そんな訳で初投稿です。
春も過ぎ、夏本番を前にして雄英高校に通うヒーローの卵達は、一つの大きな困難を前にしていた。
期末テスト。ペーパーテストだけでなく、ヒーロー科の生徒達には実技での試験も課せられていた。それも、より実践的な形式の過酷なモノ。
昨今のヴィラン連合による被害、雄英への襲撃だけでなく先の保須市襲撃の件も含めて、危機感を募らせた雄英の教師陣による提案。それは教師達自らが生徒達の壁として立ちはだかる事だった。
これから先、生徒達はより凶悪なヴィランと対峙していく事になる。これ迄の経緯を省みてこれからの事を予見した雄英側は、敢えてより高い壁を生徒達に課す事を決断した。
教師達による守り手がいない時、生徒達の自己防衛力を鍛える為、現段階では尚早なのも踏まえた上で、雄英は生徒達の早急なレベルアップを望んだ。
尤も、教師達が自ら生徒を相手にする事自体は今回が初めてではない。とある理由、事情から数年前に一度だけ似たような試験内容を用意した事のある教師達は、根津校長の提案に然程違和感を覚える事なく受け入れた。
とは言え教師達は現役のプロヒーロー。公平と公正さを保つ為に、当然ながら教師側には相応のハンデを
サポート科が開発したウェイトリング。身に付けた者に自身と同じ体重の負荷を与えるハンデを背負いながら、教師達はヴィランとして立ち塞がり、生徒達はヒーローとしてこの難題に立ち向かうのだった。
「────いよいよ、デク君達やね」
「相手はあのオールマイトだ。二人とも、無事であれば良いのだが………」
既に試験を終えた二人、麗日と飯田がモニターに映る爆豪と緑谷を見守る。既に試験も終盤、残る二人の試験に麗日も飯田も心配そうに眺めていた。
この試験が始まってから、無事に合格した者と惜しくも不合格になった者が出てしまっている。切島と砂藤は個性の時間の短さを突かれ、上鳴と芦戸はハイスペック校長の策略に翻弄された。
生徒達の天敵となるような采配。それでも何とか機転を利かせて逆境を乗り切ったり、ヴィラン役の教師から逃げ切ったりとしているが、皆自分の個性の欠点に注視せざるを得なかった。
今回、緑谷と爆豪の前に立ち塞がるのは現役のNo.2ヒーローであるオールマイトだ。先の体育祭から目覚ましい成長を遂げている緑谷と、職場体験にて更なる飛躍を果たした爆豪。
そんな二人を前に純粋な強さで相対する事になったオールマイト。壁とするには分厚く、それでいて高い。
「更に言えば、緑谷君と爆豪君の相性の悪さだ。あの二人が果たして協力も連携も出来ずにオールマイトに太刀打ち出来るかどうか………」
「で、でもこの頃爆豪君は少し丸くなってきたし、上手く行けばワンチャンあるんやないかな!?」
「ケロ、確かに今の爆豪ちゃんは前より比べて大分落ち着いてるわね」
「流石の爆豪も、ゴジータの言葉は無視できねぇか」
「轟君もそう思うか?」
「あぁ、本当に羨ましく思うよ」
治療も終え、続々と控え室に戻ってくるクラスメイト達。これ迄の爆豪の成長を目の当たりにしてきた彼等の言葉、特に轟は羨ましそうに爆豪を見ている時が何度かあった。
あの時からもっと真剣に、がむしゃらに挑んでいれば何かが違っていたかも知れない。今更な話ではあるが、それでも轟は羨まずにはいられなかった。
「でも、ちょっとひねくれた感じは増してない? ほら、例のB組の……」
「あぁ、物間君ね」
耳朗の言葉で思い返すのは先日の食堂での出来事。ヒーロー殺しに遭遇した緑谷達を煽る物間に対して、タイミング悪く出くわした爆豪は淡々と反論をかましていた。
『あぁ? テメェ、ヒーローの癖にトラブルを忌避してんのか? そんなんでよく此処に立っていられるな』
『は、はぁ? 何君、そんなんで自分の未熟さを無かった事にする訳?』
