グラブル9周年も終わり、平穏な日常が始まる。
そんな訳で初投稿です。
「────?」
「ん? どうした」
ファットガムの事務所へ訪れ、昨今巷を騒がせている違法なサポートアイテムの流出、そして今回の個性を破壊する銃弾の件について、ナイトアイを交えて話し合っていた時、ふと違和感を覚えた。
今自分のいる大阪から遠く離れた地域、自分にとって義理の弟妹と呼べる二人の気配が僅かに揺れ動いた様に感じ取れた。
一瞬、未熟な自分の気の所為かと思うゴジータだが、この身は不撓不屈の最強存在。自身の大事な存在の危機を勘違いする事は有り得ず、故にゴジータは話し合いの流れを断ち切ってまで、急ぎ懐から携帯を取り出す。
連絡先は義弟でもある御幸の方、しかし幾ら掛けても全く繋がらない。普段なら授業中でない限り、10コールの内に必ず出てくれる義弟が、今回に限って出る気配がない。
仕方なしに一度連絡を切ったゴジータは、今度は義妹の恵に通話を繋ぐ。此方は緊急の用事でない限り掛けてくるなと言われているが、今はそんな事を気にしている場合ではない気がする。
罵倒される覚悟でコールする事数回、御幸の時と違い今度は簡単に繋がる事が出来た。
きっと、低い声で「なに?」とか言われるんだろうな。しかし、通話の向こうの義妹の反応はゴジータの予想していたモノとは違っていた。
『に、兄さん、甚田兄さんなの!?』
「おう、俺だ。そっちでなんか変わった事とか起きていないか? 御幸に繋ごうとしてもアイツ全然出なくてさ」
明らかに尋常の様子ではない。普段は落ち着いている恵が取り乱していることなど滅多にない、落ち着かせるように言葉を掛けると、義妹の深呼吸の声が聞こえてきた。
『────今、お兄は皆を避難させるために学園中を走り回ってるの、でも、アイツ等ドンドン攻撃してきて、巻き込まれた先生達を助けてたりして、ヒーローも駆け付けてくれたけど、全然敵わなくて!』
「─────ッ!」
「お、おい!」
「なんや、何かあったんか!?」
涙でグシャグシャになった声で、それでも現状を伝えようとしてくる恵、その声で向こうで何が起きているのかを察したゴジータは、呼び掛けるファットガムとナイトアイの声を振り切って窓から外へ飛び立つ。
『今、私たちの学校……ヴィランに襲われ、て……このままじゃ、お兄が、お兄……ちゃんが!』
『このままじゃ、お兄が殺されちゃう! お願い、甚田兄さん、お兄を、皆を……』
“助けて”
「あぁ、今いく」
嗚咽を漏らしながらの懇願、普段の義妹とはまるで違うその変わりように、ゴジータは施設に入ってきたばかりの頃の二人を思い出す。
両親に捨てられたと思い、誰にも心を開かずに自分達を睨み続けていた御幸と、その後ろで泣きじゃくる恵。きっと二人はあの頃と似た顔で戦っているのだろう。
ならば、ヒーローである自分に出来る事は………!
