そんな訳で初投稿です。
エピソード1”それから“
────その日は、茹だるような暑さだった。
「アチィー、なんでこんなクソ暑ィ日に盆の日が重なるんだよ。お天道様め、先祖が帰るのを阻止しようとしてんのか?」
「アホ言ってないで歩け山田、余計暑くなる」
突き刺してくる日差しを浴びながら、大の大人が歩くのはとある墓地。
今日はお盆休み。故人の供養を一家の安全・健康を祈る日本の大切な行事の一つ。
「ふぅ、ふぅ、しっかし、なんで叔母さん達はワザワザこんな山の上に墓を建てたんだ?」
「そりゃあ、高い所に建てたかったからだろ」
長い長い階段を昇りきる。振り返ると、街並みを見渡せる絶景が広がっていた。
「はは、成る程。言われてみれば納得だ」
「あぁ、アイツは高い所が好きだからな」
其処に建てられたのは一つのお墓。白雲家、二人の親友が眠る墓石を前に二人はまた来たぞと、軽い口振りで一年ぶりの手入れをするのだった。
「つうか、毎度毎度思うけどよ。親友とはいえ他所様の墓石を勝手に手入れして良いのかね」
「………まぁ、叔母さん達や管理の人から許可貰ってるし、あの人達も楽だからって言ってたし………いいんじゃね?」
あの日、蛇腔決戦から暫くして、ゴジータに頼んで黒霧から元の白雲に戻して貰った二人は、遺体となって動かなくなった白雲を見て、改めて現実を突き付けられた気持ちになった。
本音を言えば、ゴジータの奇跡の技【ソウルパニッシャー】なら白雲を元に戻し、嘗ての親友を取り戻せると淡い期待を抱いていた。
でも、白雲はあの日、ヴィランによって殺された。他ならぬ相澤の目の前で。
神野で見せた奇跡、あれはあくまでも被験者が改造される過程で仮死状態であったからこそ為し遂げられた偉業であり、死者を甦らせる代物ではない。
それが可能なら、ハイエンド脳無を消滅させず、全て元に戻していた筈だ。
あの日、亡骸となって横たわる白雲を見て、珍しく殊勝な態度を見せるゴジータを相澤は今も覚えている。
分かっていた。あの日、白雲は死に、その現実は決して覆らないと。目を背けては行けないと、二人は誓った。
「はーあ、白雲と一緒にヒーローやる夢、結局叶わなかったかぁ」
「おい」
「分かってる。こんな事を言うのは今日で最後にする」
決して叶わない約束。しかし、忘れる訳ではない。
「それ、毎年言ってるからな?」
「あ、あれ? そうだっけ?」
惚ける山田に呆れる相澤、そんなもう慣れたやり取りをしながら墓の手入れは進んでいき。
最後に、花と線香を墓前に添えて手を合わす。
「さて、この後はどうするんだっけ?」
「三戸先輩の慰め会。あの人、また彼氏に振られたんだって」
「またぁー!? あの人最近酔うと手が付けられねぇんだけど!? 俺嫌だよ、あの人のお守りをするの!?」
「俺も嫌だよ」
「はぁー、誰か早く貰ってあげてよ! もしくは白雲が今すぐ甦って引き取れ」
「………お前、今複数同時に喧嘩売ったからな?」
ギャイギャイと騒ぎながら立ち上がる二人、そんな時。
『無茶言うな!』
ふと、そんな懐かしい声が聞こえた気がした。
「───今の、いや、まさかな」
「………ま、お盆だし、そう言うのもあるだろ」
聞こえたのは幻聴か、それでもいいしなんでもいい。
「じゃ、また来年来るからな」
「土産話、楽しみにしてろよ」
ただ、懐かしい気持ちになった二人は、笑顔で墓前にまたなと告げ、その場を後にする。
「さっきの話、先輩に送っといたから」
「え“」
「『今回の私の呑み相手、お前と善院な』だってよ。アイツもまた余計なこと言ったんか」
「ひ、人の心ォッ!!」
あの日から何年経っても変わらない二人、そんな二人を見守る墓石の上には、立派な白雲が漂っていた。
エピソード2”未来“
本日は日曜日。本職の教職の休みと、兼業しているヒーロー活動もオフな貴重な日。
そんなオフの日に、僕緑谷出久は街のとある待ち合わせ場所に到着する。
