Awakening-或るウマ娘の物語- 作:BuddPioneer
レースが終わったら、必ずあるもの。そう、ウイニングライブである。ここで、私にはある悩みがあった。そう、重賞のウイニングライブでセンターを務めたことはないのである。一応G1にも出るから、ちゃんと振り付けの練習はしてきた。不安では無いけど、そもそも、重賞初制覇がこの天皇賞・秋なのである。緊張するなと言われる方が無理だろう。
結論から言うと、私は最後までやりきった。初めて踊るG1のセンター。みんなの視線が一線に集まる。というか、観客の数が私が出ているレースの比じゃない。熱気も半端じゃないくらい伝わってくる。
こんな中にいる私。ステージに立った時から、私の足はガックガク、心臓もバックバク。口はコイのようにパックパク。でも、イントロが流れ出したら、自然と身体が動く。歌詞も自然と口から出ていた。キレッキレとまではいかないけど、自分の中ではほぼ完璧に近いライブだったと思う。そんなわけで、無事にライブを終えた私だったが、まだ「G1を制した」という実感が無かった。
ライブを無事に終えた私は、舞台裏の椅子に座って少し休んでいた。何というか、嵐のように訪れて、嵐のように去っていった、という印象しかなかった。実は夢でしたー!というオチも考えて、何度かほっぺをつねってみたけど、結局夢ではないと分かった。でも、何度思い返しても、私が勝った、と思うことはできなかった。
『私、本当に勝ったのかな・・・?』
そう思いながら、ウイニングを終えた私は、控え室に戻るため、廊下を歩いていた。そこで、あるウマ娘とすれ違う。
「あ。」
そのウマ娘とは、
「ごきげんよう。ギャロップダイナさん、だったかな?」
「し、シンボリルドルフ生徒会長・・・。」
シンボリルドルフ生徒会長その人であった。私とルドルフさんは、その場で相対する。しばしの沈黙の後、ルドルフさんが動いた。そして、私の肩に手を置いてこう言った。
「優勝、おめでとう。」
「あ、ありがとうございます。」
突然の事態に、私の脳が理解できていない。
「ではまた。」
そういうと、ルドルフさんは去っていった。私は、しばしの間立ち尽くし、目をぱちくりさせていた。
しばらくの間、私はそこでフリーズしたままだった。だけど、そのフリーズは突如として打ち砕かれる。
「どーん!」
「おっぶぅっ?!?!?!」
「どーしたのさ?廊下で棒立ちしちゃって???それよりも、今日のレース、スゴかったじゃない!私は6着だったけど、ダイナちゃん、1着になっちゃうなんて!」
アカネダイモンちゃんに後ろから追突されたのだった。突然の追突に、私は変な声を出してしまう。
「よっ。今日のレース、スゴかったぞ。」
「ありがとうございます、ニホンピロウイナーさん。」
いつの間にか、ニホンピロウイナーさんも来ていて、私を労ってくれた。
「前回の安田記念ではアタシが勝ったけど、今回のレースでは、4着かな。まあ、見事にしてやられた、って感じだったよ。勿論、次回は負けないけどね。」
2人とも、私の勝利を祝ってくれた。この時、私はアカネダイモンちゃん、ニホンピロウイナーさん、そしてシンボリルドルフさんの3人に祝われたことで、私はようやく理解しつつあった。そう。
私は、このレースに勝ったんだ、と。
勿論、結果は知っていた。でも、心までは結果の理解に追いついていなかったのである。でも、今、ようやく、私は理解できたんだ。
「2人とも、本当にありがとうございます。私、ようやく理解できたんです。このレースに勝ったんだ、って。」
この時の私の表情は、本当に眩しいくらいの、心からの笑顔だったと思う。
「礼は別に要らないよ~。次は私も負けないけどね!」
「どういたしまして。勿論、アタシも次は負けるつもりなんてないよ。」
2人が言葉を返す。何て言えばいいんだろう。やっぱり、この2人と一緒にいると、何処か落ち着くところがある。
「ふふっ、次も私が勝っちゃうかもしれませんよ?」
私も気がついたら、言葉が出ていた。この後も、みんなで一緒にレースに出て、そして、着順に関係なく心の底から笑い合いたい。私はそう思うようになっていた。勿論、勝ちたいけどね!
「よーし、次のレースも一緒に頑張るぞー!」
「「おー!」」
私の言葉に、2人が言葉を返す。私たちのレースは、これからも終わることはないだろう。だって、これからも、レースは続くんだから。
<完>
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