超なオイラのヒーロー記録【完結】   作:アゴン

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第二部七章が遂に公開。

そんな訳で初投稿です。


記録25

 

 

 

「さて、これで粗方片付いたか。御老人、協力感謝する」

 

「あぁ、即興のチームアップにしては良い連携だった」

 

 突如、平和な保須市に現れた無数の脳無。無造作に暴れ、一体一体が並みのヒーローでは分が悪い凶悪な怪物の群れは、偶然騒動に居合わせたNo.3ヒーローと、グラントリノの連携によって鎮圧しつつあった。

 

自慢の火力で脳無を灼くエンデヴァーと、高機動で三次元な動きをするグラントリノに翻弄され、次々と倒れていく脳無達。その圧倒的な強さは正しくトップヒーローと周囲のヒーロー達は感嘆の声を漏らしていく。

 

そんな周囲の反応に対し、エンデヴァーは少し不機嫌だった。本当は自分の活躍を息子に見て欲しかったのに、その息子が此処にはいない。何か緊急の用件が出来たと言っていたが、それは自分の活躍を見るのを後回しにする程なのかと、エンデヴァーは人知れず凹んだ。

 

「では、俺は息子────焦凍の行方を探さねばならん。御老人はどうする?」

 

「あぁ、俺も預かっている奴がいてな。そいつと合流するつもりだ」

 

 此処での騒動が片付いたのなら、二人は次の目的に即座に動こうとする。エンデヴァーは息子を、グラントリノは弟子の弟子を、それぞれ探しに向かおうとした時。

 

黄金の炎が、二人の頭上を通過する。

 

「「ッ!?」」

 

圧倒的な存在感、その光に見覚えのあるエンデヴァーは黄金の炎を纏うそれを目を見開いて睨んでいる。何故奴までもが此処に? そう不思議に思うエンデヴァーの足が止まると、背後の方から声が聞こえてきた。

 

「くっそ、重たいなコイツら。一体どんだけいるんだ?」

 

「知らねぇよ! 兎に角、早い所他のヒーロー達を呼んで警戒態勢を敷かねぇと、幾らゴジータが戦意を折ったからって、いつまでも大人しくしている保証はねぇぞ!」

 

 複数のヒーロー達の呻き声。何事かと思い振り返ると、今度はエンデヴァーだけでなくグラントリノまで目を見開いた。

 

脳無。エンデヴァーとグラントリノで連携して打ち倒した数よりも多くの脳無が巨大な台車に積み上げられている。その中には明らかにこれ迄のタイプとは異なる黒くおぞましい様相の脳無が四体、その姿も確認されその全てが打ちのめされている。

 

10や20では利かない脳無の数。自分達が倒したモノより一回り以上多い数の脳無に、エンデヴァーは愕然としながら歩み寄る。

 

「これを……全てゴジータが?」

 

「あ、え、エンデヴァー!? えっと、その……はい。例の金髪碧眼となったゴジータが暴れたらしく、気付いた時には……こうなってました」

 

 近くで見ていた筈なのに、ゴジータの動きがまるで見えなかった。瞬く間にヴィラン達は倒され、気付いた時にはこんな風に何処からか持ってきた台車に積み上げ、あとは宜しくと去ってしまったのだ。

 

そう言葉を濁しながら説明するヒーローの一人に、エンデヴァーは拳を握り締めて俯く。

 

(くそ、此処でも、ここでも俺は……!!)

 

 突き付けられる力の差。自分が幾ら努力を重ねても決して埋まらない深くて大きな溝、あれだけ足掻いても埋まらなかった溝を、たった一人の若造が飛び越えていく。

 

悔しい。悔しくて悔しくて堪らないと、沸き上がる悔しさと醜い嫉妬、自身の心の衝動を、歯を喰い縛って堪え忍ぶ。

 

自分を、そして嘗てのNo.1すらも飛び越えていく超新星。奴が次に何をするつもりなのかと、見届ける意味も含めて、エンデヴァーは黄金の炎の軌跡を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴジータ……ハァ……No.1……ヒーロー……」

 

 月明かりの下、照らされて現れる現ヒーロー界最強のヒーロー。ゴジータを前にしてヒーロー殺しであるステインは唖然となって立ち尽くす。

 

ダランと力なく立ち尽くすその姿は、凶悪なヴィランには似合わない程に無気力で、隙だらけだった。噂のヒーロー殺しがまさかの無防備を晒している事に怪訝に思うゴジータは、表情には出さずにステインを見据える。

