過酷なブルアカガチャに何とか勝利した先生。
そんな訳で初投稿です。
「ゴジータ、それは本気で言っているのかい?」
「おう、その通りだ」
問い詰めるように訊ねる塚内の言葉に、ゴジータは即答する。笑い、自信満々に応えるNo.1ヒーローに警部である塚内は確かな頭痛を覚えた。
「………仮にも君はNo.1のヒーロー。そんな君がチンピラとは言えヴィランをサイドキックに迎えるなんて、前代未聞だぞ」
「なら、今回で前例になれば良い。塚内さん、アンタだって訳アリでヴィランにならざるを得なかった人達を、これ迄何度も見てきた筈だろ?」
「それはそうだが………」
「それに、そう言った犯罪者の罪を軽くする制度だって、個性黎明期前からあっただろ」
「司法取引の事を言っているのか? アレは裁判の際に刑事処分される被告人や被疑者に有利な取り扱いをする制度であって、罪を軽くするモノではないぞ」
「それでもいいさ」
どうやら、本気でこの二人をサイドキックとして雇い入れるつもりらしい。No.1ヒーローが小悪党とは言えヴィランを引き入れるなんて、これまでの個性社会の中でも初めての事例。
それをNo.1ヒーローが行おうと言うのだから、社会に対する影響は計り知れないし、それが分からないゴジータではないだろう。それを見越した上でのゴジータの決断に、塚内はそれ以上反対の言葉を出すことは無かった。
「─────ゴジータ、一つ聞かせてくれ。どうして其処まで彼等に入れ込む? 君程のヒーローなら、声を掛けただけで無数のヒーロー達がサイドキックに立候補する筈だ」
実際、ゴジータには既に多くのファンが出てきており、その中にはプロのヒーロー達の姿もあった。オールマイトすら認めるヒーローとしての強さ、そんな彼が一声掛ければそれだけで多くのヒーロー達が名乗りを上げただろう。
「いや、違う。それじゃあ意味がない。それじゃあダメなんだよ、塚内さん」
しかし、そんな塚内の代案をゴジータは首を横に振って却下する。それでは意味がない、そう口にしたゴジータに彼の意図している事を察した塚内はまさかと目を見開いた。
昨今増加傾向にあるヴィランによる事件。それはこれ迄個性社会の裏に隠された人種差別に似た背景が大きく関わっている事も、塚内は知っている。
この世界には、制御が困難な個性によって人生が歪んだ人達も少なくはない。現に、異形系の個性として発現した人々の中には、幼い頃から差別されてきた事例があることも少なくはない。
本人の意思に関わらずヴィランという分類にされた人達。今回のゴジータによる提案は、そんな行き場のない人達に対する一つの指標になるのではないか。
ヒーローとして人々の平穏を守るだけでなく、手を差し伸べて立ち上がる切っ掛けを作ろうとしている。ゴジータの言葉に隠された真意を察した塚内は、それ以上何かを言うことは無かった。
「……何故だ」
「ん?」
「ゴジータ、私はただの小悪党だ。ヒーローにもなれず、ヴィランにすらなれない半端者。そんな私を、どうしてNo.1ヒーローである君が其処まで庇い立てる」
「別に庇おうと思っちゃいねぇよ。折角優秀なヒーローの卵を見付けたんだ。プロヒーローが世話を焼きたいと思うのも、さほど不思議ではないだろ?」
「─────え?」
あっけらかんと応えるゴジータの言葉に、今度はジェントルが言葉を失い、目を大きく見開いた。ヒーローの卵。嘗て落第者と嘲笑われ、世間から罵声を浴びせられてきた自分が、ヒーローとしての素質があると他でもないNo.1ヒーローに認められている。
衝撃的すぎて唖然としているジェントル。震えている彼の手にそっと小さな手が寄り添ってきた。ラブラバ。自分のファンだと言って慕い、こんな自分に尽くしてくれた女性。涙を浮かべて微笑む彼女に釣られ、ジェントルの目にも涙が浮かぶ。
「ジェントル・クリミナル、お前のやってきたことは確かに人から誉められる事じゃないだろう。
「……………」
「だけど、それでも俺は断言しよう。お前は───ヒーローになれる」
