Awakening-或るウマ娘の物語-   作:BuddPioneer

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第弐話ーゲート前ー

 地下バ道から私は勢いよく飛び出して、ターフに出た。勢いよくと言っても大体全力の3ー4割ほどだったけど。

 ターフへと飛び出し、私は芝の感触を確かめる。うん。大体いい感じ。特に足や芝に違和感は感じないし、問題なさそう。ターフも良馬場と発表されているし、今日は気持ちよく走れそう。

 それにしても、観客の数が半端じゃない。あと、10月末だというのに熱気も半端じゃない。まるでここだけ夏みたい。スタンドいっぱいに客が詰めかけている。私がG1に出るのって、今年の安田記念以来だけど、やっぱりこうやって見ると、本当にG1って特別な世界なんだなぁ、と改めて思う。

 そんなことを考えながら軽く走っていたら、いつの間にかゲート前に来てしまった。いつものゲートと何ら変わりの無いはずなのに、G1だというだけで、やけに神々しく見えてしまう。これも、G1の魔力なのかも。

 ゲート前に来たはいいが、すぐゲートに入れるわけではない。発走直前にならないとゲートには入れないから、それまでどうしたものか。周りを見れば、入念にウォーミングアップをしたり、普通に知り合い同士で話し合っている子もいる。私はというと・・・ウォーミングアップはこれでもかというくらい入念にしてきた。私自身話すのは好きだから、コミュニケーションは問題ないし、何なら普通にレース前はみんなで色々話している。でも、G1となれば話は別。何かピリピリした雰囲気だし、普通に表情が怖い子がチラホラいる。いや、知っている子はいるんだけど、周りの空気が半端じゃないから話しかけるのも難しい。さてどうしたものか。

 

「よ、どうしたんだ?何か困ったような顔しているけど。」

 

「あ、ニホンピロウイナーさん」

 

 と思ったら、ニホンピロウイナーさんが向こうから話しかけてくれた。正直助かった。だってこの空気感めっちゃ怖いんだもん!

 

「えっと、私G1挑戦2回目なんですけど、どうもこの空気に慣れなくて・・・。というか前回の安田記念で結果が振るわなかったのも多分それが原因だと思っています。」

 

「あー、そういうことね。」

 

 事情を話したら、ニホンピロウイナーさんも何となくは理解してくれたっぽい。

 

「私もG1を2勝しているけど、あの空気はいつまで経っても慣れないよ。私だってそういう空気はあまり好きじゃないし。」

 

「分かります。勝ちに拘るのは分かるんですが、あそこまで行くと、ちょっと別次元の世界に感じちゃいます。」

 

「というかさ、やっぱりこんな空気になっているのって、原因は十中八九あの子だよ。」

 

「やっぱりニホンピロウイナーさんもそう思います?私もそう思います。」

 

 その視線の先には・・・

 

「・・・・・」

 

 何も言わずにそこに佇む5冠馬、シンボリルドルフがいた。いや、勝負服姿のルドルフさんを見るのは初めてじゃないけど、ここまで間近に見るのは初めてかな。

 でも、近くで見ることができるから分かることがある。・・・ルドルフさん、めっちゃ表情が怖い。それはもう、般若の表情というのがピッタリくるくらい。マジで怖すぎるんですが・・・。そりゃああんな表情で無言で佇んでいれば、嫌でも意識しちゃいますってアレ。

 

「そういえば、ルドルフさんの枠って確か」

 

私は確かめるようにニホンピロウイナーさんに聞く。

 

「ルドルフは確か8枠17番の単枠指定だよ。私は4枠8番だけど、ギャロップちゃんは何番?」

 

「私ですか?私は確か3枠5番です。」

 

「じゃあよかったじゃん。ルドルフが遠くて。」

 

「確かにそうかもしれませんね。正直自分の隣にいたら怖すぎて、レースに影響が出てしまいそうです。」

 

「だよね。」

 

「ちょっとまってよー!!!!!」

 

 ニホンピロウイナーさんと枠の場所について話していたら、後ろから急に別のウマ娘が割り込んできた。しかも涙目で。

 

「えっと・・・誰?」

 

 急な割り込みに私もニホンピロウイナーさんもびっくりしている。

 

「アカネダイモンだよ!7枠16番なの!!!というか同じクラスじゃん!!!!!」

 

「で、何の用なのかな・・・?」

 

 そういえばそうだった気がする。同じクラスメイトだった。

 

「私、ルドルフさんの隣の枠何だけど!どうすればいいのよー。何かめっちゃ表情怖いし、正直今すぐ逃げたいぐらいなんだけど・・・。」 

 

 めっちゃ必死に訴えるアカネダイモンちゃん。でも、残念ながら枠は変わらない。しょうが無いと言うべきか。

 

「アカネダイモンちゃん、ドンマイ。」

 

 私はアカネダイモンちゃんの肩にポン、と手を置き、そう言った。何かこの世の終わりのような表情をしているけど、致し方ない。辛いけど、これが現実なのだから。

 

 「そろそろ枠入りです。出走する皆さんは準備してください。」

 

 気づいたら、ゲート入りのアナウンスがあった。とうとう、始まるのか。

 

「ニホンピロウイナーさん、アカネダイモンちゃん。」

 

「とうとう本番だな。泣いても笑っても、勝負は一度きり。まあ、勝つのはこの私だけどね。」

 

「来ちゃったよ・・・。ルドルフさんの隣、怖いぃ・・・・・。でも、勝つのは私です!」

 

「もしかしたら、私が勝っちゃうかもしれませんよ?」

 

 ニホンピロウイナーさんも、アカネダイモンちゃんも、覚悟を決めた目をしている。だけど、私も負けてはいられない。だって、G1に出るということは、私にも勝つ可能性があるということ。そこで、面と向かって宣戦布告をしちゃってました。だけど、言い終わって気づきました。

 

『何でこんな言葉が出たんだろう・・・?』

 

やっぱり、『勝ちたい』というウマ娘特有の本能が出たのでしょうか?まあ、真相は分かりませんが。

 

「お~。言うねえ。」

 

「ギャロップちゃん、私も負けないからね!」

 

「まあ、出るからには私も勝ちたいので。」

 

 本能?のままに若干強気に出る。多分、そうでもしないとルドルフさんの空気に呑まれてしまう。

 

「じゃあ、」

 

「お互いに」

 

「ベストを尽くそう!」

 

 そう言って、三人で拳を突き出し、コツンとぶつける。それと同時に、G1のファンファーレが、秋の東京競馬場に響き渡る。

 泣いても笑っても、レースは一度きり。第92回、天皇賞・秋の発走はすぐそこまで近づいていた。




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