レディ・ナガンの出番を待ち望んでいる自分。
そんな訳で初投稿です。
『其処で私も焦っちゃってさ、昔学校で習った数学とか物理の授業を思い出して、そのお陰で何とか乗り切った訳さ!』
『なー、当時は支点力点作用点とか日常生活で使う機会ねぇだろってタカを括ってたけど、意外とバカに出来ないよな。タンカーを持ち上げた時とか、真っ先に支えるべき支点は何処だって探したもの』
『さ、流石は超パワー個性の二人。話の内容の規模も桁違いです! それでは、同じ増強系統の個性の子達に何かアドバイスをお願いします』
『勉強はしておいた方がいいかな!』
『重いモノを運ぶ時は、必ず二人でする事! タンカーとか、デビューしたての頃は絶対に一人で持ち上げようとすんなよ!』
『それ出来るのアンタらだけだよ!?』
テレビに映る自分自身、コメディな会話をしている自分の姿を目の当たりにしたゴジータは、不思議な気分で眺めていた。
先の事件から数日、未だに活動自粛の期間が抜けていないゴジータは久し振りに自分の育った施設、児童養護施設“星の都”へ里帰りをしていた。
テレビに写っているのは先日相棒と一緒にトーク番組に出演した時の事。この頃になるとテレビに出るのも慣れたもので、然程どもらずに済んだが、流石にオールマイトの様な小粋なジョークとかは言い出せず、ひたすら過去の苦労話とかをする事となった。
幸いそれで受けが良かったらしく、ディレクターや他のスタッフ達からも好評で、本日の今日、無事に放映される事になった。
「しっかし、不思議な気分だなぁ。テレビの中で俺が喋ってらぁ」
「甚兄、人前に出るの苦手だったもんな。良くこんな公の場で人前に出られたなと思うよ」
「良くみると、手とか脚とか小刻みに震えている所あるしね」
「え、マジで? うわ、本当だ」
施設の職員達が使うような所で、久し振りの団欒を過ごす甚田。相変わらず鋭い兄妹の指摘にゲンナリするも、安心できる空気によってその表情は何処までも安堵に満ちていた。
そんな甚田を後ろで見つめる星の都の施設長である姫野葵は、そんな三人の様子を慈愛に満ちた表情で見守っている。
「あーもう、俺の恥ずかしい粗探しはもう勘弁してくれよ。顔から火が出そうだ。俺の事よりもお前達の近況を聞かせてくれよ」
「とは言っても、俺も特別大した話はないなぁ。精々他国の生徒達との交流会があったってだけさ」
「え、なにそれ凄そう。因みに何処のお国の人?」
「イタリアだよ。いやー、俺あっちの言葉あんまり話せないからさ、交流すると決まった時はマジ焦った~。生徒会の皆がいなければ余計な恥を搔くところだった」
「おにいもそろそろイタリア語くらい覚えようよ。因みに、私は最近フランス語をマスターしました」
「………俺達の妹がどんどん国際化していく件について」
「いや、アンタそもそもリアルタイムで直に現地に行けるだろ」
自慢の弟と妹が顔を合わせる度に立派になっていく。それが自慢であり、甚田として数少ない誇りであった。別にヒーローになったからといって、人としての幸せを手放すつもりは無いが、自分と違って頭が良い二人が頑張って成長していく姿は年長者として嬉しく思えた。
「でも、あの甚兄が今ではNo.1ヒーローとはなぁ。まぁ、甚兄の凄さは昔から分かっていたから其処まで驚かないけど」
「お陰で、甚兄さんの給料も物凄く増えて、施設の資金も無事に潤うことになりました」
「恵ちゃん、ちょっと生々しくない?」
「でも、実際凄く助かってるよ。お陰で子供達もひもじい思いをさせずに済んでるし、施設も新しく大きいのが建てられたしね」
「まぁ、No.1になったお陰か金回りだけは不自由しなくなったな。その分、色々と重圧がやべーけど」