「………俺だ。悪いが少し急用が出来た。お前は予定通り例の場所に向かってくれ」
未だに警戒を発し続けている己の直感、神経を逆撫でする嫌な予感に対抗するべく、ゴジータもグレーな手札を切るのだった。
◇
突然のヴィランの襲来。予兆も前兆もなく、唐突に加えられたヴィラン達による攻撃は、秀治院の生徒達に強烈な困惑と恐怖を叩き込んだ。
秀治院は、日本の未来を担う卵達が通う古くからの学園。当然防衛の為の備えはされているし、その立ち位置から公安からの繋がりも存在している。
中には個人的な契約でご子息の護衛を担っているヒーローも何名か存在している。当然ながらヴィラン達はこれ等の防衛の餌食になる………筈だった。
「………脆いな。所詮は旧体制の幼稚な設備、当然か」
「──────」
しかし、それら防衛システムは襲い来る二人のヴィランの手によって瞬く間に瓦解する。男の氷を操る個性によってシステムごと校舎は破壊され、迎撃に立ち塞がったヒーロー達は
衝撃波を放ち、爪を弾丸の様に飛ばし、龍の様な怪物を喚び出し、ヒーローを蹂躙する。為す術なく倒れるヒーロー達を目の当たりにして漸く自分達の危機を実感した生徒達は、迫り来るヴィランの恐怖にパニックを起こし掛けた。
しかし。
「そのままパニックに陥れば良いものを、城鐘御幸。流石は奴の身内の事だけはある、か」
そんな状況を、生徒会長である御幸が繋ぎ止める。パニックに陥り掛けた生徒達を学園の放送で呼び掛ける事によって一時的に抑え込み、その間に避難経路を確立させて誘導させる。
その手腕に氷の男は素直に評価した。だが、却って好都合。元より二人の狙いは他の有象無象ではない、二人が狙うのは絶賛活躍中である生徒会長とその妹にあるのだから。
「さて、それじゃあ手早く片付けるとしようか。“ナイン”、お前は外からのヒーローに…………」
「………そこか」
「おいナイン、何をして────」
「見付けたぞ、俺の───糧ェ!!」
瞬間、ナインと呼ばれる制御装置付きの男は跳躍して学園の校舎へ突っ込んでいく。此方の段取りを一切度外視した突然の行動、予め伝えられていたとは言え、こうも融通の利かない相方に氷の男は頭を押さえた。
「えぇい! こうも言う事を聞かないとは! A.F.O.め、ちゃんと調整を終わらせておけ!!」
忌々しく吐き捨てながら、氷の男は周囲の氷を操って壁を作り出す。学園全体を覆う氷の壁、逃げ道を塞がれたと校舎から悲鳴の声が聞こえてくる。
煩わしい旧体制の絶滅、序でに為し遂げてやろうかと、氷の男はほくそ笑む。
「さぁ、我等の望む世界の為に………礎となれ」
男は嗤う。上から見下ろし、自分達が生まれながらの特別だと勘違いしている連中に鉄槌が下せる事、その状況に男は酔っていた。
付き従い、慕う
それが、自分達が望む世界の始まりであることを信じて……。
◇
「うっ、くそ……なんだったんだ今のは?」
「会長! 無事ですか!?」
「あぁ、俺なら大丈夫だ。他の皆は?」
「皆、体育館の方へ逃げました。けど、氷の壁が厚くて、教師達が抑えていますが………今にもパニックが起きそうです!」
避難誘導も佳境に入り、殆どの生徒が体育館へ避難出来たと安堵したのも束の間、校舎全体を揺さぶる程の衝撃が襲い掛かり、壁に叩き付けられた御幸は僅かの間だけ意識を失っていた。
時間にして一分も経たない合間、無防備でありながら無事だった自分の悪運に呆れながらも、御幸は生徒会に於ける会計士に指示を飛ばす。
「外との通信は?」
「今、副会長が緊急用の通信手段で連絡を試みています。繋がるまで、もう少しの猶予が必要かと……」
「よし、なら外との連絡は篠宮に任せ、お前も体育館へ急げ」
「会長はどうする気なんです!?」
「俺は他の生徒達が逃げ遅れていないか見て回る。……安心しろ、無茶はせん。すぐに戻る!」
「か、会長!?」
生徒達の長としての責務、我ながら無茶なことをしていると自覚しながらも、それでも一人の多くの生徒達を助けるべく、城鐘御幸は廊下を走る。
困難な状況、自分だって危ないのに、それでも誰かの為に動こうとしている自分に御幸は呆れていた。これも、身内にNo.1ヒーローなんて輩がいる弊害か。
(そもそも、廊下を爆走している時点で、生徒会長としては失格だな)
取り残されている生徒達がいないか、一通り巡って高等部に誰もいない事を確認した御幸は今度は中等部へ足を進める。
中等部や初等部は高等部よりも先に避難している筈、本来なら見て回る必要なんてないのに、嫌な予感に突き動かされた御幸は、誰もいないことを祈りながら再び廊下をひた走る。
(くそ、こんなことならちゃんと家で携帯を充電してくるんだった!)
