もうすぐクリスマス、そして年末。今年も稚拙な自分の作品を読んでくださり、ありがとうございます。
そんな訳で初投稿です。
逃げ遅れた人がいないかせめて避難誘導はしてみせようと、担当のヒーローから離れてしまい一人行動することとなった飯田天哉は、人気のない路地裏にて不運にもステインと遭遇してしまう。
兄を襲った恐ろしきヴィラン。しかし、ヒーローとして立っている今の自分はこのままなにもせず逃げ出すわけには行かない。勝ち目のない怪物を相手に飯田が選んだ戦法は、一撃離脱というシンプルなモノだった。
最初こそ、虚を突いてステインに捕まっていたヒーローを助け出すことに成功したが、奴の個性によって動きを封じられた飯田は、捕まっていたヒーローと共に拘束されてしまう。
そんな時だ。頭上から現れる二つの影が自分達を庇うように降り立った。それは飯田自身が良く知る相手、同じヒーローを志す友人達だ。
「緑谷君と爆豪君!? 何故二人が此処に!?」
「たまたま近くを通り掛かった……じゃあ、通用しないよね」
「話は後だ。今は目の前のクソヴィランに集中しろ!」
突然現れた級友の二人に驚くが、経緯を説明できる程の余裕は目の前の二人にはない。今、彼等が対峙しているのは多くのヒーローを襲い、再起不能にしてきた恐るべきヴィラン、ステイン。
奴を前にして目を反らす訳には行かない。雄英襲撃の際に本物のヴィランというモノを体験したが故の警戒心、子供ながらヴィランとの対峙を理解している二人にステインは内心で感心した。
「────はぁ、また子供か。今日は良く、子供と出くわすな」
「っ、二人とも気を付けろ! 奴の個性は相手を拘束する類いのもの、条件は恐らく奴に斬られる事だと予想する!」
「………あれ、意外と飯田君てば冷静?」
自分が動けず、且つ偶然この現場に鉢合わせてしまったのなら、二人の気質を鑑みて、飯田は逃げる事を促すよりも対処への助言を優先した。
緑谷としてはてっきり再起不能にされたであろう兄の敵討ちに来ていた飯田の事を心配していただけに、意外と視野の広い様子の彼に軽く驚いた。
「余所見してんなクソデク! 来るぞ!」
「ッ!?」
「来てしまった以上、仕方がない。事を終わらせるまで………お前達は寝てろ」
瞬間、ステインの体がブレて見えた。それは一般的な動きを凌駕する挙動、地を這って体を左右に振りながら進んでくる様子はさながら獲物を追う蛇のよう。
個性によるものではなく、純粋な人体の挙動。人は体術を極めればこんな動きも出来るのかと、緑谷と爆豪は一瞬面喰らうも、二人とも日頃から超人の動きを目にしてきた者。地を這うのなら上から潰せば良いと、二人は個性をもって高く飛び上がるが……。
「なッ!?」
「跳ね……!?」
飛び上がる二人に追従するように、ステインもまた飛び上がる。ほぼ垂直に、直角に跳ね上がるステイン。
そんな奴の下には長刀の刃が突き刺さっている。恐らくはあれを足場として利用して跳び跳ねたのだろう。突如間合いを詰めてきたステイン、その両手に握られた鈍く光る二本のナイフに動揺するが、それでも二人は負けじと対処する。
「~~~ッ、死ねェッ!!」
「こん、のォッ!!」
振るわれる二振りの刃、これをマトモに受けたら不味いと知っている二人は受けるよりも回避を優先する。爆豪は爆破で、緑谷は指で宙を弾いて回避するがそこは狭い路地裏。このまま行けば直ぐ様壁にぶつかって自滅だろうとステインは一瞬だけその表情に落胆の色を見せる。が、互いに壁を足場にして再び飛び跳ねる二人にステインは予想を裏切られて目を丸くさせる。
次の瞬間、爆破と拳のそれぞれの一撃がステインの体に叩き込まれる。地に叩き落されるステイン。明らかに学生の動きではない二人に、捕らわれていた飯田とインディアン風のヒーローは愕然としている。
「嘘、だろ? 君たち本当に学生?」
「凄いな、二人とも!」
「「…………」」
並みのヴィランが相手なら今の一撃で戦意は喪失するだろうし、なんなら気絶だってしている。確実に入っているであろうダメージに二人は驚きながらも称賛するが、対する緑谷と爆豪の表情は暗い。
「………おいクソデク、分かってンだろうな?」
「うん、もう次に備えてる。いつでもいいから、何かあったら直ぐ言って」
「二人とも、何を言って………まさか」
表情の険しい二人に訝しげになる飯田だが、その可能性に思い至ると、まさかと青ざめる。そんな飯田に対して、爆豪も忌々しげに口を開いた。
「あぁ、あの野郎、あのタイミングだってのに受け身取りやがった」
手応えはあった。勝ったという確信もあった。しかし、地面に叩き付けられた僅かな挙動を目にした二人は、嫌な予感を沸々と感じていた。
奴は、手を抜いている。その事実を目の当たりにした爆豪は、今にも襲い掛かりそうな雰囲気を出すが、No.1ヒーローの言葉を思い出して努めて冷静さを保ち続ける。
そして………。
「良いぞ、お前達は筋が良い。一日に三人も原石に出会えたのは僥倖だ。………そこの爆発小僧は少々不安だがな」