「ぐ、ふ、………うぐぅぅ」
「来いよジェントル。今日から俺が、お前のヒーロー教官だ」
「う、ぐ………うあぁぁぁぁぁぁ」
それは、弾柔郎がずっと欲しかった言葉。身の程知らずと罵られ、落伍者と嘲りを受けてきた自分に、ついぞ掛けられなかった言葉。
今更だと思った。今になって、とも。でも、それでも………こんな自分をヒーローになれると言ってくれる人がいる。
ジェントル・クリミナル────飛田弾柔郎にとってこの日、決して忘れない日となった瞬間であり、彼の中の
◇
「────と、言うわけで一人、俺の所から仮免の受講者を出すことにした」
『ちょっと待って、流石に唐突すぎない?』
それから少しして、ジェントルとラブラバの二人を自分の預かりとしたゴジータは、塚内を改めて説得し、これを受け入れる事となった。終始頭を抱える塚内に流石に申し訳なく思ったゴジータが、せめてもの誠意として自らタクシー代わりとなって自宅まで送り届けようとしたが、丁重に断られてしまった。ぴえん。
そして、相棒であるオールマイトには近況報告を含めて事情を説明しようと電話を掛け、現在に至る。時刻は既に夜の10時を過ぎ、ゴジータは縁側に座りながら呆れた様子の相棒との会話に花を咲かせる。
『相変わらず突飛な事を思い付くなぁ。でも、君の言いたいことは分かるよ。君のやろうとしている事が実を結めば、それは個性社会にとっての一つの転換期になる。ヴィランにならざるを得なかった人達に一つの選択肢を与える事ができる』
ジェントルとラブラバ。己の個性を用いて世直しという名目で社会に少なからず混乱を招いた罪は、決して軽くはない。仮に捕まり釈放されたとしても、ヴィランというレッテルはどんなに償っても簡単に剥がれる事はないだろう。
けれどプロヒーロー、その中でもトップのヒーローが監視し、更正の余地がある人達をヒーローとして活躍させる事が出来れば、個性社会にとって大きな転機となるだろう。
尤も、その道中には大きな問題が数多くあり、そのやり方に反対する意見も少なからず出てくるだろう。しかし、やる価値はある。そう思えたからこそ電話越しのオールマイトの口からは懐疑的な意見はあっても、頭ごなしな否定の言葉は一つも出てこなかった。
『けれどゴジータ、その道は決して楽な道ではないぞ。No.1ヒーローという立場を用いての荒業、快く思わない者は必ず君に罵声を浴びせる事だろう』
「別に名も知らない奴の悪口なんて気にしねぇよ。そんな連中よりもナイトアイとかの説得の方が骨が折れそうだ」
『それ私の前で言う? いや、否定は出来ないけどね』
相変わらず軽口を叩くゴジータにオールマイトの口調も柔らかくなる。それはゴジータならばやってくれると言うオールマイトからの信頼の証でもあった。
『でも、本当に楽しみだよ。爆豪少年もだけど、君が見出だした者は皆飛躍的な成長を遂げている。教師として、その才能は羨ましい限りだよ』
「そいつは買い被りだ。俺はただ、アイツなら出来るという事を教えてやっただけ。其処から成長できたのは偏に爆豪自身の力だ」
『ハハハ、そういう事にしておこうか』
快活に笑う相棒の声にゴジータも笑みが溢れる。
『それじゃあ、そろそろ遅いし、今日はこの辺にしておこうか。ゴジータも、なるべく早く休みなさいよ』
「ワーカホリックなアンタが言うことかよ。でも、そうだな。そろそろ俺も寝るとするよ。………その前に一つ聞きたいんだけど、オールマイトはこの夏はやっぱり教師としての仕事があるのか?」
『いや、それも勿論あるけど、実は“I・アイランド”から招待があってね。今度緑谷少年と出掛ける予定なんだ』
「へー、I・アイランドか。俺も空から何度か見掛けた事はあるけど、結構凄い所なのか?」
『アソコには私の親友が住んでいるんだ。いつか機会があれば、君にも紹介するよ』
「おう、そん時を楽しみにしてるよ」
