映画グリッドマン、見に行きたいなぁ。
そんなわけで初投稿です。
「デトロイトォ───SMASHッ!!」
振り抜かれる拳、No.2という座に落ちようともその実力は未だ健在。次代に個性を託しつつ、少しずつ表舞台から消える事を良しとしているオールマイトは、そんな翳りなど嘘のように目の前のヴィラン達を圧倒していた。
「なんで、こんな所にオールマイトが……いるのよ」
「これが、ステインが認めたヒーロー……か」
No.2に落ち、全盛期から衰えたとしても未だ変わらぬ圧倒的強さ。そんなオールマイトがいることなど露知らず、鉢合わせてしまったヴィラン達。
何故連中が此処にいるのか、色々と疑問に思う所は多々あったのに、瞬く間に返り討ちに遭ってしまった開闢行動隊なるヴィラン達に、峰田実はほんのちょっぴり同情した。
「よし、先ずはヴィラン二名の無力化に成功した! マンダレイ、今の内に先に森へ入った生徒達へテレパスで伝えてくれ!」
「本気なのオールマイト!? 確かにこの状況下で生徒達が自身で身を守るように委ねる気持ちは分かるけど!」
既に、森へは肝試しで入ってしまった数組の生徒達がいる。彼等の身の安全を守る為にオールマイトは生徒達に一時的な個性使用を自由とした限定的な戦闘の承認をマンダレイに促した。
今からオールマイトが森に入っても、マンダレイやラグドールの支援も無しに捜索に向かうのは時間が掛かる。
そのラグドールも先程から通信が繋がらない。事態は既に一刻の猶予も許されない状況にある。いや、それだけではない。
「嫌な予感がする。すべての責任は私が取る! 急いでくれマンダレイ! 相澤君だって、きっと同じ選択をする筈さ!」
きっと、事態は此処だけに留まらない。長年のヒーローとしての直感と裏で潜んでいる悪意の存在にオールマイトは確信する。
(これも、貴様の狙いどおりか、
嘗て自身が代償を支払って倒した悪意の塊、それが今再び蠢き始めている事実に、オールマイトは憤りを滾らせる。
「オールマイト! 戦闘が許可をされたなら僕は洸汰君の所へ向かいます!」
「例の少年か、仕方ない。だが無茶はするなよ! 万が一ヴィランと遭遇したら、少年を連れて逃げるんだぞ!」
「はい!」
すっかり頼もしくなった愛弟子が個性を発現させて瞬く間にその場から離脱していく。今頃はお気に入りの秘密基地で事態に直面している洸汰少年、彼の事を教え子であり弟子の緑谷に任せてしまった事に自身の情けなさを痛感しながら、オールマイトは森へ入った生徒達の救出に向かう。
その際。
「────あ、あれ?」
「どうしたの? 峰田ちゃん」
「いや、オイラの見間違いかなぁ? 今、オールマイトの体が白い炎みたいなのを纏っていたような……ゴジータみたいに」
その変化には、オールマイトを含めて誰も気付く事はなく、事態は更に加速していく。
◇
「げ、現在我々は秀治院周辺の上空にいます! 突如として現れた氷の壁は、学園全体を覆うようになっている為、此処から学園の様子を伺い知る事は出来ません!」
学園の周辺上空。周囲に住まう人々の通報と情報拡散により、警察機構より現地に到着したメディアの女性。興奮気味にマイクを片手に握り締め、眼下に見える氷の檻に閉ざされた日本屈指の学園という異常事態を世間に伝える。
「既に秀治院学園の警備システムは乗り込んできた二人のヴィランにより破壊され、駆け付けたヒーロー達も為す術なく倒されたという話もあります! 未来の日本を担う若き卵達が集う秀治院、果たして中にいる生徒達は無事なのでしょうか!? 安否が懸念されます!」
SNSという情報の場を利用し、現在入手できる可能な限りの情報をお茶の間へ伝えていく。それはデバガメ精神から来るものなのか、それとも真のジャーナリスト魂故なのか、それはきっと彼女自身も分からない。
分かっているのは、このままでは中にいる子供達の安全が保障されないという事。ヒーローを育てる雄英高校や士傑高校とは異なり、秀治院はあくまで学生達の学校。
設備や警備システムは雄英や士傑に並ぶ所もあり、場合によっては凌駕する一面もある。通常なら侵入する事すら不可能な絶対領域、世界有数のハッカーが本気でハッキングでも行わない限り、機能不全や万全な状態から切り離される事は有り得ない。
しかし、現実にその事態は起きた。日本でもトップの警備システムを誇る秀治院は、二人のヴィランによって瓦解の危機に陥っていた。
このままでは生徒達の身が危ない。ヘリに乗って学園を見守っていた女性キャスターが次の情報をお茶の間へ伝えようとした時、それは現れた。
「っ!? い、いま……上を何か通らなかった?」
今、自分達は学園から離れた上空に位置している。飛行能力を有しているヒーローの数は限られている中、女性キャスターは確信する。
黄金の炎。一瞬だけ見えたその断片的な情報で、誰が駆け付けたのか、女性キャスターは一瞬で理解した。
「い、今! 黄金の炎らしきものが我々の遥か上空を通過! は、速い、速すぎる!! これが、これが我が日本に於ける最強のヒーロー!!」
“ゴジータ!!”