本来なら、今日のような貴重な日は心身共に休める必要があるのだけど、生憎と今日は大事な面会の日なので、家に閉じ籠っている訳にはいかないのだ。
それに、こうして街をぶらつくだけでも結構気持ちが楽になる事もあるのだ。行き交う人々の笑顔、無邪気で遊ぶ子供達の姿を見ていると、なにもしていないのに活力が沸いてくる。
───それに、予定があると言っても午前中だけで、面会に行くのは僕だけじゃないから其処まで気を張る必要はない。
面会の相手はトガヒミコ。嘗てはヴィラン連合の一人として社会に敵対したヴィランの一人。
そんな彼女を僕のサイドキックとして迎えたい故の交渉は、今も尚続いている。幾ら彼女の経緯が悲惨なモノであっても、犯した罪を軽くする事は出来ない。
けれど、彼女を生き辛くして追い詰めた社会にも問題はあるのではないか。公安の新たなトップとして立つ事になったホークスの主張は、これ迄の社会の動きもあって比較的荒波が立つ事なく受け入れられていた。
凶悪な個性を持った人を、ただ遠ざけて拒絶するだけでなく、寄り添う事も必要。それが雄英で学んだ僕達なりの超常社会への答え。
力で押さえ付けるのではなく、力以外の方法で考えて見出だす。一部の人達は懸念しているが、それでもめげずに頑張っているヒーロー達のお陰で、少しずつだけど変わりつつある。
「───あ、ヒーローパック。最新弾出たんだ」
そんな、変わる社会に期待を寄せながら待ち人を待っていると、ふと目の前の駄菓子屋から最新のカードパックが目に入ってきた。
『それでは続いてのニュースです。ここ数年、凄まじい人気を博しているヒーローカードゲームの最新弾が遂に発売されました』
『前回はオールマイト最終決戦ver、嘗ての平和の象徴、その最後の戦闘シーンだけあって、かなり話題になりましたよね』
『しかも手に入れる確率がかなり低く、中でもシークレット中でも極めて数の少ない直筆サイン入りのモノは、一部界隈のオークションでは億の値が付いたとか』
「おばちゃーん、10パック頂戴」
「ハイよ、好きなもん取っていきな」
『更には一部の過激なファンが、持ち主に奇襲をしたり、一時期その稀少さに暴動すら起こしかけたとか』
『そうならない為に、皆さんも自制心を心掛けて欲しい所ですね。この私のように』
『一言多いな。………では、今回のヒーローパック最新弾、この中で最も熱いカードをご紹介しましょう!』
街頭モニターに流れる映像、其処に映し出される赤い鬣の様な頭髪と、野生を秘めた体毛に覆われたヒーローの影が流れ、行き交う人々の足が止まる。
『満を持して顕れた最強のヒーロー、【希望の象徴】超ゴジータver4! 遂に! 解!! 禁!! 蛇腔決戦にて世界中に示した二大必殺技それぞれが描かれた超豪華な一品!!』
一枚は1000倍ビッグバンかめはめ波ver、もう一枚は黄金の龍を放つ龍拳ver。
『て言うか製造会社バカでしょ、前回で色んな意味で大炎上したのに懲りてないんか!? しかも……あーあー! これ角度変えたら絵柄が変わる奴だ。前のオールマイトと似ていて違うPlus Ultra仕様だ! それも二枚! こりゃダメだ、暴動確実だわ』
『うぉぉぉっ!! 私に寄越せぇぇっ!!』
『自制心どこ行った!?』
なにやらモニターの向こうではえらい騒ぎになっているが……まぁ自分には関係ないだろう。中のカードに傷が付かない様に丁寧に袋の端をおばちゃんに借りた鋏で切り取っていく。
『はぁ、はぁ、それで。今回もメーカー側からの話では今回のパックにもシークレットレアの他に其処へ直筆サイン入りのモノが入っているとの事です』
『確実に今回も億の値が付くでしょうね。それも一枚それぞれに』
『も、もし二枚とも所持しているとしたら?』
『持っている人には……夜道には気を付けろとだけ言っておきましょう』
