赤髪海賊団視点からのホビウタ第0話的なお話になればな、と。
ーーー12年前 偉大なる航路 ルーツイマ島ーーー
赤髪海賊団船長“赤髪のシャンクス”は、港に停泊した自分達の海賊船であるレッドフォース号の前でウロウロしていた。
ベックマン「お頭、鬱陶しいし荷物の積み込みの邪魔だぞ」
シャンクス「いや、だがウタがまだ帰ってこないんだぞ! 心配で心配で…」
ホンゴウ「ウタももう9歳だ、一人で友達の所に別れの挨拶ぐらい行けるだろうよ…」
ルウ「そもそも行ってからまだ15分も経ってないぞ?」
シャンクスは、彼の“娘”ウタが、この島の滞在中に友達になった少女にお別れの挨拶を告げに行く為に一人で街に行ってから、ずっと心配でソワソワとしていた。
ベックマン「フーシャ村ならいつも笑って送り出してたじゃねえか」
シャンクス「ここは偉大なる航路だぞ! いくら治安が良くても万が一があるだろ!?」
ヤソップ「あんたの見聞色の覇気なら、ウタに何かありそうならすぐわかるだろ、大丈夫だって」
シャンクスの心配を他所に、他の船員達はウタの動向をそこまで心配していなかった。
シャンクス「そうだとしても心配は心ぱ…!!?」
スネイク「どうしたお頭?」
??『ごめんなさい…ウタ』
ウタ『え…シュガー…!?』
シャンクスの鍛え上げられた見聞色の覇気が奇妙な未来を捉える。愛する娘と、彼女と同年代の女の子が何かを話している。はっきりとは見えないがウタと話している女の子は泣いているような…。
??『
??『ギィ!?ギィギィ!!』
何故かウタと一緒にいたはずの女の子が奇妙な人形と話している。奇妙な未来に胸騒ぎを覚えたシャンクスはウタの元へ急いで向かおうと脚に力を込める。
ベックマン「どうしたお頭?」
シャンクス「ベック、ウタが危な………うん?」
ベックマン「…? なんだ、今…?」
その瞬間、世界が切り替わる。
シャンクス「なあベック、俺は今何処に行こうとしてたんだ?」
ベックマン「いやそれは俺たちが聞きてえよ!? あんたが突然走り出そうとしたんだろうが!」
シャンクス「ああ、なんか人形が見えてな…うん?」
ヤソップ「人形ォ〜?本当にどうしたんだよお頭、ボケたか?」
シャンクス「んなわけないだろォが、俺はまだ若い!」
船員達「「「ワハハハハ」」」
船員達に笑われたシャンクスは憮然としながら、船員達に指示を出す。
シャンクス「お前ら、積込みは終わったな?
ベックマン「お頭、あんたもそろそろ船に乗れ。むしろなんで手伝いもせずにそこでウロウロしてたんだよ?」
シャンクス「そりゃあお前…何でだ?」
船員達「「「ワハハハハ」」」
船員達に笑われながら、シャンクスも自らの海賊船に乗ろうと縄梯子を登ろうとした時、彼の背中に衝撃が走る。
??「ギィィィ!!!」
シャンクス「ぐォ!!」
シャンクスの背中に“何か”が突撃し、その衝撃でシャンクスがよろける。
シャンクス「な、何だこいつ?」
??「ギィィ!ギィギィ!!!」
シャンクスが背中に張り付いた“それ”を引き剥がす。
“それ”はシャンクスに掴まれたまま、何かを訴えかけるようにジタバタと暴れている。
ベックマン「お頭、大丈夫か?…なんだコイツ?」
ルウ「動く人形?」
シャンクス「うん…? この人形、さっきの?」
珍しい動く人形に困惑する船員達に対して、シャンクスだけはその人形に奇妙な既視感を覚えた。
ベックマン「お頭、この人形のこと知ってるのか?」
シャンクス「いや、さっき見聞色で見たような…」
ヤソップ「なんだお頭、もしかしてその人形に突撃される未来でも見えてたのか?」
シャンクス「そうだったのか?いや、うーむ」
何かを思い出そうとするように首をかしげるシャンクス。その間にシャンクスの手から逃れた人形は、ヒシッとシャンクスの足にしがみつく。
シャンクス「なんだお前、俺達と一緒に来たいのか?」
ベックマン「懐かれたのか?」
シャンクス「とはいってもなあ、おい“人形”、俺達は海賊で
人形?「ギ…?ギィィ!ギィィィィ!!!」
その言葉を受けた人形はショックを受けたかのように固まるが、すぐにより力強くシャンクスにしがみつく。
ルウ「連れてってやれよお頭、なんか可哀想だぜ?」
ホンゴウ「軽く言うなよ、俺達の航海は人形にゃ過酷すぎるだろう」
船員達も困ったように奇妙な動く人形を見る。
シャンクス「悪いな、俺達は海賊だからお前を連れて行ってやれないぞ。“娘”でもいればプレゼントしてやったんだが、生憎うちはむさ苦しい男所帯なんだ」
シャンクスがどこか申し訳無さそうに、人形を引き剥がそうとする。だが人形は、まるで泣いているかのように“ギィギィ”とけたたましく背中に背負ったオルゴールを鳴らし、シャンクスの脚にしがみつき続ける。
ベックマン「どうするんだお頭?」
シャンクス「参ったな…だがまあ、これも何かの縁か…」
シャンクスは先程見えた奇妙な未来を思い出した、この人形を放っておくのも寝覚めが悪いと思い直す。
シャンクス「ま、取り敢えずフーシャ村まで連れて行くか。
