最近、寒さがキツくなってきましたね。
そんな訳で初投稿です。
「ほう、という事はアレか? お前さんがOFAの力を怪我せずに引き出せるようになったのは、No.1ヒーロー様のお陰という訳で、俊典はなんの役にも立てていないって事か?」
「い、いいいえそんな!? そもそも僕にこの
某市、道路沿いに建てられた小さな事務所。雄英体育祭での活躍のお陰で、数多くのヒーロー達から指名が来ているにも関わらず、緑谷出久が選んだのはグラントリノなるヒーローだった。
ヒーローオタクである緑谷ですら知らないヒーロー名、オールマイトによれば古くからの知り合いで、その人物は
謂わばオールマイトの師の一人。そんなすごい人物からの指名と言うこともあり、当初の緑谷は嬉しく思いながら緊張していたが、出会った瞬間そのスパルタに初日から心が挫け掛けていた。
この老人、見た目からは想像できない程に速く、そして上手い。高速移動系の個性でありながら、室内という限られた空間で自由自在に移動し、高速の一撃を叩き込んでくるのだ。
しかも、緑谷が10%の力を常時展開出来る事も可能と相まって、彼の実戦形式での扱きは更に苛烈さを増していく。流石はあのオールマイトにトラウマを植え付けた師匠、容赦のなさも凄まじい。
そんな訳で、職場体験の二日目からも扱かれる事になった緑谷は現在休憩中。グラントリノから彼の好物であるタイヤキを分けて貰い、頬張りながら緑谷のこれ迄の経緯を聞いていると、話題はゴジータの所で止まる。
緑谷がOFAの力を怪我させずに引き出せるようになったのは、ゴジータという現No.1ヒーローの助言のお陰という所、その話になった途端グラントリノはその表情を鬼のような形相に変化させる。
自分の愛弟子でありながら、弟子の為に何一つ出来ていない。緑谷が言うには時折組手には付き合っているとの事だが………それにしたって酷すぎる。
「─────まぁ、いい。俊典には俺が後日個人的に話をするから良いとして、取り敢えず小僧にはこれからOFAを使いこなす許容上限を引き上げることを目標にして貰うぞ」
「は、はい!」
「幸い、お前さんの体は当時の俊典程で無いにしろ、そこそこ仕上がっている。多少の無茶が出来る今の内に可能な限り追い込んでいくぞ」
「お、押忍!」
「目標は常時20%! 最大瞬間威力は40%前後! 此処から先は更にキツく行く。死に物狂いで足掻けよ、受精卵小僧!」
「は、はいぃぃ!」
その後、宣言通りにグラントリノによる扱きはより苛烈さを増し、緑谷出久は嘗てのオールマイトと同じトラウマを受け継ぐ事になるのだった。
一方、その頃。同じくトップヒーローを目指す受精卵の一人である爆豪勝己はというと……。
「そら、まだまだ遅いぞ。ほれ、脇ががら空きだ」
「ブフゥ!?」
奇しくも、緑谷と同種の地獄を体験していた。
◇
「うし、取り敢えず今日はこんな所か」
職場体験の開始から今日で二日目、雄英体育祭の優勝者である爆豪勝己は、現No.1ヒーローであるゴジータの自宅………その地下にてマンツーマンでの指導を受けていた。
それは、指導というには余りにも苛烈。挑んでは地に叩き付けられ、這いつくばり、立ち上がっては叩きのめされる。そんな事を繰り返していると、いつの間にか時刻は夜の時間帯となっている。
しかし、ただ打ちのめすだけでなく、着実に爆豪の糧となるよう、仕向けるようにしているのがより爆豪のやる気に火を付けている。次はこうしてこい、次はこうだと、まるで挑発するように導いてくるゴジータに、爆豪は只管食らい付く事でイッパイイッパイだった。
「んじゃあ、俺は上で飯の用意してるから、お前もシャワー浴びて着替えたら上に来いよ」
「……ゼェ……ゼェ……ゼェ……」
そんなゴジータのキツい扱きを受け、心身共に限界を超えている爆豪は、ゴジータの言葉に返事を返す余裕もなく、ただ呼吸を整える事しか出来なかった。
これが、No.1の鍛練。勝つことを望み、誰よりも強くなることを望んでいた爆豪にとって、この環境は渡りに船に過ぎた。
今、着実に自分は強くなっている。No.1に扱かれてまだ二日程度の時間しか経っていないが、そう感じる程にゴジータとの組手は刺激に満ちていた。