何だか物騒な話が聞こえた気がするが、自分には関係ないだろう。一つ、二つと、パックを開けていく。
『………もし、もし仮に、ですよ? もし一人のファンがこれ迄の直筆サイン入りシークレットレアを持っているとすれば、果たしてどの様な事態になると思われますか?』
『ハッハッハッ、それは有り得ませんよ。これ迄のシークレットレアといったらアレでしょう? 最初期のゴジータを含めて言っているのでしょう? そんなの貴方、どれだけ天文学的な確率だと思っているんです?』
四枚、五枚、六枚、目新しいカードはない。まぁそんなモノだと肩を竦めた時。
『まぁ、それでももし……もしも万が一、億が一、兆が一、そんな超絶豪運の持ち主がいて、全てのレアカードを持っているとしたら』
ふと、目映いカードが二枚、続けて出てきた。
一枚は両手を突きだし、極光を放つゴジータと。
割れた天の下で、不敵な笑みを浮かべて拳を突き上げるゴジータ。
共にシークレット、それもサイン付き。
『戦争ですね』
時が、止まった気がした。
『お、おい坊主、それ………もしかしなくても』
僕の個性───O.F.Aの歴代継承者の一人、万縄さんがドン引いた様子で僕の持つカードに指を指す。
他の継承者の皆さんも───普段はそんな態度は微塵も見せない二代目の駆藤さんも、冷や汗ダラダラで眺めている。
僕は、そんな目映いカード達を可能な限り丁寧に扱って、予め用意していたケースへ入れる。銃弾すら弾く特殊素材の強化ケースだ。一度入れたら正式な手順で操作しないと開けられない特別仕様のそれに入れて目にも止まらぬ速さでバッグに仕舞う。
「───墓に持っていく秘密、また一つ増えちゃった」
努めて平静さを装って、滲み出る脂汗を拭う。
緑谷出久。笑みを浮かべて待ち人と合流したその人物はその日、専用のシェルターに秘蔵のコレクションがまた一つ増える事になる。
尚、幼馴染みである爆豪には薄々気付かれている模様(笑)。
エピソード3“希望”
「釈放だぁ?」
「はい。尤も、条件付きではあるんですけどね」
タルタロス面会室。見慣れた特殊強化ガラス越しに向き合っているのは、嘗て公安所属のヒーローとして活躍し、ホークスの先輩に位置する女性ヒーロー。
レディ・ナガン。超常社会の闇に潜む悪を狩り、嘗ての長官を殺した罪状で幽閉されている女傑である。
そんな彼女が、呆れた様子で椅子の背凭れに寄り掛かる。
「とうとう公安も頭イカれたのか? 私が何でここにいるのか、まさか聞いてない訳ではないだろ?」
「聞き及んでいます」
「………そんなに私を使い潰したいのか」
「否定はしません」
目の前にいる翼の生えたヒーロー、ホークスの眼にふざけた様子はなく、何処までも真剣で真摯だった。
「それだけ、今の俺達には手が足りないんです」
「ゴジータの所為でか?」
「っ、知っていたのか」
「て言うか、時々来てるぞ。オールマイトと一緒に」
片手で頬をついて耳を掻きながら、そんな事を口にする。噂はかねがね耳にしてきたNo.1ヒーロー、オールマイトすら越える次世代のヒーローがどんなモノかと僅かばかりの好奇心を抱いていたが、まさかあんな風に出てくるとは思っても見なかった。
「いきなり目の前に現れたからビビッたよ。何でも瞬間移動の練習をしている際に偶然ここに来たんだとか。あん時の看守どもの顔、傑作だったぜ」
くつくつと笑いを漏らすナガンに対し、ホークスは頭を抱えた。
あの日、いきなり目の前に現れた二大巨頭。当然タルタロス全体が動揺に揺れたし、ナガンも激しく動揺した。
本人達はただの練習のつもりだったが、予想に反しての大騒ぎに二人のヒーローも動揺している。そんな間抜けな二人にすっかり拍子抜けしたナガンは、二人に問い詰めた。
即ち、現在の社会とその裏の話。個性という異能に翻弄され、脆く崩れやすくなった社会。
それを担うにはどうするのか、欺瞞と嘘、そして薄汚い血の上で成り立つ社会に果たして守る価値なんてあるのか。