 

「さて、この状況に色々と聞きたい事はあるが、その前に一つ聞いておくとしよう。……お前がヒーロー殺し、ステインで間違いないか?」

 

「ッ!」

 

 スッと、目を細めて訊ねてくるゴジータにステインは全身から汗が吹き出るのを感じた。圧倒的威圧感、数々のヴィランを震え上がらせてきた迫力。成る程これは凄まじいと、生で受けた体験にステインは冷や汗を流しながら笑みを浮かべた。

 

「ゴジータ。オールマイトを超え、オールマイトが認めた次代のNo.1ヒーロー。俺は、お前に殺されるなら……本望だ!!」

 

両手の刃の柄に力を込めて握り締める。低く身構えて駆けるその姿は地上を飛ぶ黒い鳥。先程よりも速いステインに緑谷達は驚愕に目を開く。

 

瞬く間にゴジータとの間合いを詰め、その刃を振るう。避ける余地も防ぐ暇もない一太刀を前に、ゴジータはただ呆然と立ち尽くす……様に見えた。

 

空を切る。何の手応えもなく、ただ虚空を切り裂く刃にステインは一瞬理解が及ばなかった。何故自分は何もないところを斬っている? 意味の分からない現象を前にヒーロー殺しの思考が鈍った時───。

 

「よぉ爆豪、ちょっと目を離した隙に随分とやられたなぁ」

 

「ッ!?」

 

背後からの声に、ステインは愕然としながら振り返る。其処には先程自分が切り捨てたヒーローの卵達、己の個性によって身動きを封じられている少年達のそばに座り込む形でゴジータが其処にいた。

 

何も見えなかった。避ける素振りも、その挙動も、何もかもがステインの知覚からすり抜け、感知出来なかった。速い、というより巧い。多くのヒーローを倒してきたステイン。対人技能をこれでもかと培ってきたこの男でさえ、ゴジータの動きはまるで見えなかった。

 

唖然とするステイン。しかしその表情は驚愕から歓喜へと移り変わる。これがNo.1ヒーローゴジータの強さなのだと、ステインは恐ろしい笑みを浮かべて震える。

 

「うわぁ、結構バッサリいかれてんじゃん。幸い骨とか内臓には達してないみたいだが………大丈夫か?」

 

「………うるっせぇ! 俺は、俺はまだ戦える! 俺は、負けてねぇ……!」

 

 ステインに斬られ血を流す爆豪だが、その瞳は全く変わらず闘志を燃やし続けている。斬られた事に対する恐怖より、ヴィランにしてやられた自分に怒りを抱いている爆豪。ヒーロー殺しという本物のヴィランと遭遇しても決して折れないその心に、ゴジータは笑みを浮かべた。

 

「ならいい。お前自身が敗けを認めていないのなら、お前はまだ敗けちゃいない。たとえ膝が折れて地に這いつくばっても、お前の心は折れちゃいない」

 

「………」

 

「だから、今はまだ其処で休んでいろ。緑谷、お前もな。たとえ体が動けたとしても、今は少しだけ休んでいろ」

 

「ゴジータ、でも!」

 

「ガキが体を張ったんだ。なら、今度は大人である俺の番だろ?」

 

 動けない爆豪の頭を撫でて、ゴジータは立ち上がる。その際に動けるようになった緑谷が加勢しようとするが、ゴジータは予め見越していた様に休んでいろと釘を刺す。

 

立ち上がり、爆豪達を庇うように前に立つゴジータは改めてステインへと向き直る。

 

「さて、状況的に考えて間違いないだろうが……改めて訊ねよう。お前がヒーロー殺し、ステインで間違いないな?」

 

「………ハァ、そうだ。俺がステインだ。お前が探しているヒーロー殺しは、俺で間違いない」

 

「成る程。じゃあ、一応理由を聞いておこうか? 何でこんな事をする? ヒーロー殺し、ヴィランを殺し、それでお前は世間に何を問う」

 

「真の、ヒーロー社会。ヒーローの存在、その是非を、今一度世間に問わんが為」

 

 理由を訊ねるゴジータの言葉に、ステインはあるがままに答える。今の社会は間違っていると。ヒーローに溢れ、偽善ばかりが栄えるこの時代にヒーローとしての本質を訴えるのだと、血走った目でステインは語る。

 

「ヒーローとは、偉業を成し遂げた者にのみ許された称号! 自己犠牲の果てに許されたモノ! 地位や名声、利益等に意地汚い贋物達が称していいモノでは………断じてない!」