そのお陰か、爆豪の爆破の威力は徐々に強くなっていき、今では一発の威力が雄英入学前の倍近く跳ね上がっており、威力を上げる溜めの時間も半分近く減少しているのは、偏にゴジータの超反応とも言える反応速度に追い付こうと、爆豪が無意識に攻めた結果とも言えた。
自分は、まだまだ強くなれる。その為に此処に来て、その甲斐があったのだと、仰向けになりながら爆豪は笑みを浮かべた。
「─────今日はチキン南蛮か」
「近くの商店街から良い地鶏を貰ってな。下味も仕込んでいたから、味は悪くない筈だぞ」
その後体も動けるようになった爆豪は、シャワーを浴びて上へと戻ると、既に食卓にはゴジータの手料理が並べられている。家庭的なNo.1ヒーローに最初こそは戸惑ったが、男の独り暮らしならこういうものかと納得する。
「────この皿を並べりゃいいのか?」
「おっ、お手伝いとは感心だ。親御さんの教育の賜物かな?」
「世話になってるんだ。これくらいやるわ」
並べられた皿をテーブルへ手際よく並べる爆豪に、ゴジータは素直に感心する。と言うか、目の前の勝ち気な少年は自分と一緒に過ごすようになってから、かなり丸くなった気がする。
今でも、組手の際は殺す気で勝ちに来る所は変わらないが、目上の人間に対しても傲慢な姿勢を崩さなかった彼にしては、ここ最近は大人しく言うことを聞いている気がする。
低姿勢という程でもないが、刺が少なからず取れた気がする。手際よく食器を並べていく爆豪に、ゴジータは不意に笑みが溢れた。
やがて食事は進み、テーブルに上げられた料理の全てを平らげた二人は、皿洗いをしながら今日の反省会を開く。
「さて爆豪、俺の所に来て本日で二日目だが、何か参考、或いは聞きたいこととかあるかな?」
「………………………速すぎて何が何だか分からなかった」
思い返すのは職場体験の初日、歓迎会もそこそこにお開きとし、早速No.1ヒーローの仕事振りを見せて貰おうとやる気………否、殺る気満々で挑んだ爆豪だったが、目の前で起きた現実に唖然とした。
まず、街中を移動する際のゴジータが見えない。目で追えないのではなく、ただただ見えない。その動きは瞬間移動の如く、気付けば全てが終わっていた。
遠くの現地へ向かう時も、基本的に爆豪はゴジータに抱えられての移動となっている。しかも抱えられている爆豪に影響されない程度の移動速度。文字通りのお荷物となった爆豪だが、それを糾弾出来る程の活力は既に失われていた。
次元が違う。たった一日で持ち前の大きすぎる自尊心は砕かれ、既に借りてきた猫な状態の爆豪に、ゴジータはやり過ぎたかな? と、頬を掻く。
(一応、これでもコイツに合わせて色々とセーブしていたつもりなんだがなぁ)
今回、ゴジータは職場体験に合わせて普段のヒーロー活動より仕事量を減らしているが、それでも爆豪には色々とショックが大きかった様だ。目の前の少年も潜在能力は結構高そうだし、このまま戦意喪失させたまま返すのもゴジータとしては憚られた。
「なぁ爆豪、お前ってひょっとして自分の能力の高さに驕っていた口か?」
「ッ!?」
「あーやっぱり、時々いるんだよなぁ。お前みたいに下手に恵まれた個性を持つ所為で自分を特別だと思い込んじゃうヤツ」
「─────」
「それが悪だと決め付けるつもりはねぇが、確実に視野は狭まる。狭くなった視野は近くのモノに気付けずに、やがて自分が何を取り零したのかさえ分からなくなる」
ゴジータの言葉に、爆豪は何も言い返せなかった。恵まれた個性と身体能力、これ等を用いて必ずやオールマイトを超えるヒーローになると、小さな頃から息巻いていた爆豪は、同じ頃から周囲からチヤホヤされていた。
俺は凄い。他の奴等は凄くない。自身の能力の高さ故にその思考に行き着いてしまった爆豪は、幼い頃から他人を見下すようになっていった。
中でも、無個性と断じられた幼馴染みの事は特に偏見と嘲笑の目を向け、何度もなじり、迫害染みた事をした。
「─────デクは」
「あん?」
「あのクソナードは、道端の石っころの筈だったんだ。無個性で、何も出来ない
「─────」
今度は、ゴジータが大人しく聞き入れる番だった。
「なのに! 個性が出て、雄英に合格して、オールマイトみたいな超パワーを出すようになって………!」
「見下していた相手が、自分より遥か先にいると思ったか?」
「ッ!?」
爆豪の口から吐き出される感情の吐露、それを聞いて何となく横から口を出してみれば、怒りやら苛立ちでぐちゃぐちゃとなった爆豪が、必死の形相で睨んできた。
