超なオイラのヒーロー記録【完結】   作:アゴン

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最近めちゃくちゃ冷え込んでて、暖房器具が欠かせない。

そんな訳で初投稿です。



記録30

 

 

 

 ─────飛田弾柔郎は嘗て、ヒーローを志していた。弱きを助けて強きを挫く、その活動で世間に名を示すヒーローに、弾柔郎はどうしようもなく憧れた。

 

こんな風になりたい。憧れを憧れのままに抱き、夢を追い続けてきた彼は、しかしてその夢に挫折する事となった。

 

度重なって刻まれる落第の烙印。退学を勧められ、軈ては自分の未熟さの所為で人を傷付け、家族を傷付けた。

 

何もかもを失った弾柔郎だが、ただ一つ。“歴史に自分の名を刻む”という野心だけは捨てきれなかった。このまま、何者にもなれずに消えていくのは嫌だと、強迫観念にも似た衝動が彼を弾柔郎という青年からジェントル・クリミナルというアウトローへ変貌させる。

 

自分の活動を義賊と称し、世間に問い掛ける形で始めた動画撮影。ハイテク技術に乏しく、それでも活動を続けてきた彼はいつしか一人のファンを得ることになった。

 

 ラブラバという理解者であり、協力者でもあり、共犯者でもある女性。互いに過去に傷を持つ二人は、今日も今日とて義賊活動に勤しむ………筈だった。

 

今日はとあるコンビニの製品偽装に関する指摘。市民を騙し、訂正する事を伝える動画を無事に撮影し、連絡を受けて駆け付けたヒーロー達も相方の個性のお陰で退ける事が出来た。

 

今回も自分達の活動に満足し、いざ帰宅しようとした所で………ジェントルにとって一番会いたくて、最も会いたくないヒーローと遭遇してしまった。

 

No.1ヒーロー、ゴジータ。【平和の象徴】であるオールマイトと対を成す【希望の象徴】。その圧倒的強さ故に世界中のヴィランから恐れられている次世代のヒーロー。

 

そんなヒーローが目の前にいる。ヴィランにとっては絶望の象徴とも言えるヒーローを前に、それでもジェントルは心の内で自身の幸運さを喜んだ。

 

「一応言っておくが、抵抗しないことをお勧めするぜ。見た所そっちは二人とも(・・・・)戦った後で疲弊しているみたいだし、その状態で俺とやりあえると思う程、思い上がってはいねぇだろ?」

 

「ッ!」

 

(ば、バレてるー!? 何もかもがバレてるわジェントルッ!!)

 

 見れば、ジェントルの背後には数人のヒーロー達が地面に転がっている。仮にも個性扱いのプロとも呼べるヒーローを数人相手に、一端のヴィランが完封出来るとは思えない。

 

ならば、恐らくは隣の小柄な女性が紳士然としている男に対して、何かしらの補助(バフ)をもたらしているのだろう。あくまで推察でしかないが、残念なことにその推察はぐうの音が出ない程に的を射ていた。

 

「俺としては大人しく警察へ一緒に来て欲しいが………さて、どうする?」

 

 ゴジータとしては早くアイスを買って公安達に事情説明を果たしたい所だ。向こうも自分が誰なのか知っているみたいだし、大人しく投降してくれる事を願いたいが……。

 

「────一つ、質問をしていいかな?」

 

「良いぜ」

 

目の前の男の眼を見て、それは叶わないと確信する。

 

「ゴジータ、君は立ち上がる人間は尽くヒーローの素質があると、そう断言したな」

 

「あぁ、言ったな」

 

「では、過去に挫折し、それでも尚みっともなく足掻き続ける者を、君は笑うかい?」

 

「人の努力を嘲笑う程、俺は高尚な人間じゃねぇよ」

 

「では、その過程で誰かを傷付ける事になったら?」

 

 飛田弾柔郎は、自分の名前を世間に、或いは世界に名を刻むことを望んでいる。何も成し遂げられないまま、知られないままに消えていくのが怖かった。

 

