Awakening-或るウマ娘の物語-   作:BuddPioneer

3 / 4
第参話ーレースー

 ファンファーレが鳴り響き、ゲート入りが始まる。基本的にゲート入りは奇数から。偶数が後に入る。私の枠番は3枠5番。つまり、奇数。というわけで、私は誘導されるがままにゲートへと入る。

 基本、ウマ娘はゲートに対してストレスを抱きやすいという。確かに、ゲートの中で暴れたり、ゲート入りを嫌がったりするウマ娘を私は数多く見てきた。かくいう私も、札幌日経賞の時にはゲート内で滅茶苦茶ストレスを感じていた。まあ、あの時の記憶は正直抹消したい。私にとっては黒歴史だから。

 

「うー、ゲート狭いよー。」

 

 なんて過去の黒歴史を思い出していると、隣で怯える子がいた。彼女は、2枠4番のゴールドウェイ。まあ、ウマ娘だからゲートがストレスになるのは無理もない。ただ、今日はそれだけではない気がする。

 

『ルドルフさんの気配、ここにいてもめっちゃ感じるのですけど・・・・・?!』

 

 そう、大外の8枠17番、泣く子も黙るシンボリルドルフその人の存在である。ここからは結構離れているはずなのに、滅茶苦茶気配を感じる。というか、怖すぎる。なんか表情もゲート前の時より更に険しくなっているように見えるし・・・。

 ただ、私はこんな状況に置かれていても、特に何も感じなかった。勿論、狭いゲートは嫌いだし、ルドルフさんの気配もたまったものじゃない。でも、何故かこの時は冷静さを以てゲート内にいることができた。まるで、今の心は水鏡のよう。何にも靡かない。そして、ただひたすらに、私はスタートの瞬間を待つ。一分とも、十分とも感じた時間の直後、

 

ガッコン!

 

突然ゲートが開き、私は無意識のうちに駆けだしていた。

 

 

 レースが始まったとき、私は集団の後方を走っていた。ここはよくレース展開を見ることのできる位置である。落ち着いた気持ちで走っていると、早速見知ったウマ娘が位置を上げていく。そう、シンボリルドルフである。圧倒的なオーラ放ちながら、ルドルフさんはスピードを上げて中段へと走っていく。

 ついつい彼女について行ってしまいたくなるが、敢えてここは押さえる。というか、多分私はあのペースについて行くことはできない。そのまま、私は集団の後方についたまま、走っていくことにした。

 後方にいたまま、私は前方の集団からやや遅れて向こう正面に入る。向こう正面でも、私は後方で待機し続ける。ちょっとだけ前方を見てみると、ルドルフさんは気がつかぬうちに結構前の方で競り合っている。やはり皇帝の2つ名は伊達ではない、と改めて思う瞬間であった。

 それと同時に、私の視界が徐々に狭まっていく感覚に襲われる。何と言えばいいのか・・・。本当に自分の見える視界が狭まっているように感じるのだ。気がつけば、第4コーナーを走りきって最終直線に出る頃には、私の視界は自分の前に見える芝だけになっていた。

 もうここまで来ると、目の前に坂があろうが、皇帝がいようが、そんなのは知ったこっちゃない。私は私の走りをするだけ。坂を登り始めるのと同時に、私はギアを一気に上げる。身体がギシギシと悲鳴を上げ、心臓が早鐘を打ち始める。呼吸もどんどん苦しくなってくり、喉からヒューヒュー変な音が出るけど私はギアを上げることを止めない。

 坂を登りきる頃には、私のギアはトップギアに達していた。それでも、私はギアを下げることをしない。トップギアで走る私の顔は、周りから見れば満面の笑みを浮かべているように見えただろう。そう、私は走っていて楽しかったのだ。『気持ちよく走りたい』を体現しているように思えた。その時の感覚は、幼い頃、辺り一面何もないだだっ広い平原を走っていた感覚に近い。

 その勢いのまま、私は気がついたら何故か第一コーナーにさしかかる。ん?天皇賞・秋って、2000mだから、第一コーナーは曲がるはずが必要が無いはず・・・。そこで、私は初めてゴール板を過ぎたということに気づいたのだった。慌ててギアを落とし、クールダウンに入る。そして、ゴールを切ったというのを身体が理解したのと同時に、視界が元に戻り、強烈な疲労感に襲われる。

 その時、ふっと誰かが私の左側を通り抜けていく。そのウマ娘は、あのルドルフさんだった。しかも、表情がスタートよりももっと怖くなっている。喜怒哀楽全てがごちゃ混ぜになったような、複雑な表情をしていた。

 私は、順位を確認しに、敢えて逆走して掲示板へと戻っていく。そこには、『5』の数字が着順掲示板の一着のところに燦然と輝いていた。

・・・え?私が一着???HAHAHAご冗談を。これはきっと夢に違いない。そう思い、頬をつねるが、めっちゃ痛い。

 

「いひゃい」

 

 痛みを感じたから、これは夢じゃないんだな、と改めて理解したのだが、未だに一着を取ったという事実が理解できずにいた。

 




評価、お気に入り、感想お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。