もう少しお付き合い下さい。
そんな訳で初投稿です。
【蛇腔決戦】後にそう呼ばれるヒーロー対ヴィランの大規模戦闘から早一ヶ月。
更地となっていた街並みは、日本だけでなく世界中から送られてきた支援により、少しずつではあるが、徐々に元へ戻りつつあった。
「しっかし、まさかアメリカ大統領が直々に応援に駆け付けてくれるとは、これもゴジータの影響なんスかね」
「……奴は一時期、文字通り世界中を駆け回っていた頃があったからな。その時に出来たツテだろう」
アメリカを筆頭に、嘗てゴジータに大きな借りのある国々は出来る範囲であるものの、決して少なくない支援を提供してくれていた。
資材、人材、家、通っていた病院等が突如失われ、途方に暮れていた人々。そんな彼等の拠り所となるべく、プロやアマ問わず、多くのヒーロー達もまた活躍している。
「色々と被害は出ちゃいましたけど、この分なら5年位したら街の機能は取り戻せるんじゃないですかね」
「そうだな」
死柄木弔とその
復興支援の人々とヒーロー、そして、それを支えてくれる多くの人達の協力もあり、街は確りとした足並みで建て直される事だろう。
ヒーローだけでなく、それを支える様々な職業。これを目にした子供達はきっと多くの選択肢に夢を見る事になる。
そんな、ちょっとばかり先の未来に思いを馳せるのも束の間。
「エンデヴァーさん、着きました」
ホークスの視線は鋭くなる。
「わざわざ済まなかったなホークス。お前も、自分の仕事で忙しいだろうに」
黒塗りの車───公安がよく使う車から降りるエンデヴァー………轟炎司は眼前にある、砦の様に巨大な建物を見上げて口許を強く結ぶ。
タルタロス。様々な極悪ヴィランを収容する隔離施設。とある人物との面会を求めてやってきたNo.2は、手を強く握り締めて同じく車から降りてくるホークスへ向き直る。
「エンデヴァーさん、確かに貴方は過去に罪を犯した。それは決して許される事ではないし、奥方様やご子息達も決して貴方を許さない事でしょう」
でもね、そう続けながらホークスは炎司を見据え。
「そんな貴方に、救われた人間がいるのも、忘れんといて下さい」
ただ、それだけを告げた。
「あぁ」
後輩の、不器用な励まし。そんな彼に相変わらず無機質な顔で返答する炎司に、ホークスは堪えるような笑みを浮かべ。
「夕方ごろに、迎えに来ます」
「あぁ」
車に乗り込み、来た道を戻っていく。小さくなっていく車を見送ると、炎司は再びタルタロスを見上げ。
「…………燈矢」
大量殺人者である
冥府の門を潜った。
◇
『よぉ万年二番手、今更俺に何の用だよ』
厳重なタルタロスの警備網の中、監視員の案内のもとに通されたのは、透明な特殊強化ガラスで仕切られた部屋。
その向こうで、荼毘が空虚な笑みを浮かべて座っていた。
「───元気、してたか?」
『元気に見えんなら、一回頭の病院に行った方がいいよ、マジで』
あの日、蛇腔での戦いでエンデヴァーは嘗ての息子と再会を果たした。最も考えられる………いや、考えられない最悪の形で。
ヴィラン連合の荼毘。蒼い焔を操る事で知られ、これ迄ヒーローヴィラン、一般市民問わず多くの人を焼き殺してきた最悪の犯罪者。
倒すべき悪。それが自分の息子で、死んでいたと思われていた自分の最初の子供。
轟燈矢の変わり果てた───それでも、何処か面影を残した───が、より笑みを深くさせた。
『まぁ、結局俺も人の事は言えねぇか。あれこれ知恵を回してた所で、結局何一つ叶わなかった。あの
チッと舌打ちを溢し、計画のご破算となった原因であるゴジータに悪態を吐く。本来ならオールマイトが現役から退いた後、繰り上がりでNo.1になる筈だったエンデヴァーを散々世間に認知させた上で自分の出自を公表させるつもりだった。
ついでに轟家の
いや、此処まで徹底的にやられてしまえばもう笑うしかねぇかと、荼毘は乾いた笑みを浮かべる。
「………済まない」
『
