベッドから飛び上がってしまいそうになるが、かろうじて抑える。
「お、おい……泣くなよ……」
「だって……一杯刺されて……血がたくさん出て……心臓が止まったって……」
「私も、アリサちゃんと同じ……あなたが刺されたとき、何も考えられなくなって……」
「いや、あの、だな……」
アリサと同じくすずかもカリフの死の場面を思い出してしまったのか彼女も泣いていた。そして気付いてみればなのはやフェイト、はやてまで泣いていた。
突然の号泣にカリフは内心でパニクっていた。
「プレシア……後は任せ……」
「自分で蒔いた種は自分でなんとかなさい」
「ちっ……」
アッサリと見捨てられたことに舌打ちせざる得なかった。
そんな彼に対してプレシアもなのはたちと同意見なのか少なからずカリフには腹が立っていた。なにせ彼は自分がどれほど取り返しのつかないことをして周りを心配させたか理解していなかったから。
なのはたちは普通の子供たちと違って精神年齢が高いのは事実。他人とは違う過去の経験が彼女たちを強くしたが故の当然の結果であろう。だが、彼女たちでも絶対に慣れないことがある。
永遠の別れ
それは大人になっても慣れることはない。それほどまでに人の死とは他の人に及ぼす影響が大きい。
ましてや今回は自分たちと同年代、しかも友達だと認識していた少年が目の前で一度死んでしまったのだ。それによる彼女たちへの恐怖は計り知れない。
もしかしたら一人くらいカウンセリングが必要になってもおかしくなかったのだ。それでもこうやって平常を保っていられるのは彼女たちが強く、何よりカリフが生きて戻って来たことに強く起因する。
そして今、カリフが戻って来たことを実感したなのはたちは安堵によって泣き出したのだ。
「ぁ~……」
「……」
「……」
「……」
「……悪かったよ」
プレシアの鋭い目となのはたちの潤んだ目に捉われたカリフは居心地の悪さから遂に謝罪してしまった。形容できない圧力によってどこか釈然としない感じではあるが、それでも謝罪した。
その謝罪が良かったのかなのはたちは少しずつ落ち着きを取り戻し、鼻声で返した。
「ううん……カリフくんは悪くないよ。ただ私が信じることができなくて……酷いこと言って……」
「なのはだけじゃないよ……私だって酷いこと言ったから……だから謝りたかったんだ。だから……」
「「ごめんなさい」」
深々と頭を下げた二人に対してカリフはいつもの調子を崩されて頭を掻きむしっている。こういうことは初めてだからどう接していいのか分からない、と言った感じである。
「……」
「私からもお願いするけど、許してくれないかしら?」
「許すも何も、最初から気にはしてない……だからお前らももう引きずるな」
弱く唸るカリフにプレシアが助け舟を出してくれたおかげで穏便に済ますことができた。少し空気が軽くなったことでなのはたち二人は頭を上げた。
まだ涙で目を腫らしてはいるがさっきよりも暗い雰囲気は無かった。しこりが消えたことによって二人の迷いが消えたような印象が見受けられる。
「本当……?」
「怒ってない?」
「はぁ……怒ってるように見えるか?」
「あはは、そうだね」
疲労の色が強く、辟易した様子でグッタリとベッドに横たわりながら手をヒラヒラさせる。どう見ても参ったような様子なのは明確である。そんな彼に畳み抱えるようにすずかも話に入ってくる。
「今回はカリフくんが悪いよ。なのはちゃんやフェイトちゃん、はやてちゃん……ううん、私たちもカリフくんのことを大事に想ってる。だからさっきの発言は頑張ってくれたはやてちゃんや心配した私たちにとても失礼だと思うんだ」
「すずか、良いこと言うじゃない!」
「だから悪かったって……」
「本当に想ってる?」
「想ってる」
「……それならいいよ」
押されている彼の様子になのはたちも何だか可笑しくなったのか自然と笑ってしまい、お互いに笑い合った。
「なんだかすっきりした」
「これでまた私たち友達だね!」
「いや、その理屈は……あぁ、もういいわ」
