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白箱探偵社。
京都の繁華街の一区にあるビルを拠点としている普通の探偵社……ではなく、少し特殊な探偵社だ。
ここでは、警察が手に負えない難事件や危険が伴い手をつけることのできない荒事を担当している。
社員はたった4名だが、それでも日本警察の勢力を超える知能と力を持つ。
今まで解決してきた数々の事件の功績から、日本政府から莫大な支持を得ており、たった一社の探偵社とは思えない影響力を持っている。
だが、この探偵社は癖が強く、彼らが興味を持った事件以外は受けないのだ。この対応には警察や政府も困窮している。
そんな白箱探偵社に1つの依頼が舞い降りてきた。
今回はどのような依頼で、彼らはどのように真実を明かすのだろうか。
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白箱探偵事務所のとある1室。
彼らが会議・打ち合わせに使う、アンティーク風の部屋に2人の人物が作業をしていた。
1人は背の低いロータイプの机の上でパソコンを操作し、もう1人は部屋を囲むように配置されている本棚から本を探している。
小さな図書館と言われても納得いく量の本なので探索は困難そうだ。
「先輩。今日の14時から高度育成高等学校に行くようにと綱吉さんから命令が来てます。」
キーボードを物凄い速度でタイピングしながら少年が話す。
とても優しそうで真面目な印象を受ける顔立ちをしており、雀色の髪を均等に流してまとめている。初対面の人間から良い心証を受けるのは間違い無いだろう。頼れる外見とは言えないが、なんだかリーダーが似合うような雰囲気を出している。
だが、それは彼の数ある中の一面に過ぎない。
彼の名は八神拓也。かつて憎悪のホワイトルーム生と呼ばれていた、狂犬だ。
「高度育成高等学校?確か東京にある学校だよな?」
「はい。坂柳理事長から依頼が届きまして、その詳細をお話したいようです。」
丁寧な口調で八神が先輩と慕う人物に話す。
「爺さんが受けた依頼なら断る理由は無いが、どうやって東京まで?」
「綱吉さんが新幹線のチケットを取ってるようでそれで東京まで行ってください。」
「了解。それにしても坂柳さんからの依頼か…」
「4年ぶりですね……僕も先輩も一夏もあの人には恩があります。僕達の分も是非頑張ってきてください。」
「…任された。」
そう言うと青年は探していた書物を左手に持ち、部屋から去って行った。
「頼みますよ”綾小路先輩”。」
綾小路清隆。かつてホワイトルームで最高傑作と呼ばれていた超人で、白い箱を壊滅させた裏切り者でもある。
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「東京全域高校集団無差別殺傷事件から今日で1年です。高校では朝早くからたくさんの人が花を手向け、犠牲者の冥福を祈りました。」
新幹線を待っていると駅内でニュースが流れる。
東京全域高校集団無差別殺傷事件。東京にある高校、国立2件・公立31件・私立33件で在学生徒による猟奇的殺人が起きた令和最悪と呼ばれる事件だ。死亡者1481名・重傷者988名・継承者1975名という尋常ではない被害を出した。
「あれからもう1年か…」
綾小路はこの事件に関して思うことがあるのか、先程まで見ていたスマホから目を離し、空に顔を向ける。
これほどの事件だが、未だに解決していない。犯人666名を捕えることはできている。だが、本当の黒幕を逮捕することはできていないのだ。
黒幕の正体を知るか知らないかでこの事件への考えは大きく変わる。
666名の生徒全員は同じ精神異常をきたしていた。取り調べを受けても彼らは盲信的に「正義のために!」や「世界平和のための必要な生贄なんだ!」とか「邪魔をするな!世界の害虫どもが!」などと吐き捨てていた。それに彼らにはこの事件に関する罪の意識が1ミリもない。今まで一緒に過ごしてきた同級生やお世話になった教師を殺したり・傷つけても罪悪感の欠片もなかった。それどころか、殺人を邪魔されたことんみ憤怒していた。とてもじゃないが思春期の子供が抱く感性ではない。
こんな犯人達が今までどこにでもいるような一般人だとは誰も思えないだろう。だけど、これは事実だ。彼らは事件前までは本当に普通の生徒だった。濁りに濁りきった目になってしまったが。
それが、こうなってしまった。まるで悪魔に取り憑かれたかのように。いや、悪魔そのものになっていた。
かつて友達だった生徒、心が通じ合っていた恋人、10年以上育ててきた親もこの惨劇を見た人物が同じことを言った。
「「「あれは人間ではない。悪魔だ。」」」