そのヒーローの名を叫ぶ……よりも早く、垂直に落下した黄金の炎は氷の天蓋を貫き。
斯くして、怒れる黄金の戦士は降り立った。
◇
「御幸、恵、二人とも無事か?」
背を向けながらも、此方に気を回しているヒーローに秀治院学園の生徒会長は笑う。
「あぁ、どうにか。少し首が痛むけどな」
強がりだ。本当は今でも恐怖で膝が震えているし、首の骨だって折れるかと思った。始めて本物の悪意に身を晒し、命の危機に瀕した御幸は今も尚恐怖で心も体も震えていた。
それを表情に出さないのは、日頃からそういった事に耐性があるからか、それとも最強の義兄にこれ以上カッコ悪い所を見せたくないからか────恐らくは後者だ。
「それだけ強がれるなら上出来だ。────よく頑張ったな」
そんな、負けず嫌いで強がりな義弟を甚田は本心から頼もしく思えた。
「甚田兄さん! お兄達の事は私が見ておくから、だから!」
「おう、頼んだぜ恵」
振り返らず、手をヒラヒラと振って軽めに返事をする。現場に到着してから一度として振り返りはしない甚田に現場に居合わせた女子生徒は不思議に思うが、二人は気付いていた。
ゴジータは、キレている。二人に顔を見せないのは今の自分の表情を見られたくないからだ。声音で平静を装っていても、身に纏う雰囲気は全く以て笑ってない。
黄金の炎を纏い、至る所で火花を散らせているその姿はこれ迄ゴジータを間近で見てきた二人でさえも数回しか目にしたことがない。
怒れるゴジータ。その雰囲気に圧倒されながらも、それでも変わらぬ優しさを持つ兄に改めて二人は頼もしい兄を持った事を嬉しく思うのだった。
◇
「─────さて、待たせて悪かったな」
一歩、歩み出る。穴の開いた壁、その向こうから歩み寄るNo.1ヒーローの存在にナインと呼ばれたヴィランは息を飲む。
これ迄、噂程度しか知り得なかったNo.1ヒーローであるゴジータ。最高のヒーローであるオールマイトと対になるように知られるようになった最強のヒーロー、力を是とするヴィランにとってこの上ない目の上のたん瘤であり、凄まじく厄介な存在。
そんな奴の身内を拐えと命じてきたのは、自分を複数の個性を操れる体へと改造した老人の盟友───否、首魁。
ゴジータの身内は活力と活性の個性の持ち主であり、その個性を奪えたら自分はより完璧な存在へと至れる。複数の個性を持つが故の弱点、肉体の限界である細胞の崩壊を防ぐことが出来るようになる。
全てはこの電撃作戦で上手くいく筈だった。周囲の人間に知られる前に、目の前の
なのに……。
(バカな、早すぎる!!)
既に、No.1ヒーローは目の前に顕現している。物理的に開きのあった距離を、瞬く間にゼロにし、現場へ的確に且つ速やかに駆け付けるその姿は、ヴィラン側から見て最早悪夢ですらあった。
(こんな、こんな理不尽が、罷り通ってなるものか!!)