『俺が未熟なのは俺自身が良く分かってンだよ、テメェごときに言われるまでもねぇ。………本当、心底テメェみたいなのが羨ましいぜ。他人に気を取られている余裕があるんだからよ』
『んな!?』
ヒーローとはトラブルに自ら飛び込み、解決する者。それを否定する物間に対して皮肉で返すのは褒められた行いではないが、それでも彼の言う言葉に間違いはなかった。
他人からの評価に敏感で、自己顕示欲と自尊心に満ちていた以前の彼からは決して出なかったであろう言葉。これがゴジータによる薫陶の賜物かと、当時この様子を見ていたA組はそれはそれは戦慄したという。
「今の爆豪ならきっと緑谷とも上手くやれるさ」
「そうですわね。今は、そうなることを祈りましょう」
後数分で最後の試験が始まる。緊張感の漂う二人にA組の面々は祈るように見守るのだった。
◇
「かっちゃん、本気なの?」
廃墟と化した街並み、今回の試験に用意されたステージを堂々した振る舞いで歩む爆豪に、緑谷はただ困惑していた。
「何度も言わせんじゃねぇよクソデク、相手はあのオールマイトだ。生半可な策略じゃ正面から潰されて終わり。だったら、手数もあってテメェより立ち回れる俺が囮役をするしかねぇだろうが」
「でも! 幾らかっちゃんでも、オールマイト相手に一人で立ち向かうのは無謀だよ!」
「だから逃げることしか考えられねぇってか? ハ、随分と及び腰じゃねぇか。そんなんでテメェはオールマイトみてぇなヒーローになれるのかよ」
「────!」
嘲笑い、挑発的な物言いの爆豪に緑谷は言葉を詰まらせた。目の前の幼馴染みの言い方は相変わらずドギツイが、それでも的を射ている部分はあった。
なりたい自分を目指すのに、果たして此処で逃げるのは本当に正しい選択なのだろうか。勿論、強敵且つ危険なヴィランを相手にするには緑谷の選択が最もセオリー通りなのは確かだ。
相手はあのオールマイト。ゴジータが現れるまでNo.1の座に君臨し続けてきた不世出のヒーロー。幾らハンデを背負っていても自分達に勝てる見込みは僅かしかない。
けれど、緑谷自身も解ってはいた。此処で逃げる事に徹しても、オールマイトから逃げ切れる保証はない。勝ち筋が薄く、勝算が限り無く低くとも、爆豪の言う通りそれぞれがやるべきことに徹した方がまだ勝率は高い。
それでも緑谷がオールマイトと戦うことを忌避しているのは、O.F.A.という力を与えてくれた事に対する負い目か。これ迄の組手とは全く違う本気の勝負、オールマイトというヒーローに心酔すらしている緑谷に果たしてこの選択は受け入れられるのか。
俯き、悩む緑谷を一瞥しながら爆豪は進む────と、その時だ。試験開始の合図が鳴り、ゴール地点から尋常ならざる気配が爆誕する。
『さぁ、行くぞヒーロー共』
声など張ってはいない。相手とは未だに数百メートル程離れているというのに、まるで目の前に現れた様な威圧感。
来る。そう爆豪が認識し身構えた瞬間、遥か向こうから膨大な力の唸りが炸裂する。コンクリを捲り、周囲の建物を破壊しながら突き進んでくる恐ろしき力の暴風。
その迫力に歯を噛み締めて耐えようと身構えた時、爆豪の視界の前に影が出る。微弱な放電のように翡翠の光を迸らせ、体をくの字に逸らしながら……。
「セントルイススマッシュ、エアフォース!!」
制御しつつある超パワー、その四割近くの威力を込めた蹴りが力の暴風に向けて放たれる。激突する力と力、拮抗した力の奔流は………しかして、緑谷の放つ圧を呑み込んでいく。
それでも威力を殺し、幾分か相殺した事に爆豪は僅かに目を開く。自身の前に立つデク、その背中に嘗て抱いていた劣等感が滲み出る。
やはり、爆豪は目の前の幼馴染みの存在が心底気に入らない。気に入らないが………それでも、認めざるを得ない。今の緑谷出久は嘗て自分が虐めて痛め付けたクソナードではない。