 

ヒーローとは人を助け、自己を厭わずに戦う英雄達の事。個性社会黎明期、嘗てヒーローは見返りなく戦い、そして今の立場を築いていった。

 

しかし、それこそがステインには許せなかった。ヒーローとは誰かの為に戦い、傷付いても尚誰かを救う英雄の事である。

 

今のヒーロー社会は誰かを助けることを商売として消費し、ヴィランを倒すことをショーの様に民衆の娯楽の様にしているではないかと、ステインは吐き捨てた。ヒーローとは社会的資格を持つ公務員ではない、誰かを助け、命懸けで綺麗事を実行する者達の総称である。

 

そう語るステインの目は、狂気を孕んでいながらも真摯で、だからこそゴジータもまた真剣に聞いていた。目を細め、目の前のヒーロー像を語るステイン。そんな彼をゴジータは静かに見据えていた。

 

「それが、お前の言い分か?」

 

「あぁそうだ。これが俺の理由だ。誰も言葉だけでは決して聞き入れない。言葉だけではダメだと言うのなら、行動で示すしかない。たとえ、それが血を流す事になるのだとしても」

 

「…………ステイン。お前、もしかしたら以前はヒーローを目指してたんじゃないのか?」

 

「ッ!?」

 

「ステインが………ヒーローを?」

 

 今のヒーロー社会について憤りを感じながら語るステインにゴジータは何となく彼もまたヒーローに憧れた一人なのではないかと推測した。結果はビンゴ、目を見開いてあからさまに動揺するステインに、爆豪や緑谷達は素直に驚きを露にしている。

 

「そんなにヒーローについて熱く語れるんだ。ならヒーローについて憧れていたとしても不思議じゃない。けれど、お前はその道から自分から外れた。今のヒーロー社会が、自分の思うモノとは違っていたから………違うか?」

 

「……………」

 

「成る程、客観的に見ればお前の言うことも一理あるんだろう。名声や地位、そこから発生する利益。ヒーローという存在を職業にまで落とし込んでしまった今の社会そのものをお前は嫌悪しているんだな」

 

ステインの主張し、求めているモノはゴジータとしても理解できなくはないモノだった。今のヒーロー社会は何処か歪で、まるでヒーローの活躍をショーか何かと勘違いしている民衆は、ゴジータから見ても時折気持ち悪く見えた。

 

ステインの主張もその事を含めているのだとしたら、ゴジータもある程度ではあるものの、理解出来た。

 

「あぁ、そうだ。その通りだとも、だからこそ俺は────!」

 

「それでも、間違っているのはお前の方だ」

 

 けれど、それでもゴジータはステインの言葉を鵜呑みにはしない。確かにステインの言葉には真実味があり、今のヒーロー社会の歪さを突いている。

 

ステインの言葉は奴が握り締めている刃同様に鋭かったが………肝心の説得力が欠けていた。

 

「ヒーロー殺しステイン、お前が今のヒーロー社会を本気で変えたいと言うのなら、先ずはお前自身がそうなるべきだった。言葉だけでなく、その姿勢、その在り方で人々を、ヒーローの意識を変えさせるべきだった」

 

「……な、なにを……」

 

「だが、お前は諦めた。言葉では届かないと諦め、他者の血を流すという最も簡単な道を選んだ」

 

「違う!! 俺は、汚い泥になるつもりなどなかった! 今の醜悪で、汚泥のごとき贋物のヒーローにはなりたくなかった。だから……!」

 

「泥にまみれる覚悟もない奴が、ヒーローの真贋を語るな」

 

「ッ!!!」

 

 バッサリと、ゴジータはステインの理論を正面から両断。泥にまみれるのではなく、血を流す道を選んだステインを間違いだと否定するゴジータにステインは息を呑んで後退る。

 

「けれど、どれだけ言葉を重ねた所でお前が立ち止まるつもりがないのなら………」

 

瞬間、ゴジータの体から炎が舞い上がる。黄金に輝き、柱となって夜の空を突く黄金の炎。金髪碧眼の超ヒーロー、ゴジータ。

 

ゴジータがNo.1ヒーローとされる由縁。その黄金の炎を纏う姿が、どうしようもなく希望の光に見えた。誰かが付けたゴジータの異名、【平和の象徴】と呼ばれるオールマイトと対となる【希望の象徴】。強く鋭い碧眼の瞳に射ぬかれたステインは自身の全身に雷の如く衝撃が駆け巡っていった。