それでも自身の野望の為、生きやすい社会の為にナインは立ち上がる。歯を食い縛り、崩壊していく体の痛みに苛まれながら、ナインと呼ばれる男はゴジータに牙を剥く。
「ゴジータ、お前は、社会の、ゴミ!! この腐った社会を停滞させる、諸悪の根源だ!!」
「だから?」
侮蔑の籠った罵倒も、蔑みながら見下ろされるゴジータに一蹴される。ナインの掲げる理想の社会は強者の世界、個性と言う力を自由に行使できる社会。
生き辛いこの社会に反旗を翻す、純粋無垢な個性社会。
しかし。
「っ、死ねェェッ!!」
龍の使い魔を呼び寄せた所で、ゴジータに通じる筈もなかった。口を開き、噛み殺そうとする二頭の龍。幻想的で恐ろしい個性をゴジータは片手で振り払い、それだけで粉砕し、龍の使い魔は霧散していく。
「このおォッ!」
爪を弾丸の如く飛ばして乱射、避ければ後ろの身内に当たる事を考慮しての攻撃。当たれば肉が抉れるだけでは済まない爪銃弾を、ゴジータは構わず前進する。
届かない。銃弾の如く鋭い爪は、ゴジータの纏う炎に消されて届く事はない。いや、仮に届いたとしても、ゴジータの体にたかだか銃弾程度で傷が付く筈もなかった。
近付くにつれて顕になるゴジータの相貌に浮かぶは呆れ、嘆き、そして怒り。確かにナインはこれ迄のヴィランとは多少毛色が違うようだが……あくまでそれだけ。ゴジータから見て、ナインという特殊な存在はそこいらのチンピラヴィランと大して変わりはなかった。
軈て、ゴジータとの間合いは詰められ。
「おら今度はこっちの番だ。さっきと違ってそれなりに力入れるから、しっかり防げよ」
握り締められる拳、その拳の迫力にカタカタと歯を震わせながらも、ナインは防御の態勢を取る。
瞬間、振り抜かれる。音を置き去りにし、ソニックブームを引き起こしながら迫り来るゴジータの拳は、しかして不可視の壁に阻まれる。
柔らかく、包み込むような嫌な感触。しかしこの手応えに覚えがあったのか、ゴジータはつまらなそうに息を吐く。
「見えない力場……斥力を利用してんのか? だとしてもつまんねぇな」
「っ!?」
「その程度のパワーで、俺を止められると思ってんのか? ……甘ぇよ」
果たして、ナインの頼りだった斥力を利用しての防御壁は呆気ないほどに砕かれた。振り抜かれた拳はナインの顔に突き刺さり、吹き飛んでいく。
更に先回りし、背中へ肘打ち。骨が砕かれる痛みに声のない悲鳴を上げながら悶絶すると、ナインは力なく倒れ付した。
多くのヒーローを一方的に蹂躙し尽くした相方が、No.1ヒーローに呆気なく倒される。悪夢のような出来事、しかし、もう一人の襲撃犯である氷を操る“外典”は、既に布石を打っていた。
「はっ、ハハハハ! バカが、調子に乗って俺を放置するからだ!」
学園全体を覆うほどの氷塊。長い間組織内で鍛え続けてきた己の個性、周囲の氷を自在に操り敵を討つ外典は組織内でもトップレベルとなっている。
これだけの質量、迎え撃つにはゴジータの必殺技であるかめはめ波を撃つしかない。しかし、此処は都心に位置する街のど真ん中。此処でゴジータが本気に迎え撃ってしまえばその余波で周囲に被害が及ぶ。
直接持ってどこか安全な場所へ放り投げるしかない。頭上の氷塊に対策している内に自分は逃げ帰り、リ・デストロの所へ合流するとしよう。
作戦が失敗に終わったのは素直に悔しいが、ゴジータの身内が分かったのは大きい。今後はしつこく狙い打ち、ゴジータの精神を削る作業だ。
氷塊を落とし、ゴジータのアクションを待つ。さぁ、どうやって対処するのだと、高みの見物を決め込んだ瞬間……。
「
地上から放たれる無数の流星群が氷塊を打ち砕いていく。
地上から空に向かって伸びる無数の光の帯、薄暗い夜の時間帯の中でその光景はいっそ幻想的ですらあった。
「別に、放置していたつもりはねぇよ」
「っ!?」
その光景に唖然となるのも束の間、外典の前にゴジータが突如として現れる。
「お前ごとき、いつでも片付けられる。ただ、それだけだ」
振り抜かれる拳。氷を操る事以外普通の人間と変わらない外典にゴジータの拳を防ぐ術はなく、迫り来る怒りの鉄拳をその身に受ける他なかった。
鼻から血を吹き出し、衝撃と痛みで涙が出る。しかし、意識を失う程ではない。追撃から身を守る為に今一度外典は己の個性を駆使して氷を操ろうとするが………。
「─────ヒッ!?」
現在進行形で吹き飛ぶ自身に追い付くゴジータの顔を見て、それは出来なかった。憤怒に満ち、怒気処か殺気すら滲み出しているNo.1ヒーローの迫力に、既に外典には抵抗する気力すら失われていた。
「殺しはしない。俺はヒーローだからな、その代わり………地獄を見せてやる」
瞬間、蹴りが外典の腹部を捉える。全身に走る痛みと衝撃、それでも途切れる事のない意識に外典はゴジータの意図を理解した。