「あぁ!?」
ヌルリと、何事もなく立ち上がるステインに緑谷と爆豪はやはりと身構える。耳もなく、鼻もなく、剥き出しの双眸だけが相手を見据えた信号になっている。
マトモに目が合えば、それだけで肩が竦み上がる。それでも緑谷が握り締めた拳に余計な力みが入らずに握っていられるのは、隣にいる幼馴染みのお陰か。
緊迫した空気。相手は何人ものヒーローを血の海に沈めてきた凶悪ヴィラン。そんな超危険なヴィランを相手にしても全く怯む事なく対峙していられる。そんな二人を前に飯田は頼もしく思えると同時に申し訳なく思った。
だって、絶対緑谷君てば自分の事を兄を襲ったステインに対して復讐心を燃やす者だと思っているもの。先の素の反応が何よりの証拠。
確かにステインは危険なヴィランだと思っているし、少なからず思うところはあったりする。けれど憎しみがあるかとなると………正直、ちょっと分からない。
だって、兄は今も元気に筋トレに励んでいるんだもの。襲われた本人がステインに対してそんな感情抱いていないんだもの。
苦笑いで「まぁ、負けちまった俺にも責任はあるさ」なんて言われたら、理解は出来なくとも納得するしかない。
いつか、兄に関する箝口令が解かれたら、クラスの皆に謝ろう。心配し、気遣ってくれた皆に真摯に向き合って謝罪しよう。飯田天哉は心の底からそう決めた。
閑話休題。
「ち、マジで大して効いてねぇなクソが。何処で覚えたそのふざけた体捌き」
「他のヒーロー達が気付くまで凡そあと数分弱。外の異変が片付くまで、僕達でなんとか時間を稼がなくちゃ!」
「あのNo.1が数分も手間取るとは思えねぇがな」
今こうしている間にも、現地のヒーローやグラントリノ達、何よりNo.1ヒーローが街中に現れた脳無達の対処に当たっている。脳無達を鎮圧するまでそう時間は掛からない事だろう。
そうなれば、ステインを捕まえに来たと豪語しているゴジータが、必ず自分達を見付けに来る筈だ。飯田を見付けるまで共に行動していた緑谷と爆豪が予め決めていた戦いの流れ。
爆豪はヒーロー殺しに勝つ気でいるが、緑谷としてもそのくらいの気概でなければステインを止められないと思っている。緑谷は後ろの二人を守る為に、爆豪は目の前の敵を勝つ為に、それぞれ動きやすい構えを取る。
「─────ゴジータ?」
しかし、そんな二人の覚悟がブレる程の悪寒が全身を駆け巡る。目の前のステインの紅く光る眼が、目の前の二人……ではなく、この街の何処かにいるNo.1に向けられている眼が、どうしようもなく狂っているからだ。
「来て、いるのか? ゴジータが? あの、No.1が、オールマイトすら認めた超ヒーローが……? 俺を捕まえる為に? ─────くは、クハハハハハハ、クヒャハハハハハハ!!」
嗤う。狂気的に、狂喜的に、或いは歓喜に。爆豪の口から溢れるゴジータの単語を拾ったステインは、その口元を三日月に歪め、ユラリと体を揺らしながら爆豪に問う。
「爆発小僧、貴様の言葉……はぁ、嘘はないな?」
「あぁ? 当たり前だわ。そもそもゴジータはテメェを捕まえる為に此処に来てんだよ」
突然笑いだすステインに軽く怯んだ爆豪だが、そんな自分を悟られない為に強気の姿勢は崩さない。だが、今のステインにはそんな事などどうでも良かった。
「そうか。はぁ……あのゴジータが俺を捕まえに来たか。ならば────」
「「ッ!?」」
「此方から出迎えねば、無作法と言うものだな」
走る……ではなく、疾る。風というにはおぞましく、恐ろしい程に鋭い疾走が二人の間を駆け抜ける。反応出来なかった。これ迄とは明らかに異なるステインの動きに緑谷も爆豪も僅かな挙動しか認識出来なかった。
二人の間を抜けて、飯田達の方へ向かう。飯田は微かに動ける体を使って、未だに動けないヒーローを庇うように覆い被さる。緑谷の悲痛な叫びが聞こえてくる。このままでは飯田が危ないと緑谷が一瞬だけ
無視したのだ。現在のヒーロー社会に憤り、ヒーロー達に強い敵意を抱いているヒーロー殺しが、無防備な飯田と庇われているヒーローを無視し、路地裏から出ようとしている。
No.1ヒーローの名前が出てから、明らかに動きが変わったヒーロー殺しに緑谷が戸惑う一方、爆豪勝己の行動はブレなかった。
「待てやイカれ野郎!」
爆発。反応ではなく、反射的に個性を使い、目の前のヴィランを倒す為に爆豪はステインへ迫る。もっと速く、もっと疾くと、鈍足な自分に苛立ちながら爆豪勝己は己の肉体を加速させる。
このヴィランは逃がしてはならない。逃がしてしまえば、また多くのヒーローが犠牲になる。その事を理解し、それを止めるのは今の自分達しかいない。
一瞬、ほんの一瞬だけ爆豪の脳裏にNo.1ヒーローの背中がよぎる。あぁ、確かに彼ならば凶悪なヒーロー殺しだって難なく捕まえてしまえる事だろう。
けれど………。
(ふざけんな! 俺は、No.1ヒーローを超えるヒーローになるって決めてンだ!! 頼ってばかりで、守られてばかりで………いられるかよォッ!!)