苦悶の表情で、頭を深く下げて、絞り出すように溢すエンデヴァーの謝罪を、荼毘は一瞥すらせず一蹴する。
『安心しろよ。俺はもうそんなに長くないみてぇだし、此処での暮らしも文句はない。何より………もう俺には個性がない』
諦観に至った様子で呟く荼毘、それを耳にしたエンデヴァーは口元を強く結んで、拳を強く握り締めた。
荼毘は、その危険な人格と個性からタルタロスに収監されてから極刑を科すべきだと大多数の声が挙がっていた。
それを公安に属しているが故に色々と融通の利くホークスが裏から抑え、代替案を提示してきた事で荼毘への極刑は一応待ったが掛かった。
それは、ナイトアイが密かに検挙することを目的として来たヴィラン組織である死穢八斎會、その若頭が密かに組織内で製造していたとされる劇薬、個性消失弾。
僅かに残されたコレを荼毘に投与された事で、荼毘は個性を喪い、只人となった。
さらに言えば、荼毘本人も過去の個性暴走とこれ迄の無理が祟り、既に肉体は限界を迎え、余命幾ばくもない状態となっている。
その上、本来だったら暴露すべき自分の過去も、スケプティックが暴露する前に捕まった事で防がれ、荼毘の目論みは何一つ果たすこと無く失敗に終わった。
『所詮、俺は燃え残った灰に過ぎないって事だ。失敗作が何をした所で、結局は何も為せやしねぇって事だな』
良い教訓になったと、荼毘は嗤う。最早呪いの言葉すら吐けなくなった荼毘にエンデヴァーは何も言えなかった。
「────忘れない」
『あ?』
「お前の事は、
涙を流し、掴んだズボンをより強く握り締めながら、エンデヴァーは言う。
エンデヴァー、轟炎司の最初の子供である轟燈矢は、あの日山の火事の中で燃え尽きて死んだ。
それが世間に公表されている事実であり、それは今も変わっていない。公安は、荼毘の正体を知った時、真っ先にエンデヴァーやその事実を知る者に強固な箝口令を敷いてきた。
この事実が表に出れば、世論は荒れるだろう。それを危惧して公安はエンデヴァーと焦凍に墓までその秘密を持っていく事を強要させた。
当然、二人は反発した。が、それによる社会への影響と家族達の事を考えればその提案を受けざるをえなかった。
己の罪を罪として認識する事すら許されない。それが、
だから、せめて彼は言う。決して忘れないと。
『あっそ、好きにすれば』
その態度は無関心を装いつつも、その口元は少し歪に歪んでいた。
◇
「へぇ~、それじゃあ会長のお父さん、もう退院出来るんですね」
「あぁ、お陰様で経過は良好。後は何度か通院するだけで良いそうだ」
秀治院学園、生徒会室。先のヴィラン達の襲撃により一時は封鎖状態だった学園は、とある財閥の後押しもあって、無事に再開される事となった。
その件で色々と出自が明らかになった現生徒会長である城鐘御幸は、一時こそ生徒会長の席に座っている事を疑問視されてきたものの、彼と彼の取り巻く仲間達の尽力もあり、遂に卒業まで生徒会長の座を守る事が出来た。
「まぁ、俺としてはもう少し病院で大人しくしてても良いんだがな」
「会長のお父さん、結構アグレッシブでしたもんね」
やれやれと呆れた様子の城鐘に副会長の篠宮も、苦笑いを浮かべて控えめに同意する。
先の戦いの後、これ迄昏睡状態だった城鐘御幸の父が目覚めた。ヴィランに拐われた事は微か程度にしか覚えておらず、殻木に身体をいじくり回されていた事は全く覚えていないのだ。
本人の事を思えば、これ以上の追求は止めておこう。そういう訳で警察からの事情聴取もそこそこに、城鐘父は暫くの入院生活となった。
「あのクソ親父、大人しく病院で寝てれば良いものの、図々しさは変わってねぇの! しかもやたらとミーハーだし! この間なんて甚兄ィにサインねだってやがったんだぞ!?」
「あ、あはは……」
ヴィラン組織に拉致られ、身体を弄られた被害者。それ故に扱いは最大限に気を遣おうとしたのだが……それが間違いだった。