自分は、見せしめだ。己の身内に手を出した者がどんな末路を辿るのか、自分を通してすべてのヴィランに示そうとしている。
自身の命の危機に抵抗を試みるも、既にそこはゴジータの間合い。吹き飛んだ自分に更に追い付くその速さは、既にヒーローの枠組みすら越えている。
その後も、外典は空中でピンボールの如く弾け回り、地上………学園の校庭に落下してくる頃には童顔だった可愛らしい顔付きは原形すら留めておらず変形していた。
それでもただ地面に叩き落とさなかったのは、ゴジータのせめてもの優しさなのかもしれない。
これで二人の襲撃犯は無力化したか? いや、残念ながらまだ終わってはいない。
「まだ、まだだ! まだ私の……俺の夢は、終わっていない!!」
ナイン。己の肉体を改造し、複数の個性を持つまでに至った悪意の副産物。ゴジータにやられたダメージを脳内麻薬を加速度的に分泌させて誤魔化し、血走った目に歪んだ炎を宿らせながら、その男は吼え立つ。
「ゴジータ、お前に見せてやる!! これが俺の力、これが! 世界を解放する破壊の一撃だぁぁッ!!」
天が逆巻き、嵐が吹き荒ぶ。複数の個性を持ち、それ故にナインと知られるその男の本当の力は───天候操作。
文字通り、天候すら自在に操る規格外の力だ。大気を操り、雷を呼び、巨大な竜巻を生み出さんとする。明らかに個人の力に許されたモノではない力を前にして……。
「あ、そう」
ゴジータは、興味がなさそうに吐き捨てた。
「─────ガ?」
瞬間、ナインの腹部を衝撃が突き抜ける。見れば握り締めたゴジータの拳が深々と突き刺さり、この一撃によりナインは完全に意識を手放し、操ろうとしていた嵐も霧散。
倒れるヴィランを一瞥する事なく、ゴジータは御幸達の下へ戻る。
「すまん二人とも、怖い思いをさせたな」
「いや、助かったよ甚兄。お陰で助かった」
「私は凄く怖かった。………でも、来てくれると思ってた」
怪我をし、怖い思いをさせた二人を見て、未だ未熟な己を恨む。だが、いつまでも後悔ばかりもしていられない。己の中にある嫌な予感にケリを付けるために、ゴジータは再び空に浮かぶ。
「………情けない兄貴分で申し訳ないが、俺はもう行かなきゃならん。直ぐに戻るが、二人とも、その間は此処の事を任せてもいいか?」
「え、甚田兄さん、何処かへ行くの?」
不安そうな顔で見てくる恵に、一瞬だけ正直な事を話すか迷う。しかし、聡い御幸には迷うゴジータの顔を見て、何に懸念している事を察したのか、その表情を青白くさせていく。
「まさか、先生の………俺達の家が!?」
相変わらず頭の回転の早い義弟、しかし今だけはそれに気付いて欲しくなかった。
◇
「…………ねぇ、私達もナインと一緒に学園の強襲組に入ってた方がいいんじゃないかしら?」
「ナインを信じろ。アイツなら、相手がゴジータであっても、負けはしねぇ」
長い赤髪の女性と、大きな体躯の狼男。既に公安の人間を蹴散らした二人の行く末には児童養護施設である【星の都】。
「けど、あのナインをAFOがそのまま解放するとも思えねぇ。例のブツを回収したら、とっととズラかってナインと合流するぞ」
「そう、ね。その通りね」
「相手はガキと女だけ、しくじるなよ」
「分かってるわ」
既に作戦は始まっている。ナインの為にも、自分達のやるべき事を速やかに成し遂げようと、二人の凶悪ヴィランは力を入れる。
施設には、まだ外で何が起きているか分からない。既にこの周辺はとある組織に属している凄腕のハッカーが掌握している。外界と連絡が通じるまで、数十分は時間を要するだろう。
自分達の目的は施設の中にあるとされるブツを回収すること。それさえ成し遂げれば、ヴィランの、力ある者の世界は直ぐにやってくる。
生き辛い今の世の中を、変えることが出来る。そう信じて施設へまた一歩近付く二人に………。
「其処までだよお二人さん」
一人の影が舞い降りる。
「っ、誰?」
「公安の連中は、全員ぶちのめした筈だが?」
「今宵は月が美しい。そしてまた、血の繋がらない家族団欒を楽しむ子供達の喧騒もまた、美しい。悪しき目論見を掲げる悪鬼の徒よ、大人しくお家に帰りなさい。さもなくば………」
月明かりに照らされ、それは謳う。
「No.1ヒーロー、ゴジータの最終兵器であるこのジェントルが、キッツいお仕置きをお見舞いしてあげよう!!」
恐怖で膝をガクブルさせながら、それでも噛まずに言い切ったジェントル、遠巻きで施設の皆の避難の手助けに来たラブラバは、相棒の勇姿を脳裏に刻み込んでいた。
Q,ヴィラン側、生きてるの?
A,二割ほど生きています。本来なら最初の一撃で決着は着いたけど、再犯防止の為にボコボコにする事となりました。
ナインは劇場版ボスだけあってガッツがありましたね。