そんな訳で初投稿です。
ゴジータによるジェントルへのヒーロー訓練、その名目で投稿された動画は瞬く間に全国に広がり、大きな話題を見せた。
これ迄世間が見向きもしなかった小悪党のチャンネルは毎回凄まじい再生回数を誇り、現在では既に百万人規模の登録人数を持つ大型のチャンネルと化していた。
しかも、ゴジータが登場してからは広告等の収入要素が全くない為、No.1ヒーローを間近で見れるというこのチャンネルは、色んな意味で注目の的になっていた。
その一方で……。
「だーかーらー! もっと個性の使い方に幅を広げろよ! お前の個性は多様性に富んでいるんだから、イチイチ空気やら壁やらで防ぐことだけを考えるなよ。お前の個性はモノに弾力の性質を与えるモノ、めちゃくちゃ汎用性が高いんだから、お前も頭を柔らかくして順応しろよ」
「い、イエス……サー……ガク」
「ジェントルゥゥゥゥッ!?!?」
毎回、No.1ヒーローにボコボコにされる様子のジェントルに最初は酷く反発していたアンチのコメント達も、今ではすっかり丸くなっている。ジェントルという自称義賊に興味本位で近付いた愚か者、以前からゴジータにやっかみを向けていた者達も、真剣にジェントルに指導しているゴジータに表面上は何も言えなくなり、大人しくなっている。
そんな世間の様子を無視しながら、今日も今日とて個性の鍛練に勤しんでいるゴジータとジェントル。その様子の一部始終を撮っていたラブラバは、満身創痍となったジェントルに涙を流しながら駆け寄った。
「この鬼、悪魔! ゴジータ! いつもいつもジェントルをボコボコにして! 酷いじゃないの!」
「え、でも……前より個性の使い方巧くなってるじゃん。今回だって訓練の場所選びで森を指定して、木々に弾力性を持たせて縦横無尽に跳び跳ねる様なんて、普通に撮れ高あるんじゃね?」
「そのジェントルの新しい技を、あなた初見で叩き潰してたじゃない!! ものの数秒で見切ってたじゃない! カウンターで黙らせたじゃない!!」
「いやー、意外としっかりした必殺技だったから……つい」
「“つい”でジェントルの技を潰さないで! あなたの行いの所為で最近の動画のコメント欄が【ドンマイ】で埋め尽くされてるのよ!? 滅茶苦茶憐れまれてるの! 頑張れって、とても応援されてるのよ!?」
「良いことじゃん」
「うるっっっさい!!」
自分が年下であると知ってから、意外と遠慮がなくなってきたラブラバに、ゴジータは微笑む。これ迄世間からは冷たくあしらわれていた二人が、今ではゴジータのサイドキック候補として鍛えられている。
当然、其処に至るまでには多くの困難が立ち塞がっており、その中には世間からの評価だけじゃなく、ヒーロー達の意見や公安からの意見も尊重しなくてはならないし、説得だって儘ならない事だろう。
面倒な事が多い案件だが、ゴジータ本人は然程気にしてはいない。ヒーロー飽和社会と揶揄されている現在の社会だが、そこには実力主義の一面もある。如何なる問題も実力とそれに伴う人格があれば、これ等の問題は然程難しくはないと言うのが、ゴジータの見解だ。
「でも、実際に前よりも良くなっているぜ。個性の使い方も洗練されているし、応用力も荒いが良くなっている。このまま行けば、仮免試験の内容次第では一発合格も夢ではないかもだぜ?」
「ほ、本当かい?」
ゴジータからの意外な高評価にボロボロだったジェントルの瞳に光が宿る。現在公安と絶賛交渉中であるゴジータは、今年中にでもジェントルに仮免の資格を取らせようと画策していた。
「しっかし、分からないのはお前のいた学校、なんでお前を確り教えてやらなかったんだ? こんな便利そうな個性持ってて、ヒーローになれない方がおかしいだろ」
ジェントルの個性は【弾力】。それは無機物から何もない空気中にまで一定の範囲で弾力性のある性質を付与させるという強力なモノ。
使いこなせば救出からヴィラン制圧まで、幅広く使えるであろう良個性。これ程の個性を持っていながら、それでも日の目に当たれなかったジェントルにゴジータはただただ不思議に思えてならなかった。
そんなゴジータにジェントルは申し訳なさそうに俯き……。
「それは……もういいんだ。あの頃の私は、身の程も弁えられなかった愚か者。自分のすべき事を見誤り、何も成せなかった半端者。それが私だ」
「ジェントル……」
自嘲気味に、力なく笑うジェントルにラブラバは何も言えなくなった。