なのはの言葉に異を唱えようとしたカリフだが、また反論したらしたで面倒になりそうだから止めておく。寝起きで調子が悪いのかなんだか良いようにされている感じがして納得ができていない。
そんな風に物思いに耽っているとフェイトが言ってきた。
「さっき歩いてたけど怪我はもう大丈夫なの?」
「ん~……怪我は治ったけどダメージが残ってるな。ちと頭がフラッフラだ」
「あれだけ殴り合えば当然よね。むしろそれだけで済むあなたの方がおかしい」
「ハイスペックと言え! オレはお前らと根本的に違うんだよ」
自慢するかのように声高々に宣言するが、その一言にフェイトや他の皆が敏感に反応した。
「あの、気分悪くなったらごめん……カリフって人間じゃないって……」
「そういえば言ってなかったな。オレは宇宙人だけど、それが何か?」
「やっぱりノリ軽いんだね……」
「あはは……」
予想していた通りシレっと答えたカリフに毒気が抜かれたのかはやては苦笑する。
プレシアはそんな光景を優しい顔で見つめていた。
(あなたって子は……)
この事件で彼は一度フェイトたちと決別し、死んだ。それなのに彼は死の淵から蘇り、全てに決着をつけて今こうして笑っている。
一度は全てを失ったはずなのに、最後には全てを取り戻して最良の結果へと導いた。
力だけではない、運命さえも味方にするようなカリフの潜在能力と暗いムードを簡単に打ち消す魅力が眩しく思えた。
そうこうしている内にアリサたちが時計を気にし始める。
「あ、ごめん。そろそろ塾の時間だから行かないと」
「私も。なんだか騒がしくしちゃってごめんね?」
「謝らなくていいわよ。目を離すとまた無茶するような奴なんだから明日も真っ直ぐここに来ないと心配だわ」
「おい待て。何か明日も来るような口ぶりだな。気のせいだと嬉しいんだけど」
「来るに決まってるじゃない」
「私も……」
アリサが何を疑問に思っているか分かってない様子で、すずかは恐る恐る手を上げながら見舞い続行の意思を告げるとカリフは途端にいい笑顔になってプレシアにわざとらしく大声を張り上げた。
「聞いたか? 明日も厄介者が来るようなので今すぐ入口に塩を巻いてくれないか!?」
「ちょっ! 厄介者って誰のことよ!」
「自分のことにも気づいていないのかブワーカァ!」
「一発殴らせろ!」
「アリサちゃん! 落ち着いて!」
謝らせたことへの意趣返しなのか今までにない程嫌味な顔で挑発してアリサを煽る。今にも飛びかかりそうなアリサをすずかが必死に止める光景に皆は苦笑する。
「うちも石田先生に許可もらって外出してたんやけど、そろそろ時間やしもう行こ思ってたんや」
「私も。クリスマスのお店手伝えなかったから、今日は手伝おうと思って……」
どうやらはやてもなのはも帰るようだからフェイトも帰るだろう。そう思っていたがフェイトはプレシアとアリシアの傍の椅子に座った。
「私はもうちょっとここにいる。アリシアや母さんとまだまだ話すことがあるから」
「そう……じゃあフェイトとはここでお別れね」
「うん、また明日」
「じゃあね」
「また明日」
「さようなら」
「またね」
四人とフェイトたちが互いに手を振ってドアが閉まる。足音が遠ざかっていくのを聞いてフェイトたちは一息吐いた。
「基本的に暇なんだなあいつ等」
「皆心配してるのよ。フェイトとアリシアだって心配してたんだから」
「そうだよ! フェイト助けて自分が危ない目にあったって聞いたんだよ! そりゃ心配もするよ!」
「この国にはこんな諺がある。『結果オーライ』」
「反省してないわね……」
ここまで都合よく融通が利かない相手だとは思っていなかった。もしもこれから付き合っていくのだとしたらと思うと心配が尽きない。無意識的に頭が痛くなるプレシアだったが、そこでフェイトが口を開いた。
「あのね、あの……」
「ん?」
「……刺される前に私が言ったこと覚えてる?」
「あぁ、死にかけだったことを良いことに馬鹿とか偉そうにほざいてやがったな」
「もう、意地悪なんだから」