だから、暴力に訴えない範疇で、どんな事もやり遂げるつもりでいた。仮令(たとえ)世間から、傍迷惑な小悪党程度の認識しかなくとも、この義賊の活動に誇りを抱いていた。

 

自分の行いに間違いがあることは認めよう。それでも、今更この道を進むのを止める事は有り得ない。

 

「────夢というのは競争だ。抱き、夢見るだけで叶う程、この世界は優しくも甘くもない。そういう意味で言えば、誰も傷付けずに理想を叶えるのはたとえヒーローでも無理がある」

 

「────」

 

「けどな、それを理由に誰かを泣かせるのは………筋違いだと、俺は思う」

 

「それでも、私は止まらない。そう決めたのだ!!」

 

「ジェントルッ!!」

 

 相方の個性が力となって己の体に注ぎ込まれていく。一度使用し、時間こそは短いものの、そこに含まれる“愛”の深さは変わらない。

 

目の前のヒーローはこれ迄相対してきた者達とは次元が違う。故に、ジェントルは最初から全開で出し惜しみ無く挑む。

 

相方(ラブラバ)の個性である【愛】。それを向けられた相手に絶大な力を与えるとされている。自分の個性と合わさった時のジェントルは無敵であり、決して負けはしないと、ラブラバ自身信じて疑わなかった。

 

しかし───。

 

「成る程な、お前の気持ちは解った。なら……俺も、そのつもりで相手をしよう」

 

目の前の男が黄金の炎を纏った瞬間、衝撃がジェントルを貫いた。腹部から伝わる痛みと衝撃。強化された自分の五感すらすり抜ける速さ。何もかもが自分達とは違うと、ジェントルはNo.1ヒーローの強さに直に触れ……。

 

(あぁ、此処が私の終わりか。それも………悪くは……)

 

 最後に立ち塞がったのがNo.1ヒーロー。世界最強も過言ではない英雄と相対し、倒れる。何もかもが半端者で、落伍者な自分にしては上等な終わり方ではないだろうか。

 

自嘲気味な笑みを浮かべて地に倒れ伏す。自身の敗北を悟ったジェントルが最後に気掛かりに思ったのは………こんな自分を、最後まで信じて付き合ってくれた心優しき相方。

 

カメラをかなぐり捨てて駆け寄ってくるラブラバを尻目に、ジェントル・クリミナルの意識は暗闇へ落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────へ?」

 

 気が付けば、ジェントルは見知らぬ天井を見上げていた。一体自分の身に何が起きたのか。意識を失う直前の出来事を思い返していたジェントルは慌てて布団から飛び上がり、襖を開けて廊下に出る。

 

バタバタと忙しなく動き回るジェントルはやがて広々としたリビングへと出る。其処では、寛ぐゴジータと疲れ気味の男性、そして………頼れる相方がいた。

 

「ジェントルーーッ!! 良かった! 起きたのね! 大丈夫? 何処か痛い所はない!?」

 

「だーかーらー、心配しすぎなんだよ。ちゃんと手加減はしたんだし、死ぬわけ無いだろ」

 

「うるっさいわねこの脳筋バカ!! 人の体から衝撃波が出てくるなんて現象初めて見たのよ!? 普通死ぬからね、アレ!!」

 

 涙と鼻水でグシャグシャとなった顔をジェントルに押し付け、呆れるゴジータにキシャーと牙を剥くラブラバ。何が起きているか訳が分からないジェントルは、ただ呆然としているだけだった。

 

「こ……れは、一体? ゴジータ、一体ここは……いや、そもそも何故私は警察に捕まっていない?」

 

「その事をこれからこの人と一緒に話していくつもりだ。ま、先ずは座ってお茶でも飲んでくれ。紅茶、好きなんだろ?」

 

未だに自分の置かれている状況に理解が追い付かないジェントルは、言われるがままにソファーに座り、紅茶を啜る。

 

(───あ、美味しい)

 

差し出された紅茶の深い味わいに心が少しだけ暖かくなった気がした。隣に座るラブラバも疑う事無く飲んでいる事から、これが善意からの施しであることは疑いようがなかった。

 