「いや、その半端者を教え導くのが学校だから。出来ないことを出来るようにする。分からないことを伝わるように導くのが学校だからね?」
そんなジェントル達の感傷を真っ二つにするゴジータに、二人は目を大きく見開いた。
「今度、お前の学校に凸してやろうか? アンタらの半端な指導のお陰で、俺は良いサイドキックを捕まえたって、生配信でお送りしてやろうか?」
「止めたまえ、仮にも私の母校だぞ?」
次いで、笑うジェントルにラブラバもつられて笑みを溢す。自分では決して引き出せなかったジェントルの表情に僅かな嫉妬心を抱きながらも、それでも青年らしい屈託のない顔を見せる彼に、ラブラバはほんの少しだけゴジータに感謝した。
「よし、そんじゃあ今度はラブラバの個性アリでやってみようか」
「え? い、今から……?」
「当たり前だろ? 折角練習したんだ。次はブーストされた状態でどのくらい動けるか試してみないと」
「で、でも私、既にもうイッパイイッパイで……」
「そんな時こそこの校訓、
「ひ、ヒィィ!!」
前言撤回。やはりこの男、鬼だわ。
◇
「ほう、つまり何か? 私にお前の悪ふざけ動画に付き合えと、そう言いたいのか?」
「悪ふざけって酷いな。ユーモアがあると言ってくれよ、ナイトアイ」
それから二時間程、みっちりとジェントルとラブラバに鍛練を付けたゴジータは、二人に休みを取らせると、サー・ナイトアイの事務所へ訪れていた。
アポ無し、それも窓から入ろうとするゴジータに最初は追い返す気満々だったナイトアイだったが、サイドキックとインターン生であるルミリオンの説得の下でどうにか話だけは聞くことにした。
「で、その悪ふざけの動画に私を出して、お前は一体何がしたいんだ?」
「ジェントル・クリミナルというヒーロー志望の男の事を、客観的な意見で以て評価して欲しい」
ゴジータが持ちかけてきた話、それは現在ゴジータの監視下に置かれているジェントルとラブラバの二人を、プロヒーローであるナイトアイに評価して貰いたいという事。
基本的に暴力を進んで振るわず、あくまでヒーローに対して自衛と逃走程度にしか個性を使用してこなかったジェントルとラブラバだが、それでも世間からは小悪党のヴィランと称され、ゴジータと出会う前までは後ろ指を差されていた者達だ。
今でこそゴジータというNo.1ヒーローに連日しごかれ、その容赦のない内容に多くの視聴者が同情しているが、それでも所詮はヴィランだと蔑む者達もいる。
更に言えば、公安からも否定的な意見が少なからず挙がっており、警察側からも問い合わせが来たりしている。
ゴジータの目的もその理屈も分からない訳ではない。近年増加傾向にあるヴィランによる犯罪件数に対して一つの選択肢になり得るかもしれないと、熟考の末に公安は一つの妥協点を提案してきた。
それは、動画にて最低三人程のプロヒーローにジェントルの事を評価して貰うこと。厳正なる評価によってジェントルの進退を見定め、そこに合格する事で初めて仮免試験への参加を認めて貰えるという事。
これを二つ返事で了承したゴジータは、先ずはナイトアイに話を持ち掛ける事にした。自分にも他人にも厳しい彼ならば、ジェントルを厳しく評価するだろうし、公安や警察も納得してくれる筈。
そう思い、アポ無しで突撃した訳だが……。
「────貴様が私を頼ろうとした理由は分かった。安直にオールマイトを頼らなかったのも、私的に好ましい」
「お、じゃあ……」
「だが、正直言えばめっちゃ断りたい。理由は、なんか嫌だからだ」
「え、えぇー……」
「滅茶苦茶私情……」
目を大きく開き、嫌そうな顔を隠しもしないナイトアイに、ゴジータだけでなく隣で控えているルミリオンまでもが引いていた。
「とは言え、貴様のやろうとしている事も理解している。だから条件として貴様に二つ協力して欲しい事がある」
「えー二つも? ま、いいけど」
「いいんだ! 流石はNo.1、器がデカい!!」
「ルミリオン、茶化さないでやってくれ。コイツが調子に乗る。………話を戻すぞ、一つ目の条件はルミリオンを鍛えて欲しい。ルミリオンはその個性ゆえに近接戦が主体になっている。お前なら適切なアドバイスが出せるだろう」
「え? それはいいけど………でも、ナイトアイが直々に面倒見てたんだろ? 今更俺に何かアドバイスできるかぁ?」
「俺からもお願いします! オールマイトも認めたNo.1ヒーローであるあなたの意見が頂けるなら、これに乗らない手はないって!」
