ーーーゴア王国 フーシャ村ーーー
村長「ルフィのやつ、ニュースになるごとにとんでもないことをしでかすのお…」
マキノ「まあまあ村長さん、あんまり目くじらを立てるとシワが増えますよ?」
マキノの酒場ではルフィの育ての親である山賊タダンとその一家、そして村人達がルフィの活躍の載った新聞を肴に昼から宴をしていた。
“麦わらの一味”と異例の同盟
新聞には、満面の笑みのルフィとその肩に乗っている紅白の色合いの人形が写っていた。
彼ら二人を小さい頃から知っている村人や山賊たちは、彼らが元気に活躍していることを素直に喜び、村長も内心は孫のような少年が無事にいることを喜びつつも、海賊として悪名を上げていくことを苦々しく思っていた。
タダン「マキノ、あの子は寝かしつけて来たよ」
マキノ「ありがとうございます、ダダンさん。 ごめんなさい、お客さんに子守を任せてしまって」
ダダン「構いやしないよ、昔のルフィ達に比べれば天使みたいさ」
ルフィ達の育ての親でもあるタダンは昔のルフィ達を思い出して豪快に笑い、マキノと村長もまたは苦笑した。
そうやってタダン達もまた、ルフィやウタとの思い出話に花を咲かせていた時、突然店内の喧騒が止んだ。
タダン「どうしたんだいアンタ達、顔真っ青だよ?」
先程まで楽しそうに酒を飲んでいた村人達が急に黙り込み、酒で赤くなった顔を真っ青にしている様子に、一緒に酒を飲んでいた山賊達も、そしてタダンも困惑する。
そしてダダンの背後では、拭いていた皿を取り落とし、まるで何か取り返しのつかないことをしてしまったかのような、絶望と悲しみの混ざった表情でマキノが涙を流し、村長もまた、青い顔で頭を抱えていた。
その様子にただならないものを感じたダダンは、嗚咽するマキノを椅子に座らせ優しく背中を擦りながら、比較的冷静さを保っている村長に問いかける。
ダダン「一体何があったんだい。皆突然、まるで誰かが死んだのを今まで忘れてたみたいな顔してるじゃないか。」
村長「忘れてたいた…か。そうじゃな、どうやら儂らは今の今まで、一人の女の子を忘れておったようなんじゃ」
村長がぽつりぽつりと、まるで罪を懺悔するかのように語り始める。
かつて1年程、この村を拠点に活動していた海賊団に、船長の娘でルフィより2歳年上の少女がいたこと。彼女はすぐにルフィと仲良くなり、船が停泊している間はよく勝負と称して競い合い、遊んでいたことを。
ダダン「赤髪のシャンクスに娘がいたのは初耳だけど、そんな仲のいい友達がいるなんて、ルフィのやつ一言も行ってなかったけどねえ」
村長「ああ…そうじゃろうな。なにせ、儂らはつい先程までその少女がいた事をすっかり忘れてたおったのじゃよ。」
ダダン「…? いやいや、いくらなんでも、そんなことが?」
村長「……その少女の名前は
村長の言った名前にタダンもまた驚愕する。
何故ならその名前は…
タダン「ま、待っとくれ村長! その名前は…!」
村長「儂が覚えておる限り、あの子のことを最後に見たのはあの人形を赤髪達が連れてくる前までじゃ…。
まるで入れ替わるようにあの人形はルフィや儂達の前に現れ、そしてルフィも儂らも、赤髪海賊団の者達も誰も、あの子がいないことに違和感を覚えなかったのじゃ…。」
村長の話を聞いたダダンと山賊達もまた、彼らと同じく顔を青くし、悍しい想像に身を震わせる。
わずか9歳の少女がその身を人形に変えられ、家族や仲の良かった友人から忘れられる。そして自分達はその少女の苦しみに気づくことなく、彼女を人間ではなくただの動く玩具として扱っていたのではないかと。
嗚咽を漏らし続けていたマキノが突然立ち上がり、店の裏手の物置へ向かう。
ダダン「ちょっ、待ちなマキノ!」
ただならぬ様子を感じたダダンが慌ててマキノを追いかける。
マキノは物置の中にあった箱をひっくり返し、何かを探すように散らばった中身を漁る。
ダダン「マ…マキノ?」
マキノ「あった…」
マキノは雑貨の中から、一枚の写真を見つけ出し大切そうに抱きしめる。その写真には12年前のまだ若い赤髪海賊団の船員達、そして幼き日のルフィと、赤と白の特徴的な髪色の少女が写っていた。
タダン「この女の子が…
マキノ「ずっと…ずっとこの写真に写ってる女の子が誰なのか分からなかったんです。ルフィも村長さんも、それに船長さんも誰も知らなくて、皆気味悪がって捨てようとしたんです…。
でも…ウタちゃんが写真を捨てようとするわたしに必死にしがみついて、まるで捨てないでって泣いてるみたいだったんです…」
それを思い出したマキノが再び涙を流しうずくまる。
マキノ「ごめんなさい、ウタちゃん…ごめん、ごめんね……」
ダダンはただ無言で、泣き続けるマキノの背中を擦ることしかできなかった…。
ーーー数日後 フーシャ村ーーー
村長「わが村から生まれた英雄に!!」