と。
それほどまで異質だった。彼らは人間を止めたのだ。
人間だったら爆弾を体に宿して集団自殺なんてしない。
「…………………」
この最悪の悪夢を顕現させた悪魔。日本全土を恐怖に染めた黒幕。その名は”ゴエティア教”。
悪魔を崇拝する世界最悪の邪教だ。過激な教えと儀礼と世界各地に拠点を持つゴエティ教は日本だけではなく世界中で信者によるテロを起こしている。
ワールドカップ爆発事件・王族暗殺事件・ヘリコプター墜落事件など上げていけばキリが無い程の被害規模。
それほどの犯罪行為をしているのにどこの国も捕えることができていない。特殊組織やエージェントを使っても尚、その実態を掴むことはできていない現状だ。
綾小路達でも……
何故テロを起こすのか?目的は何なのか?組織規模はどれほどなのか?何も分かっていない。
だが、分かることはある。奴らは人類の絶対悪だということだ。神を否定し、悪魔の如く人間を弄んでくる彼らは絶対に倒さなければならない。捕まえない限りこの地獄の惨劇が止まることはない。
それは人間を超越した綾小路にも当てはまる。綾小路もこの事件には複雑な因縁があるからな。
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「お久しぶりです坂柳理事長。」
綾小路は特別な許可書を使い、高度育成高等学校に足を踏み入れた。
「お久しぶりですね綾小路君。4年ぶりですかね?」
「はい。あれから会うことができず申し訳ございません。」
「そんな必要はありませんよ。綾小路君も仕事で忙しいでしょうに。それに私はただ外部に情報をリークしただけです。そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ。」
理事長室には穏やかな面相をした紳士的な老人が座っていた。地毛である銀髪と年による白髪が混ざった髪色をしており、長年生きてきた人間の栄華さを感じられる。
彼が坂柳茂正。この高度育成高等学校の理事長にして、ホワイトルーム壊滅の手伝いをした綾小路達の恩人でもある。
「いえ。恩は恩です。坂柳理事長がいなければあの結末にはなりませんでした。それに、私は厚意をそのままにしておくのは嫌な性格なので。」
綾小路は坂柳理事長と向かい合う形で椅子に腰を下ろす。クッション性の良い高級な椅子に沿うような形で少しだけ背筋を落とす。
「それで依頼の件なのですが。」
世間話を挟まずに早速本題に取り掛かる。本当なら寄り道をしてから本題に入るのが良いのだろうが、綾小路自身、坂柳理事長を信頼しており、その必要は無いと判断した。2人の間柄を考えると世間話は別に後でもいいだろう。
「はい。今回は綾小路君にこの事件に関して調査を行なって欲しいのです。」
綾小路を指名する依頼。白箱探偵社は受けた依頼は必ず遂行するというモットーがある。指名された以上断ることはできない。しかし、恩人という立場上、断ることは決してないが。
「…やはり、この事件のことですか。」
「ええ。綾小路君のご想像通り、東京全域高校集団無差別殺傷事件についてです。」
外部からの干渉を受けないこの学校でも、この事件の火種に巻き込まれた。どうやってこの日本政府直轄の高校までゴエティア教の魔の手が迫ったのかは明らかになってはいない。この学校は白箱探偵社の担当外だったが、世界でもトップクラスに優秀な警察でも悪魔の経路を知ることはできなかった。奇跡的に死亡者が66件の中で唯一出なかったのが救いかもしれないが。それでも、謎が明らかになっていない未知の状況は不気味なものだ。
「坂柳理事長はゴエティア教について知っていますか?」
「ほんの少しですが、世界各地に拠点があること、信者を使って世界中でテロを行っていること、国の権力を超える力を持つこと、組織の調査を行った人物が不審な死を遂げていること、司教と呼ばれる幹部がいること…それぐらいですね。」
坂柳理事長が知っている情報は一般国民が与えられている情報を遥かに超えている。それは、日本政府は混乱を防ぐために国民に厳しい情報制限を行なっているからだ。一般人は危険なテロ組織という認識だ。もし、全ての情報を公表したらどうなるかなんて簡単に想像できる。
(あのことについて………いや、ここで言っても混乱を招くだけだ。もう少し時間とタイミングを待とう。)
「概ねこちらが持っている情報と一致しています。なら、これ以上の説明は入りませんね。」
綾小路、白箱探偵社だけが知っている最高峰の機密情報。もし、これが拡散されたらテロと変わらない規模の大混乱に陥るだろう。それほどまで………人類の歴史を歪ませてしまうほどの情報。一体綾小路らは何を知ってしまったのだろうか?