やる気を漲らせるルミリオンを見て、一つ目の条件がルミリオンを思いやった上での事だと察したゴジータは、相変わらず面倒くさいなとナイトアイを見る。珈琲を啜るナイトアイ、湯気で曇った眼鏡の奥には人間らしい瞳があった。
「ま、ルミリオンが納得しているなら別に良いや。それで、二つ目は?」
やれやれと、素直じゃないナイトアイに肩を竦めながら、二つ目の条件の呈示を促す。すると、一枚の写真と書類をテーブルの上に出したナイトアイは、真剣な表情となってゴジータを見る。
「────死穢八斎會。水面下でなにやら動いているヤクザの調査だ」
◇
「さて、取り敢えず協力者一人目確保、と。残る二人だけど果たして何処に声を掛けたら良いものやら」
ナイトアイの協力を取り付け、一先ず今日は帰路に就くことにしたゴジータは、自宅へ続く田舎道へと降り立つ。
ジェントルとラブラバが仮免試験に挑む前提条件であるプロヒーローの認可は残す所あと二つ。問題はその二人のプロヒーローに付いてだが………。
「ホークスはノリが良いから大丈夫だと思うけど、残り一枠かぁ。流石にオールマイトに声を掛けるのは色々と不味そうだよなぁ」
なるべく公平さを保てるように、自分と友好的な人選はなるべく避けたい。ホークスは何だかんだこう言うのには厳正なる判断と評価をしてくれるから其処まで心配してないが……問題はあと一枠だ。
折角オールマイトを頼らずに集められるのなら、最後まで頼らずにいたい。しかし、心当たりがそんなにないゴジータはどうすればいいか悩んでばかりだった。
(オールマイトの師匠の一人だって言うグラントリノは? ………あの人の連絡先、俺知らねぇ。Mt.レディ? いやいや、アイツ最近忙しそうにしてるし、あまり負担を強いるのは止めておくか)
他にもシンリンカムイ、デステゴロ、ベストジーニスト等、候補に幾つもヒーロー名が挙がるが、皆忙しそうなので断念。
最後にエンデヴァーの名前が思い浮かぶが………一番あり得ないので除外。仮に声を掛けた所で、怒声と共に断られるのが目に見えている。
(なら、同期の連中に声を掛けてみるか? いや、それだと調べられて自分の同級生という事に疑問視される可能性があるか)
あれもダメこれもダメかと、一人ウンウン唸りながら歩き続けると、ふと目の前に白く長い耳が視界に映り込んできた。
誰? 不思議に思ったゴジータが、足を止めて前を見据えると………。
「よぉゴジータ、風の噂で聞いたぜ? テメェ、よりにもよってアタシ以外の奴と組んだそうじゃねぇか」
「────ヒェッ」
獰猛な白兎が、狂暴な笑みを浮かべて佇んでいた。
オマケ。
某お嬢様は告らせたい。
「こ、ここがI・アイランド……」
「なんつーか、普通にSFですね」
「済まないな篠宮、俺達まで誘ってくれるなんて」
「気にしないで下さい。偶々頂いたチケットが人数分余っていただけですので」
嘘である。この女、城鐘御幸が以前からI・アイランドに興味を持っていたのを
全ては生徒会長である城鐘御幸に告らせる為、今日も篠宮かぐやの策謀が炸裂する。
(本当は会長だけをお誘いしたかったのですが、それではあまりにも不自然。多少の想定外はありますが、ここはグッと堪えて策を練りましょう)
(篠宮ってばやっぱスゲェお嬢様なんだなー。施設の皆に何かお土産買ってあげたいけど、お土産コーナーって何処だろ?)
「あれ? 彼処にいるのって、もしかして雄英の生徒さんじゃないです?」
「うん? あ、本当だ。あの爆発の人、前にヘドロヴィランに捕まってた」
「あぁ!? テメェ今なんつった!!」
「ヒィッ!? ごめんなさい!」
「こら爆豪、止めなさいって! 堅気の人を怖がらせるんじゃないの!」
「その止め方もどうかと思うけどな。と、本当に済まねえな、ウチの爆豪が迷惑を掛けて」
「わ、わー! ヒーローの卵達がこんなに! かぐやさん、会長! ヒーローの卵がバーゲンセールですよ!」
「誰が安売り特価だピンク頭コラァ!!」
(あーもう! メチャクチャよー!)
篠宮かぐやの今回の作戦は、序盤から大誤算でしたとさ。
「あら、そちらにいるのは………篠宮さん?」
「や、八百万さん!? あなたまでいるなんて………」
「なんだか副会長、あの人に対して反応おかしくない?」
「あの篠宮副会長が………怯えてる!? でも、何で?」
「そりゃあ、あれだけ
「なんだこのちっこい人」
「けどでぇじょうぶだ。きっと将来がある──ババババ」
「初対面から失礼すぎだからな、お前」
「ちっこい人ー!?」