ただ、だからこそ正面に座る男性の沈黙が重い。明らかに一般人とは異なる気配。自分達とは違って珈琲を嗜んでいる男性はこれ迄相対してきたヒーローとは別種の人間であると、ジェントルは察した。

 

「あぁ、この人は塚内直正さん。日本を守る警察官で、将来は警視総監になる人さ」

 

「おいおいゴジータ、その紹介は止めてくれと言ってるだろう? 其処までの野心を持ち合わせてはいないぞ、俺は」

 

「生涯現役ってか? 格好いいじゃん塚内さん、相棒も頼る訳だ」

 

「………まさかだとは思うが、そんなヨイショで私が公私を混同するとでも?」

 

「思ってる訳ないだろ。アンタはあくまで第三者、冷静に見極めて冷静に判断してくれるだけでいい。まぁ、一番の理由は警察関係の知り合いがアンタくらいしかいないって話だけどね」

 

「────公安には?」

 

「何か門前払いされた。酷くね? 折角人がハー◯ンダッツ持参で来たのに、話も聞かずに追い返されちゃった」

 

 不服そうに肩を竦めるゴジータに、塚内と呼ばれる警官が顔を手で覆った。友であるオールマイトが心底信頼し、信用しているヒーローだから彼の言う相談に応じてみたものの、ゴジータの口から出てくる言葉に塚内は早くも安請け負いをした事に後悔し始めた。

 

「それでゴジータ、ワザワザ僕を呼んだ理由は何だ? どうやら、其処にいる義賊気取りのヴィラン擬きと関係しているみたいだが?」

 

瞬間、場の空気が冷たくなる。昨今の警察はヴィランの輸送役代わりと揶揄する者が多くいるが、それは大きな間違いであると、ジェントルとラブラバは認識を改めざるを得なかった。

 

嘗て、人類が個性に目覚める前、日本の治安を守っていた法的機関。凶悪な犯罪者を相手に戦ってきた警察。その者達は皆、凶悪犯罪者に劣らぬ強い気迫を持っていたという。

 

目の前の警官もその一人だと、塚内の眼の奥底で燃える冷たい炎に、ジェントルは身を竦ませた。

 

「おぉ、実はコイツを俺のサイドキックに迎えようと思ってな」

 

「「「──────は?」」」

 

 しかし、そんな空気もゴジータの言葉によって霧散する。ジェントルもラブラバも、塚内すらも呆気に取られるなか、ゴジータはジェントルに向き直り………。

 

「単刀直入に言おう。ジェントル・クリミナル、お前をサイドキックとして雇いたい」

 

不敵に笑うゴジータに、ジェントルの瞳に光が戻った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソがっ! 右の籠手もイカれやがったか!」

 

「ゴメンかっちゃん、フォロー遅れた!」

 

「要らんわタコ! ンな事より───」

 

「分かってる。来るよ!!」

 

 目の前に現れる拳、それを事前に察知した緑谷の言葉によって爆豪は間一髪で回避する。振り抜かれた拳は大地を割り、周囲に衝撃波を放つことで、より深く破壊の痕を刻んでいく。

 

吹き飛んでいく建物。既に瓦礫の山と化した試験会場にて緑谷と爆豪は同様にボロボロの姿になっていた。

 

それでも諦めない二人は、砂塵の奥から現れるヴィラン役の教師を見る。これ迄既に何度も攻撃してきたが、その殆どが躱され、いなされ、無力化されてきた。

 

マトモに受けた回数は片手で数える程。それでもビクともしない相手に流石の二人にも疲労の色が強くなっていた。

 

「おいクソデク、テメェそろそろ限界だろ。今の内に尻尾巻いて逃げても良いんじゃねぇか?」

 

「かっちゃんこそ、自慢のタフネスが底を突き始めたんじゃない? ここから先は泥試合確定だよ」

 

「バカが、相手が相手の時点でこうなるのは目に見えただろうが。こっからが───」

 

「そう! 此処からが正念場だぞ、ヒーロー共!!」

 

「「ッ!!」」

 