「────おいデク、前に出たってことはそういう事でいいンだな?」
ならば、自分に出来る最善を模索し、検討し、即座に実行する。荒ぶり昂る自尊心を食い殺し呑み込む爆豪は、目の前の幼馴染みへ問い掛ける。
「………うん。本当にゴメン、かっちゃん。いつまでもウジウジしてて。でも、もう大丈夫」
爆豪の問いに、緑谷は力強く応えた。逃げに徹するだけでは駄目、戦いに視野を狭めるのも駄目。どちらも目指して初めて自分達の勝ち筋は見えてくる。
それを成すには爆豪だけでも緑谷だけでも叶わない。二人が力を合わせて初めて、その可能性を掴める。
静かに構える二人。砂塵の向こうから現れるヴィラン役の教師に、嘗て無い程に闘志を滾らせる一方で。
「いい面構えになったじゃないか二人とも。うん、実にいい。それなら────先生、頑張っちゃうぞ♪」
満面の笑みを浮かべたオールマイトが、正面からダッシュで襲い掛かってきた。
◇
「そんじゃ、そろそろ行くわ。二人とも、先生と施設の皆の事、頼んだぞ」
「分かってるよ。甚兄も、余り無茶すんなよ」
「ちゃんとご飯食べなよね」
謹慎期間も明け、再びヒーロー活動に勤しむ為に甚田は本日を以て元の配属地へ戻る事にした。久しく会えてなかった家族と再会し英気を養ったゴジータは、世話になった弟達に一時の別れを告げる。
「うぅ、ぎを、ぎをづげでね~!」
一方で、滝のように涙を流す恩師に苦笑いを浮かべ、子供達にも別れを告げた甚田は星の都から歩いて離れていく。
相変わらずの様子で安心し、しっかり帰省気分を満喫した甚田は、軽い足取りで最寄り駅へと向かう。
その途中、ふとある事を思い出した甚田はとある山の方向へ視線を向ける。先日、微弱ながらも感じた気配。あれはこれ迄敵対し、捕まえてきたヴィランと同種のモノ。いや、先日感じたアレは通常のヴィランの気配をより濃く、どす黒くしたモノだった。
邪悪な気というのは、恐らくああいう類いのモノなのだろう。微かに感じた気配だけれども、甚田の頭の片隅に残るには充分だった。
意識をヒーローのそれへと切り替える為に甚田は空へと飛翔し、一瞬にしてコスチュームへと着替える。さて、このまま公安本部へ乗り込んで用件を伝えようとした時、とあるコンビニが目についた。
「────手ぶらでも何だし、公安にハーゲン◯ッツでも奢っておこうか」
客観的に見て、ここ最近は公安に迷惑を掛けている事をそれとなく自覚しているゴジータは、せめてもの感謝の気持ちとして、日々忙しく暗躍している公安の人達に贅沢なアイスを贈る事にした。
そろそろ夏本番だし、時期的にも丁度良いだろ。と、良く分からない持論を展開しながらコンビニ付近の地上へ降り立つ。さて、幾つ買っておこうか? 仮にも公安上層部をハーゲ◯ダッツで買収しようとするゴジータの視界に……ふと、奇妙な光景が移り込む。
「素敵! 今回も素敵よジェントル! これで今度こそ100万再生間違いないわ!」
「ハッハッハ、余り悠長にはしてられないよラブラバ。では諸君、次の動画でまた会お───」
この時期に暑苦しい格好をした二人組、ジェントルと呼ばれる男性は目の前のNo.1ヒーローを目にすると、ビシリと石のように固まり。
ラブラバと呼ばれる女性も固まった相方に不思議に思い、彼の視線の先を辿ると同じ様に石化し。
ゴジータはゴジータで、コンビニ前で転がっているヒーロー達を目撃し───。
「あー、取り敢えず君達。話、聞かせて貰ってもいいかな?」
謹慎明けのNo.1ヒーローの最初のお仕事は、明らかに不審者な二人組の職務質問から始まった。
Q.主人公の気への理解はどれくらい?
A.自身の気の扱いはゴジータ級だが施設の恩師、子供達を除いて明確に認識できるのはオールマイトくらい。
尚、現在はある程度把握中。