「話を逸らしてしまいましたが、具体的な依頼内容をお願いします。」
「こちらが依頼書になります。」
綾小路は坂柳理事長から受け取った書類を隅なく見る。
「依頼内容は1年前の無差別殺傷事件の調査。主にゴエティア教からの繋がりの捜査ですか。それに…再度事件の阻止。起きてしまった場合は生徒や学校関係者に被害が及ばないように防衛…か。……うん?依頼期間は………3年?」
依頼書を読み続けていくたびに綾小路の様子が変わる。表情はほとんど変わっていないが、雰囲気で困惑していいることが分かる。
「1年前に警察が大規模な調査を行いましたが、手がかりは掴めませんでした。ですが、高度育成高等学校は外世界から遮断しています。それは1年前から変わりません。そのため、もし内部に宗教関係者がいた場合、まだ内部にいるはずです。綾小路君にはその調査を行って欲しいのです。」
坂柳理事長の策は、1年間この禍事と関わりを持った人物が過ごしているという危険性を孕んでいる。いくら警察が事情調査を行ったとは言え、彼らは強国と対立しても捕まることのない実力組織。信用できるとは正直言いにくいだろう。それでも、この命令を行ったのは坂柳理事長の事件解明の強い意志なのか、内部の人物を信用している現れなのだろうか、それとも…生徒の実力を信頼しているのか。
「ゴエティア教が何らかの方法で高度育成高等学校の内部までに影響をもたらしたのは紛れもない事実です。理事長という立場でありながら、生徒を守ることのできなかった私の贖罪でもあります。」
「坂柳理事長………」
「私はもう2度と生徒達や教師達にこんな目に遭わすわけにはいきません。ですが、私だけの力では力不足なのです!……綾小路君、君の力を借りたい。君の知能と力を使って、この事件を解明し、止めて欲しい。」
何故、坂柳理事長がここまで事件の再来を恐れているのか。その理由を綾小路は知っている。
666名の犯人が自殺をする前にある呪詛を吐いた。
【I think this is the end(これで終わりだと思うな)】
聞いた者を恐怖させるには過剰すぎる呪いを最後に現世に残した。
あれほどの惨劇を起こすテロ組織だ。そんな組織が1年の経過を終え、再び悪夢を再現しようとしても何ら不思議ではない。むしろ自然な行為だ。
「…分かりました。この依頼、綾小路清隆が受理致しました。」
「…ありがとうございます。」
坂柳理事長はその頭を深く下げて、綾小路にお願いする。綾小路も恩人の突然の行動に度肝を抜けれたのか、少し慌てた様子でそれを止めようとする。
「依頼を受理した後で言うのもおかしいですが、何故期間が3年なのですか?」
「それは、綱吉様からの命令です。綾小路君に学校生活を送らせるために。」
政界でも強い発言力を持つ坂柳理事長に様呼びをさせる人物。そんなことができる人物がこの世界に一体何人いるのだろうか。
綾小路綱吉。綾小路清隆の祖父にあたる人物で。旧白箱探偵社の名探偵だ。
ホワイトルーム崩壊後、綾小路と一部ホワイトルーム生を保護し、4年間面倒を見てきた人物。違う意味で綾小路の恩人と呼べるだろう。
「あなたは人間になることを望んでいる。そうでしょう?」
「………ええ…そうです。私は怪物ではなく人間になりたいです。」
綾小路はかつてホワイトルーム壊滅時の事を思い出す。そこで見た人間という脆弱な生物が放つ耀き。自分を救おうとして、死んでしまった少女。それらは無機質だった綾小路の心を大きく反応させた。
それから、綾小路は人間に憧れるようになっていた。人間を超越した力を持っていながら、愚かで弱い人間に。
「あなたは綱吉様と過ごすことで少しずつ人間性を手に入れていった。それは間違いないです。あの部屋で見た時のあなたとは比べものにならないほど人間らしくなりました。ですが、まだ不完全。人間としての性能は最高傑作でしょうが、心は不良品のままです。」
「…そうですね。」
坂柳理事長の鋭い言葉は綾小路の心を簡単に貫く。綾小路自身、その事を理解している。自分が不良品だということは。
綾小路の目は二色混合の美しい目をしている。だが、右目と左目で大きく異なっているところがある。それは目の耀き。右目は人間らしい光を見せているが、左目は虚無そのもので闇だけを映している。左目はかつてホワイトルームで非道の限りの教育を受けていた時から変わっていない。
今の綾小路を例えるなら、人間になろうとしているロボット、無理矢理継ぎ接ぎで作った人間だろう。半分は人間、もう半分は人外。それが今の綾小路の実態だ。
「綱吉様は自分の力ではこれ以上あなたを人間に近づけることは不可能と判断しました。ですが、同級生と過ごす学校なら失ったパーツを埋めることができる。そう思ったようで、私にこの内容を追加するように頼みに来ました。」
「爺さん……余計なお世話だ。」
綾小路は少し後ろめたいのか、視線を下に落とす。
綾小路は本当に人間になりたがっている。それは事実であり、原動力でもある。
もし、人間になれる機会があるなら、綾小路は迷うことなく参加するだろう。そのチャンスが今舞い降りたのだ。断る理由は無い。
「ありがとうございます。喜んで3年間の任務に就かせていただきます。これからよろしくお願いします。」
「…!ええ、こちらこそよろしくお願いします。」
最後の綾小路の表情。初対面の人間には分からないだろうが、交流がある人物なら分かる。綾小路が少し笑ったことに。
こうして白箱探偵社の最高傑作の学校生活が始まることとなった。