分かりやすい奴。睨んでくる爆豪を笑いながら見下ろすゴジータだが、其処に侮蔑の類いはない。尤も、恐らくはデクに相当な事をしているのも、その口振りから何となく察せるが、敢えて此処では指摘しない。
それは爆豪自身が認め、彼自身が贖罪しなければいけないからだ。故に、ゴジータが示せるのはほんの細やかな指針だけ。こういう道もあるのだという、標を示すだけだ。
「爆豪、お前は確かに強くなる。強くなれるだけの素質がある。けどお前の事だ、ただ強くなるだけじゃ物足りないんだろ?」
「………あぁ」
「なら、俺から言えるのはこれだけだ。“自分に克て”。ヴィランだけじゃなく、同じ道を走るライバル達だけじゃなく、自分自身に勝ち続けろ。
それっぽい言葉。とは、爆豪は笑えなかった。ヴィランやクラスメイト、デクだけじゃなく、勝つべき相手は他にもいて、それこそが他ならぬ自分自身の事だと爆豪自身が何処かで分かっていたから。
これが他の人間に言われたとしても、爆豪は認めなかっただろう。けれど、目の前にいるヒーローはオールマイトすら認めた最強のNo.1。爆豪が目指す理想の体現者、ならば彼が頷かない道理はなかった。
「さて、洗い物も終わったし、明日も早いんだ。早く寝ろよ」
「────なぁ」
「ん?」
「アンタにも、認めたくない自分ってのは、あったンか?」
ゴジータの言葉は、何処か経験に基づいてのモノに聞こえた。だから爆豪は興味本位でゴジータにもそういう時代があったのかと訊ねるが……。
「ばーか、教えてやらねぇよ」
「ンなッ!?」
当然のごとく、ゴジータは笑って却下する。悔しそうにギリギリと歯を食い縛る爆豪にゴジータは可笑しく笑い。
「この職場体験中、一度でも俺に攻撃を与えることが出来たら、考えてやるよ」
振り返り、不敵な笑みと共に挑発するゴジータ。そんな彼に爆豪は一瞬目を丸くさせるが……。
「上っっっっ等!!」
凶悪な笑みを浮かべ、気持ちを持ち直す。相変わらずタフな爆豪に感心しながら、ゴジータは明日からの職場体験を楽しみにするのだった。
(しかし、自分に克て。か、我ながらそれっぽい事を口にしちまったな。これも、あの人の影響かね)
『
脳裏に甦るのは、自身がまだ学生だった頃。誰よりも“ゴジータであろうとした”あの頃の自分は、きっと他の連中と同じく色々と拗らせていたのだろう。
教師達の制止も聞かず、クラスメイト達の心配の言葉にも耳も貸さず、ただ只管に自己を高め続けていた頃。端から見れば自殺願望とも取れる特訓に、後藤甚田は毎日挑み続けていた。
ゴジータならば天下無敵で在らねばならない。誰にも理解されない信条を、誰にも溢せなかった頃。固く閉ざされた自分の心に最初に触れたのは………とある一人の
「そう言えば、名前………聞いてなかったな」
白い髪に赤が混じった眼鏡の女性。きっと、何処かで元気に教師をやっているのだろうなと、縁側から見える空を眺めて、当時の思い出に耽るゴジータだった。
「ただいま冬姉、ん? またゴジータのグッズを買ったのか?」
「あ、うん。なんかたまたま目に付いちゃってね。お父さんには……その」
「分かってる。黙っているから、冬姉も気を付けてな」
「うん。ありがとう、焦凍」
机に並べられる幾つものグッズ、それは今話題沸騰中のNo.1ヒーローの人形。オールマイトやエンデヴァーと並べて、可愛らしくデフォルメされた人形に、女性は笑いながら指でつつく。
「………あの時の子が、今ではNo.1ヒーローかぁ」
きっと、もう自分の事など覚えてはいないのだろう。けれど、それでも良いのだ。テレビに映るNo.1ヒーローを見て、女性は寂しく思いながら、逞しく成長した男の子を前に女性────轟冬美は微笑んだ。
Q.爆豪って、例のカード持ってるの?
A.持ってません。なので、この手の話をすると露骨に逸らそうとしている緑谷を怪しく思ってます。
Q.轟家のお姉ちゃんは、ゴジータグッズを持ってるの?
A.其処までガチ勢ではないものの、結構集めてます。また、ゴジータのグッズを買う時は必ず他のヒーローのグッズもまとめて買ってたりしているので、所有しているグッズの比率はエンデヴァーの方が多いので、まだ父親にはバレてません。
尚、例の超激レアカードを諦められずに狙っている一人でもある。