Awakening-或るウマ娘の物語-   作:BuddPioneer

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第壱章ー1985,10,27ー
第壱話ー地下バ道ー


 地下バ道、それはパドックと本馬場を結ぶ、ターフという舞台へと上がるための花道。返しウマを地上の花道とするなら、地下の花道は地下バ道だと私は思っている。

 それで今、私はその地下バ道にいる。聞いたところによると現在、スタンドには10万人を超える観客がいるらしい。10万人。小さな市町村一つ分の人数に等しい。正直、プレッシャーが半端じゃない。こんな環境で走るのは、今年走った安田記念の時以来。だけどここには、10万人を超える観客の歓声は聞こえてこない。ただただ、静けさだけが支配する空間。聞こえてくるのはブーツの底に嵌め込まれた蹄鉄が、無機質な硬い床に当たる度に、「カツーン、コツーン」と鳴らす音だけ。これが「嵐の前の静けさ」というやつだろうか。

 不思議なことに、ターフが近づいてくるにつれ、私の中にある緊張とか不安の雑念が全て取り除かれていく。そして、最後に残ったものは「気持ちよく走りたい」という純粋な混じりけの無い感情だけ。今は順位なんて関係ない。だって、結果は後からついてくるものなのだから。

 徐々に地下バ道の終わりが近づいてくる。それにつれ、光がどんどん強くなっていき、観客の歓声もどんどん大きくなっていく。私が今まで出たどのレースよりも大きな歓声。こんな歓声を聞くのは正直初めて。地下バ道が終わりターフに出ると、スタンドの端から端まで埋め尽くす人、人、人。超満員の観客。スタンドを見渡すけど、正直人のいないところを探す方が難しい。

 

「これが、G1。」

 

 思わず呟いてしまう。ただ、それ以上の言葉が出てこない。それくらいの数だった。10万人という数は何となくイメージできるけど、うまく現実の10万人と頭の中の10万人がリンクしてくれない。10万人じゃなく、100万人いるようにも錯覚してしまう。いや、もしかしたら本当に100万人いるのかも。

 よく小さい頃は、テレビでG1を見ていた。その時、あまりの観客の多さに怯えているウマ娘がいるのを見たことがある。『なんであんなに怯えるんだろう?』とその時は思っていたけど、今まさにその場にいる自分なら、『怯えてしまうのも無理はない』と理解できる気がした。

 しかも時になり、『観客の前でちゃんと走れるかな』『気持ちよく走れるかな』『ぎこちない動きにならないかな』などなど今更になって不安がよぎってしまう。でも、そんなうじうじ考えるヒマなんて無い。もうターフというステージには来てしまった。今更引き返すことは不可能。

 

「3枠5番、ギャロップダイナ」

 

「それじゃ、行くとしますか!」

 

意を決して、私は本バ場へと足を踏み出すのだった。

 




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