「冗談だ。あれは流石のオレもこたえた」
「それなら良かった」
肩を竦めてるが、フェイトは少し表情を暗くした。
「もう、あんなことしないでほしいから……」
「……」
「カリフのことだから約束はできないって言うかもしれないのは分かってる」
「……」
「ごめん、我儘だよね。でもこれだけは言いたかったんだ」
「……善処してやる」
「うん!」
今日に至ってはとても疲れたのか前向きに聞こえるであろう発言をしたらフェイトはそれを了承したと取ったらしくて嬉しそうに微笑んだ。なんだか後でややこしくなりそうな気がしたがこれ以上話すとまた変なことになりそうだからできるだけ無口でいた。
フェイトはさっきまでの暗い表情から一変して嬉しそうに話を進めていく。
「あのね、アルフもカリフに謝りたいらしいからその時はちゃんと話を聞いてあげてね?」
「へいへい」
「それとね、お医者さんが言うにはカリフの回復が凄く早いらしいから年末には完治して退院できるって」
「できれば明日にはさっさと出たいぜ。体を動かさんと鈍っちまう」
腕を振り回して既に完治したとアピールしているとプレシアたちは苦笑する。
「あはは……それなら年明けにアリサの家でパーティーすることになってるんだけど、どうかな?」
「パーティー?」
「うん。皆で年越しを祝うって。だから来てほしいな」
カリフがそういった集まって騒ぐようなことを好まないのだと知っているからか少し自信なく聞いてみたが、意外な答えが返ってくる。少し考える素振りを見せて、
「……いや、これはこれで好都合かもしれねえな」
「何が?」
「パーティーにはどれだけ来る?」
「えっと、なのはやはやて、シグナムたちとリンディさんやクライドさん、クロノにエイミィ……後、なのはもパーティーで魔法のこと話すらしいし、すずかも家族関係で話したいことがあるからって……」
「なるほど、確かに今がいいタイミングかもしれんな。すずかはなのはと便乗して正体明かすようだろうがな」
「?」
考えをこらし、カリフは即決した。
「それにまだお前等とのパーティーはまだマシになりそうだし、いいだろう」
「いいの!?」
「あぁ、こういう機会じゃないと腹一杯食うのは無理だしな。飯の種類は問わないからありったけ用意させろ。足りない分はオレが出す」
「分かった! なのはたちも幾つかデザート作って持って行くって言ってたから量は……もっとあった方がいいよね?」
「そういうことだ」
「じゃあアリサに伝えておく♪」
「良かったわねフェイト」
「はい!」
カリフの出席が嬉しかったのかフェイトは嬉しそうに喜ぶ姿を見ていると本当に毒気が抜ける。こんな気分になるのは疲れているからだろう……そう思った。
「意外~、カリフってば『騒がしいのは嫌いだ』って拒否すると思ってたんだけど」
「別に騒がしいのは嫌いじゃない。ただ、こういうのは場合と都合が問題なんだよ。それとオレはそんなバカ面になった覚えは無い。真似したければもっとセクスィ~に演じろ。肖像権の侵害でブタ箱にぶち込むぞ」
「誰がセクシーだって?」
「どこからどう見てもセックスィーだ……肌を見せれば溢れ出る男性ホルモンに通りすがりの女たちは漏れなく天に昇っていく……」
「なんかテンションおかしいわ! 頭殴られたダメージのせい!?」
「冗談だ。これくらい気付け」
「で、でも、カリフは男らしいから……!」
「フェイト、無理に話しを繋げようとしなくていいのよ」
シレっと色っぽいポーズから素に戻ったカリフに突っ込んでいたプレシアとアリシアはこけそうになるが何とか堪えた。フェイトもオロオロして話を続けようとしたがプレシアに抑えられて恥ずかしそうに俯く。
やっぱりこうやって場をかき乱す方が楽しい、そう思っていた。
「まあ、そろそろ頃合いだと思ってな」
「頃合い?」
首を傾げると、カリフの表情が一変して真剣のそれになった。
「オレのこと、全て話してみようかと思う」
その一言にカリフ以外の全員が顔を強張らせた。
「そ、それってつまり……」