それじゃあ、と話を締め括るオールマイトにゴジータも軽く挨拶を交わして通話を切る。久し振りの相棒との会話を終えると、ゴジータは背を伸ばして体を解す。
「────さて、相変わらずやることが多いけど、No.1ヒーローとして頑張りますか」
これ迄、オールマイトはNo.1ヒーローとして個性社会に平和を築き上げた。己の生涯を懸けて日本に平和をもたらしたオールマイトをゴジータもまた尊敬している。
けれど、言ってしまえばそれだけだ。多くのヴィランを退け、人命を守り、尊厳を守護してきたオールマイトは確かに平和の柱とも言えるだろう。
その柱に寄りかかり、胡座をかいて座っているのが、今の社会の現状。ならば、自分がするべき事は、その平和の柱という土台の上に確かなモノを築き上げていくことだ。それが今のNo.1ヒーローである自分のやるべき事なのだと、謹慎中に出したゴジータなりの考えである。
当然、簡単にはいかないだろうし、ゴジータ自身他のヒーローに頼る気満々でいる。新たな社会、個性に振り回される人々に対する一つの選択肢。それをもたらす事が今後のゴジータの目標だ。
ジェントル・クリミナルをサイドキックとして迎えるのは、その目的の為の第一歩。この目的を成し遂げる為にはゴジータ一人の力だけでは到底足りない。
オールマイトが築いた平和の時代、その土台の上にただ胡坐をかいているだけでは、必ず破綻する時が来る。その為にも、一人の人間が柱になるのではなく、多くの人々が支え合うシステムが必要だ。
尤も、ゴジータ本人は其処まで難しく考えておらず、あくまで“そうあればいい”という漠然としたモノ。
けれど、そうなったらきっと今よりいい世の中になるんじゃないのか。そんな未だ先の見えない未来にワクワクしながら、ゴジータも就寝するのだった。
◇
翌日、某大手動画サイトにてある動画が投稿された。それは、これ迄見向きもされず多くの人達が軽んじてきたとある自称義賊が投稿したモノ。
投稿された日、今日も見向きもされずに数ある動画に埋もれていく筈だったそれは、しかして大きな反響を呼ぶことになる。
タイトルは【空から落ちてくるNo.1ヒーローを救出してみた】。何ともふざけたタイトル、一体この小悪党の義賊気取りがどうしてあのゴジータと関わりがあるというのだ。ツリ丸出し、タイトル詐欺も甚だしいその動画に殆どの人々が嘲笑い、釣られる事を承知の上でその動画を開くと………。
『ちょっとジェントルー、今のタイミング遅くないー? もうちっと素早く行動しようぜ』
『いやまって、予告も無しに空から落ちてくるの普通に怖いから! 恐怖体験だから!』
『えー? でも、ヒーローになるためにはある程度の対応力も求められてるし、これくらい出来ないと……あ、じゃあ午後はイタリアのマフィア退治を見学してみよっか。ちょうど向こうから依頼が来てたし』
『そんなコンビニへ誘うみたいなノリで!?』
本物の、マジの、ガチのNo.1ヒーローが画面いっぱいに映し出されており、それを目の当たりにした多くの視聴者が吹き出したと言う。
『それでは次回も、またみてジェントル♪』
『その挨拶、何!?』
Q.ゴジータ、何で動画出てるん?
A.ゴジータなりに深い(浅い?)理由があります。尚、チャンネルはジェントルのままの模様。
Q.これを機会に動画投稿するヒーロー増えたりする?
A.増えて欲しいなぁ。
オマケ。
某お嬢様は告らせたい。その1
「わー! 会長のお弁当、今日も美味しそうですね」
「でも、なんか献立がいつもより違うような………」
「あぁ、今日は久し振りに兄が作ってくれてな」
「会長って、お兄さんがいたんですか?」
「血は繋がってないぞ。同じ施設で育ったという間柄というだけさ」
「でも、このお弁当凄く美味しそうですよ。愛されてますねー、会長」
「まぁ、実際旨いしな。俺も料理が習ったのはこの人からだったし」
(会長の料理の師匠!? つまり、その人からレシピを盗めば、会長の胃袋は私の手に!?)
まだ、この頃は素直に人に教わるという事を知らないお嬢様だった。