八百屋の店長「お姫様を救った
村の広場で、普段なら苦言を呈するはずの村長が音頭をとり、村中の人間とコルボ山の山賊が集まり、ルフィが成し遂げた偉業を、そして彼の救った女の子の無事を祝福している。
マキノ「よかった…本当に、本当によかった…」
喜びで涙を流す彼女の手には、ルフィと彼にお姫様抱っこされ赤面する赤と白の特徴的な髪色の少女の写真が掲載された新聞が握られていた。
ーーー数週間後 マキノの酒場ーーー
マキノ「♫〜♫〜」
マキノは機嫌よく鼻歌を唄いながら、開店準備をしていた。
マキノ「すみません、まだ開店準備で…」
藤虎「すいやせん、貴方がマキノさんでよろしいでしょうか?」
店に現れたのは、村人でもコルボ山の山賊でもなく、正義のコートを羽織った盲目の海兵だった。
マキノ「は…はい、そうですが…貴方は?」
藤虎「わっしは海軍本部で大将をさせていただいている藤虎と申します。…とはいえ今は謹慎中でさぁ」
マキノ「えーっと、ガープさんのお知り合いですか?」
藤虎「ああ、すいやせん。今回は麦わらさんと歌姫さんからの手紙を届けに来たんでございやす。」
マキノ「ルフィと…ウタちゃんの?」
海兵が海賊の頼みを聞いて届け物をするというあり得ない状況にマキノは困惑する。とはいえガープなら笑って似たようなことをしそうなのでそういうものかと納得した。
藤虎「麦わらさんと歌姫さんにはちょっとしたご恩がありやして、こうして一度だけ借りを返させていただいております」
マキノ「そうでしたか。ルフィとウタちゃんは…元気でしたか?」
藤虎「ええ、二人とも元気すぎて捕まえられやせんでした」
藤虎は楽しそうに笑う。
彼が言うには、ドレスローザで逃げる二人を捕まえようとした際に、ウタに一瞬だけウタワールドに招かれ、ゴア王国のフーシャ村でお世話になったマキノという女性に手紙を届けて欲しいと頼まれたらしい。
藤虎は懐から、可愛らしいデザインの便箋を取り出す。
その便箋には、黄色い瓢箪のようなマークの中に“UTA”と書かれた絵が描かれていた。
そのマークが、人形だったウタに頼まれて自分が彼女の左手に縫い付けてあげたマークであることに気づいたマキノは、震える手でその便箋を受け取り、中身の手紙を無言で読みすすめる。
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マキノさんへ
お元気ですか。
わたしはルフィと一緒にフーシャ村を旅立って2年間、今でもルフィや一味の仲間達と一緒に元気に冒険しています。
ドレスローザでルフィと仲間達のお陰で人間に戻れました。ルフィにも思い出して貰えて、きっとシャンクス達もわたしのことを思い出してくれてると思います。
マキノさんもきっと、わたしのこと思い出してくれてるかな。それに村長さんとか八百屋のおじさんとか、村の皆も。
マキノさん、わたしが玩具にされてから10年間、破れたわたしを繕ってくれたり、新しい服を作ってくれてありがとう。村の皆もタダンさん達も、玩具だったわたしに優しくしてくれてありがとう。
マキノさん達のお陰で、わたしはルフィと一緒に旅立つことができました。皆が優しくしてくれたから、わたしは希望を捨てずに、ルフィと一緒に生き抜けました。
だからマキノさん、わたしを忘れてたことを気に病まないで。確かに忘れられたのは辛かったけど、そのことでマキノさん達が辛い思いをするのは、わたしも辛いから。
ルフィが海賊王になったら、一緒にまたフーシャ村に帰ってきます。
だから体に気をつけて、元気でいてください。
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読み終わったマキノは、涙を流しながらも笑顔で、藤虎に感謝の言葉を伝える。
マキノ「ありがとうございます、藤虎さん」
藤虎「あっしは麦わらさん達への借りを返させていただいただけでさあ。…それに素晴らしい歌も聞かせていただけましたんで、こいつァその代金替わりでもありますんで」
そう言って藤虎は店から立ち去ろうとする。
その藤虎を、マキノは呼び止めた。
マキノ「あ、待ってください。 折角来ていただいたんですから、何か食べて行きませんか?」
藤虎「よろしいんで?」
マキノ「はい。 それにルフィとウタちゃんの話、もっと聞かせてくれませんか?」
藤虎「わかりやした。ではうどんをいただきやしょう。」
嬉しそうに微笑んだ藤虎が席につき、のんびりとうどんを啜りながら、自分がドレスローザで出会った気持ちの良い麦わらの少年と、彼に寄り添う美しい歌姫の話を店主に話し始めた。
初めはガープ爺ちゃんに届けて貰うつもりだったんですが、最後の描写を書きたくなったので爺ちゃんには海軍本部で留守番してもらうことになりました。