「サイヤ人とか色々な……今後のために知っておく必要がありそうだ」
「そう……」
誰もが今までタブーだと思って避けていたカリフの過去。彼は稀に見る異世界からの迷子である次元漂流者という立場にある。
次元漂流者のようなケースはこれまでに数えるくらいにしかなかったが、それらは一貫して同じ結末を辿っている。
元の世界には帰れない、という法則
幾ら管理局でも手がかりなしに特定の世界を探すのは困難、それどころか異世界となるとどうしようもできないからだ。
そして、次元漂流者の結末は大きく二つ
一つは元の世界に帰れないことを苦に自殺
そして管理局の保護の下、管理された施設で一生を終えるか……そのどちらかだ。
元の世界に帰れない苦しみで死ぬか、仕事にもありつくことができずに何もしない一生を送るか
皆はその例を聞いてからカリフに過去のことを聞くことを避けてきた。
過去を話すことで“帰りたい”という気持ちを思い出させないように
だが、そんな彼が自分で話すといったのだ。それがどれだけ凄い決断かと言うことは言うまでもない。
「いいの?」
「別に問題は無い。今回のことで少し気になることがあったからな……まずは自分の身元を証明しなければならないと思っている」
「……そう」
本当に彼は強い。自分のことを悲観せずに常に前へ行こうとしている。
元から強かった少年がまた一つ強くなって帰ってきたと実感させられた。
「懸命な判断だと思うわ。あなたの力は今回のことで管理局に知られたらしいわよ。流石にリンディでも今回のことは庇い切れなかったようだし……これを機に保護を申し出て……」
「冗談だろ?」
プレシアの提案にカリフは心外だと言わんばかりに機嫌を悪くして腕を組む。
「九歳を少年兵として使う組織だぞ? オレの力を管理局から見たらどう思うかくらい想像できる」
「……」
「奴等からすれば早々にオレとコンタクトを申し出てくるはずだ。利用されるなら保護を、叶わないなら犯罪者として扱うのだろうよ」
「……」
「そんな……」
プレシアを始めにフェイト、アリシアも悲しみに表情を歪ませる。
「そうかもしれないわね。ロストロギアを上回る力、そして星一つ破壊する力……こんなことしたら嫌でも目に止まるわよ」
「オレのような戦力が管理局にいると思うか?」
「アルカンシェル以上の砲撃は未だに開発されてないわ」
「じゃあ余裕だな」
「お願いだから犯罪者みたいなこと言わないでちょうだい……」
辟易するプレシアを置いて、カリフはしばらく考え込む。
そして、
「面白い」
あろうことか不敵に笑った。
自分がいかに追い詰められているかを自覚しているというのに……
「プレシア。後で頼まれてほしいことがある」
「……何故でしょう。とても嫌な予感がするのだけれど……」
「ククク……まさか予定よりも早くこんな機会が来るとはなぁ……本当にラッキーだ」
静かに笑うその顔はいつものような人を馬鹿にしたのでなければ無邪気なものでもない。
完全に獲物を見つけた目をしていた。
「まあ、なるようになるさ」
(なるようにする、の間違いなんじゃあ……)
腕を頭の後ろに組んで寝転んで平常を装うのだが、この時のプレシアの危惧が予想を超えた形で実現するのはまた別の話……
その後、フェイトはアリシアとプレシアと共に部屋を出て行った。
別れる最後の時までカリフは鼻唄を歌いながら機嫌をよくしていたのはとても印象的だった。
~後書き~
やっと長いA,s編が終わったのですが、閑話休題ではカリフのもう一つの顔を書いていきたいと思っていきます。
悟空たちを始めとしたサイヤ人は本来なら政府から援助を受けてもいいというのにその身代わりがミスターサタンが受けていました。
カリフは他の主人公たちより強欲で狡猾だという邪道主人公だということの再認識を含めた話になってきますがすぐに終わらせて次の編に向かいたいと思っています。
若干ネタバレになってしまったかもしれませんので今回はこれで終わりにします。
それではまたお会いしましょう!