城鐘父は厳格な風格をしていながら強かで、今の自分の立場を最大限に利用してきやがったのだ。息子と娘に甘えたいと言っておきながら、実際は週刊漫画の買い出しや菓子等をパシらせ、自分が意識を喪っていた数年間の世の中を知りたいと、公安にぬけぬけとスマホを要求していたりしているのだ。
しかも何気に最新型を。
それで恩人である姫野や憧れの
『なんだ二人とも、そんな悪夢を見ているような顔をして。………なに? いつもの態度はどうしたって? オイオイ、何を言っているんだ。俺がいつそんな人を舐め腐った態度をしたというんだ。二人はお前達の恩人、特に甚田さんは俺の命も救ってくれた大恩人だ。そんな事をするわけ無いだろう』
しれーっとそんな風に宣うモノだからもうね、凄いよね。と、我が父ながら御幸は呆れ返るしかなかった。
「───と、済まない。篠宮、身内事で愚痴ってしまって」
「いいえ。身内に関して、思う所があるのは私も同じですから」
「っ、それって、もしかしてお前の親父さんの事………か?」
何処か暗い表情で俯く副会長に、城鐘御幸は気まずさを感じた。
篠宮かぐやの実家である篠宮財閥は、日本有数の大財閥で、その父である篠宮雁庵は高齢者であるが故に病に伏せ、余生をベッドの上で過ごすだけの老人だった。
父が亡くなれば身内内での醜い争いになる。そう危惧して、篠宮かぐやは今日まで裏で色々と画策してきたのだが……。
「父がその、先のNo.1ヒーローの活躍を目にした途端………復活しまして」
『寝ている場合じゃねぇ!』
そう言って病院のベッドから自力で抜け出し、色々とキナ臭いことをしようとしていた長兄をしばき、再び財閥をまとめ上げた。
「今は他の兄達を抑えながら、後継者の選択に力を入れているそうです」
「なんか………その、お疲れ様」
なんかもう色々と限界な副会長を、城鐘は何となく労った。
「でも、ふふ。これで良かったのかもしれません」
「篠宮?」
「ヒーローが活躍し、それを私達が支える。案外社会ってそれだけで何とかなるものかも知れません」
「………そうだな」
これから先、自分達はもっと大変な事態に巻き込まれるかもしれない。
けれど、それでも人は進んでいく。大切な人と、手を繋ぎ、一緒に歩いていく限り、きっと………何とかなるのだ。
◇
一方、今回の戦いの最大の功労者であるゴジータはと言うと。
「うおぉっ!? コイツ脱糞しやがった!? 葵さん、オムツどこだっけ!?」
「そっちの棚の奥よ」
絶賛、子育て奮闘中だった。
今作でのそれぞれのヴィラン&ヒーローの末路。
轟家の場合。
荼毘もとい轟燈矢。原作と違い緩やかに死ねるが、寿命が無いのは相変わらず。もって10年かそこら。
エンデヴァーもとい轟炎司は公安からの圧力により荼毘を自身の息子である事を口外する事を固く禁じられており、彼は自身の行いを生涯悔やみ、抱え続けるだろう。
焦凍。彼は今後も燈矢の命が在る限り向き合い続けるだろう。
彼の優しさは、実の兄に喩え命を狙われても変わらない。
冬実、夏雄、冷の三人は荼毘が燈矢である事実を知ることもない。が、三人とも勘がいいので、何となく察しは付いている。
いつか、彼等が再び家族に戻れる日は来るのだろうか?
何とかしてゴジータ!
オマケ
篠宮雁庵。
篠宮財閥の総裁。高齢であるが故に病で床に伏せ、残り短い余生を病院のベッドの上で過ごす筈だったが、先のゴジータの姿を目の当たりにして覚醒。
「寝ている場合じゃねぇ!」
そう叫びながら病院を抜け出し、止めに入った医者をノリと勢いでパイルドライバーで沈め、更にはよからぬ事を企んでいた長男及び関係者をぶち上がったテンションそのままにCQCで叩き潰した。
今は落ち着きを取り戻し、改めて後進の育成と後継者選びに専念している。
因みに、患っていた病は末期の癌。意思の力で病を超越したミラクルジジィである。
「ゴジータのお陰であと20年は現役よ!」
「なにそれ、知らん……怖」
「No.1ヒーローが戦慄してる」