恵ではないが、実際生々しい話であろうとも星の都の財政はゴジータの活躍によって賄われ、そして潤っている。元々災害や人災に於ける人命救助を優先して活動していたが、ヴィラン退治の件数も相まってゴジータの年収はちょっと大声では言えない程になっていた。
そんな自分の努力で子供達が笑顔でいられる。目立つことが苦手な甚田だが、その笑顔を見れただけで報われた気がした。
「まぁ、あれだけ自分を追い詰めていたんだから、これくらいやって貰わないと困るんだけどね」
「ちょ、恵ちゃん。その話は触れない約束じゃないか」
「だって仕方ないじゃん。あんだけ先生を泣かしておいて、雄英の先生達にまで迷惑を掛けたんだから」
「ははは、その節は本当にご迷惑をおかけしました」
腕を組み、頬を膨らませてそっぽを向く妹に御幸は困惑し、甚田は素直に頭を下げる。
「でも、本当に無事で良かったわ。甚田が無事に帰ってきてくれて、それだけで私は満足よ」
「先生………」
「もー、先生は甘すぎ」
「恵ちゃんも、お兄ちゃんの事が心配なのは分かるけど、あまり苛めちゃだめよ? ほら、前に欲しがってたサインも結局そうやって素直になれなくて後悔してたんだから」
「ちょ!? 先生!?」
「あれ? そうだったの? 前に書こうとしたら滅茶苦茶拒否られたんだけど?」
「そうなんだけどね、あれから部屋で塞ぎ込んじゃって大変だったのよ? 学校にはちゃんと行ってたし、ご飯も食べてたからあまり心配しなかったけど……」
「~~~~~ッ!!」
顔を真っ赤にして、その場から逃げるように自室へ逃げ込んでいく恵。妹の久しく見せなかった激情の表情に甚田は戸惑っていると、横では恩師である葵がオロオロしていた。
「ど、どうしましょう。私また怒らせる様なことを言っちゃったかしら?」
「まぁ、難しい年頃だからな。そういう事もあるんだろう」
「いや、うん。それだけじゃあないと思うんだけどね」
天然気質な葵と乙女心を理解できない甚田、二人の悪意なきやり取りの犠牲になった実妹の不憫さを嘆きながら、それでも久し振りの話は進んでいく。
「御幸の方はどうなんだ? 恵もそうだが金持ちの通う学校だし、何か色々と言われたりしてないか?」
「いや、今は特にそう言うことはないかな。最初の頃は編入生という事で色々と煽ったり弄ったりしてくる奴がいたけれど、全国模試で一位になったり、生徒会長になったらピッタリと止んだよ」
「御幸は昔から頭が良いからな。生徒会長になれたのも、お前の人望あってのモノだ。聞けば、生徒会の子達も仲良さそうだしな」
「あぁ、アイツ等は俺にとって自慢の仲間だよ。まぁ、一人困った奴もいるけど………」
ひきつった笑みを浮かべる御幸の脳裏に『絡まった恋愛現場も、このラブ探偵リカにお任せぇ!』なんて嘯く厄介な生徒会書記が思い浮かぶ。
「うーん、やっぱし何度聞いても面白そうな
「パニックが起きるから止めてくれ」
以前から聞かされる御幸の生徒会の面々、いずれも楽しそうな話でいつか弟分が世話になっている事も含めて一度話をしてみたかったが、流石にNo.1ヒーローがアポ無しに訪れるには敷居が高かった。
バッサリと切り捨てられ、ちぇーと口を尖らせる義兄に御幸はやれやれと肩を竦めた。
「それに、将来の事なんてもう決めているんだ。俺は、甚兄の事務所に入る。雑務でも何でも確り手伝って、少しでも甚兄を支えてやりたい」
「御幸………」
「御幸君……」
先程とは変わって、真剣な表情でそう語り出す御幸に甚田は驚いた。葵の方はあまり驚いていない様子から、どうやらこの話自体は前から聞いていたのだろう。
実際に、御幸の処理能力は頼もしいし、実際にこの施設の経営にも大きく携わっている。彼が自分の事務所に入れば確かに助かるし、今の事務員達の負担も軽くなることだろう。
しかし……。
「御幸、お前の気持ちは大いにありがたいが………俺は反対だ」
「どうしてだ? 弟が兄貴の役に立ちたいだけなのに?」