今頃、自分の拘りや安いプライドなんてかなぐり捨てて、速攻で天下無敵のヒーローに救助を求めるべきなのに、貧乏性な自分の性格がここへ来て災いになってしまった。
電池切れを起こし、物言わぬ物体と化している自身のスマホ。今度からはこまめに充電することを固く決意した御幸の目の前にそれはいた。
明らかな不審者、口元を制御装置らしい機械的なマスクで覆っている者。血走った目で佇むその男を見て、城鐘御幸は一目でヴィランだと確信した。
危険な相手、己の直感と生命としての本能が急いでその場から離れろと警告してくる。はね上がる心音、心臓が口から出てきそうな程の緊張感。口元を手で抑え、極力音を立てずにやり過ごそうとする御幸だったが………無理だった。
ヴィランの前にいる、見慣れた女子生徒。自分より年下の子を怯えながら庇い、その腕に付いた切り傷から血を流す妹を目にした瞬間────城鐘御幸はブチ切れた。
「テメェェェッ!!」
「!」
「っ、お兄ぃ!? ダメッ!」
「恵ちゃんから、離れろォォッ!!」
投擲した充電切れの携帯がヴィランの頭に直撃、気を引かせ、此方に振り向いた所を廊下の隅で落ちていたモップを拾って奴の顔目掛けて振り抜く。
喧嘩慣れもしておらず、素人である自分にしては結構な動き。しかし、目の前のヴィランには全く通用せず、御幸の渾身の一撃は片手で容易く受け止められてしまう。
「恵ちゃん! 今すぐその子を連れて逃げろ! コイツは俺が何とかする!」
「何言ってるのお兄ぃ! ヒーローでも無理だったのに!」
そう、妹の言う通りコイツは唯のヴィランではない。学園のセキュリティシステムを悉く粉砕し、駆け付けたヒーロー達を蹂躙し、学園を恐怖と混乱のドン底に突き落としている。
一学生風情でしかない自分が、逆立ちしたって勝てる相手ではない。
でも。
「家族を見殺しになんて、出来るわけないだろ!!」
そう、城鐘御幸は譲らない。此処で逃げれば、自分達を捨てた両親と同種の人間になってしまう。No.1ヒーローの────後藤甚田の義弟でいられなくなる。
『大丈夫よ、御幸。私達は、決して貴方達に寂しい思いをさせたりしない』
脳裏に浮かぶのは、敵愾心を剥き出しにした自分達を、優しく受け入れてくれた人。二人にとって第二の母でもあり、姉であり、泣き虫な人。
あの人を泣かせる様なこともしたくはない。あれもこれもと抱え込む城鐘御幸には、此処で逃げると言う選択肢はなかった。
しかし、現実は何処までも彼等を追い詰める。一介の高校生でしかない御幸と、改造に改造を重ねた特殊個体のヴィランとでは、戦える土台が違っていた。
「────見付けた」
瞬間、受け止めていたモップを握り潰し、衝撃で後退る御幸の首をもう片方の手で締め上げる。
「お兄ィ!」
「見付けたぞ、俺の……糧!」
「あ、が………恵、に……げ………」
締め上げる手に力が込められ、呼吸が出来ない。視界がボヤけ、意識が遠くなる。骨を折らないのは殺さない理由があるのか、何れにせよ普通の高校生である自分にこの窮地を脱する術はない。
遠くで、妹の叫び声が聞こえる。
(あぁ、ごめんな恵ちゃん。俺じゃあ、やっぱり………)
自分では、家族は守れない。泣きたくなる程の冷たい現実に御幸の意識が闇の中に沈み掛けた時。
「──────おい」
その声は、何処までも鮮明に聞こえた。
「──────?」
気付けば、御幸は誰かの腕に抱えられていた。太く、硬く、逞しく、それでいて暖かい。
知っている。自分は、この温もりを知っている。
いつの間にか壁には穴が空いていて、その向こうではマスクを壊され、素顔を顕にしているヴィランが、怯えた様子で此方を見ている。
「お前と、そして外にいる奴もだが、俺の弟妹達に手を出して────」
金色の炎に迸る稲妻、逆立った髪は彼の怒りを顕すかのように、更に怒髪天を突く。
「ただで済むと思うなよ」
Q.ゴジータ、来るの遅くね?
A.実は恵ちゃんが電話したのは兄が首を締め上げられる所からでした。
時間的には多分……三~五秒位ですね。
いや、それでも遅いな。