それは違うと、爆豪勝己は否定する。今此処にいるのが自分達しかいないのなら、自分達でどうにかするしかない。そう自分に言い続けている爆豪はこの時、無意識ながら一つの変化を身に付けた。
爆発の質が変わった。これ迄の様な広がる爆発ではなく、一つ一つが収束されていくかの様な感覚。発煙と煙幕を撒き散らすだけだった己の個性が、この一瞬だけ光り輝いている様に見えた。
(かっちゃん!?)
その光景に緑谷は驚愕する。幼馴染みの個性が、これ迄とは明らかに違う事に。そして、爆豪がステインに追い付こうとした時……。
「────邪魔だ」
「ッ!?」
「かっちゃぁぁんッ!!」
回転し、振り抜かれる凶刃が爆豪の肩を切り裂いた。鮮血が舞い、地に倒れ伏す爆豪に感情の爆発した緑谷が殴り掛かる。
しかし、そんな緑谷を嘲笑うように緑谷もまたステインの刃によって切り捨てられる。交差する視線、怒りに満ちた緑谷に対してステインは何処か冷めた眼で倒れる二人を見下ろす。
「級友が斬られて我を見失う、か。人としては問題ないが、ヒーローとしてなら些か減点だぞ学生。ヒーローたるモノ、頭ではなく心を熱くさせろ」
「こ、こん……のぉ!!」
「チィッ………!舐めんなよ、この程度で俺が止められるかァッ!」
斬られてはいるものの、二人とも傷の深さは思った程ではない。焼けるような熱さこそあるものの、骨は斬られていないことを察した緑谷と爆豪は負けられないと意思を強めて立ち上がろうとする。
そんな、若くありながらそこらのヒーローよりガッツのある二人に、ステインは内心で感心する。だが、彼の目的が別にある以上、既に二人には用はない。
ベロッ、両手に握られるナイフにそれぞれこびりついた血をステインが舐め取ると、二人の体は突然石の様に硬直する。
「な、ンだと!?」
「体が!?」
「お前達は筋が良い。まだまだ青く、未熟な点が多々あるが、それでもそこいらの偽物達より余程素質がある。そこは素直に認めよう」
「く、ソ……がァッ!!」
「だからこそ、此処までだ」
「そうだな。此処までだ」
「────ッ!?」
突然聞こえてきた声。爆豪でも緑谷でも飯田でもない別の誰かの声が、今度はステインの体を硬直させる。
ドクンと、波打つ心臓の音が跳ね上がる。汗が噴き出し、舌が渇いていく。極度の緊張状態に達しながらも、それでも平静を装うステインはゆっくりと声のした方へ振り返る。
「お前は……エンデヴァーか? それとも、オールマイトか?」
あえての問い。建物の影で輪郭しか見えないヒーローに、ステインは問いを投げ掛ける。すると、影の中からフッと笑みが溢れるのをステインは確かに聞いた。
「俺はエンデヴァーでもオールマイトでもない。───俺は貴様を倒す者だ」
暗闇から現れる黒髪黒目の超ヒーローに、ステインの全身が震える。それは畏怖か歓喜か、その心境はステイン本人にしか分からない。
Q.ゴジータと共に一時期寝食を共にしたオールマイト、一年間相棒として雇い、すっかりゴジータの背中に抱き付く癖が付いたミルコ。
ゴジータの過去を知り、ゴジータのオリジンに深く関わっていそうな某お姉ちゃん。これ等の関係を万が一知ったMt.レディの心境を述べよ。
A.
「──────あ?」(感情崩壊)
「さ、更に向こうへ!」
「Plus Ultra!!」
「─────あぁ?」(精神崩壊)