 

「俺が止めてやる。掛かってこいよ、ステイン!」

 

「お、おぉ………おおぉぉぉぉッ!!」

 

 駆ける。ゴジータに自身の信念を否定され、ヴィランとして本気で相手をしてくれるNo.1ヒーローに、最早ステインは口にする言葉などなかった。あるのは、失意と喜びの狭間で揺れるグチャグチャとなった感情だけ。

 

理解はされたが受け入れられず、それでも進むしかないステインは、全霊を懸けて目の前のNo.1(最強)に挑む。両手に握り締められた刃を以て、再びゴジータへ肉薄する。

 

「ゴジータァァァッ!!」

 

繰り出される無数の斬撃、爆豪達には軌道しか追えない速く鋭い凶刃は、しかしてゴジータに呆気なく潰される。

 

ゴジータの手が一瞬だけぶれると、パパンとステインが手にしていた二振りの刃は弾け飛ぶ。粉微塵に吹き飛んだ己の得物にステインは一瞬目を丸くさせるが、それでこそだと笑みを深くさせ、後ろへ跳躍。

 

「しまった、あれは!」

 

 飯田が叫ぶ。ステインが着地した場所は奴が一番の得物として振るい、多くのヒーロー達を血に沈めてきた長刀のそば。自身が最も得意とする得物を手にしたステインは静かに構えてゴジータを見据える。

 

「ハァ、ゴジータ!お前は言ったな、俺の信念は間違っていると!ならば聞かせてくれ……お前の思うヒーローは、お前の願うヒーローとは、一体なんだ?」

 

「立ち上がる者。たとえ泥にまみれ、血で汚れ、挫折し、屈しても、それでも立ち上がれる勇気ある者。仮令(たとえ)みっともなく、無様と蔑まれようと、立ち上がって自分の足で前に進める者。それこそがヒーローだと俺は信じてる」

 

「────ハァ、成る程。お前にとってヒーローとは本物も贋物もない、立ち上がれる全ての者をヒーローだと、そう言うのだな……?」

 

「ありきたりだと思うか?」

 

 改めて訊ねるゴジータのヒーロー像、返ってきた返答にステインは嗤うことはなかった。何故なら、彼もまたヒーローに憧れた人間の一人なのだから……。

 

「否定はしない……だが、それでも俺はこの道を選んだ。ならば、最期まで突き進むのみ………!」

 

再び、ステインは走る。低く、鋭く、何処までも一直線に……鈍く光る刀剣を手に、ヒーロー殺しステインは駆ける。

 

小細工も殺人技術もないただの突進。ただ心臓目掛けてひた走るステインにゴジータは拳を作り力を込める。

 

「ゴジータァァァァッ!!」

 

「────じゃあな」

 

 狂気と狂喜に彩られ、突き進む血黒い怪物に向けてゴジータは拳を振り抜いた。最後に溢した言葉は憐憫か同情か、残念がるゴジータの言葉はしかしてステインに聞こえる事はなく。

 

(はぁ、やはりゴジータ………お前こそが、希望の光………)

 

眼前に迫る光を前に、ステインは見失うことなく突き進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、事態を収拾させたヒーロー達も駆け付け、無事に緑谷達は保護された。緑谷も爆豪も飯田も、今回の件には警察から厳重に注意をされ、飯田も世話になったマニュアルに対し深く謝罪し、今回の処罰を甘んじて受け入れた。

 

結局、ヒーロー殺しステインはゴジータが倒し捕まえたと報じられ、それが事実であるが故に緑谷達も強く反発する事はなかった。

 

ただ一つ不可解だったのは確保された時のステインだった。他のヒーロー達が駆け付ける頃には決着が付いており、全てが終わった後だった。

 

 自ら信じて疑わない信念を否定され、得物を破壊され、一撃でノされたヒーロー殺し。

 

胸元にはゴジータの拳の痕がくっきりと残っており、とても痛々しく見えるというのに、白目を剥いて仰向けに倒れるステインの表情は、何処か満ち足りた………幸せそうな表情をしていたという。

 

 

 

 





Q.自分の信念も何もかもが否定されたのに、ヴィランとして受け止められ、記念にゴジータから一生消えないグーパンの痕を刻まれたステインの気持ちを述べよ。

A.ステイン「わァ………ア………」(感涙)
 Mt.レディ「わァ………ア………」(血涙)


「なんか増えてる!?」

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