ルフィのやつに土産として渡してやるか」
??「キィ!? キィィ…」
シャンクスの言葉でようやく人形が大人しくなる。
シャンクス「よーしお前等、準備はいいな? 出港た!!」
船員達「「「おう!!!」」」
この動く不思議な人形は、赤髪海賊団が拠点にしていたフューシャ村の少年にお土産として託され、後に彼によって“ウタ”と名付けられることになる。
ーーー偉大なる航路 双子岬近海ーーー
記憶を取り戻した赤髪海賊団は、娘の痕跡を探して最後に彼女の姿を見た偉大なる航路のルーツイマ島を目指し、新世界からわざわざ凪の海を突破して双子岬へ辿り着いた。
だが、双子岬の灯台守クロッカスから受け取った新聞記事から、愛する娘が玩具に変えられ、かつて彼が麦わら帽子を託した少年と共に冒険していたこと、そして新世界のドレスローザでその呪いが解けた事をようやく知った。
深夜、レッドフォース号の甲板でシャンクスは一人ボンヤリと新聞記事を眺めていた。
その新聞には、海軍から満面の笑みで逃げる麦わら帽子をかぶった少年と、彼に抱えられて赤面する赤と白の特徴的な髪色の少女の写真が一面に掲載されている。
ベックマン「おーいお頭、まだそこにいたのか?」
シャンクス「…ベックか」
ベックマン「まだその記事見てたのか」
シャンクス「…ああ」
シャンクスの眺めている記事は、双子岬の灯台守クロッカスから渡されたものだった。
12年前、記憶から消えてしまった自分達の“娘”。娘を守るためなら命など安いものだと思っていた筈なのに、つい先日までその“娘”が玩具に変えられていた事にすら気づいていなかった。
それどころか、折角記憶が戻ったのに明後日の方向へと向かい、近くにいた娘から遠ざかる始末だ。
シャンクスは双子岬の灯台守に、かつて彼が見習いをしていた海賊団の船医だった男に殴られた頬を擦る。
シャンクス「痛かったなァ…」
ベックマン「…だろうな」
いかに元海賊王の仲間とはいえ、現役の四皇であるシャンクスが殴られることなどありえない。よしんば殴られたとしても、彼の武装色の覇気ならばまともにダメージが通ることはない。
だが、かの灯台守の拳は痛かった。体の芯に響くほどに。
シャンクス「クロッカスさん、怒ってたな…」
ベックマン「…そうだな」
かつて同じ船に乗っていた、尊敬できる先達だった老人の烈火の如き怒り。それは“娘”を守ってやれなかった己の弱さにだったのか、それとも“娘”がいる場所と正反対の場所にノコノコと現れてしまった愚かさについてなのか、怖くて聞けなかった。
だが奇妙な事に、叱られた御陰か、記憶を取り戻してから張り詰めていた心が少しだけ落ち着いた気がすると、シャンクスは思った。
だからこそ、思い出したことがあった。
シャンクス「なあベック、12年前にルーツイマ島を出港した時のこと、覚えてるか?」
ベックマン「ああ。“ウタ”がアンタにしがみついて、必死に俺達に付いてこようとしてたな…」
シャンクス「あいつが俺の背中に飛びついてきた時、俺は何故だが人形姿のあいつを始めて見た気がしなかったんだ」
ベックマン「なんだ? その時はまだ記憶が残ってたのか?」
シャンクス「いいや違う。俺はあの時、見聞色の覇気でウタが人形に変えられるところを見てたんだよ…」
ベックマン「…!!? お頭…だからアンタあの時駆け出そうと!?」
シャンクス「だけど俺は、あの人形が“ウタ”だって忘れちまってた…クロッカスさんに教えてもらうまで、“ウタ”がルフィと一緒に冒険してるなんて思いもしなかったんだ…」
見聞色の覇気を極め、限定的ではあるが未来すら見通す力を手に入れた男が、大切な娘の危機を察知しながら助けられなかった…。四皇と畏れられ、その実力で多くの傘下達を守ってきた男が、本当は娘一人守れてはいなかったなど、皮肉にも程がある。
シャンクスは片腕で新聞記事を持ちながら、情けなくも涙を零す。
シャンクス「すまない…ウタ…本当に、本当にすまない…」
ベックマン「……俺達も同罪だ。俺達はあの時あんたを笑うだけで、なんの危機感も感じちゃいなかった。ウタの危機を感じられただけ、あんたの方が上等さ」
ベックマンは煙草をふかしながら、船長を慰める。
そして副船長として、船を束ねる船長に活を入れる。
ベックマン「そらお頭、あんまり泣いてるといざウタに会ったときに笑われるぞ? 一緒にルフィだっているんだ、あいつらに幻滅されたくねェだろ?」
シャンクス「……そうだな。少し感傷的になりすぎた。
まだまだドレスローザまでは遠い。泣くのはウタにもう一度会ってからだな!」
ベックマン「ああ」
シャンクスは信頼する副船長の言葉に気合を入れ直し立ち上がる。
シャンクス「ウタ…今会いに行くからな…」
小声で呟かれたその言葉は、誰にも聞かれることなく、偉大なる航路の夜の闇の中に溶けていった。
シャンクス達赤髪海賊団が船のコーティングを行うために訪れたシャボンディ諸島で、ウタの師匠でありアマゾン・リリーの先々代皇帝でもあるとあるバーのマスターにボコボコにされるのは、また別のお話。