「役に立つ、立ちたいの話じゃない。お前の本当にしたいことの話だ。御幸、お前の人生はお前だけのモノ、決して誰かに使われる為にあるんじゃないんだ」
「これは俺の意思だよ」
「だとしても、自分の将来は即席で決める事じゃあない。焦るな、御幸。お前はきっと自分の本当にやりたいことを見付けられる筈だ」
「──────」
甚田に諭され、何も言えなくなった御幸は俯いたまま部屋を出ていき、自室へ戻っていく。見るからに落ち込んでいる弟の背中を見て、言いすぎたか? そう頭を掻く甚田に葵はクスクスと微笑みを浮かべている。
「フフフ、お兄ちゃんは大変ね」
「全く、二人とも中々に面倒な性格になっちまって。一体誰の影響かね?」
「さぁ? ………でも、きっと大丈夫よ。二人とも賢いし、何より優しい子達だもの」
「そうだといいんだけどなぁ」
「私としては二人よりも貴方の方が心配よ。ヒーローのお仕事、大丈夫? この間も例のヒーロー殺しと戦ったんでしょ?」
「相変わらず心配性だなぁ先生は。俺、今は天下無敵のNo.1ヒーローよ?」
「No.1ヒーローだろうと、私にとって大事で大切な可愛い子供なの。それに………子供を心配に思わない親なんているもんですか」
諭すように言いながら、甚田の頭に手をのばす。体格的に届かないから、甚田が進んで屈むが、それを甚田自身は可笑しいとは思わない。頭に触れる手、その手から伝わる優しい温もりに甚田は改めて自分が帰ってきた事を実感するのだった。
「あー! ゴジータだ!! 本当に帰ってきたんだ!!」
「ゴジータ! いつ帰ってきたの!? お土産は!?」
「あの、また、お空、飛んで欲しい、な」
そんな時だ。昼寝から目を覚ました子供達が一斉に職員の部屋へと雪崩れ込んでくる。一気に賑やかになる施設の空気、立ち上がった甚田は葵に視線で訊ねると、察した葵が微笑んで笑みを浮かべた。
「よーし、このゴジータが久し振りに相手をしてやる。外に出ろー! 遊ぶぞー!」
“オー!” とじゃれついてくる子供達に全く動じず、ゴジータは久し振りの子供達との一時を楽しむのだった。
◇
そうして子供達との一時も終わり、夕食も食べ終えて夜の帳がスッカリ降りた頃。用意された部屋から抜け出した甚田は一人でとある場所へ向かう。施設を出て、敷地内を歩くこと少し、やってきたのはとある建物。
それは甚田が最初に自己を認識し、ゴジータとして生きていく事を決めた場所、旧星の都である。
今はもう使われなくなって久しいが………手入れはされている様で中は意外と綺麗な形で保たれていた。電気も通っているし、恐らくは葵達の手によるモノだろう、相変わらず真面目だと笑みを浮かべつつ、ゴジータは一人奥へと進む。
軈て通路の突き当たりまで差し掛かると、其処にはこれ迄の内装とは場違い感のある無機質な扉が不気味に佇んでいた。さながら伏魔殿への出入口だと、我ながら冗談にならない単語を思い浮かべながら甚田は扉に触れた。
触れた所からカシュンと機械的な音を立てて、現れたタッチパネルに数字を入力する。変更されていないならこれで開く筈だと、然程期待しないでいると………呆気なく扉は開かれ、扉の先には地下へと続く階段が伸びていた。
カツンと足音を立てながら下へ降りる事数分。漸く開けた所に出ると、その光景に甚田─────ゴジータは苦笑いを浮かべた。
「流石に、其処まで変わっちゃいねぇか」
床、壁、天井。その空間の至る所にこびりついている夥しい量の血の跡。惨憺たる光景に乾いた笑みしか浮かべられない甚田だが、その胸中に羞恥心の他に同時に懐かしさも込み上げ始めていた。
「やっぱり此処にいた」
「先生か」
「もう、急に外へ出ていくから驚いちゃったわよ」
「ははは、ゴメンゴメン。つい、昔の事を思い出しちゃってな」
不満そうに頬を膨らませる恩師に、自然と甚田から笑みが溢れた。
「もしかして、此処に来るために帰省したの?」