 割れたコンクリの破片を踏み潰し、満面の笑みを携えてヴィラン(役)が現れる。相変わらず無傷。元のタフネスも加えて更に洗練された体捌きは、クラスの中でも頭一つ抜きん出ている二人を際限無く追い詰めていく。

 

既に満身創痍に近い二人。それでも笑みを絶やさずにいるのは単なる意地か、それとも……ここまで追い詰められていながら、それでも勝つ気でいるのか。

 

体力も限界で、試験時間も残り僅か。残された時間の中でそれでも勝つ道筋を模索する二人に、ヴィラン役のオールマイトのテンションは更に上がっていく。

 

「俺が撹乱する。デク、テメェは───!」

 

「僕が、手錠を嵌めて、一気に駆け抜ける!!」

 

 迸る翡翠の稲妻。その輝きがどことなく超化した相棒の瞳と重なり、オールマイトは真っ向から受けて立つ事を決める。

 

これが、最後の勝負。爆豪は輝く爆破で、緑谷は翡翠の稲妻を纏い、全霊を込めてオールマイトへ挑んでいく。更に向こうへ。その言葉に込められた意思と想いを実践する二人に、オールマイトは更に力を滾らせていく。

 

「行くぞ二人とも!! デトロイト───」

 

「クラスター────」

 

「デトロイト────」

 

 高まり、昂る力。更なる力を引き出して今、衝突しようとした時。

 

「其処までだよアンタら!!」

 

 ドベシャア。と、唐突に力が抜けた三人は勢い余って地面に倒れ伏す。アレ? もしかして時間切れ? オールマイトは唖然となり、緑谷と爆豪は時間にはまだ余裕がある筈だと驚愕している。

 

一体何が起きているのか。あわてふためく三人の前に一人の影が舞い降りる。

 

「………お前ら、雄英(ウチ)を更地にする気か?」

 

「へ?」

 

「あぁ?」

 

 個性を発動して目をギンギラさせている担任(相澤)。明らかに怒気を孕んでいる彼の様子に戸惑っていると、ふと気付いた。

 

崩壊した会場。元の街並みは消え失せ、瓦礫の山となった其処は既に更地一歩手前。加えて、合格ラインを示すゲートも吹き飛び、最早試験は成り立たない状況となっていた。

 

「あ、あの相澤君? もしかしてこれって……私の所為?」

 

「もしかしなくても貴方の責任ですよオールマイト。試験の範疇を超えた破壊活動。これはもう、ナイトアイにも来て貰う他ありませんね」

 

「そ、それは勘弁してくれ相澤君!! 最近の彼ってば私に厳しいんだ!! 下手をしたら私の師であるグラントリノまで呼んできそうだから………!!」

 

「それは良いことを聞きました。貴方の反省を促す為に、是非とも此方に来ていただきましょう」

 

「NOoooooッ!!!」

 

「え、えっと………相澤先生?」

 

「俺達の試験は、どうなるんだ?」

 

「今回ばかりはお前達も被害を被った側だ。誠に申し訳ないが、お前達には後日改めて試験を執り行いたいんだが………構わないか?」

 

 オールマイトに対する時とは正反対に、何処か優しさすら感じさせる相澤の雰囲気に緑谷も爆豪も素直に頷いた。

 

そして後日、改めて実技試験を受けた二人は無事に突破し、改めて林間学校への参加が認められ。

 

その一方で、グラントリノとナイトアイ。更にはリカバリーガールに根津校長を加えた説教(折檻も含む)は、オールマイトに色んな意味で地獄の苦しみを与えたという。

 

 

 

 

 

 

 

「助けて緑谷少年、爆豪少年! 私達は共に真剣に戦った仲ではないか!!」

 

「ご、ごめんなさいオールマイト」

 

「これは流石に庇えねぇよなぁ……」

 

 

 

 





今回のお話を纏めると。

ゴジータ「俺と契約して、サイドキックになってよ!」

ジェントル&ラブラバ「嫌な予感しかしない!!」

オールマイト「更に向こうへ!!」

デク&爆豪「「Plus Ultra」」

相澤「加減しろ」

ですね。
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