懺悔の様に、縋る思いでそう吐き出すナガンに今のNo.1ヒーロー、ゴジータは言った。
『なら、賭けをしようぜ。レディ・ナガン』
『賭け、だと?』
『あぁ、あんたがここから出てきた時、果たしてその社会をアンタは守りたいと思うのか、のな。俺が賭けに勝ったらヒーローとして復帰しな』
『負けたら……どうするんだよ』
『目の前で全裸の焼き土下座してやる』
そう言って笑いながらタルタロスから瞬間移動で出ていく二人に、ナガンは終始動揺したままだった。
ただ、交わされた約束だけが残されて。
「なら分かるでしょう!? 人手が足りないの! 皆病院から帰ってこないの!」
そんな思い出に浸っていると、涙目で鼻声のホークスがズズイと迫ってきた。
「幾ら止めてって言ってもアイツら聞かないしさぁ! オールマイトに至っては引退したって公言したのにワザワザ名前変えてんの! 教師をしながらだよ!? バカじゃないの!? 瞬間移動とか馬鹿げた技をホイホイ使って、世界中のヴィラン組織に乗り込んで壊滅させてんの! この間なんて大統領になんて言われたと思う!? 『ドンマイ』だよ!?」
あの時の大統領の苦笑いは生涯忘れそうにない。公安役員に抜擢され、その手際の良さゆえに酷使されている若き元トップヒーロー。
「だからお願いしますよナガン先輩! どうか頼りない後輩の為に一肌脱いでください! 事務仕事とかでもいいんで!」
給料も高くしてますよ! そう付け加えて必死にスカウトしてくる憐れな後輩に。
「絶対
満面の笑みで断りやがった。
その後、タルタロスの看守に引き摺られながら面会室を後にするホークスを見送り、ナガンも席を立つ。
収容室に向かって歩いていく中、ふと窓に映る青空を見やる。
「悪いけど、娑婆に戻るのはもう少し先にして貰うよ」
まだ、これ迄の自分には折り合いが付けられていない。この手には、まだこびりついた血が付いて離れないから。
でも、これから先なんの希望もない張りぼての未来しか待っていなかったと思い込んでいたナガンの心に。
「それに、楽しみは後に取っておいた方が良さそうだからね」
あの日、確かに一つの風が吹き抜けたのだ。
◇
「──────あれ?」
気付けば、ゴジータはそこに立っていた。
何もない白い空間。上下左右、見渡す限りの白い世界が広がっていて、自分の立っている場所しか認識できない不可思議な空間。
「俺、なんでここにいるんだ? 確か、瞬間移動で……」
いつものパトロール。ふと感じた気を辿り、瞬間移動をした所までは覚えている。何だか遠いようで近い、そんな不思議な感覚頼りだったが、それでも瞬間移動自体に失敗はないはず。
「それに、ここって妙にあそこに似ているな」
周囲が白に覆われた異質な空間、しかしゴジータには既視感があった。
そこは昔、テレビの向こうであの主人公達が強敵に挑むために使用した特別な空間。一年を1日に圧縮させた【精神と時の部屋】。
ここはテレビで視たあの場所にそっくりだったのだ。
「ひゃー! 驚ぇたぞ。本当にフュージョンしたオラ達にそっくりだ」
心臓が跳ね上がった。
「フンッ、精々見てくれだけじゃないと思いたいもんだ」
聞こえてくるのは聞き慣れた声。けれど、いや………
彼等がここにいるはずがない。けれど、高鳴る鼓動は期待を隠しきれず………。
恐る恐ると振り返る、その先には……。
「オッス、オラ悟空!」
在りし日の憧れの主人公達が、原典の記憶そのままに、そこにいた。
ファイナルエピソード。
“
Q.デク君が面会に付き添う人って?
A.麗日な人です。トガヒミコの面会に行くときはほぼ確実に同席しています。
「なぁんで今日もあなたが来てるんですか!」
「ふっふっふっ、恋ばなしよーぜトガちゃーん」
「二人とも仲良いなぁ」
尚、毎回クソボケ発動しているデク君でした。
次回、本当の最終回。
【とびっきりの────】