「まさか。天下のNo.1がホームシックだなんて知られたら大きなイメージダウンだっての。………ちょっと、俺の
隣に来る恩師を拒むことなく受け入れるゴジータだが、鍛練場を見つめるその表情は硬く、少し暗い。
此処に立てば、嫌でも思い出す。嘗て自分が抱き、夢想し、突き進んだ日々。
『お願い、もう止めて!! これ以上無理したら……甚田、死んじゃうよぉ』
『大丈夫さ先生。俺は、ゴジータは負けない。死なないんだ。だから………安心して笑ってくれよ』
血塗れになり、腕や手足を折りながら鍛練を続けた日々。泣きながら止めてくる恩師を、笑いながら大丈夫と言い切った過去の自分は………我ながら狂気的に思える。
『さぁ、いよいよ重力負荷1000倍の大台に突入だ。見ててくれよ先生、アンタのお陰で俺はもっと強く………ゴジータに近付ける』
『ダメ、ダメよ甚田! ダメェェェッ!!』
それでも、なりたい夢。叶えなくてはならない夢を叶える為に、後藤甚田は進むしかなかった。
「あの時の私は何も出来ず泣いている事しか出来なかった。雄英に入学を勧めたのだって、ヒーロー志望の子供達に囲まれれば貴方が変われると思ったから」
「………まぁ、俺自身も修行の場が変わる程度の認識しかなかったからなぁ」
実際、実技での甚田の成績は雄英始まって以来の記録を幾つも打ち立てており、その記録は未だに更新されてはいない。尤も、その殆どはゴジータのやらかしの記録として認識されているが………。
「でも、雄英に行って、色んな人達と出会って………貴方は変わった。うぅん、元の甚田に戻ってくれた」
雄英は、ただ生徒に試練を与えるだけの場所ではなく、子供にヒーローとしての
「ただ肩の力を抜いただけさ。俺がゴジータを目指しているのは依然として変わらないし、変えるつもりはない。けど、それを踏まえた上で俺らしく生きていく事を選んだだけさ」
「うん。それでいいと思うよ」
多くの人達と繋がり、関わった学生時代。接する多くの人達が決して自分を見放さなかった。ドライアイの教師も、口喧しい教師も、色仕掛けの達人教師も、小さなネズミの校長も、ヒーローとして、人として、決して理解されない道を進む自分を、見放す事はしなかった。
力を得ることだけに固執し、その結果一時期は荒み、心的要因で個性が使えなくなっても、クラスの連中は変わらず接してくれた………今思えば、自分は助けられてばかりいる。
その結果、今の自分がいる。なりたい自分を見付け、進みたい道を進む為に。
だから………。
「先生、俺は強くなるよ。ゴジータとして、後藤甚田として、その両方を見失う事なく」
改めて誓う。自分の道は、自分で決める。ゴジータの力に翻弄される事なく、この世界に生きる後藤甚田として、この力と共に生きていく。
それが、自分なりの恩返しだと思うから。
「うん。────甚田」
「ん?」
「頑張れ」
「───ああ」
笑みを浮かべ、手を握ってくる恩師の手に甚田も力強く握り返す。温かく血の通った人の暖かさ、この温もりに救われたことを忘れる事なく、甚田の休日は過ぎていく。
「無敵のNo.1ヒーロー、弱点
離れに離れた獣道、公安の視線を掻い潜り、妖しく光る青い焔が双眼鏡片手に薄ら笑いを浮かべていた。
Q.ゴジータ、不審者(青い焔君)の存在に気が付いてないの?
A.気での感知では一般人と然程変わらないのか、気付けませんでした。
気って、悪意とかにも感知出来たっけ?
そして真の狡いヴィランは闇に紛れるからね。
Q.本作のオリキャラの御幸&恵ちゃんは、兄貴分がゴジータだと言うことを周囲の人達に知られてるの?
A.一部を除いて知られてません。尚、とある財閥のお嬢様が生徒会長の家族構成を調べようとした時、偶然知ってしまった模様。
尚、ゴジータはゴジータでとあるラーメン屋にてピンク髪のラブ探偵と遭遇している。